AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 26 2013, Vol.341


中性子星の測定(Neutron Star Measurements)

中性子星は、宇宙のなかで最も高密度な物質の出現形態の一つである。Yagi と Yunes (p.365) は、中性子星の慣性モーメントと、四重極モーメントおよび潮汐Love数を精査した。慣性モーメントは、どのくらい速く回転することができるかを、四重極モーメントと潮汐Love数は、どのくらいまで変形可能かを定めるものである。この調査結果によると、これら三つの量は、星の内部構造に依存しない、普遍的な関係に従うことが示唆されている。これは、これら三つの内の一つについて測定できれば、他の二つは精密に予測可能であることを示唆している。(Wt)
I-Love-Q: Unexpected Universal Relations for Neutron Stars and Quark Stars

ホログラフィックの乱れ(Holographic Turbulence)

超流体における乱流は、古典的理論における乱流と比べて、より困難な理論的な問題を我々の前に提示している。Cheslerたちは(p. 368)ホログラフィック双対性を用いることにより、数値シミュレーションによって模擬された超流体の乱流について考察した。2次元的な超流体におけるエネルギー流の方向は、古典的な流体におけるそれとは反対方向であったが、これは長距離スケールで注入されたエネルギーは、乱流状態にある超流体において形成される渦により、短距離スケールで散逸されたことを示している。(Uc)
【訳注】・超流体;極低温の下での液体ヘリウム等、粘性がない超流動の状態にある流体。     ・ホログラフィック双対性(holographic duality);重力理論と、より低次元の場の理論を結合させる理論。
Holographic Vortex Liquids and Superfluid Turbulence

錆への耐性(Rust Resistance)

鉄や鋼の錆は、クロムを11%以上添加することにより防ぐことができる。さらにモリブデンを添加することにより、Cr と Mo 原子間の複合的な相互作用で腐食の耐性を向上させることができる。しかし、それでも化学的なバラツキが存在すると、局所的な領域や表面層が機械的に擦られた場合には、腐食が生じることがある。Duarte たちは(p.372)、鉄をベースとしたガラス状合金の腐食性の欠陥を調べた。原子プローブ断層撮影法、電子顕微鏡、X線回折の組み合わせを用いて、加熱して結晶化させた場合の金属の局所的なバラツキの原子レベルの画像と、このような処理が腐食耐性に与える影響を確認した。(Sk)
Element-Resolved Corrosion Analysis of Stainless-Type Glass-Forming Steels

ルー脚でのグルコースコントロール(Glucose Control Goes Out on a Limb)

ルーエンワイ胃バイパス法(Roux-en-Y gastric bypass)は、病的な肥満患者の体重減少を促すために用いられる外科的手法であり、患者が再度体重増加してしまった場合でも糖尿病が永続的に緩和されることがしばしばある。Saeidib たちは(p.406; Berthoud による展望記事参照)、ラットモデルを研究し、外科的に再構成した腸の部分(the Roux limb:ルー脚)が、グルコースの吸収と活用の増加で特徴付けられる適応応答を起こしていたことを見出した。その応答はどうやら未消化の栄養に曝されることによりトリガーが入るらしい。ヒトの腸においても同じ適応応答が生じるかどうかは、今後の検討課題である。(Sk,ok,kj) 【訳注】ルーエンワイ法:胃を全摘し、空腸を引き寄せる手術法
Reprogramming of Intestinal Glucose Metabolism and Glycemic Control in Rats After Gastric Bypass

甘さの多様性(Sweet Variety)

たんぱく質は数多くの形に折りたたまれるが,形態的には,常に,アミノ酸が結合した事実上、直線状のものから始まっている。対照的に,炭水化物は,糖からなる構造ブロックが複数の枝分かれ部位を通して結合することで、多様な構造をとる。Wangたちは (p. 379, 7月26日発行電子版; KiesslingとKraftによる展望記事参照),各々の枝分かれ部位に沿った異なる構造ブロックを,多くの様々な分岐多糖類へと転換しうる汎用的な前駆体を設計した。(MY,KU,ok,kj)
A General Strategy for the Chemoenzymatic Synthesis of Asymmetrically Branched N-Glycans

自分の記憶を信頼できますか?(Can You Trust Your Memory?)

人間は高度に想像力の高い生き物であるため,絶えず過去の経験を思い出す。これらの内部に起きた刺激は,時には,その時に外部で起きた刺激と結びつき,誤った記憶の形成に至ることがある。Ramirezたちは (p. 387; 表紙参照) ,マウス海馬の歯状回にある神経細胞群を特定したが,この細胞群は特定の文脈をコードし,そして誤った記憶を作り、真の記憶と誤った記憶の神経的、および行動的相互作用の研究を可能にした。記憶のエングラムを担う細胞の光遺伝学的再活性化により,特定記憶の行動が呼び起こされたばかりでなく,光遺伝学的再活性化は連想記憶の形成に対する条件刺激としても作用した。(MY,KU)
【訳注】光遺伝学:遺伝子工学的手法により,特定の神経細胞を光感応性にし,そのオン・オフを光の照射で制御する技術
【訳注】エングラム(engram):完全に呼び起こすことが可能な脳に残された記憶の痕跡
Creating a False Memory in the Hippocampus

