AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 14 2014, Vol.343


補体を魔法にかける(Hexing Complement)

補体の活性化は即時的、かつ強力な免疫防御機構であるが、しかし分子レベルにおいて、免疫グロブリンG (IgG)抗体がどのようにして補体を活性化しているかは、殆ど知られていない。高分解能の結晶解析法を用いて、Diebolderたち (p. 1260)は、ヒト IgGが、隣接する IgG分子との相互作用により六量体の構造を形成し、その複合体が次に補体を活性化することを示している。このように、IgG分子と補体系は血液中で共存し、IgGが表面抗原を検知し、凝集し始めた後でのみ補体の活性化がトリガーされる。(KU,nk)
【訳注】補体(Complement):抗原抗体複合体と非特異的に結合して免疫反応等に動員され、種々の生物活性を示す血清成分の総称。
Complement Is Activated by IgG Hexamers Assembled at the Cell Surface

軽い比重の低級アルカンと重金属(Light Alkanes, Heavy Metals)

水圧による破断(Hydraulic fracturing),あるいは,水力破砕(fracking)により,天然ガスの供給量が急激に増大している。そして,このことが,天然ガスの成分を汎用化学物質に転換する方法に刺激を与えている。Hashiguchiたちは(p. 1232),鉛とタリウムの塩がともに,メタンに対してばかりでなく,エタンやプロパンに対しても同様に,効率的で選択性の高い酸化剤であることを見出した。トリフルオロ酢酸溶媒中で,これらのアルカン類は効率よく酸化され,対応するアルコールや1,2-ジオールのトリフルオロ酢酸エステル化合物が生成する。これ以前の発見に加え,この研究により,工業原料の石油依存度を低減する方法を進展させる道が拓けることになる。(MY,ok)
Main-Group Compounds Selectively Oxidize Mixtures of Methane, Ethane, and Propane to Alcohol Esters

解明されたCas9(Cas9 Solved)

クラスター化された規則的なスペーサーを間に挟んだ短い回文構造の繰り返し(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats :CRISPR)-介在の(Cas)座位により、原核生物は侵入して来るDNAを見分けて、破壊することが可能となる。細菌にとって重要であるだけでなく、Casエンドヌクレアーゼの特異性の普遍的価値は、ゲノム編集に関する手段として利用される Cas9にも由来している。Jinekたち (10.1126/science.1247997, 2月6日号電子版)は、二つの Cas9酵素の2.6、及び2.2 オングストロームの分解能の結晶構造決定し、異なる末梢的同化作用を持った共通の構造的コアを明らかにした。この酵素は自己抑制され、RNAの結合において大きな構造変化が生じ、そしてRNA-DNA結合溝の候補である塩基性残基と並んだチャネルを持っている。この構造から得られる洞察と別の洞察に基づくと、この研究は CRISPRのメカニズムとゲノム編集の双方に関する重要な示唆を与えている。(KU,nk,ok)
Structures of Cas9 Endonucleases Reveal RNA-Mediated Conformational Activation

白金のワンツーパンチ(A Palladium 1-2 Punch)

炭素-水素結合を直接炭素-炭素結合に置き換える手法は、有機化合物合成法を簡素化するための魅力的方法である。問題は、或る特定の炭素-水素結合を選択し、複雑な混合物を作ることを回避することが困難であることである。Heらは (p. 1216)、一対の強力なピリミジン配位子により、白金触媒がアリル基を選択的にアミノ酸誘導体に付加反応させることに成功している。一方の配位子は、β炭素中心に単一のアリル基の付加反応を促進し、もう一方は、二つ目の、潜在的に異なるアリル基を同じ炭素に付加する。これらの反応は全て同じフラスコ内で可能である。(NK,KU)
Ligand-Controlled C(sp3)?H Arylation and Olefination in Synthesis of Unnatural Chiral α?Amino Acids

グラフェン中の鉄(Iron in Graphene)

炭素や窒化ホウ素のような共有結合で構成された物質は,原子間の結合力が強いため,二次元シートを形成する。それに対して、金属は電子を三次元的に非局在化された状態で共有しており,このことにより,薄い安定なシートを形成することが妨げられていた。にもかかわらず,Zhaoたちは (p. 1228),グラフェンシートの細孔に懸架された鉄だけからなるシートを観察した。この現象は,グラフェンの処理用に用いた塩化鉄溶液が分解し,細孔に鉄だけからなる薄膜が形成される場合に見つけ出された。(MY)
Free-Standing Single-Atom-Thick Iron Membranes Suspended in Graphene Pores

海の下のグーテンベルグ不連続面(G Below Sea)

地球のリソスフェア(岩石圏)とアセノスフェア(岩流圏)とのレオロジー的な相違はプレートテクトニクスを駆動する要因の一つである。地球物理学的な解析により、海洋プレート中の40〜100kmの深さにある地震性のグーテンベルグ(G)不連続面の存在が、再三、明らかにされている。しかし、その境界面の起源は不可解なままである。Begheinたち (p.1237, 2月27日付電子版) は、垂直方向に変化する異方性の成層構造の深さが が G-不連続性の深度に沿って変化することを見出した。しかし、リソスフェアとアセノスフェアの境界とは並んではいない。これは、中央海嶺(mid-ocean ridges)下の水分枯渇のような、マントル内部の地球物理的な変化があるときに、G不連続性が形成されるらしい。(Wt,KU,nk)
Changes in Seismic Anisotropy Shed Light on the Nature of the Gutenberg Discontinuity

どこに足が生えてほしい?(Where Do You Want Your Leg?)

