AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 30 2014, Vol.344


保護 対 根絶(Conservation vs. eradication)

絶滅の危機に瀕した鳥が侵入植物を住処としていた場合,生態学者はどう対処すべきだろうか? 生態系は複雑なネットワークで,ある生物種が他の生物種に依存している。それで,ある生物種を他種との関係を考慮せずに切離して取り扱うと,共同体の他のメンバーに悪影響が出る可能性がある。Lampertたちは (BuckleyとHanによる展望記事参照),有害な侵入植物種の根絶と,その植物を住処としている絶滅危惧種の鳥の保護との間の利害対立について調べた。管理と復元の点で最も効果のある方法は,侵入植物を早急に根絶してしまうのではなく,鳥が適応可能な十分なゆっくりとしたペースで変化を加えることに重点を置くことであった。この方法は,積極的な復元が他の保護目標と一致しない他の状況においても有効性を発揮するかもしれない。(MY,nk)
Optimal approaches for balancing invasive species eradication and endangered species management

腹ぺこな子供時代の支援が若者を救う(Help as hungry children helps young adults)

早期の幼児期介入プログラム(early childhood interventions)の支援者たちは,"早い方が遅いより良い"の規範に従っている。しかしながら,この規範が発展途上国の恵まれない子供たちに適用可能であるという証拠は,今まで,僅かしかない。Gertlerたちは,幼少時代に2年間,地域のヘルスワーカーからの支援を受けたジャマイカの子供たちが,20年後に若者となり、どのくらいの収入を得ているかを調べた。支援を受けたグループの収入は,子供時代に十分な栄養を摂取した比較グループの若者に追いつくことが出来たが,ヘルスワーカーからの訪問を受けずに子供時代の栄養状態が不良だった対照グループは,遅れをとってしまった。(MY,nk)
Labor market returns to an early childhood stimulation intervention in Jamaica

癌との戦いには、より多くのまっとうなT細胞が必要である(Fighting cancer needs more of the right T cells)

癌に対する身体の戦いを助ける免疫療法において、細胞の表面タンパク質 CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte-associated antigen-4)を阻害する抗体は、免疫系をそそのかして闘いのリングに上がらせようとする。Chaたちは次世代の配列決定法を用いて、癌患者における CTLA-4の封鎖がT細胞中での変化を促進し、こうして標的の異なる種類の群れに対してもT細胞集団が活性化することを示した。しかしながら、T細胞多様性の増加で話が終わったわけではない--処置後の臨床成績が良好であった患者は、当初から豊富に存在した ある種の T 細胞を維持きていたが、治療応答性の悪い患者ではこれらの細胞が失われていた。このように、CTLA-4の封鎖はT 細胞 レパートリの多様性を誘発するが、抗腫瘍免疫応答の助けとなるのは、実際には、特定の活発なT細胞クローンの維持であるのかもしれない。(KU,ok,nk)
Sci. Transl. Med. 6, 238ra70 (2014)

半導体を損傷から守る(Keeping semiconductors safe from harm)

太陽電池は、太陽光のエネルギーを吸収して、電気を発生する。しかし、その電気は貯蔵することが難しい。太陽電池は、また、水から水素を作るさいにも用いられ、燃料として貯蔵できる。しかしながら、水の水素と酸素への分離には挑戦すべき課題が存在する。特に、水を酸化する陽極に光を照射することにより直接的に分離を行う時は大きな課題となる。実際のデバイスに必要な酸性、あるいは、塩基性の条件下では、半導体の陽極物質は作動中に腐食する。Hu たちは、アモルファスの二酸化チタンコートにより、光透過性を維持しながら、アルカリ腐食から半導体を保護可能であることを示している。(Wt,KU,ok,nk)
Amorphous TiO2 coatings stabilize Si, GaAs, and GaP photoanodes for efficient water oxidation

より良いインターフェロンを構築する方法とは?(A way to build a better interferon?)

I型のインターフェロンは、感染の際に抗ウイルス性応答を刺激するが、しかし免疫細胞の増殖をも妨げる。この影響は患者におけるインターフェロンの使用を複雑にする。というのも、身体がウイルスと効率良く戦うには、より多くの数の免疫細胞を必要とするからである。インターフェロンは二つの異なる遺伝子セットを活性化する:抗ウイルス性応答に関するものと、もう一つは免疫細胞の増殖を妨げるもの。Levinたちは、IFN-1antと呼ばれるインターフェロンを遺伝子操作で作成したが、このものは他の型のインターフェロンがそのインターフェロン受容体に結合するのを妨げる。或る用量において、IFN-1antは免疫細胞の増殖を妨げる遺伝子を活性化することなく、抗ウイルス性免疫に必要な遺伝子を活性化した。(KU)
Sci. Signal. 7, ra50 (2014)

細菌が錆上でうまく呼吸する方法(How bacteria manage to breathe on rust)

