AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 7 2014, Vol.343


高地でのマラリア病(Altitude Sickness)

マラリアの発生率が気候温暖化により,今後,影響されるのか(あるいは,すでに影響されているのか)についてはよく分かっていない。地球規模の解析には技術的な困難さを伴う。そこには,蚊の生息環境の破壊,殺虫剤の使用,抗マラリヤ薬の使用の結果による種々の変化を数十年規模での気候変動の動向から分離するという問題が含まれる。Sirajたちは (p. 1154),エチオピアとコロンビアで高地マラリアに関する並列解析を実施し,標高によるマラリア発生率の変動が,気温の年毎の変化で説明できるのかを調べた。データをモデル化することで,高温年にはマラリアが高地に上昇移動することが確認され,平均気温が1℃ずつ3℃まで上昇した場合に,熱帯領域の標高の高い地域でさらに何百万人の症例が予測されるかについての推定が可能となった。(MY,ok,nk)
【訳注】
・並列解析(parallel analyse):因子分析において因子数を決定する方法。
Altitudinal Changes in Malaria Incidence in Highlands of Ethiopia and Colombia

柔らかな分子バネ(A Soft Molecular Spring)

非接触型原子間力顕微鏡において、金属の走査プローブ先端にCO分子を末端に取り付けることにより、きわめて高い分解能が得られている。このCO分子はねじれ振動を生じ、その画像形成メカニズムを完全に理解するには、このばね定数を測定する必要がある。Weymouthたちは(p. 1120, 2月6日号電子版; Salmeron による展望記事参照)、プローブ先端が測定物表面に対して横方向に振動するラテラルフォース顕微鏡を用いて、このねじれ定数を決定した。プローブ先端で単離されたCO分子の剛性は、平面に吸着したCO分子のそれよりもずっと小さい。(Sk,ok)
Quantifying Molecular Stiffness and Interaction with Lateral Force Microscopy

ナノイメージングでポラリトンを見る(Nanoimaged Polaritons)

緩く結合した薄層からなるヘテロ構造は、多くの魅力的な電子特性を示す。Dai等は (p. 1225)、六方晶ボロンナイトライド結晶表面上で赤外ナノイメージング法を用いて、フォトンと光学フォノンのカップリングに起因する集団モードである、フォノンポラリトンを検出した。この研究により、ポラリトンの波長と分散関係が物質の厚みにどう依存するかが数原子層の薄さに至るまで明らかになった。(NK,KU,ok,nk)
Tunable Phonon Polaritons in Atomically Thin van der Waals Crystals of Boron Nitride

制限された安定性(Limited Stability)

深海の循環は、温暖な間氷期の時代には安定であると考えられている。Galaasenたち (p. 1129, 2月20日号電子版)は、最後の間氷期の時代、およそ12万8千年〜11万6千年前頃、北大西洋深層水の流出量に関する時間分解能の高い記録を作成した。この発見は、従来の有力な考えとは対照的に、大きな100年スケールでの深海の循環の減少を明らかにしている。これらの変化は今日よりもより温暖な海洋で起きたのだが、しかし当時の気温は地球温暖化で今後予想される温度と似た範囲にあった。このことは、今後の海洋循環、地域的な気候、及び炭酸ガスの隔離経路が強い打撃を受ける可能性が高いことを意味する。(KU,ok,nk)
Rapid Reductions in North Atlantic Deep Water During the Peak of the Last Interglacial Period

膜を横切る(Crossing the Membrane)

アデノシン三リン酸 (ATP)-結合カセット (ABC)輸送体は、ATP加水分解と細胞膜を横切る多様な基質の転位置とを結びつける。Srinivasanたち (p. 1137)は、Fe-Sタンパク質の生合成に関与する酵母のミトコンドリア輸送体の構造を記述している。 その構造は、グルタチオンの結合を明らかに示しており、このことはグルタチオンが転位置される基質一部であることを示唆している。J. Y. Leeたち (p. 1133)は、銀や水銀に対する防御を与える細菌の ABC輸送体の構造を記述している。このタンパク質もまた、グルタチオン誘導体に結合している。その構造は、リガンドとの相互作用が ATP加水分解とどのように結びついているかを知る上でのきっかけとなる。(KU,ok)
Crystal Structures of Nucleotide-Free and Glutathione-Bound Mitochondrial ABC Transporter Atm1
Structural Basis for Heavy Metal Detoxification by an Atm1-Type ABC Exporter

進化の二重性(Evolutionary Duality)

生態学的分岐(種内変異)と交配行動の双方に関与する形質における進化的な変化は、急激な生殖隔離と種分化に導くであろう。しかしながら、このような「二重」形質に関する実験的実証は非常に少ない。Chungたち (p. 1148,2月13日号電子版)は、広く分布しているオーストラリアのショウジョウバエの種であるserrataにおいて、角質のある種の炭化水素が乾燥 抵抗性とつがい選択の双方に影響を及ぼす二重形質であることを実証している。熱帯雨林に生息地が制限されている、乾燥に弱い、ごく近縁のショウジョウバエ birchiiでは、serrataにあるこれら角質の化合物が大きく失われていた。(KU,ok,nk)
A Single Gene Affects Both Ecological Divergence and Mate Choice in Drosophila

鏡の国のカルバペネム(Carbapenems Through the Looking Glass)

