AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 18 2013, Vol.342


カルベンを捕える(Catching a Carbene)

二価の炭素フラグメントであるカルベンは、置換基に依存してその安定性が大きく変化する。N-複素環カルベン等は単独状態で単離可能である。金属との配位錯体を形成させることで単離できるものも存在する。Kornecki等は(p. 351、9月12日号電子版) 、ロジウム二量体に配位結合したカルベンを合成することに成功した。これは、一連のシクロプロパン環化反応やC-H挿入反応の基礎となっている、と長年考えられていた短寿命で見つけにくい中間体の典型例である。(NK,KU,nk)
Direct Spectroscopic Characterization of a Transitory Dirhodium Donor-Acceptor Carbene Complex

わくわくする頭部の発見(A Heady Find)

この20年間に,グルジアのドマニシ(Dmanisi)考古遺跡で,ホモ属が最初にアフリカを出て分散した直後の,初期更新世人類の化石が発掘されてきている。今回,Lordkipanidzeたちは (p. 326; 表紙参照),ドマニシ遺跡で発掘された頭骨の化石について説明している。以前見つかった下顎骨と合せると,今回の発見で,この時代の原人の同一個体としての完全な頭骨が初めてできあがったことになる。(MY,bb,ok)
A Complete Skull from Dmanisi, Georgia, and the Evolutionary Biology of Early Homo

試されるブラックホール(Testing Black Holes)

一般相対性理論によって予測されている重力波は、ブラックホールのような非常に重たい物体同士が合体する際に発生すると考えられている。Shannonたちは(p. 334)、パークス・パルサータイミングアレイ・プロジェクトのデータを用いて、合体しつつある銀河中の、一対の超大質量ブラックホール(太陽の106から101111の重さを持つ)により発生する背景重力波を推定した。その結果は、超大質量ブラックホール種族のモデルを試すために用いることができる。(Sk)
Gravitational-Wave Limits from Pulsar Timing Constrain Supermassive Black Hole Evolution

太陽電池での自由な移動(Unrestricted Travel in Solar Cells)

過去2年に,ハロゲン化有機鉛のペロフスカイトが,実験段階の太陽電池において光捕獲用媒体の中で有望な1つのグループとして登場してきた。しかしながら,これらの効率の高さを説明できる物理的原理は明確ではなかった(Hodesの展望記事参照)。今回,さまざまな吸収と発光の時間分解スペクトル解析の手法を用いた2つの研究により,これらの材料では,光吸収で活性化された電荷キャリアの拡散長が比較的大きいという結果が示されている。Xingたちは (p. 344),(負電荷)電子と,(正電荷)正孔の拡散長を別々に評価し,約100nm(ナノメーター)の光吸収深さまで,これらが互いによく一致した大きさであることを見出した。Stranksたちは (p. 341),塩素ドープした材料で,拡散長が10倍大きくなることを明らかにした。このことが,この材料の全体の効率が特に高いことに関係している。2つの研究から,更なる最適化のパラメータとしては,電荷キャリアの有効拡散長が重要であることが明らかにされた。(MY,nk,ok)
Long-Range Balanced Electron- and Hole-Transport Lengths in Organic-Inorganic CH3NH3PbI3
Electron-Hole Diffusion Lengths Exceeding 1 Micrometer in an Organometal Trihalide Perovskite Absorber

よい読み物(A Good Read)

心の理論(Theory of Mind:ToM)とは、他の人が信念や願望を抱いていること、そしてそれらが自分のものとは異なっているかもしれないことを理解する人間の能力のことである。文芸小説--しばしば,主人公の内的感情や思考の綿密描写に焦点を当てた物語として記述される--は,心の理論を育むプロセス(ToM processes)に結び付けることができるというのが,現在の主要な見解である。特に,主人公の感情面の性格の理解やシミュレーションに関係する心のプロセスの場合はそうである。KiddとCastanoは (p. 377, 10月3日発行電子版),ノンフィクションや大衆小説を読むことに比べ,文芸小説を読むことの方が,心の理論の課題(ToM tasks)に関する読み手の成績(reader's performance)が実際に高まるという実験的証拠を提示している。(MY,KU,nk,ok)
Reading Literary Fiction Improves Theory of Mind

廃物を取り除く(Taking Out the Trash)

