AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 22 2014, Vol.345


初期の巨大な星はどれほど宇宙を豊かにしたのだろう(How huge early stars enriched the universe)

恒星の第一世代は、どれほど大きいものだったのだろうか? それら第一世代の恒星の大きさを知ることは、超新星爆発を通して宇宙の化学組成をどれほど豊富なものにしてきたかを理解するうえで決定的に重要なことである。数値シミュレーションによると、初期の恒星の幾つかは太陽質量の100倍以上であった。しかし、これらのような、太く短かく生きる星の痕跡は、その時代から今まで生き残っている低質量星のいずれにも検出されてこなかった。Aokiたちは、非常に大質量であったそれら祖先の活動を記録している可能性がある金属の欠乏した恒星のスペクトルを発見した。(Bromm による展望記事を参照のこと)。これまで、いずれの超新星のモデルもこの特別な化学的特徴を予測できていないので、この観測に基づく証拠は、モデル研究をさらに刺激することだろう。(Wt,KU,nk)
【訳注】
・低メタル星スペクトルに初代星の痕跡を探す観測は何十年間大望遠鏡のメインテーマの一つでした。初代の星には鉄はないと考えられています。これまでの星は第三世代以降の天体ばかりでした。今回の星は元素組成の点から第二世代の星ではないかと考えられる。
A chemical signature of first-generation very massive stars (Science, this issue p. 912; see also p. 868)

サンゴと磯魚は素敵なおうちを選ぶ(Corals and reef fish choose nice homes)

若い動物たちは、新たな生息地に向かって分散する傾向がある。保護領域内の生物集団を、近くの回復中、或いは使い荒らされた生息地への移殖に、利用できるだろうか?サンゴと磯魚にとって、その答えはノーである。Dixsonたちは、分散中の若いサンゴや磯魚が、健康的な礁に圧倒的に惹きつけられるが、しかし崩壊した礁の場合には、既に棲みついていた海草類によって追い払われることを示している(Brunoによる展望記事参照)。このように、生息地の選定に受け身のような種においてさえ、我々が考えている以上に強い好みを持っているのかもしれない。(KU,nk)
Chemically mediated behavior of recruiting corals and fishes: A tipping point that may limit reef recovery (Science, this issue p. 892; see also p. 879)

単一光子を数個の光子で誘導する(Routing one photon with a few others)

光の単一粒子である光子は、遠方にまで高速に移動でき、かつ他の光子と相互作用しないため、量子情報の理想的なキャリアであると考えられている。しかしながら、その特性故に、光学システムを総動員しても単一光子の伝搬を制御することは困難であった。Shiomroniらは、光ファイバーと捕捉された原子を相互作用させる手法について報告している。原子状態を制御することにより光ファイバー中の単一の光子の偏光や伝搬方向を制御できるという( Rempeによる展望記事参照)。1.5〜3個の間の光子を含む微弱なパルスにより原子状態をスイッチできるために、この方式は全光量子ネットワークを開発するための道筋を与えるものである。(NK,KU)
All-optical routing of single photons by a one-atom switch controlled by a single photon (Science, this issue p. 903; see also p. 871)

強烈な甘党の形成(The makings of a powerful sweet tooth)

ハチドリの好物である花蜜は,糖の甘い味覚がその主たる吸引力である。しかしながら、奇妙なことに、鳥類は脊椎動物の中心的な甘味受容体である TIR2を持っていない。Baldwinたちは,一般的には脊椎動物中でうま味感覚を制御する関連する受容体である TIR1-T1R3が,ハチドリにおいては甘さ検知用に適応していることを示している(JiangとBeauchampによる展望記事参照)。この再目的化が,おそらくハチドリを花蜜摂取に特殊化することを可能とし,今日見られる多くの異なるハチドリ種の進化を後押ししたのであろう。(MY,nk)
Evolution of sweet taste perception in hummingbirds by transformation of the ancestral umami receptor (Science, this issue p. 929; see also p. 878)

阻害因子がRANKを破る(An inhibitor breaks RANK)

