AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 24 2014, Vol.343


中央から見る(A View from the Middle)

2分子反応を研究する直観的方法は、個々の試薬同士を衝突させ、その後生じる現象を観測することである。交差分子ビームを用いた研究により、数多くの系の量子力学的詳細が明らかとなった。Ottoらは(p.396、1月9日号電子版)、衝突後の F + H2O → HF + OHの反応軌道の中央で開始する最新の手法を採用したが、その手法は水とフッ化物イオンの安定な複合体から電子を光分離し、次いで中性フラグメントの行く末を追跡することである。(NK,KU)
Imaging Dynamics on the F + H2O → HF + OH Potential Energy Surfaces from Wells to Barriers

銅酸化物超伝導体(Copper-Oxide Superconductors)

銅酸化物超伝導体は複雑な電子構造を有している。二種類の銅酸化物族で電荷密度の秩序性が観察されているが、ビスマス系化合物において、そのような秩序性が存在するかどうかについては、はっきりしていなかった。(Morr による展望記事参照)Cominたち(p. 390, 12月19日号電子版)と da Silva Netoたち(p. 393, 12月19日号電子版)は、それぞれ、単層および二重層のビスマス系の銅酸化物について、この疑問に取り組んでいる。それらの物質の両方の族に対し、走査トンネル分光法による表面計測結果は、共鳴弾性X線散乱で得られたバルク測定の結果と一致しており、それは、ドーピング範囲全体にわたってキャリアの電荷密度を調整する、短距離相関の形成を示唆している。このように、電荷の秩序性は主要な銅酸化物族の一般的な性質を表わしているのかもしれない。(Sk)
Charge Order Driven by Fermi-Arc Instability in Bi2Sr2?xLaxCuO6+δ
Ubiquitous Interplay Between Charge Ordering and High-Temperature Superconductivity in Cuprates

運動のなかの雑音(Noise in Motion)

南サンアンドレアス断層に沿う大きな地震は、アメリカのロスアンゼルス市に深刻な被害を引き起こす可能性がある。この地域の地震のシミュレーション(この地域は、堆積盆地上にあって揺れの増幅が起こりうる)では、強い地盤の運動を予測しているが、その観測データを用いた検証はない。Denolleたち (p. 399) は、地震動の背景雑音から収集された情報に基づいて構築した仮想的な地震を使い、地盤の運動を予測する独自の方法を開発した。この地震動の背景雑音場は海洋や大気のような地上の源から発生するので、ロスアンゼルス盆地の地盤の運動自体に関してはシミュレーションと比較すると差が生じる。しかしながら、それによると、局地的な揺れは、平均的には周囲の地域よりも3倍大きい可能性があることが示唆されている。(Wt,nk)
Strong Ground Motion Prediction Using Virtual Earthquakes

メッセンジャーの観察(Observing the Messenger)

細胞を構成している成分の動態を解明するため,単一分子技術が開発されてきている(AkbalikとSchumanによる展望記事参照)。Parkたちは (p. 422),蛍光性β-アクチンのメッセンジャーRNA(mRNAs) を発現するマウスを用いて,生きた細胞と組織の中でのβ-アクチンmRNAの動態をイメージ化した。Buxbaumたちは (p. 419),神経細胞では,β-アクチンmRNAとリボソームが高密度構造状態にパッケージされて含有され,オリゴヌクレオチドプローブが入り込めない状態であることを示した。神経細胞の刺激により短時間mRNAとリボソームが露出するまで,この高密度パッケージの状態がmRNAをマスクしている。これが,恐らくは,例えば,記憶形成に関与する局所的な刺激と翻訳に関係しているのであろう。(MY,KU)
Visualization of Dynamics of Single Endogenous mRNA Labeled in Live Mouse

HIVを検出する(Sensing HIV)

リンパ器官からの休止 CD4+T 細胞の枯渇は、AIDS の進行に寄与する主要な現象である。これらの細胞の細胞質における不完全な HIV DNA の転写物の蓄積は、それ自身増殖的に感染させることはないが、どういうわけか感知され、細胞死の引き金となる。Monroeたちは(p. 428, 12月19日号電子版; Gaiha と Brass による展望記事参照)今回、宿主 DNAのセンサーをインターフェロン-γ-誘導タンパク質 16 として同定したが、これがウイルスのDNA を感知し、炎症性細胞死に至るピロトーシスを活性化する。(Sk,KU)
IFI16 DNA Sensor Is Required for Death of Lymphoid CD4 T Cells Abortively Infected with HIV