PTENの多様性(PTEN Variations)

腫瘍抑制遺伝子である、第10染色体ホスファターゼ・テンシン・ホモログの遺伝子産物(PTEN)は,脂質とタンパク質のホスファターゼ(リン酸エステル加水分解酵素)で,増殖,生存,代謝等の重要な細胞プロセスを担っている(LeslieとBruntonによる展望記事参照)。PTENは,ホスファチジルイノシトール3キナーゼ (PI3K)のシグナル伝達経路において役割を果たしていることでよく知られているが,PTENのタンパク質は核の中でも見つかっている。Bassiたちは (p. 395),核でのPTENタンパク質の存在が,SUMO化とリン酸化によるタンパク質の共有結合的修飾に応答して制御されていることを見出した。核のPTENが欠如している細胞は,DNA損傷への感受性が高まり,PI3K経路も抑止されている場合には細胞死に至った。Hopkinsたちは (p. 399, 6月6日発行電子版),ヒトPTENメッセンジャーRNAにおいてもう一つ別の翻訳開始部位を発見したが、それによりおよそ170の過剰なアミノ酸を持つタンパク質、PTEN-Longの発現が可能となった。この異常な酵素は細胞から遊離して,別の細胞に取り込まれた。マウス腫瘍モデルでは,この酵素が取り込まれることで,PI3K経路が抑止され,腫瘍増殖が抑制された。(MY,KU,kj)
【訳注】ホスファターゼ:リン酸モノエステルまたはポリリン酸化合物を加水分解するリン酸モノエステル加水分解酵素
【訳注】SUMO化:小さなタンパク質が,別のタンパク質に一時的に共有結合すること。これにより,結合されたタンパク質の機能発現が助けられる
Nuclear PTEN Controls DNA Repair and Sensitivity to Genotoxic Stress
A Secreted PTEN Phosphatase That Enters Cells to Alter Signaling and Survival

大昔の組織適合性に関する遺伝子(A Gene for Early Acceptance)

免疫系の基本的性質の一つは、自己と非自己の組織適合性を識別することである。組織適合性の進化と分子的基礎に関する洞察を得るために、Voskoboynikたち (p. 384)は、コロニー性の尾索動物であるホヤの一種、キクイタボヤ(Botryllus schlosseri)で生じる自然な移植反応に関する遺伝的基礎を調べた。組織適合性により、個体中での血管融合が可能であり、一方組織不適合性により炎症性の拒絶応答が生じる。単一の遺伝子がこの応答の結果を決めていた。より高等な生物における組織適合性遺伝子と同じように、この遺伝子は多形性であり、そして移植反応に関係する組織の中で発現する。(KU)
Identification of a Colonial Chordate Histocompatibility Gene

感染性の情報とは?(Infectious Information?)

ソーシャルネットワークにおいて個人がいかなる行動をするか、に関する最近の研究の多くは、免疫学で開発された確証された感受性、感染性、回復モデルに依存している。しかしながら、情報は一つの点で病気と異なる、即ち、個人は情報を得るが、それを用いない(あるいは、それに「感染」したまま)かもしれない。Banerjeeたち (1236498)は、南インドのカルナタカにおける43の村で(低所得者向けの)小口金融サービスに関する情報の拡がりとその採用を調べた。小口金融サービスを受け入れた人は、受け入れなかった人よりもそれに関する情報を他に伝える傾向が強く、そして新しい評価基準、すなわち情報を知る最初の人間が情報拡散の中心にあるか否かが、いかに広く、かつ急速に他人がその情報を利用するようになるかを予想させるものであった。(KU,ok,kj)
The Diffusion of Microfinance

mTORCにはしない(Not mTORCing)

タンパク質キナーゼ複合体 mTORC1(mechanistic Target Of Rapamycin Complex 1)の抑制は、癌の抑制や長寿命化等の可能性を秘めた有益な治療効果をもたらす。しかしながら、生体内におけるその抑制効果は、ときどき期待はずれの結果になっていた。一つの理由は、良く研究された mTORC1阻害剤であるラパマイシンが mTORC1の幾つかの効果を抑制するが、その他の効果を抑制しないからであろう。この想定に基づいて、Kangたち (1236566)は、ラパマイシンの効果が基質に依存していることを示している。多様な基質に存在するリン酸化部位の特性により、その基質が mTORC1によって異なる効率でリン酸化された。最も効率的にリン酸化された基質は、mTORC1の抑制を阻止した。その結果は、多様な部位が、時には同じタンパク質内でも、どれほどラパマイシンへの感受性を変え得るかを説明している。(hk,KU,kj)
mTORC1 Phosphorylation Sites Encode Their Sensitivity to Starvation and Rapamycin

秩序、秩序(Order, Order)

