AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 17 2014, Vol.343


健康の経済学?(Health Economy?)

社会科学の問題に関する議論の激しさは、しばしば、実験的証拠の量と逆相関にあるように見える。Taubmanたちは (p. 263, 1月2日号電子版;Fismanによる政策フォーラム参照)、公的健康保険保障を低所得成人層へと広げた場合の効果を識別し定量化することを目指す、現在も継続中の対照実験(オレゴン州健康保険実験)の最近の分析結果について報告している。病院の救急科への訪問数がかなり増加することが観察され、それは病院の経費として一年当たり約120米ドルの増加に相当する。(Uc,ok,nk)
Medicaid Increases Emergency-Department Use: Evidence from Oregon's Health Insurance Experiment

トポケミカル重合(Topochemical Polymerization)

トポケミカル反応では化学変化は固体の活性部位で始まり、その後、自己触媒的に周辺領域に進行していく。もし、最終的なポリマーに似た規則的な構造を形成できるモノマーから開始すると、完全に規則的な状態の分子鎖を重合し、それにより非常に長い単鎖を作ることが可能である。Dou たちは(p. 272; Goroff による展望記事参照)、色素誘導体の予想外の可視光による重合について述べている。誘導体のうちの二種類が光誘導性の単結晶−単結晶トポケミカル重合を起こした。(Sk,ok)
【訳注】
・トポケミカル反応:固相反応において,原系と生成系の結晶構造が変わらないで構造組成だけが変わるような反応 Single-Crystal Linear Polymers Through Visible Light?Triggered Topochemical Quantitative Polymerization

ワクチンの秘めた生活(The Secret Life of a Vaccine) |

抗原特異的 CD8+T細胞は、ウイルス感染症や癌への適応性の免疫応答において中心的役割を果たしている。Ravindranたち (p. 313, 12月5日号電子版)は、成功した黄熱病ウイルス・ワクチン YF-17Dを研究し、その作用機序に関する洞察を得た。そのワクチンは、樹状細胞における栄養欠乏センサーである GCN2キナーゼを活性化した。遺伝子導入マウスモデルにおいて、GCN2の活性化は自己貪食と抗原交差提示を促進し、これによりウイルス特異的な CD8+T細胞の応答を高めている。この知見は、ワクチン有効性における栄養の利用性と自己貪食の重要な役割を示唆し、このことは更なる成功するワクチン開発に役立つであろう。(KU)
Vaccine Activation of the Nutrient Sensor GCN2 in Dendritic Cells Enhances Antigen Presentation

規則正しいナノワイヤー(Regular Nanowires)

さまざまなナノテクノロジーへの応用のため、半導体ナノワイヤーは高い精度と制御で成長させる必要がある。Chou たちは(p.281)、透過型電子顕微鏡の中で化学気相成長法を用いたガリウムリン(GaP)ナノワイヤーの成長を調べ、規則正しく予測可能なワイヤー成長を作り出すことが可能な条件を見出した。(Sk)
Atomic-Scale Variability and Control of III-V Nanowire Growth Kinetics

いったいどういう意味?(What Does It All Mean?)

近年、北極海の浅いところにある沈殿物から、メタンが激しく放出されていることが観測されている。Berndtたち (p. 284, 1月2日付電子版) は、Svalbard 海岸沖の海洋沈殿物からのメタン漏出の記録について報告している。これによると、このような漏出は、少なくとも 3000年間存在しており、海底水の正常な季節変動の結果であることを示している。これからして、現在、メタンの激しい排出が観察されることが、メタン源である包接化合物(メタンハイドレート)が昔よりも早い速度で分解していることを、必ずしも意味しているわけではない。(Wt,KU)
Temporal Constraints on Hydrate-Controlled Methane Seepage off Svalbard

再生可能な分解の方法(Renewable Breakdown Routine)