睡眠の目的は謎めいたままである。同じマウスにおける二つの覚醒状態を直接比較するために最先端のin vivoでの2光子イメージング法を用いて、Xieたち (p. 373; Herculano-Houzeによる展望記事参照)は、神経活動の代謝老廃物が、目覚めた状態の時よりもより速い速度で睡眠中の脳から除去されることを見出した。この発見は、記憶固定に関する良く記述された効果に加えて、睡眠がどのようにして回復機能に役立っているかという生理学的説明を示唆するものである。(KU,nk)
Sleep Drives Metabolite Clearance from the Adult Brain

ステロイドの復活(Return of the Steroid)

痕跡レベルの有機汚染物質が、農地からの流出等の様々な発生源から水生の生態系に入ってくる。これらの化合物やそれらの代謝産物が分解されると、これらは不活性になり、生態系へのリスクは少なくなると一般的に想定されている。Quたち (p. 347, 9月26日号電子版)は、ラボとフィールドにおいて多くの条件に渡ってトレンボロン酢酸塩(trenbolone acetate:TBA)--肉牛に与えられているありふれた成長促進ステロイド化合物--の代謝産物の太陽光による変化を追跡した。光分解後に、分解生成物を暗条件に曝すと、驚いたことに未知の生物学的影響を持つTBAに似た類似のステロイド化合物等を含む、TBA代謝産物が再び生じた。(KU,nk,ok)
Product-to-Parent Reversion of Trenbolone: Unrecognized Risks for Endocrine Disruption

コードを変える(Changing the Code)

遺伝暗号を容易かつ効率的に拡張することは、ゲノム工学研究者に対して、医学やエネルギー、農業、環境安全性などにおける広範なアプリケーションへのツールを提供することになる。Lajoieたちは、終結因子1(RF1;UAG(アンバー)で翻訳を終結する)だけでなく、大腸菌 MG1655における既知のすべてのUAG終止コドンを同義のUAA(オーカー)終止コドンで置き換え、それによって適応に障害をもたらすことなく、自然なUAG の翻訳機能を除去した(p. 357)。これは、UAGを、非天然アミノ酸を遺伝的にコードする専用のコドンとして、再割り当てすることを可能にする一方で、自然なUAGの位置における有害な取り込みを回避することになる。遺伝子工学的に作り出されたその大腸菌は、非天然アミノ酸をタンパク質内に取り込み、T7ファージに対する抵抗性を増強していた。第2の論文で、Lajoieたちは、大腸菌における高発現の必須遺伝子42個の中で13個のコドンの再コード化をおこなった(p. 361)。コドン使用頻度には柔軟性があるが、同義のコドンはどのように発現するか予測不能で同じにはならなかった。(KF,KU,ok,kj)
【訳注】アンバーコドン(amber codon):3つの終止コドンの一つUAG、オーカーコドン(ochre codon):UAAで表される終止コドン、mRNA分子の翻訳の終結をコードするコドン
Genomically Recoded Organisms Expand Biological Functions
Probing the Limits of Genetic Recoding in Essential Genes

木を見て森も見る(Seeing the Trees in the Forest)

二世紀以上に渡る植物学研究による探索を経ても、アマゾン森林の木々の種構成や、木々の定量的な分布に関する知識は、まさに継ぎはぎ状態に留まっている。Ter Steegeたちは (p. 1243092)アマゾン盆地とギアナ高地に渡り網状に並んだ、木々の植生区画 1170 個所から得られた結果を報告している。そこでは、幹の直径が10cm以上である木は全てその名前が確認された。この木の植物相は約16,000種から成っていた。しかし、多様性が世界で最も高い森林であるアマゾンにおいて、木々の半分はアマゾンでは非常にありふれた227種で占められていた。(Uc,nk)
Hyperdominance in the Amazonian Tree Flora

並びの悪い惑星たち(Misaligned Planets)

軌道面を共有する複数の惑星を有する恒星で、恒星の赤道面と惑星の軌道面とが正しく整列していないものは、これまで見い出されたことはなかった。これは、惑星系の力学史を診断する手がかりの一つである。Huber たち (p.331) は、惑星系 Kepler 56 を解析した。これは、巨大な惑星と中間的な大きさの惑星を含んでいる。それらの惑星の軌道は、ほぼ、同一面にあるが、惑星の軌道は恒星の赤道面と揃っていない。離れた軌道を持つ第三の伴天体により、この不正な配置を説明することができる可能性がある。この伴星は、たぶん、他の恒星か惑星であろう。(Wt,KU,nk)
Stellar Spin-Orbit Misalignment in a Multiplanet System

