AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 31 2014, Vol.343


異性の戦い(Battle of the Sexes)

多くの種では,オスは同性間で争そい、自らのDNAを伝搬するが、時にメスに損害を与えることがある。(PromislowとKaeberleinによる展望記事参照)。ShiとMurphyは (p. 536, 12月19日発行電子版),線虫の種は,交配により母親が収縮し,子供を産み終えた後まもなくして生涯を終えることを発見した。オスは,メスの寿命と通常母親がストレス時に用いる生殖や体細胞の加齢を緩慢化するストレス抵抗性経路を強奪している。Mauresたちは (p. 541, 11月29日発行電子版),交配能力に富んだオスの存在により,何故,メスの線虫の生存長さが短くなるのかを研究し,恐らくフェロモンであろう分泌物を培地に移すと,オスの影響を再現することを見出した。オスバエには,メスのミバエからのフェロモンを感じるだけで十分に,代謝変化の誘発,飢餓耐性の低減,寿命の短縮化が生じる。Gendronたちは (p. 544, 11月29日発行電子版),メスからのシグナルが,オスバエの脚部にある感覚受容器により認識されているらしいことを報告している。(MY,KU,nk)
Mating Induces Shrinking and Death in Caenorhabditis Mothers
Males Shorten the Life Span of C. elegans Hermaphrodites via Secreted Compounds
Drosophila Life Span and Physiology Are Modulated by Sexual Perception and Reward

神経変性の遺伝学(Neurodegenerative Genetics)

神経変性疾患の原因となる遺伝現象は、よく分かっていない。Novarinoたちは(p. 506; Singleton による展望記事参照)、劣性神経障害を有する個々人のエキソームの配列決定を行うことにより、ヒト神経変性疾患である遺伝性痙性対麻痺(HSP)の原因となる遺伝子を研究した。採取された新たな遺伝子と既にこの疾患に関係づけられた遺伝子のどちらにも機能欠失型遺伝子変異が同定され、その幾つかが機能的に検証された。(Sk,KU,nk)
Exome Sequencing Links Corticospinal Motor Neuron Disease to Common Neurodegenerative Disorders

いち早く分離する(Early Separation)

太陽電池においては、光吸収によって励起された電子は接合部を飛び越え、一方電子の出た後に残るプラスに帯電した「正孔」は逆方向に効率よく移動しなければならない。電子と正孔が効率よく分離しなければ、再結合し、電流を取り出すことができない。Gelinasらは (p. 512、12月12日号電子版:Bredasの展望記事参照)超高速吸収分光法を用いて、有機太陽電池として広く知られているチオフェン誘導体のドナーとフラーレンアクセプター系でこの分離過程について研究し、シンプルな電荷拡散モデルで期待されるよりもはるかに速い過程であることを突き止めた。この結果は フラーレンのπ電子状態の関与するコヒーレントな電荷非局在化過程の存在を示唆するものである。(NK,KU)
Ultrafast Long-Range Charge Separation in Organic Semiconductor Photovoltaic Diodes

音響的に分離する(Acoustically Isolated)

音の伝達を制御することは、雑音の抑制から画像技術に至る多くの環境で望まれている。Fleuryたちは(p. 516; 表紙参照; Cummer による展望記事参照)、内部で循環する流体によりバイアスされた共鳴リングキャビティーで構成されるサブ波長の音響メタ原子を研究した。流体(空気)の回転流の方向により、リングキャビティーの共鳴特性が変化し、キャビティー中の音波の伝播を制御することができる。キャビティーにつながるいくつかの開口を設けることにより、他の開口への伝播を遮断しながら、音波をある一つの開口へと向けることができた。(Sk,KU,nk)
【訳注】メタ原子:波長(普通電磁波を指すがここでは音波)よりも十分小さな人工構造要素
Sound Isolation and Giant Linear Nonreciprocity in a Compact Acoustic Circulator

無秩序的な流れ(Disorderly Flow)