セルロースを含有するバイオマスを,エタノールのような液体燃料に転換するためには,先ず,セルロースをその構成糖物質に分解する必要がある。この目標達成に向けた取り組みは,主として,高濃度の酸あるいはイオン液体溶媒を用いる化学的な手法と,セルラーゼ酵素を用いる生化学的な手法に焦点が当てられていた。今回, Luterbacherたちは (p. 277),それ自身がバイオマス由来である低分子溶媒のγ-バレロラクトンにより,希薄水溶性の酸の存在下で,セルロースの効率的かつ選択的な熱分解が促進されることを示している。(MY,nk)
Nonenzymatic Sugar Production from Biomass Using Biomass-Derived γ-Valerolactone

(再)目的を持つ医薬(Drug With a (Re)Purpose)

胎児発達への有害な影響で,かつて悪名をとどろかせたサリドマイドが,その有用な免疫調節効果のため,大きな関心を引く医薬として再登場してきた。多発性骨髄腫の患者の生存が,レナリドマイド(lenalidomide)と呼ばれる派生薬により著しく延びる。しかしながら,その効能の基盤をなす分子的なメカニズムについてはいまだ明確ではない(Stewartによる展望記事参照)。サリドマイドがセレブロン(ユビキチンリガーゼの1つ)に結合する既報の観察を足掛かりとし,Luたち (p. 305, 11月28日発行電子版) と Kronkeたちは (p. 301, 11月28日発行電子版),レナリドマイドが存在すると,セレブロンが選択的に2つの B細胞転写因子(IkarosファミリーのメンバーであるIKZF1とIKZF3)を分解の標的とすることを示している。骨髄腫の細胞株や患者細胞において,IKZF1とIKZF3の下方制御がレナリドマイドが示す抗癌活性に対する必要、かつ十分条件であった。このようにして,レナリドマイドは,ユビキチンリガーゼに「再度目的を持たせること」により,少なくとも一部の役割を果たしているのであろう。(MY,KU)
【訳注】
・セレブロン:たんぱく質の分解に関与する酵素複合体(ユビキチンリガーゼ)の構成因子。サリドマイドによる発達異常は、サリドマイドがセレブロンと特異的に結合して酵素のタンパク質分解活性を阻害することによって起こる
・ユビキチンリガーゼ:分解されるべきタンパク質にマーカーとなるユビキチンを付加する酵素
The Myeloma Drug Lenalidomide Promotes the Cereblon-Dependent Destruction of Ikaros Proteins
Lenalidomide Causes Selective Degradation of IKZF1 and IKZF3 in Multiple Myeloma Cells

ドライバーと通行人を同定する(Identifying Drivers and Passengers)

現代のゲノム科学は、ヒト癌と関係する数百の遺伝的変化と後成的な変化を明らかにしつつある。これらの変化のどれが腫瘍増殖や/あるいは腫瘍転移(ドライバー的変異)に積極的に関与しているのか、そしてどれが取るに足らない変化(通行人的変異)なのかを区分けすることが重要である。この目的に向けて、Schramekたち (p. 309)は、マウスにおいて in vivoでの RNA干渉スクリーンを行い、扁平上皮癌 (SCCs)の腫瘍をもたらす細胞に関連する推定癌遺伝子と下方制御されるメッセンジャーRNAの機能性を同時に調べた。以前は腫瘍抑制因子として見られていなかった非筋肉ミオシン-IIaを含む、幾つかの候補が明らかにされた。(KU,nk)
Direct in Vivo RNAi Screen Unveils Myosin IIa as a Tumor Suppressor of Squamous Cell Carcinomas

女王万歳(Long Live the Queen)

(社会性昆虫にみられる)真社会性とは,働きバチ/アリが,その姉妹である女王の生んだ子孫を育てることを通して獲得する包括適応度によって、少なくともその社会性の一部が形成されてきたとしばしば考えられている。Van Oystaeyenたちは (p. 287; Chapuisatによる展望記事参照),真社会性を形成し,関係が遠い3つの膜翅類昆虫(スズメバチ,マルハナバチ,砂漠アリ)に対して,不妊を誘発する女王フェロモンの構造を特定し、また,他の69の種にまたがるデータを統合した。女王フェロモンは驚くほどよく保存されており、このことから,生殖操作が古くに起きたことが示唆された。(MY,ok)
【訳注】
・真社会性:ハチやアリなどの昆虫が形成する社会集団で,不妊の階級を持つことに特に特徴がある
・包括適応度:個体レベルでの適応により子孫を残す適応ではなく,遺伝子レベルで子孫を残す適応度のこと。包括適応度により,血縁者全体として遺伝子を残すことを正当化する解釈が提示された
・女王フェロモン:ハチ類やシロアリ類の女王が分泌し、ミツバチにおいては、働きバチの卵巣発育を抑制するとともに、働きバチを通じて幼虫に伝えられ、幼虫の卵巣発育を阻止して女王にならずに働きバチに生育させる、女王物質
Conserved Class of Queen Pheromones Stops Social Insect Workers from Reproducing