酸素欠乏の環境下で、嫌気性菌は他の化学化合物に依存して呼吸作用を行う。これは、重金属汚染を無毒化するのに役立つ。Flynnたち(Friedrich and Finsterによる展望記事参照)は、アルカリの条件により、無毒化細菌--シュワネラ科の細菌--が酵素を用いて錆-様の鉱物を還元するのを妨げられることを見出した。その代わりに、この細菌は元素の硫黄化合物を還元して、鉄を間接的に還元する硫化水素を作る。無酸素性の生物地球化学的なサイクル間でのこの相互作用は、何故に嫌気性菌の中のあるものが、酸素以外の複数の化合物を還元するのに必要な遺伝的機構を含んでいるかを説明するものであろう。(KU,nk)
Sulfur-mediated electron shuttling during bacterial iron reduction

シナプスの高精細な観察(High-definition view of the synapse)

個々のニューロンはシナプスを介して互いに情報交換している。そのため、神経系を理解するためには、シナプスがどのように形成されて組織化されているかを詳細に理解する必要がある。Wilhelm たちは、ニューロンの内部機能に寄与するタンパク質成分それぞれが実際にどんな役割を果たしているかの解釈を付け加えて、「平均的」シナプスの定量的な分子スケール画像を提示した。(Sk,ok,nk)
Composition of isolated synaptic boutons reveals the amounts of vesicle trafficking proteins

原子磁気メモリーを最大にする(Maximizing atomic magnetic memory)

酸化物表面に吸着したコバルト原子の磁気応答の研究が深まれば、より高密度のデーターストレージが実現できるかもしれない。ハードディスクにおいては、データーは、0、或いは1を磁界の向きで表現する磁気ビットとして格納されている。最も小さいビットは単一原子で実現できる可能性があるが、単一原子の磁化つまりスピンは、重原子や表面とのスピン軌道相互作用により安定化されなければならない。Rauらは(KhajetooriansとWiebeの展望記事参照)、酸化マグネシウムに吸着されたコバルト原子からなる単一原子ビットを探求するモデル系を構築している。絶対温度が零度に近づくにつれ、スピンの向きの安定度が理論的に可能な最大値に到達することを明らかにした。(NK,ok,nk)
Reaching the magnetic anisotropy limit of a 3d metal atom

生物多様性の維持:地上より永遠に?(Maintaining biodiversity: From here to eternity?)

絶滅の恐れのある種が何であり、それらがどこに分布するかを決めて、そしてどのように(そしてどこで)人類の活動が絶滅に導いているかの理解は、最近大きく前進した。Pimmたちは知識の現状を評価し、将来の種の絶滅速度がどの程度か、適切に保護された地域がどの程度絶滅速度を緩やかにしてするか、そして知識の残された空白部がどうすれば満たされるのかを問うている。(Uc,KU,ok,nk)
The biodiversity of species and their rates of extinction, distribution, and protection

引いて,寄せて,電子を引っ張る(Pull, pull, pulling electrons along)

有機太陽電池は,光吸収する電子供与性物質(ドナー)から,隣接する電子吸引性物質(アクセプター)へ電荷が移動することで動作する。Falkeたちは,分子振動がこの電荷移動が進行する経路をスムーズにすることを示している。超高速分光測定と理論的シミュレーションを組み合わせることで,モデルとなるドナー/アクセプターのブレンドにおいて或る振動性のシグナルが明らかになり,このことは電子遷移と協調した炭素-炭素の結合伸縮を示唆するものである。この振動/電子的もしくは振動子過程は,ドナーからアクセプターへの電荷の移動に関して、非干渉的移動よりも高速で直接的な量子力学的な位相関係を維持しているのである。 (MY,KU,nk)
Coherent ultrafast charge transfer in an organic photovoltaic blend

ブラックジャック的水クラスターが検出される(Blackjack water cluster detected)

プロトン化した水クラスターの分光法は,酸溶液の分子配列を解明する上での中心的な役割を担ってきた。バルクの液体はブロードなスペクトル特徴を示すが,クラスターのスペクトル幅はより鋭くなる傾向を示す。21個の水分子から構成されるクラスターは,水素結合ネットワークモチーフが2次元から3次元へ転移する際のその安定性や,その位置のため,長年,特別の関心を呼び起こして来た。しかしながら,その結合プロトンのスペクトルの特徴は,捉えどころのないものであった。今回,Fournierたちは,革新的なイオン冷却技術を適用することで,長年探し求められてきたこの振動スペクトルの特徴を検出した。(MY)
【訳注】
・ネットワークモチーフ:ネットワークの部分構造で,ランダムネットワークと比べ,統計的に有意に出現しているもの
Vibrational spectral signature of the proton defect in the three-dimensional H+(H2O)21 cluster

炭素-臭素結合の詳細な観察(A close-up view of carbon-bromide bonds)

