AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 2 2013, Vol.341


回転に伴うドップラー効果(Doppler Effect with a Twist)

ドップラーシフトは、音響学ではよく知られ、また、よく理解されている効果である。レーダー銃は、同じ効果を用いて動いている乗り物の速さを決定している。しかしながら、回転する物体の側面に適用した場合は、直線的なドップラー効果は何の動きも示さないであろう。ねじれを有する光(螺旋状光ビーム)では、光子に一定の光学的な角運動量が刻印されているのだが、Lavery たち (p. 537; Marrucci による展望記事を参照のこと) は、それを用いて、直線的なものに類似の角運動量のドップラーシフトによって回転を検出した。これは、リモートセンシングや観測天文学に有用であろう。(Wt,nk)
Detection of a Spinning Object Using Light’s Orbital Angular Momentum

Y染色体を調べる(Examining Y)

ヒト集団の進化は、非組み換えの、男性特異的なY染色体固有の配列を用いて昔から研究されていた(Cannによる展望記事参照)。Poznikたち (p. 562)は、地球規模で放散した9つの集団に属する69人の男性のY染色体の9.9メガ塩基対を調べ、Y染色体の進化を解明できる集団、並びに個体に特有の塩基配列変異を同定した。女性に受け継がれてきたミトコンドリアDNAの塩基配列決定から、両者間の進化に関する相対的速度の比較が可能となり、この比較によりヒトY染色体とミトコンドリアDNA双方に関する現生人類の分岐、あるいは起源がほぼ12万年前に生じていたことが示唆された。Francalacciたち (p. 565)は、孤立した、遺伝的背景がわかっているサルディニア人から集めた1204人のY染色体塩基配列の多様性を調べた。考古学的記録と共に、その塩基配列解析を用いて、ヒト系統樹の精度を補正し、増加させた。(KU,bb,kj)
【訳注】サルディニア人(Sardinian population):イタリア半島の島で、7700年ほど前に移住した民族が今も7000人ほど住んでいて、遺伝研究や移動の研究対象となっている。
Sequencing Y Chromosomes Resolves Discrepancy in Time to Common Ancestor of Males Versus Females
Low-Pass DNA Sequencing of 1200 Sardinians Reconstructs European Y-Chromosome Phylogeny

愛する人はただ一人(The Only Flame in Town)

哺乳類の中では特異なことであるが、ヒトは一夫一妻の生活が数十年間も続くことが多い、社会的に明白な一夫一妻婚である。なぜか? LukasとClutton-Brock (p. 526; Kappelerによる展望記事参照)は、進化の過程で一夫一妻制に移行した60種を含んだ、26の目にまたがる2500種の哺乳類のデータを精査した。すべての事例で、一夫一妻となる種の祖先の条件は、メスが単独行動者であり、かつオスによる嬰児間引きが稀である条件であった。一夫一妻制は、父親の養育活動を必要とすることへの応答としてではなく、主として配偶者防衛戦略として発生したようである。(TO,ok,kj,nk)
【訳注】配偶者防衛戦略(mate-guarding strategy):雌が他の雄と交尾することを防ぐため、雄が雌の行動を制限すること
The Evolution of Social Monogamy in Mammals

複雑なスカフォードを簡単に(A Complicated Scaffold, Simply)

オーダーメード可能な細孔構造を持つ材料は、触媒の支持体や軽い素材に有用である。医用のスカフォードを作成する場合、作成する条件には制約があり、多段階の作成手順が踏めないことがある。Sai たちは(p. 530)、比較的大きな(数ミクロン)互いに繋がった孔と、数十ナノメータの孔の両者を含む多孔性ポリマーの作成方法について述べている。そのプロセスは、低分子添加剤を用いてブレンドしたブロック共重合体のスピノーダル分解を利用し、水、メタノールまたはエタノールによる簡単な洗浄工程が必要なだけある。(Sk)
【訳注】・スカフォード:細胞が発育する足場、或いは骨格     ・スピノーダル分解:相溶状態から非相溶状態へ変化する途中で、非晶質が絡み合った構造を作る現象
Hierarchical Porous Polymer Scaffolds from Block Copolymers

腸を守る(Protecting the Guts)

