AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 8 2013, Vol.342


Hippoの相互作用を解剖する(Dissecting Hippo Interactions)

Hippoシグナル経路は、細胞増殖から細胞死、さらには幹細胞や癌細胞の制御まで、多くのプロセスにおいて鍵となる役割を果たしている。Kwonたちは、この経路のすべての構成要素を系統的に同定しようと試みた(p. 737, 10月10日号電子版)。タンパク質間相互作用のスクリーニングによって、約150種のタンパク質間での200以上の相互作用が同定された。このスクリーニングで同定されたタンパク質 Leashは、転写共役因子 Yorkieの活性を制限するものであり、これによってHippoシグナル経路に応答して遺伝子発現を制御している。(KF)
The Hippo Signaling Pathway Interactome

オプトメカニカルなもつれ(Optomechanically Entangled)

量子もつれを活用すると、古典的情報処理の限界を超える量子工学システムを構築することができると考えられている。Palomakiたちは (p. 710, 10月3日号電子版:Hammererの展望記事参照)、マイクロ波の場と機械共振器との間のもつれを実証することで、この量子供給源をマイクロメカニルな共振器の領域中にも展開できることを示している。もつれ状態の力学的成分は、次いで第2マイクロ波の場に変換可能であるという。(NK,ok)
Entangling Mechanical Motion with Microwave Fields

電池の故障(Battery Breakdown)

電荷を化学的に蓄積するために、さまざまな物質を使うことができるが、多くのものは、繰り返し使っても電池容量が劣化しないような電池にすることができない。劣化は二次的な反応、表面の被膜形成による劣化や、或いは割れを生じるような体積変化によって生じる可能性がある。Ebnerたち (p. 716, 10月17日号電子版)は、シンクロトロンx-線断層撮影を用いて、錫酸化物モデル系(大きな体積変化をすることが知られている)における電池内の化学的変化とその結果としての機械的変化の両者を追跡することで、動作中の電池におけるこの後の方のシナリオ(体積変化)を研究した。(hk)
Visualization and Quantification of Electrochemical and Mechanical Degradation in Li Ion Batteries

酸素によるグラフェン成長の制御(Oxygen Control of Graphene Growth)

メタンのような炭化水素の銅表面上での分解によるグラフェンの成長では,多様な結晶ドメインサイズや結晶形態が生じる。 Haoたちは (p. 720, 10月24日発行電子版;表紙参照),表面での酸素の存在により核生成のサイト数が制限され,拡散-律速メカニズムにより,センチメートルスケールのドメインに成長することを見出した。この方法で得られたグラフェンの電気伝導度は,グラファイト剥離により得られたグラフェンに匹敵するものであった。(MY,tk)
The Role of Surface Oxygen in the Growth of Large Single-Crystal Graphene on Copper

月のどちら側?(Which Side of the Moon?)

月の地球から遠い側(月の裏側)と近い側(月の表側)とは、地質学的には異なったものである。NASA の Gravity Recovery and Interior Laboratory (GRAIL) ミッションによって得られた高精度な地殻の厚さの地図を用いて、Miljkoviたち (p. 724) は、月の衝突盆地の分布も、きわめて非対称であることを示している。月の非対称な熱的な進化に関する3次元的なシミュレーションと結びついた衝突盆地形成の数値シミュレーションから、月の地殻内部での水平方向の温度変化が、衝突盆地の最終的なサイズに大きな影響を与えていることを示している。(Wt,ok)
【訳注] ・GRAIL(グレイル)とは、NASAが2011年に打ち上げた月探査機で、月の重力分布を高精度で測定することを目的としている
Asymmetric Distribution of Lunar Impact Basins Caused by Variations in Target Properties

免疫をライトアップする(Lighting Up Immunity)

TH17細胞は、CD4+ Tヘルパー細胞であり、炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン17を産生する。腸内において、TH17細胞は真菌や細菌の感染症から腸を保護し、そしてこれらの炎症誘発性の機能は、炎症性腸疾患を含む自己免疫疾患と結びついている。Yuたち (p. 727)は、概日性の分子時計が腸内で TH17細胞の分化を直接的に制御していることを示しており、このことは栄養と光の双方が免疫応答を直接的に制御する重要な環境因子であることを示唆している。(KU)
TH17 Cell Differentiation Is Regulated by the Circadian Clock