肢形成の開始は,発生過程での肢細胞の特殊化とパターン形成を理解する手掛かりとなる。GrosとTabinは (p. 1253),局所的な上皮-間葉の移行が肢形成のトリガーになることを明らかにしている。肢形成が分化増殖ではなく,細胞状態の変化を通して開始するという本知見によって,肢芽が生物の形作り設計図(body plan)においてどのように位置づけられているか等の問題の見直しが迫られている。(MY,KU,ok)
Vertebrate Limb Bud Formation Is Initiated by Localized Epithelial-to-Mesenchymal Transition

過敏な-感覚性遺伝子(Touchy-Feely Genes)

全ての動物は、運動機能をコントロールするために正確な自己受容性感覚(proprioceptive sensation)を必要とする。Desaiたち (p. 1256)は、歩行運動に障害をもつショウジョウバエの変異体を同定した。影響を及ぼす遺伝子、stumble(stum)は動物界全体で保存され、そしてマルチ樹状突起ニューロンの亜集団中で発現している。stum-発現ニューロンは脚関節の近くで見出され、そして、関節の角度がシフトすると、樹状突起が伸び、それが次に細胞のカルシウムを上昇させる。それ故に、 stumは、あたかも機械的刺激に対するトランスデューサのようである。(hk,KU,nk)
【訳注】自己受容性感覚(proprioceptive sensation):身体の部位の状態や変化を直接刺激として受容する感覚
The stum Gene Is Essential for Mechanical Sensing in Proprioceptive Neurons

クイック、クイック、スロー(Quick, Quick, Slow)

姿勢を安定にするための遅筋とランニングやジャンプのための速筋は、速遅の生物物理学的性質で分化した運動ニューロンによって駆動されている。マウスとニワトリの筋線維に逆行性の標識付けすることで、 Mullerたち (p. 1264)は、速遅の運動ニューロン間の発生上の差異を解析した。膜貫通タンパク質(過剰発現したり、或いは過小発現した際の)が、 運動ニューロンの特殊化と生物物理学的特質のすべてではないが、幾つかに特定した下流のエフェクターを駆動していることを見出した。(KU,nk,ok)
Dlk1 Promotes a Fast Motor Neuron Biophysical Signature Required for Peak Force Execution

慢性ウイルスの除去(Clearance of Chronic Virus)

mRNA-編集酵素、APOBECのファミリーはB型肝炎ウイルス(HBV)の複製を制限する。Luciforaたちは、特異的 APOBECが、宿主サイトカインの抗-B型肝炎ウイルス効果を仲介していて、それが次に宿主細胞を損なうことなく核の脱アミノ酵素の活性を誘発する、という証拠を提供している(p. 122, 2月20日号電子版; また、ShlomaiとRiceの展望記事参照)。つまり、こうした知見には、慢性のB型肝炎ウイルス感染を治癒する治療方法開発につながる可能性がある。(KF)
Specific and Nonhepatotoxic Degradation of Nuclear Hepatitis B Virus cccDNA

隠れた多様性(Hidden Diversity)

熱帯には、なぜそんなに多くの種があるのだろう? 高度に特殊化した植物種によるニッチな区画形成が、多様性の高さの主たる原因らしい。 Condonたちは、ニッチな区画形成がまた植物資源と寄生種の相互作用によっても生み出されることがあり、その結果、超多様なコミュニティーをもたらすことを明らかにしている(p. 1240; またGodfrayによる展望記事参照)。新熱帯の花粉媒介をする14種のハエと、彼らの高度に特殊化した18種のスズメバチ寄生虫の隠れた多様性が、多数の狭いニッチ間で死亡率による区分をもたらしていた。スズメバチとハエの関係のこの極端な特異性は、最初に、分子解析によってのみ明らかにされた。(KF,KU,nk)
Lethal Interactions Between Parasites and Prey Increase Niche Diversity in a Tropical Community

交差ホモ二量体(Crossed Homodimer)

我々の細胞は、感染症に対してインターフェロンを遊離して応答するが、このインターフェロンは、部分的には、タンパク質キナーゼファミリーの受容体、RNase Lによる細胞内RNAの切断を介して、隣接する細胞を保護している。RNase Lは、2',5"-連結したオリゴアデニル酸 (二次メッセンジャー 2-5 A)、すなわち病原体(および損傷)関連RNAのセンサー、によって活性化される。Hanたちは、ヒトRNase Lの、2-5 Aやヌクレオチド、オリゴマーRNA標的との複合体の結晶構造を報告している(p. 1244, 2月27日号電子版)。(KF,KU)
Structure of Human RNase L Reveals the Basis for Regulated RNA Decay in the IFN Response

ヒストン標識を作る(Making a Histone Mark)

染色質の主成分であるヒストン上の共有結合の標識は、遺伝子発現制御において決定的役割を果たしている。これら標識は、組織中の細胞が分裂する際に、娘細胞が親細胞の遺伝子発現プログラムと組織同一性とを維持するように、何らかの方法で保存されている。Jacobたちは、シロイヌナズナのヒストンメチラーゼ ATXR5が、複製依存的なヒストン変異体 H3.1に対して特異的であり、ゲノム複製の際に H3.1変異体上の抑圧的ヒストン H3リジン-27メチル標識を維持し、それによって、異質染色質と遺伝子抑圧の細胞型特異的領域を、細胞分裂を経てその先まで保存することになっていることを、明らかにしている(p. 1249)。(KF)
Selective Methylation of Histone H3 Variant H3.1 Regulates Heterochromatin Replication
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