破骨細胞は骨を分解する細胞である。しかしながら、過剰の骨量減少は骨粗鬆症のごとき状態に導く。RANKLと呼ばれる3つのタンパク質が破骨細胞の表面にあるRANKという3つの受容体に結合すると、破骨細胞が仕事を始める。Warrenたちは、RANKLタンパク質の3つの変異バージョンを一緒に連結して、RANKの阻害因子を産生した( Ou-Yang and Siegelによる展望記事参照)。そのタンパク質のうちの2つはRANKにより強く結合し、そして3つ目のタンパク質はRANKに結合できなかった。この遺伝子操作によるRANKL変異体は、受容体を活性化することなくRANKに結合し、マウスにおいて破骨細胞による骨の分解を防いでいた。(KU,nk)
Outflanking RANK with a Designer Antagonist Cytokine (Sci. Signal. 7, ra80 (2014))
Manipulation of receptor oligomerization as a strategy to inhibit signaling by TNF superfamily members (Sci. Signal. 7, pe20 (2014))

1つのワクチン使用より2つのワクチン併用の方がよい(Two vaccines together are better than one alone)

ポリオはその撲滅が困難であることが分かってきている。経口での生ワクチン(セービンワクチン)投与か,あるいは,注射での不活化ワクチン(ソークワクチン)投与かの選択については,多くの議論のあるところである。被接種者はセービンワクチンの接種を好むが,免疫性の供与に何回もの接種が必要となる。Jafariたちは、北インドでこれらの2つのワクチン併用を試した。注射によるワクチン投与は,既に経口でワクチン投与された子供に対して,ウイルスの出芽を著しく低下させ,腸の粘膜免疫性を向上させた。このように,両方のワクチンの使用が,地球からの究極的なポリオ消滅の加速に役立つであろう。(MY,ok)
【訳注】
・生ワクチン:ポリオウィルスを弱毒化させ,病原性をほとんどなくして作ったワクチン
・不活化ワクチン:ポリオウィルスを死滅させ,免疫に必要な成分を取り出して作ったワクチン
Efficacy of inactivated poliovirus vaccine in India (Science, this issue p. 922)

深海温暖化が地球温暖化を遅らせる(Deep-sea warming slows down global warming)

地球温暖化は過去15年以上に渡って停止しているようにみえるが、一方その代わりとして深海が熱を吸収している。海洋の熱容量は大気のそれをはるかに超えているため、二酸化炭素のような温室効果ガスの濃度増加によって生じた熱蓄積の90%までを溜め込むことができる。ChenとTungは観察データを用いて、近年の海洋の熱の経路を追跡した。彼らは、大西洋と南洋の深海(ただし太平洋を除く)が、上記とは別のやり方で持続する温暖化に拍車をかけてしまうような過剰な熱を吸収してきたと結論している。(Uc,KU,ok)
Varying planetary heat sink led to global-warming slowdown and acceleration (Science, this issue p. 897)

免疫細胞が結核菌とどう戦い、そしてそれをどう示すのか(How immune cells fight TB and show it)

結核菌は感染を引き起こし、時には死に至るが、しかし感染が発病にまで進行する人は僅かに10%である。Montoyaたちは、人の多くがこの細菌をどうやって防ぐかの手掛かりを与えている。彼らは、人々が結核と闘う時に、彼らの免疫細胞がサイトカイン インターロイキン-32(このものは、ビタミンDを用いる抗菌経路により作用する)を分泌することを示している。研究者たちは、5つの異なる臨床データセットを解析し、そしてインターロイキン-32が潜伏結核を指し示すことを見つけた。つまり、インターロイキン-32は結核への宿主応答に直接寄与すると同時に、その存在自体が病に対する防御が行われていることを反映している。(KU,ok,nk)
IL-32 is a molecular marker of a host defense network in human tuberculosis (Sci. Transl. Med. 6, 250ra114 (2014))

血液エンハンサーの開閉(Opening and closing blood enhancers)

細胞が発生し、さまざまな型に分化していくにつれ、その DNAの形状と到達可能性(accessibility)は変化することがある。Lara-Astiasoたちは血液におけるこの現象を研究した。彼らは、血液発生の際にその DNAに影響する変化を、比較的少数の細胞を調べることによって同定する技法を開発した。彼らは、エンハンサーと呼ばれる非翻訳領域の DNAが、細胞が未分化状態にあって、さまざまな役割を担いうるときには開いた状態にあるが、細胞が最終形態へと成熟していくにつれ、次第に閉じていくことを発見した。(KF)
Chromatin state dynamics during blood formation (Science, this issue p. 943)

