AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 10 2014, Vol.343


計算上の「超物質」(Computational Metamaterials)

光波を光学的に信号処理することで、ある数学的な関数を表現し、信号や画像についての計算処理をアナログ的に実行することは可能である。しかしながら、それに必要なレンズやフィルターの複雑なシステムはかさばってしまう。メタマテリアルは、波長程度の厚みの材料しか必要とせずに、同様な処理作業を実行することが可能である。Silva たちは(p. 160; Sihvola による展望記事参照)シミュレーション研究を行い、超薄型の光学的な信号・データ処理装置を作り上げるためには、そのようなメタマテリアルを用いて一連の数学的な関数を実行する構造をどう設計できるかを示した。(Sk,ok,nk)
【訳注】メタマテリアル(metamaterial)とは、屈折率が負であるような、自然界の物質にはみられない人工物質(超物質)のことである。
Performing Mathematical Operations with Metamaterials

集団コヒーレントスピンダイナミクス(Collective Coherent Spin Dynamics)

極低温ガスは、固体における相関電子のようなより複雑な量子系の模擬実験系として有望視されてきた。研究者たちは通常、固体内電子のアップスピン・ダウンスピンに対応させて極低温ガス原子超微細構造の二つの状態を用いる。しかし、これらガスは一般的に、より多くの内部状態構造を有している。Krauser等は (p. 157),、10個の実現可能な内部スピン状態を持ち、かつ衝突遷移によって全体のシステムが展開していくカリウム-40原子のガスのコヒーレント挙動を観測した。同系のスピン状態が集団で振動するという。フエルミオン原子系であることを考えると驚くべき発見である。(NK,KU,ok,nk)
Giant Spin Oscillations in an Ultracold Fermi Sea

ソフトで選択的なCO吸着(Soft, Selective CO Sorption)

産業上の多くの過程でCOが排出される。COは化学的な原料として用いることが出来るものの,他の気体種からの分離,とりわけN2からの分離については,経済的に成立させることが大変困難である。今回,Satoたちは (p. 167, 2013年12月12日発行電子版),Cu2+イオンを有する多孔性の配位ポリマーが,タンパク質のアロステリック効果を思わせる一連の構造変化を通して,選択的にCOと結合することを報告している。COを脱離するため低エネルギーを投入するだけで,N2との混合体からのCOの分離が実現可能となる。(MY,ok)
【訳注】アロステリック効果:タンパク質の構造や機能が,他の化合物によって調節される現象
Self-Accelerating CO Sorption in a Soft Nanoporous Crystal

エウロパのプルーム(Europa's Plumes)

木星の月であるエウロパは、表面の下に海洋があり、比較的新しい氷の表面を有している。Rothたち (p. 171, 2013年12月12日付け電子版; Spencerによる展望記事を参照のこと) は、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影した分光画像を分析して、そのエウロパの大気から紫外光の放射が認められること、そして、その衛星の南半球上空に広がる、統計的には有意な放射信号が受信されることを報告している。200kmの高さまで吹き上がる水蒸気の噴出が二つあると考えるとこの放射光の説明が付く。潮汐による応力が、表面の割れ目を開いたり閉じたりしているようである。(Wt,tk,ok,nk)
Transient Water Vapor at Europa’s South Pole

癌の免疫監視仮説は間違っていたのか?(Cancer Immunosurveillance Gone Bad?)

全身性の自己免疫疾患である強皮症は、癌発生のリスクを高める。これらの患者は、POLR3A遺伝子によってコードされた RNAポリメラーゼのサブユニットである、RPC1への自己抗体を持っている。Josephたち (p. 152, 12月5日号電子版; Teng and Smythによる展望記事参照)は、RPC1の自己抗体が変異した POLR3A遺伝子由来の「異質な」抗原を標的にするかどうかを調べた。配列解析から、POLR3A変異体は、 RPC1の自己抗体を持つ8人の患者のうち6人からの腫瘍中に存在していたが、しかし対照実験のコントロール群であるRPC1の自己抗体を欠損した8人の患者の腫瘍中には存在しないことが明らかになった。細胞培養データは、POLR3Aの変異体が患者における細胞性と体液性の免疫応答をトリガーしていることを示唆していた。これらの結果は、「免疫監視」仮説、即ち免疫応答により新たな腫瘍細胞の継続的な根絶が行れているという説に対する支持を与えるものである。(KU,ok,nk)
【訳注】強皮症:皮膚のみならず内臓器官の繊維化(硬化)をもたらす
Association of the Autoimmune Disease Scleroderma with an Immunologic Response to Cancer

生えてくる細根の道を作る(Make Way for the Emerging Rootlet)

植物細胞はその強固な細胞壁により固定化されており,また,根の内皮細胞層は,分解されにくい不規則性ポリマーから作られていて,これにより,物質透過を遮断する密閉的な囲いが維持されている。この機械的障壁があるにも拘わらず,根の内層で成長を開始する側根原基は,囲いを破って根の表層まで到達しとげるのである。Vermeerたちは (p. 178;表紙参照),生きている組織の可視化と遺伝学を用い,側根原基とそこを覆う僅かな細胞の間で信号が交換され,そして次に,それ自身の上に穴をあけ,成長する側根原基用に通り道を作ることを示している。(MY,KU,nk)
【訳注】原基:植物の器官が分裂組織から分化してくる部位
A Spatial Accommodation by Neighboring Cells Is Required for Organ Initiation in Arabidopsis