カルバペネム系の抗生物質は,現在進行中の薬剤抵抗性バクテリアとの戦いにおいて決定的に重要な手段である。微生物を用いた,その化合物の生合成(歪んだβ-ラクタム環構造を含んでいる)は,ラクタム環上の炭素の1つが異なる立体配座となっている前駆体を経由して進行する。Changたちは (p. 1140),X線結晶と複数の分光プローブを組み合わせて,CarC酵素が、前駆体の立体配座をその鏡像体に転換するメカニズムを詳細に調べた。(MY,KU,nk)
【訳注】
・カルバペネム:β-ラクタム系抗生物質の一種で,βラクタム系抗生物質の硫黄が炭素に置換された構造を持つ
・CarC酵素:カルバペネム生成酵素
Mechanism of the C5 Stereoinversion Reaction in the Biosynthesis of Carbapenem Antibiotics

持続するプルーム(Persistent Plume)

太陽風からのエネルギーは、磁力線のリコネクションにより地球の磁気圏と電離圏の中に運び込まれる。この結合が強い時、太陽風の変化は磁気圏に撹乱を与える地磁気嵐を引き起こし、冷たいプラズマの上昇流(プルーム)を外部へ放出させる。プルームが電離圏から上昇するにつれて、プラズマ圏でのプルーム発生点の境界は磁気圏に向かって拡大していく。地上設置機器と衛星設置機器とによる同時観察結果を用いて、Walshたち (p. 1122; Borovsky による展望記事を参照こと) は、このプルームは数時間維持され、電離圏から磁気圏へと広範囲に広がっていくことを示している。(Wt,nk) Simultaneous Ground- and Space-Based Observations of the Plasmaspheric Plume and Reconnection

HIVを食い止めるには?(Keeping HIV at Bay?)

毎日の薬剤摂取を含む暴露前予防策は、成功率はさまざまながら、HIV感染症に罹る高いリスクにある個人のHIV感染を妨げることができる。しかしながら、そうした薬剤への応答に見られる可変性の理由の一つは、所定の投薬計画をしっかりと順守していないことである。Andrewsたちは、長時間作用性の薬剤として強力なインテグラーゼ阻害薬を処方したが、それにより、サルHIVによる直腸内への繰り返しの攻撃からマカクサル(短尾サル)を守った(p. 1151)。この薬剤の血漿レベルの低下は、ウイルスにさらされた後の感染しやすさの増加と関係があった。ヒトの場合には、高度の保護に必要な薬剤レベルは、現実的には、年4回の注射によって達成されるであろう。(KF,KU,ok,nk)
Long-Acting Integrase Inhibitor Protects Macaques from Intrarectal Simian/Human Immunodeficiency Virus

川の再編成(River Reorganization)

川が流れると、川はその景観をゆっくりと変える。川の通り道は移動し、川岸は削られ、他の川と合流すると流れが遡ることさえある。川の流域がその地域の地殻変動の隆起と浸食作用をどのようにバランスさせているかを知るために、Willettたちは (10.1126/science.1248765)、中国、台湾、米国の3つの大きな水系について、川の隆起と川の分水界の水平方向の移動の間接的な証拠となる地図を分析した。数値シミュレーションモデルと共に、その結果は、このような流域がどの程度地勢的な平衡状態にあるかを示している。川のネットワーク構造の結合性や地勢学的な変化が、どのように種が移動するか、どれだけの量の物質がより大規模な河川に輸送されるかに影響を及ぼす。(Uc,KU)
【訳注】
・分水界:隣接している流域間の境界のこと
Dynamic Reorganization of River Basins

免疫の変動(Immune Variation)

病気に関連する可能性のあるものを含む、状況に依存した遺伝的変異体の仕組みのもたらすものが何か、を決定することは困難である(Gregersenによる展望記事参照)。このたび2つの研究が、細菌感染症やウイルス感染症への応答を誘発するタンパク質を用いて、免疫学的な単核細胞と樹状細胞を刺激する効果について報告し、遺伝的変異体と遺伝子発現の特性との間の機能的結びつきを評価した。M. N. Leeたちは、健常人30人の樹状細胞中の400以上の遺伝子発現を解析したが、それは、発現量的形質遺伝子座 (eQTL)が、インターフェロン-βとToll様受容体3と4経路内の遺伝子発現にいかに影響しているかを明らかにしている(10.1126/science.1246980)。Fairfaxたちは、ゲノム全体にわたる解析を行って、多くの eQTLが単核細胞の遺伝子発現に、刺激特異的あるいは時間特異的な様式で影響を与えていることを示した(10.1126/science.1246949)。(KF,ok)
Common Genetic Variants Modulate Pathogen-Sensing Responses in Human Dendritic Cells
Innate Immune Activity Conditions the Effect of Regulatory Variants upon Monocyte Gene Expression

植物の後成遺伝学(Plant Epigenetics)

量的形質遺伝子座(QTL)は、表現型形質に付随した遺伝的領域であって、特異的形質の強度を制御している根底にある遺伝の仕組みを決定するのを助けるものである。Cortijoたちは、モデル植物であるシロイヌナズナにおける開花時と根の長さを制御する、メチル化標識の違いに付随する後成的 QTL (epiQTL)を同定した(p. 1145, 2月6日電子版; またSchmitzによる展望記事参照)。それら epiQTLはメチル化標識だけが異なる、遺伝的に同一の系統にマップされた。少数の QTLによって、そうした形質における遺伝性変動の90%までを説明することができた。つまり、植物では、いくつかの複合形質の遺伝力が、後成的変動によって決定されのである。(KF)
Mapping the Epigenetic Basis of Complex Traits
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