母なる自然へのプレッシャー(Putting the heat on Mother Nature)

人類が、今日の氷河融解の最大の原因である。最近まで、これは正しくはなかった。氷河は、その大きさを制御している環境変化に応答するのに何十年も、何世紀にもわたる長い年月を要した。氷河は、小氷河時代(Little Ice Age)と呼ばれる500年に渡る長い寒期の終わり頃の、19世紀の中ごろに到達したピークレベルからゆっくりと後退しつつあった。Marzeionたちは、気候温暖化が継続するにつれて、これが最近変わってきたことを示している。すなわち、過去20年かそこらの間で、氷河の質量消滅に関する人為的な寄与が著しく増加した(Marshallによる展望記事参照)。(KU,nk)
Attribution of global glacier mass loss to anthropogenic and natural causes (Science, this issue p. 919; see also p. 872)

幹細胞ベースの治療における課題(Challenges for stem cell-based therapies)

患者由来の多能性幹細胞(PSC)は、傷害や病気の治療に役立つ可能性を秘めている。ますます多くの種類の特異的細胞型がPSCによって産生されているが、治療の際にそうした細胞を適用するには、技術的チャレンジが残っている。Foxたちは、この目標を達成するための課題をレビューしている。それら課題には、糖尿病の治療や、血液や肝臓、心臓、さらには脳の障害の治療における細胞移植に関わる遺伝子修飾や細胞拒絶、そして送達と局在化の問題などが含まれている。(KF)
Use of differentiated pluripotent stem cells as replacement therapy for treating disease (Science, this issue 10.1126/science.1247391)

中国でのソーシャルメディアに対する検閲(Censorship of social media in China)

どのくらい多くのソーシャルメディア上のコメントが、またどのようなコメントが、政府機関により検閲されているかを把握することは困難である。これは,当然のことながら,検閲で消去された場合,それらのコメントは目にすることができないからである。Kingたちは,中国のソーシャルメディアサイトに複数のコメントを投稿し,その後,しばらくして,このうちのどれが最初から掲載されなかったのか,どれが掲載後に消去されたのか,どれが掲載され続けたのかを調べた。彼らが投稿したうちのおよそ40%が,多くの検閲官によって検閲され,また,このうちの半数以上が掲示されることはなかった。彼らは,幾つもの主題にわたり投稿内容を変えることで,集団行動に言及したどれもが選択的に差し止められていると結論づけている。(MY)
Reverse-engineering censorship in China: Randomized experimentation and participant observation (Science, this issue 10.1126/science.1251722)

篩(ふるい)要素中の核を除去する(Removing the nucleus in sieve elements)

細胞の核は、決定的な指揮統制機能を果たしているが、除核された赤血球などのある種の細胞型は核がなくてもそれができるようである。植物の篩要素細胞も同様に、植物の一端から他端への栄養とシグナルの輸送機能を、核による導きなしに実行している。Furutaたちは、篩要素細胞の発生の際にどのように核が自己破壊しているかを観察した(Geldnerによる展望記事参照)。そのプロセスは、核全体の構成物が何もかも崩壊したとしても、転写制御因子による制御下で制御されるのである。(KF)
Arabidopsis NAC45/86 direct sieve element morphogenesis culminating in enucleation (Science, this issue p. 933; see also p. 875)

発現のための、RNAによる二段階のスイッチ(A dual-action RNA switch for expression)

リボスイッチとは、複数の小さな分子に結合し、2つの異なる高次構造間を切り変えることによって遺伝子発現を制御する、短い RNA要素である(ChenとGottesmanによる展望記事参照)。DebRoyたちと Mellinたちは、2つの別の細菌種において、新しいリボスイッチのクラスを発見した。それらは双方とも、非翻訳 RNAの要素であり、またその産生を制御するものである。それぞれのリボスイッチは、特定の代謝経路が、小分子でできた必須の補助因子の存在するときに限って活性化されることを保証している。その補助因子が存在しないときには、全長(ノーカット)の非翻訳 RNAが作られ、そして制御因子のタンパク質に結合し、これによりその制御因子のタンパク質がその代謝経路を不適切に活性化することを防いでいるのである。(KF,KU,ok)
A riboswitch-containing sRNA controls gene expression by sequestration of a response regulato (Science, this issue p. 937; see also p. 876)
Sequestration of a two-component response regulator by a riboswitch-regulated noncoding RNA (Science, this issue p. 937; see also p. 876)