ミトコンドリアの融合と心臓の発生(Mitochondrial Fusion and Heart Development)

恒常性細胞プロセスにエネルギーを与える際のミトコンドリアのその役割はよく理解されている。しかしながら,ミトコンドリアが細胞分化に影響しているのかどうか,および,どのように影響しているかははるかに不明瞭である。in vivoでの胚性マウスモデルとマウスの胚性幹細胞の培養により,Kasaharaたちは (p 734, 10月3日発行電子版),中胚葉細胞の分化を心筋細胞へと促進する細胞のシグナル伝達に対して,無傷のミトコンドリアの融合経路が必須であることを見出した。(MY,KU)
【訳注】無傷ミトコンドリア:形態と機能を保ったまま細胞から分離精製したミトコンドリア
Mitochondrial Fusion Directs Cardiomyocyte Differentiation via Calcineurin and Notch Signaling

タイチンのギャップを結びつける(Bridging the Titin Gap)

筋肉タンパク質のタイチンは分子スプリングであり、単一分子のアンフォールディング実験と分子シミュレーションによって広範に研究されてきた。しかしながら、引っ張り速度において数桁の差があるために、実験とシミュレーションによるアンフォールディングを直接的に比較することができなかった。Ricoたち (p. 741)は高速の力分光法を開発し、分子動態シミュレーションの下限に達する速度でタイチン分子を引っ張った。シミュレーションと実験の間のギャップを結びつけることで、タイチンの立体構造変化のメカニズムが明らかにされた。(KU)
High-Speed Force Spectroscopy Unfolds Titin at the Velocity of Molecular Dynamics Simulations

DNAの違い(DNA Differences)

遺伝的変異がどの程度,一人一人の表現型に影響するのかは,予測困難であった。その理由は、大部分の変異が遺伝子の翻訳領域以外の領域で起きているからである。今回,3つの研究が,多様な祖先と遺伝子変異を有する人間のクロマチンに対して,遺伝的変異がどの程度影響しているのかを調べている(FureyとSethupathyによる展望記事参照)。Kasowskiたちは (p. 750, 10月17日発行電子版),遺伝子変異がクロマチンの状態の違いにどう影響するか、またその違いがヒストン修飾とどう相関するかを,より一般的な DNA結合性因子との相関はどうかを共に調べた。Kilpinenたちは (p. 744, 10月17日発行電子版),転写因子の結合,ヒストン修飾,転写において,遺伝的変異がどのようにして対立形質の特異性に結びつくのかを実証している。McVickerたちは (p. 747, 10月17日発行電子版),どのようにして量的形質遺伝子座がヨルバ族個々人のヒストン修飾に影響を与えているのかを明らかにし,どの特定の転写因子がそのような修飾に影響しているのかを同定した。(MY,KU,nk)
【訳注】
・翻訳領域:遺伝子DNA配列で,タンパク質として翻訳される情報をコードしている領域
・クロマチン:細胞核内にあるDNAとヒストン(タンパク質)の複合体
・対立形式:遺伝する優劣の1対の形質のこと。1つの個体では優位の形質のみが表現される
・量的形質遺伝子座:複数の遺伝子の効果の組み合わせによって決定される形質がどのように表現されるかに影響を与える染色体上のDNA領域のこと
・ヨルバ族:西アフリカ海岸地方に住む民族
Extensive Variation in Chromatin States Across Humans
Coordinated Effects of Sequence Variation on DNA Binding, Chromatin Structure, and Transcription
Identification of Genetic Variants That Affect Histone Modifications in Human Cells

ここからあそこへ(From Here to There)