偏光フィルターは、材料中の光路の境界、あるいは複屈折を引き起こす材料特性の範囲を目立たせるために、光学顕微鏡法で広く用いられている。Palmerたちは(Lidin による展望記事参照)、直線偏光したX-線とシンクロトロン中に設けた面検出器を用いて、X-線顕微鏡法に対する同様な方法を開発した。この方法により、結晶材料中の C-Br結合の配向が明らかになった。(Sk,ok)
X-ray birefringence imaging

古代のサンゴ礁が魚たちの隠れ家を提供した(Ancient reefs provided fishy refuges)

気候変動は、地球の歴史において繰り返し生じてきた。そのため、過去のシステムでの応答を調査することによって分かることがたくさんある。Pellessierたちは、サンゴ礁のいたるところから集めた堆積物コアから、過去300万年にわたる古環境を再構築し、過去の環境がサンゴ礁の魚たちの多様性に与えた影響を調査した。サンゴ礁の存続がなければ魚類生息地の広範な消失が生じたであろう時代においても、インド・オーストラリア地域ではサンゴ礁が生き延びていた。今日のサンゴ礁の魚種にみられる多様性の大半が、これらの安定したサンゴ礁によって説明できる。(Sk,nk)
Quaternary coral reef refugia preserved fish diversity

神経シナプスの形成と破壊(Making and breaking neuronal synapses)

脳が発生する際に、初期シナプス形成はあちこちに、行き当たりばったりに出来る。しかし、発生が進むにつれて、でたらめな結合は精緻な機能的ネットワークへと織り込まれていく。そのプロセスにおいて、多くのシナプスが除去される。Uesakaたちは、軸索誘導の際に結合した回路を整理するためのシナプス剪定を 制御するに際し、軸索誘導に関して機能すると既に知られている分子が、その後の剪定でも働いていることを示した。(KU,ok,nk)
Retrograde semaphorin signaling regulates synapse elimination in the developing mouse brain

生細胞内で攪拌するモーター(Motors stirring within the living cell)

細胞骨格のダイナミクスは、細胞機能へのカギである。非常に短い時間尺度においては、おそらく熱運動が支配しているが、1分ないし1時間という時間尺度では、モータータンパク質12に基づき方向づけられた輸送が支配的になる。では、その中間の時間ではどうなのだろう? Fakhriたちは、カーボンナノチューブによって標識づけられたキネシン分子を追跡し、生細胞中でのその動きをミリ秒から1時間の範囲でモニターした。キネシンは微小管の軌道に沿って運動したが、時には、その軌道そのものがより活動的でスケールの大きい細胞運動によって動かされるので、よりランダムに移動していた。細胞質のこの活動的な「かき回し」が、非特異的輸送における役割を果たしている可能性がある。(KF,ok,nk)
High-resolution mapping of intracellular fluctuations using carbon nanotubes

膜輸送機構を補充する方法(How to recruit membrane trafficking machinery)

PI4KIIIβは、ゴルジ機能の基礎となる脂質キナーゼであり、細胞分裂の最後で生じる広範な膜再構築の際など、膜小胞の急速な送達を必要とする生化学的反応に関与しているとされてきた。Burkeたちは、GTPase Rab11aを輸送する膜との複合体での PI4KIIIβの構造を決定した。それらタンパク質が相互作用するやり方によって、PI4KIIIβに対して、Rab11aとそのエフェクターを特異的な膜の上に同時に補充する能力が与えられたのである。(KF)
Structures of PI4KIIIβ complexes show simultaneous recruitment of Rab11 and its effectors

転写は一休みして考える(Transcription takes a pause to consider)

DNAのある短配列が、ゲノム中のこれまで報告されていなかった何千もの場所で RNAポリメラーゼ(RNAP)が休止する原因となっている。Larsonたちは、これら休止部位を、活発に成長中の細菌の生体内において、単一ヌクレオチドの分解能でマップ化した。RNA折り畳みイベントを可能にし、また他の転写制御因子を補充する際にも、転写の休止は遺伝子発現制御にとって決定的に重要なものでありうる。(KF,ok,nk)
A pause sequence enriched at translation start sites drives transcription dynamics in vivo

無傷のNMDA受容体の構造が解明された(Intact NMDA receptor structure revealed)

脳が発生して、記憶を形成するようになるためには、ニューロンから隣のニューロンへ信号が伝達されなければならない。グルタミン酸は、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体と呼ばれるイオンチャネルに結合することによって、受け取った側の神経細胞を興奮させる重要な神経伝達物質である。これが NMDA受容体を活性化し、カルシウムイオンの流入を引き起こし、シグナル伝達の引き金を引くのである。活性化の不足あるいは過剰は、結果として種々の神経障害や神経性の病気をもたらす。KarakasとFurukawaは、4つの分離したサブユニットからなる無傷の NMDA受容体の結晶構造を記述している。(KF)
Crystal structure of a heterotetrameric NMDA receptor ion channel
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