腸における調節性 T細胞(Treg)は、我々の腸と無数の腸内常在性細菌のと間の平和を維持するうえでの重要な守衛であり、マウスモデルにおいて特異的な細菌の系統によって調節されていることが示されていた。Smithたち (p. 569, 7月4日号電子版 ; Bollrath and Powrieによる展望記事参照)は、常在性細菌種によって産生された代謝物が腸内でTregを調節しているかどうかを調べた。実際に、一連の細菌によって作られた食物繊維の細菌性発酵物である、短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids:SCFAs)が、腸内微生物叢の存在しないマウスにおいて結腸のTregの数を回復し、コロニーマウス(注:閉鎖系の雑種マウス)ではTregの数を増加させた。Tregに関する SCFAsの影響は、結腸のTreg上に発現する、SCFAsの受容体である GPCR43を通して仲介されていた。SCFAsを与えられたマウスは、GPR43-発現するTregに依存した形で実験的に誘発された大腸炎を防御した。(KU,kj,nk)
The Microbial Metabolites, Short-Chain Fatty Acids, Regulate Colonic Treg Cell Homeostasis

等温での水分解(Isothermal Water Splitting)

太陽集光器は、極めて高い温度を作り出すことができ、水の熱分解による水素生成等の化学反応を行うことができる。金属酸化物触媒は、通常、還元状態の高温条件と、水による再酸化状態の低温条件の間を繰り返す必要がある。この繰り返しによって、触媒の寿命が短くなり、コスト高となる。Muhichたちは (p. 540; RoebとSattlerによる展望記事参照)圧力変化を利用して、等温の条件下で酸化還元サイクルを駆動できる方法を開発した。(Uc,KU,ok)
Efficient Generation of H2 by Splitting Water with an Isothermal Redox Cycle

熱くて邪魔なもの(Hot and Bothered)

地熱地帯でエネルギーを生産する場合の最も不確かな側面の一つは、熱水の汲み上げと排水の地下への再注入による、地震誘起の可能性である。Brodsky と Lajoie は(p. 543, 7月11日号電子版)、南カリフォルニアのソルトン湖の地熱地帯における歴史的上の地震活動の割合-余震の影響を補正したもの-をエネルギー生産活動の指標と比較した。熱水の汲み上げ量から再注入量を差引いた実質の汲み上げ量は、近年の地震活動と相関していた。しかし、最初のプラントが稼働した1980年代以降、再注入量が増加されるにつれ、誘発される地震の割合は減少していた。(Sk,nk)
Anthropogenic Seismicity Rates and Operational Parameters at the Salton Sea Geothermal Field

報酬 対 罰のコード化(Coding Reward Versus Punishment)

強化学習は強化学習は報酬予測と結果の誤差により動かされる。そして,ドーパミン神経細胞が報酬予測誤差信号を脳に伝えて重要性(balue:価値)を教えるという非常に影響力の高い仮説が提唱されている。これは報酬予測誤差と呼ばれているが,嫌悪性もこれで表現されていると仮定されてきた。このため,報酬と嫌悪性(罰)を含めた全体の価値の学習に対してドーパミン信号で十分に表現されていると考えられていた。Fiorilloは (p. 546),ドーパミンだけでは価値をコード化するのには十分でないことを見出した。これは,嫌悪性に対してはドーパミン類似の信号があるはずということを意味している。(MY,KU,kj)
【訳注】・強化学習:教師付き学習とは異なり,報酬情報を手がかりにして試行錯誤を通じて環境への適応を学習していくやり方 ・報酬予測誤差:快の大きさではなく,予測された快と実際に得られた快の差の大きさに反応するという考え方
Two Dimensions of Value: Dopamine Neurons Represent Reward But Not Aversiveness

細菌性破壊戦略(Bacterial Subversion Tactics)

リステリア菌(Listeria monocytogenes)のような細胞内の病原性細菌は、感染を促進するために宿主細胞の転写プログラムを変える。Eskandarianたち (1238858)は、感染の際にリステリア・エフェクタータンパク質であるInlBによって、宿主タンパク質の脱アセチル化酵素、SIRT2が、細胞質ゾルの正常な位置から細胞核の方へと移動が促進されたことを発見した。細胞核内では、SIRT2は、関係するヒストン(histones)の1つを脱アセチル化することによって、多くの宿主細胞遺伝子を抑制していた。マウスでは、低下したSIRT2のレベルにより細菌感染が減少した。(TO,KU,kj,nk)
A Role for SIRT2-Dependent Histone H3K18 Deacetylation in Bacterial Infection

多孔性電極に電解質を保持する(Keeping Electrolytes in Porous Electrodes)