生殖細胞中のWnt-β-カテニン経路(Wnt-β-Catenin in Germ Cells)

Wnt-β-カテニン経路は、転写と細胞接着の双方を制御することによって、生物の発生と発癌の際の多くのシグナル伝達機構に寄与している。Hamada-Kawaguchiたちは、ショウジョウバエの生殖細胞の増殖を中止させるためには、卵巣の体細胞中でこの経路が活性化しないといけないことを実証した(p. 294)。チロシンキナーゼ Btkによる、β-カテニン上のチロシン残基のリン酸化が、β-カテニンの転写活性を促進することによって、ニッチ細胞中でのシグナル伝達を開始する。このプロセスがうまくいかないと、ハエは卵巣腫瘍になるのである。(KF)
Btk29A Promotes Wnt4 Signaling in the Niche to Terminate Germ Cell Proliferation in Drosophila

頑固なまでに球形(Stubbornly Spherical)

電子の電荷分布形状は、時間方向の切り替えが宇宙の基礎構成要素に与える影響の程度を反映している。素粒子物理の標準モデルでは、電荷分布のわずかな非球面性が予言されている一方で、超対称性のような標準モデルの拡張理論でも、より大きく観測可能な完全球からのわずかなずれが予測されている。極性分子内の有効電界は極端に大きいので、分子内電子の非対称電荷分布はその作用を受けて検出できる程度の電子双極子モーメントを示すはずである。よって、極性分子はこの非対称性を測定する理想的な物質と考えられてきた。Baronらは (p. 269、12月19日電子版、表紙参照、Brownの展望記事参照)、酸化トリウムの電子スピン歳差運動を用いて電子の電気双極子モーメントがゼロと考えて矛盾がないことを観測した。この結果はいくつかの標準モデル拡張理論を否定するものであり、大型ハドロン衝突型加速器のような他の施設で行われる非ゼロ電気双極子の探索に制限を課するものである。(NK,nk)
Order of Magnitude Smaller Limit on the Electric Dipole Moment of the Electron

シロイヌナズナのATP受容体(ATP Receptor in Arabidopsis)

細胞内エネルギー源としてのアデノシン三リン酸(ATP)の役割と同様に、細胞外アデノシン三リン酸は、シグナル分子として多様な機能を果たしている。ATP受容体は、動物細胞中では同定されているが、それと対応する構造の探索では、植物におけるATP受容体は同定されてこなかった。Choiたちはこのたび、モデル植物であるシロイヌナズナで、ATPシグナルに対して無応答であるような変異植物を作る複数の変異の原因を追求することで、ATP受容体を同定した(p. 290)。同定された受容体は、細胞内キナーゼ領域と細胞外レクチン領域とを備えている。(KF,KU,ok)
Identification of a Plant Receptor for Extracellular ATP

生殖系列のPol I(Germline Pol I)

RNAポリメラーゼI(Pol I)によって方向づけられたリボソームRNA(rRNA)転写は、哺乳類の細胞系統や酵母において、広範に研究されてきた。しかしながら、生体内での発生の際の、Pol I転写の細胞特異的制御の機能的意義は、不明なままである。Zhangたちは、ショウジョウバエのPol I調節性複合体の特徴を明らかにし、卵巣の生殖系列幹細胞(GSC)が、直接の娘細胞に比べて rRNA転写のレベルが高いことを発見した(p. 298)。高いレベルでのrRNA発現は、初期の生殖細胞分化の際の影響を示すPol I活性の低下と共に、GSC増殖を促進する。(KF,KU)
Changes in rRNA Transcription Influence Proliferation and Cell Fate Within a Stem Cell Lineage
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