歪みを利用する(Taking the Strain)

圧縮やねじりの負荷により大きく変形させられた場合、結晶性金属は欠陥や転位の密度が増し、それによって、その金属はさらなる変形に対し効果的に強化されることになる。しかしながら、ある段階で、形成される微粒子化の構造が飽和に達する。Liu たちは(p. 337; Ramtani による展望記事参照)、純粋なニッケル試料の表面層に対し、せん断速度が非常に大きな変形を、大きな歪(ひず)み勾配をつけて作用させることにより、この飽和を克服できることを示した。三次元の微粒子化構造の代わりに、二次元の層構造を持つ表層が表層の80ミクロンを占めていた。より強くなるだけでなく、この層状のニッケル構造は熱的にもより安定していた。(Sk,KU,ok,kj)
Strain-Induced Ultrahard and Ultrastable Nanolaminated Structure in Nickel

メタンは見いだされなかった(No Methane to Be Found)

地球では、大気中のメタンのほとんどが生物学的に産生されている。大気中のメタンはまた、火星でも検知されていたが、しかしそれらのレポートには多々議論があった。2012年8月に火星の表面に到着した、探査機キュリオシティ・ローバ―に搭載された火星でのサンプル分析用機器(the Sample Analysis at Mars instrument)からのデータに基づいて、Websterたち (p. 355, 9月19日号電子版)は、メタンは検出されず、その上限値は以前の測定よりも6倍ほど低く、体積比で言うと僅か1.3ppb(parts per billion)であることを報告している。(KU,nk,tk,kj)
Low Upper Limit to Methane Abundance on Mars

侵入し、順応せよ(Invade and Adapt)

植物種と動物種が新たな生息地に拡がる仕組みが、とくに気候変化と種の侵襲という文脈で、生態学的研究の焦点になってきている。ColauttiとBarrettは、北米でもっとも悪名高い外来植物種の一つであるエゾミソギハギ(紫の花の長い穂状花序を持つ、沼沢草本)における、1000キロメーターにわたる気候勾配に沿って急速に進化しつつある局所順応の生態学的結果を検証した(p. 364)。この外来集団は、50年から100年のうちに局所に順応するよう進化し、重要な生態学的結果をもたらしている。つまり、繁殖率を 1 桁以上高めている。(KF,nk,ok)
Rapid Adaptation to Climate Facilitates Range Expansion of an Invasive Plant

カエルの防御を破る(Breaking Frog Defenses)

ほとんどの真菌症への免疫防御の第一波は、マクロファージや好中球などの、生得的な免疫エフェクター細胞である。しかしながら、Fitesたちは、世界の両生類を多数殺しているカエルツボカビという菌類がそれらの細胞によって容易に貪食されるが、しかしこれによって感染症が効率的に制御されるわけではないことを発見した(p. 366)。この菌類は、リンパ球のアポトーシスを誘発し、他の非リンパ球細胞型の増殖を抑制する細胞壁成分を遊離して、リンパ球によって仲介される感染症への応答を不活性化しているのである。(KF,ok)
The Invasive Chytrid Fungus of Amphibians Paralyzes Lymphocyte Responses

結合部位と結合速度をとらえる(Capturing Binding Location and Speed)

染色質中の転写制御因子の結合部位は、クロマチン免疫沈降 (ChIP)アッセイによってマップ化されるが、このアッセイは細胞から得られた、ホルムアルデヒド-固定の染色質フラグメントを解析するものである。しかしながら、標準的な ChIPアッセイは、その相互作用がどれほど安定かについての情報を提供してくれない。生細胞イメージングなどの他のアプローチは、転写制御因子の動的な振る舞いについての側面を明らかにできるが、位置の正確さや時間分解能において制約がある。Pooreyたちは、ChIP シグナルがホルムアルデヒドの架橋結合の時間にどれだけ関連しているかを説明するモデルを開発し、染色質の部位特異的結合のダイナミクスを、高い時間分解能で測定する方法を開発した(p. 369, 10月3日号電子版)。(KF,KU)
Measuring Chromatin Interaction Dynamics on the Second Time Scale at Single-Copy Genes
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