異なった組織や器官を形成するため、胚性細胞は新たな場所に遊走しなければならない。特異的な転写制御因子や、後成的プログラムとスプライシングプログラム、さらにはマイクロRNAの制御ネットワークがこのプロセスを制御していて、このプロセスは上皮間葉転換 (epithelial-to-mesenchymal transition:EMT)として知られている。EMTの際には、かなりの細胞可塑性が観察され、ひとたび新たな場所で活性化されると、細胞はふたたび別の新たな形に変化しなければならない。この「逆向き」の事象は、間葉上皮転換 (mesenchymal-to-epithelial transition:MET)と呼ばれている。Nietoは、通常の発生の際と、細胞が原発腫瘍を離れ身体の別の場所に移動して腫瘍転移と二次腫瘍を形成する癌生成の際の双方において観察される EMTと METをレビューしている(10.1126/science.1234850)。(KF)
Epithelial Plasticity: A Common Theme in Embryonic and Cancer Cells

3次元で見た転写開始前複合体(Pre-Initiation Complex in 3D)

遺伝子発現の制御は、生物学のほとんどすべての側面においても決定的に重要である。転写、すなわち遺伝子のRNAコピー作るには、全ての RNAポリメラーゼII(pol II)プロモータにおいて、大きな転写開始前複合体 (PIC)の組立てが必要である。 pol IIのサブユニットおよび基本転写因子のタンパク質約32個がPICを形成しているがこのPICが最小のTATAボックスプロモータを認識し、転写開始点を選択し、新生転写物を合成する。Murakamiたちは低温電子顕微法を用いて、出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae)の30-サブユニットの PICの3次元マップを決定した(10.1126/science.1238724, 9月26号電子版; またMalikとRoederによる展望記事参照)。鞍状の形をしたTATA結合タンパク質と長靴形の転写制御因子IIA (TFIIA)、そして、TATAボックスからほぼ27 bp(base pair)下流にあるプロモータDNAなどを、すべて見ることができた。30個のサブユニットの空間的近接性は、架橋結合と質量分析によって決定され、そしてPICが、2つの葉とそれらをつなぐ橋のようなTFIIFをもっていることが明らかにされた。(KF,KU,nk)
【訳注】
・プロモータ:RNAポリメラーゼが特異的に結合し転写を開始するDNA上の領域
・TATAボックス:RNA合成開始点の上流-30番目を中心に塩基配列がTATAAAAAという配列が出現している領域
Architecture of an RNA Polymerase II Transcription Pre-Initiation Complex

冷たい熱電効果(Cold Thermoelectrics)

熱電効果−-たとえば温度勾配に応じた電圧降下の発生(ゼーベック効果として知られている)--は、無駄な熱の電力への変換をはじめとする多くの用途に用いることができる。しかし、特に電気的な相互作用を示す固体においては、この種の作用はよく分かっていない。Brantutたちは(p. 713, 10月24日号電子版; Heikkila による展望記事参照)、冷たい原子ガスという非常に制御しやすい状況の下で、ゼーベック効果を調べた。二つの初期的に同一の 6Li原子の入った容器を、準二次元の流路を用いて結合し、一方の容器を加熱した後の粒子の流れを測定した。原子は暖かい容器から冷たい容器に移動し、流路の乱れと幾何学形状を変化させた時に、その流量は理論的予測と一致した。(Sk,nk,ok)
A Thermoelectric Heat Engine with Ultracold Atoms

カウロバクターの染色体(Caulobacter Chromosome)

染色体DNAは細胞の小さな容積中に収まるよう高度に緻密でなければならず、同時に、高次構造を保って、重要な細胞プロセスがゲノムへアクセスできるようになっていなかればならない。Leたちは、原核生物カウロバクター(Caulobacter crescentus)の環状染色体の構造を、染色体高次構造捕捉法と大規模塩基配列決定によって解析した(p. 731, 10月24日号電子版)。高度に自己相互作用する領域 (染色体の相互作用領域、すなわちCID)が観察されたが、これは真核生物において従来みられた形態的に関連する領域に似ていた。高次コイルの形成が CIDの確立を助け、CID境界は高発現遺伝子によって制限されていた。CIDは、DNA複製の際かその直後に確立されており、潜在的には、新たに複製された染色体がもつれないように防ぐことで、染色体の分離を促進できるのである。(KF,nk)
High-Resolution Mapping of the Spatial Organization of a Bacterial Chromosome
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