短距離秩序を有する一方で長距離秩序を持たないと考えられている、ガラス状物質の構造は未だに解明されていない。いくつかのガラス状物質は並進周期性を持たない正20面体秩序を示すというのが最新理論の一つである。Hirata等は(p. 376, 7月11日号電子版)、サブナノメーター容積の金属ガラスからの回折パターンを得て、すべてではないがある割合は期待通りの正20面体特性を示したことを報告している。面心立方構造を含むために歪んだ正20面体から得られるパターンであることが、シミュレーションから示唆された。この結果は分子動力学シミュレーションから得られるものとは異なり、適度に巨視的な長距離秩序と適度に局所的な短距離秩序形成の間の競合に関する重要な情報をもたらすと期待される。(NK,KU,ok,kj)
Geometric Frustration of Icosahedron in Metallic Glasses

FtsZの中に(In a FtsZ)

FtsZというのは、細菌の分裂部位で原繊維に重合するグアノシン三リン酸 (GTP)分解酵素である。FtsZは隔膜へアクセサリ分裂タンパク質を補充し、また、膜を圧縮して、細胞の幅を小さくするのに必要な機械的な力を提供する。しかしながら、FtsZがいかにして機械的な力を生み出しているかは分かっていない。よく知られた一つのモデルは、機械的な力が、GTP分解酵素の加水分解によって引き起こされる FtsZ構造の変化によって生み出されると示唆しているが、ヌクレオチド依存的な構造転位は、FtsZの単量体構造ではまだ観察されていない。そうした転位は、自然の原繊維形成状態においてのみ見られるFtsZの特性であろう。Liたちは、この疑問を、グアノシン二リン酸に結合したFtsZの繊維の高解像度での構造を得ることで解決しようと試みた(p. 392)。その結果が示唆するのは、加水分解サイクルの際に、個々の単量体の構造上の完全性を維持しながら、細胞質分裂を駆動する力を生み出せるほどの高度の可塑性を備えた、複雑で動的なFtsZ原繊維ネットワークの存在であった。(KF,KU,ok,kj)
【訳注】隔膜(septum):細菌が細胞分裂する際に娘細胞の間で生じる膜
FtsZ Protofilaments Use a Hinge-Opening Mechanism for Constrictive Force Generation

「私を食べて」のシグナルはどこから?(Whence the “Eat Me” Signal?)

細胞は脂質二重層によって囲まれているが、その脂質二重層は組織が非対称であって、細胞の生理的状態のマーカーとして働いている。リン脂質であるホスファチジルセリン (PtdSer)は、通常は膜の内側の小葉においてのみ発見されるが、死にゆく細胞においては、それは細胞表面に現われ、貪食細胞に、細胞死になる細胞だとわかるようにして、細胞のデブリを清掃する仕事を提供することになる。膜内でのリン脂質のそうした移動には、スクランブラーゼとして知られる、謎の酵素が必要である。Suzukiたちは、Xkr8という酵素を同定したが、それは瀕死の哺乳類細胞の表面上での PtdSerの曝露を促進するスクランブラーゼとして作用しているらしい(p. 403, 7月11日号電子版)。そうした役割にぴったりのこととして、Xkr8は、アポトーシス細胞死を促進する鍵となるタンパク質分解酵素、カスパーゼ3による切断の後で活性化された。線虫で発現した Xkr8の相同体を用いた遺伝的研究では、そのタンパク質が、発生の際の線虫における死細胞にタグをつけるという同様の役割を果たしていることを示したのである。(KF,KU,ok,kj)
【訳注】デブリ(debris):破壊されたものの残骸、破片のこと
Xk-Related Protein 8 and CED-8 Promote Phosphatidylserine Exposure in Apoptotic Cells

H7N9の順応(H7N9 Adaptation)

低病原性トリインフルエンザウイルスの人への感染が2013年初めに激増したという、不可解かつ驚くべき報告は、中国中央東部の家禽産業を揺り動かし、人への大流行が引き起こされることへの恐怖をもたらした。人での症例の報告があった近辺の家禽市場が閉鎖されるまで、130件を越える人での事例が、37件の死とともに報告された。2013年4月の間に得られた、1万件の個別の調査サンプリングから、Zhangたちは、37件のトリ起源の H7N9を単離し、それらをヒトから単離した H7N9と比較した(p. 410, 7月18日号電子版)。単離された H7N9の大部分は、生きた家禽の市場に由来するものだったが、いくつかはハトに起源をもつものだった。配列解析によって、ニワトリから単離されたものは、PB2のインフルエンザ遺伝子の部位および、従来適応性の変異が観察された表面赤血球凝集素 HAの部位に、トリの特徴を保持していたことが示された。配列解析はまた、HAやノイラミニダーゼノルアドレナリンにおいてよりも、内部遺伝子に高い可変性が見られたことを明らかにした。グリカン(多糖)のアレイ(配列解析)を用いて、トリとヒトから単離されたものはヒトの受容体に結合したが、またある程度トリの受容体にも結合することが示された。期待されたように、このウイルスはニワトリにおいて病気を引き起こすことなしに、うまく複製されるが、一方、ヒトから単離されたものは、マウスにおいてのみ、高い病原性を示した。トリのウイルスではなく、ヒトのウイルスが、空気を介して、イタチの間で、伝播したのである。(KF,ok)
H7N9 Influenza Viruses Are Transmissible in Ferrets by Respiratory Droplet
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