猛烈に悪化する(Back with a Vengeance)

手術後に、神経膠腫(脳腫瘍の1タイプ)は、ほぼすべての患者で再発し、しかも多くの場合より攻撃的な形をとる。Johnsonたち (p. 189, 12月12日号、電子版)はエキソーム配列決定法を用いて、再発した腫瘍が最初の腫瘍と異なる変異を持っているのかどうか、そして再発におけるその変異特性がDNAを損傷させると知られている化学療法剤、テモゾロミド (TMZ)を用いた患者の手術後の処置で影響されるかどうかを調べた。40%を越えるケースで、最初の神経膠腫における少なくても変異の半分が再発時に検出されなかった。TMZの処置を受けた患者の多くで再発した腫瘍は、TMZ-誘発性の変異原性の特徴を持っており、そして未処置の患者における発展経路とは異なる高悪性度の神経膠腫への経路をたどることが明らかになった。(KU,ok,nk)
Mutational Analysis Reveals the Origin and Therapy-Driven Evolution of Recurrent Glioma

古きを出でて新しきに入る(Out with the Old, In with the New)

成長した動物において、ニッチ(niche)に存在する常在性の幹細胞あるいは始原細胞は、古い組織に新しい細胞を補充する。しかし、それらはどのように新しい組織を形成するのかは、まだよく理解されていない。ChenとKrasnow (p. 186)は、ショウジョウバエの始原細胞がどのように、変態(metamorphosis)の際に古い気管(tracheae)を破壊しながら新しい気管を形成するかを調べた。増殖性始原細胞(Proliferating progenitors)は、壊れつつある気管支(tracheal branches)の表面に沿ってゆっくりと這い出すことで、彼らのニッチ(niche)から出て移動する。壊れつつある気管支は、化学誘引物質 FGF(線維芽細胞増殖因子)を発現し、そして始原細胞を指示する進路(track )を生成する。(TO)
Progenitor Outgrowth from the Niche in Drosophila Trachea Is Guided by FGF from Decaying Branches

魚の複雑な脊髄回路(Spinal Circuit Complexity in Fish)

対抗する筋肉群のすばやい協調により、ゼブラフィッシュは水の中を威勢良く進むことができる。BagnallとMcLean (p. 197)は、三次元環境中で魚の泳ぎを安定にする神経回路について記述している。寒天中に固定された幼生のゼブラフィッシュの自力行動を研究することによって、著者らは、独立に活性化可能な背側と腹側の半体節を駆動する並列の興奮性回路と抑制性回路を同定した。(hk,KU,ok,nk)
Modular Organization of Axial Microcircuits in Zebrafish

肉食動物の保護(Preserving Predators)

大型動物は,間接的また直接的な食餌効果を通して,生態系の構造形成と安定性になくてはならない役割を果たしている。近年、人類は,大型肉食動物の生息地の破壊と活発な根絶の両方により,この食餌構造を破壊して来た。その結果,個体数の大幅な減少と,生息領域の極度の縮小に至っている。Rippleたちは (10.1126/science.1241484; Robertsによる展望記事参照),世界中の大型肉食哺乳類31種に関する状況,受けている脅威,生態学的な重要性についてレビューしている。これらの種は,直接的,間接的に生態系を安定化する一連の作用を担っている。現在の減少水準は生態学的な影響力を失う個体群密度にまで達しそうであり,生態系が不安定となる可能性がある。大型肉食動物の保護は,広い場所を要することや,人間と争いが発生する可能性があるため,簡単なことではない。しかしながら,著者らは,大型肉食動物の保護が生態学的に重要で,直面している脅威が大きいことを考えると,保護の必要性が切迫していると論じている。(MY,KU,nk)
Status and Ecological Effects of the World’s Largest Carnivores

ヘテロエピタキシーが薄く書いた(Heteroepitaxy Writ Thin)

電子デバイスに用いる半導体の薄い単結晶層を作成する一般的な方法は、結晶成長のテンプレートの役割を果たす別材料の単結晶の表面にその層を成長させていく、ヘテロエピタキシーという方法である。Liuたちは(p. 163)今回、銅表面に成長させたグラフェン層の端部が六方晶系の窒化ホウ素の単層の形成を助けるという、ヘテロエピタキシーと似たプロセスについて述べている。。窒化ホウ素はグラフェン層に形成された穴の内縁から成長した。二つの層の界面と相対的な向きは、種々の走査顕微鏡や表面回折技術によって決定された。(Sk,nk)
Heteroepitaxial Growth of Two-Dimensional Hexagonal Boron Nitride Templated by Graphene Edges

冷たい氷河の成長(Cold Glacier Growth)