海の塵(Dust in the Sea)

南洋における海洋の生産性に対する風塵の影響は、大気中CO2濃度の決定的な要素と考えられている。Lamyたちは (p. 403)深海の堆積物のコアから得られた、過去100万年間の南洋の太平洋領域への塵の供給量の記録を報告している。氷河期の間の塵の沈殿量は間氷期のそれよりも3倍も大きく、その主要な供給領域はおそらくはオーストラリアとニュージーランドである。(Uc)
Increased Dust Deposition in the Pacific Southern Ocean During Glacial Periods

腫瘍のドグマを打ち破る(Breaking Tumor Dogma)

イヌの性感染性腫瘍(CTVT)は、異常なタイプの癌の一つであるが、それは感染病原体がウイルスや細菌ではなく、腫瘍細胞それ自身であり、交尾の際に一方のイヌから他方のイヌへと感染するためである。この腫瘍の分子的特徴とその可能な起源を調べるために、Murchisonたち (p. 437; Parker and Ostranderによる展望記事参照)は、二つのCTVTとそれらの宿主のイヌ(一匹はオーストラリア産でもう一匹はブラジルからのイヌ)のゲノムの配列決定を行った。CTVTは、ヒト癌において普通に見出されているものよりも数百倍を越える体細胞変異等、大量の数のゲノム変化を獲得していたけれど、この腫瘍細胞のゲノムは二倍体のままであり、安定である。実際に、CTVTは、10,000年以上前に生存していたイヌに初めて発生していた可能性がある。(KU)
Transmissable Dog Cancer Genome Reveals the Origin and History of an Ancient Cell Lineage

生き物のテクニカラー(Living Technicolor)

色覚は、一般的に網膜中で見つかる光受容器のタイプの数によって行われている。カマキリエビ(シャコ目)は、最大12種の光受容器(視物質の種類)を持ちうるが、それは最高の色視力でさえも必要とする数をはるかに上回っている。Thoenたち (p. 411; Land と Osorioによる展望記事参照)は、シャコ目(stomatopods)に対して色のペアを識別するテストを実施し、色識別の能力が驚くほど低いことを発見した。その代わりに、シャコ目は色同定アプローチを用いているらしく、それは12種の光受容器を横切る物体の時間的走査に依っている。このまったくユニークな視覚方法は、スペクトラム内の波長の違いを識別する必要なしに、極めて高速な色認識を可能にしているようだ。(TO,KU,nk)
A Different Form of Color Vision in Mantis Shrimp

過去からの贈り物(The Present of the Past)

進化生物学の主要なゴールは,今日の種の分布を形成し、またそれに伴って生じた種の分化と変化のプロセスを理解することにある。パレオゲノミクス(Paleogenomics:古遺伝学)は,古代のDNAを用いることで,直接的にこの問いに取り組んでいる。ShapiroとHofreiterは(10.1126/science.1236573),この学問の起点と発展についてレビューし,利用可能DNAが微量であることによる分析の困難さや,現代の物質による汚染の可能性が,どのようにして克服されてきたかを説明している。(MY,nk)
A Paleogenomic Perspective on Evolution and Gene Function: New Insights from Ancient DNA

ペプチドが自らの受容体を見つける(A Peptide Finds Its Receptor)

植物細胞は植物内を移動することができないため,成長変化は,細胞の大きさや形が変化することにより組織化される。定量的リン酸化プロテオミクス(phosphoproteomics),遺伝学,化学分析を用いて,Harutaたちは (p. 408),細胞表面上で,分泌性ペプチドであるRALF(高速アルカリ化因子)を,その受容体キナーゼであるFERONIAに結合させるシグナル伝達連鎖を特定した。FERONIAは生殖による成長プロセスと栄養による成長プロセスに関与しており,これらのプロセスはRALFシグナル伝達で開始される細胞の変化が必要となる。(MY,KU)
【訳注】
・リン酸化プロテオミクス:タンパク質のリン酸化修飾情報の網羅的な解析
A Peptide Hormone and Its Receptor Protein Kinase Regulate Plant Cell Expansion

それはなんと複雑なんだ(It's Complicated)