リチウム電池は社会的にますます重要になってきている。その応用対象は,以前は携帯型電子機器群に限定されていたが,今では,再生可能な電気自動車や,エネルギー用グリッド電力ストレージの実現技術になってきている。一般的に,電池電極に対するリチウムイオンの流入・流出には,規則性を有する物質が必要と考えられている。Leeたちは (p. 519, 1月9日発行電子版),実験研究とコンピュータ計算を組み合わせて,リチウムイオンの拡散性が大きい不規則性の電極物質を突き止めた。改良されたエネルギー密度特性は,化学量論的上限を越える過剰量のリチウムを有する組成に起因し,この組成により,リチウムと遷移金属副格子の間の混合と,特異的なリチウム移動経路を与えるパーコレートネットワークの形成に導く。(MY,KU)
Unlocking the Potential of Cation-Disordered Oxides for Rechargeable Lithium Batteries

ビッグマック(Big MACs)

環虫(tubeworm)は海底に棲む種で、岩石を覆ったり、船体の胴部や油井のドリルヘッドのような人工物への汚れとして付着している。ほとんどの海の無脊椎動物に類似して、環虫の幼生段階は自由遊泳性であるが、幼生定着のきっかけや変態のトリガーは謎である。Shikumaたち (p. 529, 1月9日号電子版)は、環虫の Hydroides elegansの幼生定着を実験で調べた。この環虫は、定着の前に、膜状の微生物集団バイオフィルムを形成する細菌の一種 Pseudoalteromonas luteoviolacea の傍にいく必要がある。この細菌が、変態に付随した収縮構造 (MACs)を大きな、かつ構造的に精緻な配列状態にもたらすことが見いだされ、これにより環虫の幼生は成長することができる。(KU,nk)
Marine Tubeworm Metamorphosis Induced by Arrays of Bacterial Phage Tail?Like Structures

サバンナの調査(Surveying Savannas)

サバンナは、それが存在する3つの主要大陸間で構造的に類似しており、そのことから、植生構造と機能をコントロールしている要因も広範囲に類似しているという仮説につながる。Lehmann たち(p. 548)は、アフリカ、オーストラリア、南アメリカにおける2000以上の地点から収集された、サバンナにおける地上の樹木量の広範な分析結果を報告している。地域に無関係に全てのサバンナは、湿度と火事によって樹木量が調整されているという共通の機能特性を共有していた。しかし、大陸間における湿度-火事-樹木-生物量の関係の定性的類似性にも関わらず、重要な定量的差異が3つの地域の間で存在しており、おそらく独自の進化の経緯と気候領域に起因すると考えられる。(TO,KU)
Savanna Vegetation-Fire-Climate Relationships Differ Among Continents

脳の修復(Repairing the Brain)

幹細胞と細胞運命の再プログラムに関する研究は、可能な細胞補充療法への道を開くと共に、神経発生上の事象に関するよりよき理解へと導きつつある。Amamotoと Arlotta (10.1126/science.1239882)は、この分野における最近の進展をレビューし、そして幹細胞の技術が中枢神経系の細胞に適用される際に、見いだされている発見と残余の課題について強調している。(KU,nk)
Development-Inspired Reprogramming of the Mammalian Central Nervous System

タイミングが重要(A Matter of Timing)

植物は、彼らの発生プログラムが開始命令を与えるときのみ開花するが、さもなければ開花の遺伝子は抑制されたままである。Sunたち (10.1126/science.1248559; Zhangによる展望記事参照)は、転写制御因子 KNUCKLES (KNU)(この因子は開花遺伝子の制御に必要である)の発現を制御している調節プログラムを解析した。KNUの発現はポリコーム群(PcG)タンパク質の存在によってサイレンスされた。開花のホメオティックタンパク質 AGAMOUSは KNUの制御にたいしPcGと競合し、そしてKNUの発現を活性化したが、しかし2日間の時間遅れがある。このように、遺伝子発現における切り替えが起こる前に、DNA結合タンパク質の活性化によるPcGの除去には時間遅れが挿入される。(KU)
Timing Mechanism Dependent on Cell Division Is Invoked by Polycomb Eviction in Plant Stem Cells