南極のパイン島の氷河は、最近20年間の間に著しくその厚さを薄くしてきており、海水面の上昇に対してその効果が計測できるほどである。氷河のダイナミクスと気候の両方が、その氷河が薄くなっていることに寄与しているのであるが、正確にそれらがどのように氷河に影響を及ぼしているかは、まだよくわかっていない。Dutrieuxたちは (p. 174, 1月2日号電子版)、その周辺の海域における海洋温度の測定結果を通じて、そのプロセスに対する我々の理解について、もう一つの詳細な見方を示している。分離している氷河先端(氷が崩壊している場所)に隣接している海洋近傍の変水層(thermocline)が、2012年の南半球の夏季に250mも低くなっていた。この変化によって、この氷床の底部が、暖かい深部の層というよりも、より冷たい表層の水に曝され、そのために海洋からその上にある氷への熱輸送量が減少し、そして2010年と比べて50%以上も氷河基部の氷の融解を減らしている。このような2012年の海洋の状態は、部分的には強いラニーニャ現象が原因となっていたが、これは、気候変動に対する南極の氷床の応答を調節するするにあたって、大気の変動がいかに重要であるかを例証している。(UC,KU,nk)
Strong Sensitivity of Pine Island Ice-Shelf Melting to Climatic Variability

海洋における炭素の蕾(Carbon Budding in the Ocean)

細菌の小胞は、病変形成におけるその役割に関して注目が高まっているが、しかし病原性とは関係のない話として、それら構造体の量や生物学的役割はほとんど注目されていない。 Billerたち (p. 183; Scanlanによる展望記事参照)は、直径〜100nmの膜小胞が海洋のシアノバクテリアによって放出され、そして海洋の生態系の主要な構成員であるという証拠を与えている。シアノバクテリアの Prochlorococcus--これは低栄養性の海洋において最も豊富に存在する光独立栄養生物である--の培養研究は、小胞がこのシアノバクテリアから絶えず放出され、そして海洋環境中に豊富に存在するすることを示している。これらの小胞は、海洋の生態系におけるプランクトンや溶解した有機物炭素プールの間での、遺伝的および生物地球化学的な交換に関して、我々か考えている見方を変えるような特質を持っている。(KU,nk)
Bacterial Vesicles in Marine Ecosystems

一度に対立遺伝子の一つを発現する(Expressing One Allele at a Time)

遺伝的形質は優性だったり劣性だったりするが、同じヘテロ接合性遺伝子型のインパクトは、個体ごとにかなり違うことがある。Dengたちは、数百もの個々のマウス細胞における遺伝子発現全体を分析し、遺伝子のかなりの部分が、任意の時点において、ランダムに選ばれた対立遺伝子の一つだけを発現していることを発見した(p. 193)。転写時におけるそのような確率過程は細胞間の異種細胞を増加させ、同じ遺伝子型の個体間の表現型の変化に寄与しているらしい。(KF,ok)
Single-Cell RNA-Seq Reveals Dynamic, Random Monoallelic Gene Expression in Mammalian Cells

発生中のニューロンは切断を行う(Developing Neurons Make the Cut)

脊椎動物の発生中の中枢神経系にあるニューロンは、脳室に隣接する細胞に由来し、その後増殖し分化して脳を満たすことになる。そんな細胞の一つが分化を始めると、細胞の核が、脳室の表面から離れて、新たな住まいへ向けて遊走し、細胞は外に伸びていく。ある時点で、成熟した青年のように、細胞は家を出なければならない。DasとStoreyは、細胞が、自分を伸ばすだけ伸ばして、遊走細胞にゆっくり引きずって向かっていく代わりに、最初の根を切って捨てていることを明らかにした(p. 200; またTozerとMorinによる展望記事参照)。この器官脱離のプロセスは、一次繊毛と繊毛に局在化したシグナル伝達系を後に残すことになる。(KF)
Apical Abscission Alters Cell Polarity and Dismantles the Primary Cilium During Neurogenesis

持続的生存(Persistent Survival)

細菌の病変形成の際に多種の薬剤による処置を生き延びた休眠細胞である、生残細胞の役割というものは、これまで深く探求されてこなかった。単一細胞蛍光希釈技術を用いて、Helaineたちは、in vitroとマウスでの感染時におけるサルモネラ属 Typhimuriumの生残細胞形成を検証した(p. 204)。マクロファージによる食作用後のの30分以内に、サルモネラ細胞は二つの運命のうち、一つに従うことになる。病原性のあるエフェクターの複製と産生へと向かうか、それとも生き延びて、複製不可能な生残細胞になるか、である。マクロファージの空胞内に生きているサルモネラは潜在的にストレスに満ちた条件にさらされ、これが ppGpp/lon タンパク質分解酵素-依存様式で14個のU型の毒-解毒座位の発現を引き起こす。この系は、病原性因子の誘発と生残細胞形成のどちらにも役割を果たしているらしい。非複製的細菌には、増殖を再開する能力と代謝活性によって定義される少なくとも4つの異なった亜集団があるが、異なる病原体中では別の表現型が観察され、大腸菌の生残細胞は、サルモネラ族のそれとは別のものである。(KF,KU)
Internalization of Salmonella by Macrophages Induces Formation of Nonreplicating Persisters
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