動物は配偶者選択に用いられる印象的なディスプレーを進化させてきた。同じ種の異性を目的としているが、盗聴の可能性が大いに存在する。感覚的サインが、それ自身性的なシグナル(鳥の鳴き声のような)である場合には、害となる盗聴者からの選択が、シグナル強度を低下させることになり、シグナルのコストと恩恵間のバランスを示している。しかしながら、Halfwerkたち (p. 413)は、またシグナルの物理的副産物が、意図された受け手と盗聴する受け手の双方への手掛かりとして機能することを示している。タンガラ(tungara)カエルの咽頭嚢を広げることによって生じる水中でのリップル(さざ波)は、ライバルと捕食性コウモリ双方へ自分らの存在を知らせる信号となる。鳴き声それ自身のこの物理的特徴は変えることは出来ない。このように、鳴き声に対するコスト-恩恵比を表しており、そのことは、両側からの選択圧によってはシフトしないという。このように、感覚的シグナル伝達の物理的副産物は性的シグナル伝達の進化にかなりの複雑さを作り出している。(hk,KU,nk)
Risky Ripples Allow Bats and Frogs to Eavesdrop on a Multisensory Sexual Display

血管内皮と組織再生(Vascular Endothelium and Tissue Regeneration)

血管内皮は、器官形成や組織再生の際に役割を果たしていることが、次第に認識されるようになってきた。Huたちは、部分肝切除の後での内皮由来のアンジオポエチン-2の急速な下方制御によって、内在性のトランスフォーミング増殖因子β1が駆動するパラクリン増殖のブレーキが肝細胞上に遊離されることを発見した(p. 416)。その後、内皮のアンジオポエチン-2発現の回復によって、再生された肝臓中での血管新生が血管内皮増殖因子受容体2に依存するやり方で促進されることになる。つまり、血管内皮は、実質的あるいは非実質的な細胞における抑制性と刺激性の経路を介して、組織再生の調整を助けている可能性がある。(KF)
Endothelial Cell-Derived Angiopoietin-2 Controls Liver Regeneration as a Spatiotemporal Rheostat

COとシアン化物のソースになる(Sourcing CO and Cyanide)

ヒドロゲナーゼ酵素の活性は、部分的には活性部位におけるリガンドであるCOとシアン化物の金属への配位によってもたらされている。最近の研究は、ヒドロゲナーゼの二鉄クラスにおける、これらリガンドに向けての生合成経路の開始の際のチロシン側鎖の放棄を解き明かした。 Kuchenreutherたちはこのたび、ストップフロー赤外分光法を適用して、その経路の次なる部分を明らかにした(p. 424; またPickettによる展望記事参照)。それは、ヒドロゲナーゼ酵素に関連する鉄イオウクラスター中の単一の鉄中心において、残留チロシンフラグメントがさらにCOやCN-のリガンドへと分解されていく経路である。(KF,KU)
【訳注】
・ヒドロゲナーゼ酵素:分子状水素の可逆的な酸化還元反応を触媒する酵素)
・リガンド(配位子):中心となる原子の周囲に化合物を形成する原子や分子、イオンなどのこと
The HydG Enzyme Generates an Fe(CO)2(CN) Synthon in Assembly of the FeFe Hydrogenase H-Cluster

栄養障害への免疫応答(An Immune Response to Malnutrition)

腸を裏打ちしている表面層としての粘膜表面は、細菌や寄生虫など潜在的な病原性微生物と常に接している。これには、生得的なリンパ球系細胞によって部分的に仲介されるいわゆるバリアー免疫が必要となり、そのサブセットがそれぞれ特定の感染症と戦うことになる。栄養障害は免疫抑制と関係づけられてきたが、Spencerたちはこのたび、ビタミンA欠乏症が選択的にバリアー免疫の一つの分枝を活性化することを示している(p. 432)。マウスにおけるビタミンA欠乏症は、慢性的な寄生虫感染症に対する免疫を増強したが、これは、対応するレチノイン酸受容体を欠く生得的リンパ球系細胞の一つのサブセットのレベルを増加させることによる。これとは対照的に、ビタミンA受容体を有し、細菌性免疫にとって重要な別の生得的リンパ球系細胞サブセットは、枯渇することになった。つまり、この免疫系は食事性のストレスに順応して応答し、それいよって宿主の生存を促進しているのである。(KF,KU,nk)
Adaptation of Innate Lymphoid Cells to a Micronutrient Deficiency Promotes Type 2 Barrier Immunity
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