融解の瞬間(Melting Moments)

地球のコア-マントル間の境界は、鉄が豊富な液体状の外部コアが、化学的にはより不均一な固体である下部マントルと接触し、およそ 1500Kの急峻な熱勾配で特徴づけられる場所と定義されている。最下部マントルの温度と融解との間の精密な関係は、コア-マントル境界を横切るその構造や熱流に対する拘束となる。融解が始まる際に現れる微量の液体を検出するために、Nomuraたち (p. 522, 1月16日付電子版) は、原始マントルの組成からなる岩石を、ダイヤモンドアンビルセルの中で高温高圧に曝して、X線マイクロトモグラフィーによる画像化を行った。実験的に決定された 3570Kという最大の融点は、最下層のマントルでは安定性を失うと一般的には考えられてきた相--例えば、MgSiO3 の豊富なポストペロブスカイトのような相--が、予想よりもより広範に分布していた可能性があることを示唆している。(Wt,KU,nk)
Low Core-Mantle Boundary Temperature Inferred from the Solidus of Pyrolite

時計を調整する(Coordinating the Clock)

ハエでは、機械感覚性の弦音器官が、概日性周期に対する気温の影響を調整することを助けている。Simoniたちは、キイロショウジョウバエにおいて、機械感覚性入力を処理して生体時計に同期するのに有用な機構を提示している(p. 525)。弦音器官は、哺乳類の耳との類似性をもっているが、また振動刺激の検知と内在性脳時計における振動の影響にも必要とされた。弦音器官は、肢の関節部分に存在していて、神経細胞シグナルを提供し、これによりハエはその位置と姿勢を感知可能となる--このように、弦音器官は内在性の生体時計に広範囲の行動のフィードバックに仲介している可能性がある。(KF,KU)
A Mechanosensory Pathway to the Drosophila Circadian Clock

選択性病原体の作り方(The Makings of a Choosy Pathogen)

卵菌であるジャガイモ疫病菌は、ジャガイモの胴枯れ病の原因である。密接に関連する別の病原体は、オシロイバナを苦しめる。それほど類似した病原体が、それぞれ別々の宿主に制限されているのはなぜかを検討するため、Dongたちは、双方の病原体の類似しているエフェクターを分析した(p. 552; またCoakerによる展望記事参照)。その結果は、進化性の分岐をもたらす宿主の特殊分化が、相互の単一アミノ酸の変化に依存しており、これが病原体のエフェクターを特異的な宿主のタンパク質分解酵素(無能化されている)に適合するよう仕立てることを示唆している。つまり、小さな変化により、病原体が別種の宿主に飛びつき、そしてそれ自体別種の病原体に分化していくための道が開かれる。(KF.KU)
Effector Specialization in a Lineage of the Irish Potato Famine Pathogen

チェックされる卵(Eggs Well Done)

生殖細胞は、発生の際、広範なDNA損傷に耐えることができる。きちんとプログラムされた、減数分裂の二重鎖切断 (DSB)は、卵母細胞と精子への適切な染色体分離にとって必須である。しかしながら、組換えによる不完全なDSB修復は、細胞死の引き金を引くチェックポイントを活性化する。外来性のDNA損傷もまた、高感度のチェックポイントを介して、卵母細胞にとって致死的である。Bolcun-Filasたちは、CHK2キナーゼが、マウスの卵母細胞における双方のチェックポイントの主要な成分であることを示している(p. 533)。CHK2を欠失させることによって、減数分裂の組換え変異あるいは放射線被爆のせいで生殖不能となったはずのメスに受胎能が回復したのである。(KF)
Reversal of Female Infertility by Chk2 Ablation Reveals the Oocyte DNA Damage Checkpoint Pathway
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