プラチナナノキューブの成長を観察する(Watching platinum nanocube growth)

大きさと形状が、金属ナノ粒子の特性を左右する。その成長に影響する因子を理解することが、その粒子をいろいろな応用分野に用いるために重要である。Liaoたちは、電子顕微鏡内部で in situ で監視するための最新式の液体セルを用いて、高解像でプラチナナノ粒子の形状の成長を追跡した。著者らは、キャッピング配位子の移動度の差によって生じる、異なる結晶面の成長速度の変化を追跡した。(Sk,ok)
Facet development during platinum nanocube growth (Science, this issue p. 916)

金ナノ粒子の詳細な構造(Detailed structure of a gold nanoparticle)

ほんのわずかな原子を加えたり、キャッピング配位子を変更することにより、個々の金属ナノ粒子の特性を劇的に変化させることができる。Azubelたちは収差補正透過型電子顕微鏡を用いて、水溶性の金ナノ粒子の三次元再生像を得た。さらに小角X線散乱法と他の技術によって、このモデルを実証した。彼らはこれを用いて、先験的にその構造を仮定したりモデルの当てはめを行うことなく、原子構造を決定した。原子構造は、密度汎関数理論計算ともうまく照合された。(Sk,ok,nk)
Electron microscopy of gold nanoparticles at atomic resolution (Science, this issue p. 909)

超流動ヘリウム液滴をX線観察する(X-raying superfluid helium droplets)

物理学者が超流動4Heを回転させると、渦糸と呼ばれる、規則正しい小さな渦の配列を生じる。大きさが0.5ミクロンのヘリウム液滴でも同じ現象が生じるはずであるが、個々の液滴を調べるのは難しい。Gomezたちは X線回折法を用いて、個々の回転する液滴の形状を割り出し、液滴の超流動性の裏付けとなる発生する渦糸の形状を画像化した。彼らは、超流動液滴が驚くほどたくさんの渦糸を保持することができ、分解せずに通常の液滴より高速に回転することが可能であることを見出した。(Sk)
Shapes and vorticities of superfluid helium nanodroplets (Science, this issue p. 906)

菜種のゲノムの起源(The genomic origins of rape oilseed)

多くの栽培されている植物は、倍数性として知られているハイブリッド形成やゲノム倍加により複数のゲノムの交差によって生じていた。Chalhoubらは、セイヨウアブラナ(Brassica napus)の倍数体ゲノムの配列を決定したが、それはおよそ7500年前の二つの異なるゲノムの最近の組み合わせから生まれたもので、菜種やキャベツ類、およびカブリボタンという作物が生まれた。セイヨウアブラナは異なるサイズの遺伝子領域に影響を与える複数のイベントを受けており、そこでは祖先種の一つからの遺伝子が第2の祖先種からのコピーに変換された。これらの遺伝子変換イベントのいくつかは、栽培化と作物改良のプロセスの一部として、人間によって選択されたらしい。(hk,KU)
Early allopolyploid evolution in the post-Neolithic Brassica napus oilseed genome (Science, this issue p. 950)

破壊への経路を解明する(Illuminating the pathway to destruction)

北極地方にある極地湖は、大気中の二酸化炭素の重要な発生源であり、気候変動の一因となっている。急速な北極の温暖化がそうした湖にどのように影響しているか知ることは、それゆえ重要である。Coryたちはこのたび、融解していく永久凍土からの炭素(有機炭素)分解の最大の元凶は光であることを明らかにしている(Tranvikによる展望記事参照)。この炭素が次に極地湖と水流に移動するのである。従来の見込みとは違って、この光化学的プロセスは、細菌の呼吸が行うよりもずっと多くの淡水中の有機分子の破壊をもたらしている。(KF,KU,ok,nk)
Sunlight controls water column processing of carbon in arctic fresh waters (Science, this issue p. 925; see also p. 870)
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