電気化学的キャパシタ(ECs)は急速充放電が可能であるが,電池と比較すると単位体積当たりの貯蔵エネルギー量は少ない。多孔質カーボン物質から作られるEC電極を改善する一つの方法は,特有のシート凹凸により大きな表面積を保有していると思われる化学変換されたグラフェン(CGC,あるいは,還元された酸化グラフェン)のような物質を使うことである。しかしながら,大抵の場合,これらの物質は小型電極に束ねることができないので,これらの物質を用いたECsはどれも小さなエネルギー密度しか示さない。今回,Yangたちは(p. 534),揮発性と不揮発性の2つの電解質を含んだCGCゲルの毛細管圧縮により,高いパッキング密度を持つ電極が形成されることを示している。シートの間に連続的なイオンネットワークが生成され,これにより,試作ECsで高いエネルギー密度が達成されている。(MY,ok)
Liquid-Mediated Dense Integration of Graphene Materials for Compact Capacitive Energy Storage

酵素抜きの修飾(Modification Without Enzymes)

代謝酵素のコントロールや、他の多くの生物学的プロセスの制御は、大部分、タンパク質への小分子の結合によってか、あるいは酵素的に仲介されたタンパク質の共有結合的翻訳後修飾を介して仲介されている。MoelleringとCravattは、これまでとは別のシナリオが生じているのではないかと考えたが、そのシナリオとは、代謝経路における反応性の中間物がタンパク質中の特定のアミノ酸に特異的に反応、修飾することで、別の酵素による触媒作用の必要なしに、制御の変化を生じさせる(p. 549)。解糖の際に形成される特に反応性の強い中間物である1,3-ビスホスホグリセリン酸は、タンパク質中の特異的リジンを非酵素的に修飾することで、代謝中間物の蓄積が調節性のフィードバックをもたらし、多様な経路を通じての流れのバランスをとる、あるいは制御することができる手段を提供していた。プロテオミクス解析から、或るリジン残基が細胞中に自然に産生された1,3-ビスホスホグリセリン酸と相互作用した時に、3-ホスホグリセリル-リジンが形成され、そして解糖において機能するタンパク質中にごく当たり前に存在していたことが示された。そうした修飾は、解糖の酵素であるグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素の活性を低下させたのである。(KF,KU)
Functional Lysine Modification by an Intrinsically Reactive Primary Glycolytic Metabolite

線虫がもがくように(As the Worm Squirms)

酸素を奪われていた細胞への酸素供給の回復は、実際には、細胞や組織にさらなるダメージを引き起こす原因となる。再灌流傷害として知られるそうした応答は、ヒトにおける心発作や脳卒中の致死的悪影響に貢献している。酸素の欠乏は、寄生虫における EGL-9や哺乳類における EGLN2として知られるプロリル水酸化酵素によって直接的に感知される。EGL-9の抑制は組織への酸素の再灌流によって引き起こされるダメージを減少させることができるが、その有利な効果が、どのようにして仲介されているかは不明である。Maたちは、線虫において(この動物は動きが増すと再酸素負荷への行動的応答を示す)遺伝的スクリーンを用いて、EGL-9と相互作用する因子を発見した(p. 554, 6月27日号電子版)。彼らは、チトクロム p450酸素添加酵素である CYP450-13A12を、そうした因子の1つとして同定した。ある種のチトクロム p450酵素は多価不飽和脂肪酸に作用して、エイコサノイドとして知られる細胞性シグナル分子を作った。CYP-13A23の効果は、エイコサノイドによって仲介された。関与する調節経路は進化的に保存されてきたらしいので、この結果は、ヒトにおける再灌流傷害の理解と管理を助けることになるかもしれない。(KF,KU)
Cytochrome P450 Drives a HIF-Regulated Behavioral Response to Reoxygenation by C. elegans

単純なシグナル?(Simple Signals?)

細胞は、細胞自身と自分たちの周辺についての情報を、生化学的シグナル経路を介して処理している。Udaたちは、最近開発された細胞数測定方法を用いて、増殖因子に応答する個々のラット褐色細胞腫細胞における生化学的経路を介したシグナル伝達を定量化した(p. 5588)。調べられたシグナル経路はおよそ1ビットの情報、すなわち、バイナリー(オンかオフか)の決定に十分なだけの情報を提供していた。その単純さにもかかわらず、この結果は共有された成分をもつ経路間の相互作用の存在を示していた。幾つかのケースでは、入力と中間出力との間を運ばれる情報は、入力とより「下流」出力の間の情報より少なく、これは情報が複数経路を介して運ばれていることを示唆するものだった。同様に、ある一つの経路に対する薬理学的な阻害剤が存在する場合は、他の経路がそれを補償することで頑健な情報伝達が可能になっていた。つまり、個々の細胞でのシグナル強度におけるノイズと変動にもかかわらず、増殖因子からの情報の頑健な伝達は達成されたのである。(KF)
Robustness and Compensation of Information Transmission of Signaling Pathways
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