AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 19 2013, Vol.341


より強い磁気抵抗効果(More Magnetoresistance)

あなたのコンピュータのハードディスクドライブからデータが読み取られるとき、読み取りヘッドはディスク上のデータの磁気的情報を解読するために、磁気抵抗(MR)-電気抵抗の外部磁場への依存性-の現象を用いることになる。そのような作業を行うのに必要な大きなMRを有するデバイスは、通常、磁性材料の層からできている。Mahatoたちは(p. 257, 7月4日号電子版)、ゼオライト結晶中に詰め込まれた有機分子からなる非磁性材料において、大きなMR効果を観察した。その効果は室温かつ弱い磁場中で観察された。これは、将来の応用の可能性にとって重要な点である。(Sk)
Ultrahigh Magnetoresistance at Room Temperature in Molecular Wires

降着に類似(Accretion Analog)

星周円盤から若い星の表面への質量流は、星の形成の最終段階で重要な役割を果たしているが、この複雑なプロセスの詳細はよく分かっていない。Reale たちは(p. 251, 6月20日号電子版)、太陽表面での明るいプラズマ衝突を引き起こす太陽フレアを分析した。数値シミュレーションの結果は、これらの事象が星への物質の降着と類似のものと考えられ、星への降着を理解するために応用することが可能であることを示唆している。(Sk)
Bright Hot Impacts by Erupted Fragments Falling Back on the Sun: A Template for Stellar Accretion

キュリオシティーからの火星の大気(Mars' Atmosphere from Curiosity)

火星探査機キュリオシティーローバーは、昨年の8月に火星に着陸したのだが、これに搭載された Sample Analysis at Mars (SAM) と名づけられた計測器は、火星大気の化学組成、および、同位体組成を調べるために設計されたものである。Mahaffyたち (p. 263) は、2012年の8月31日から11月21日の間に SAM 計測器のひとつから得られたデータに基づいて、火星の5つの主要な大気の構成要素(CO2, Ar, N2, O2, and CO)の体積混合率と40Ar/36Arと CO2中の CとO の同位体測定結果を与えている。Websterたち (p.260) は、もうひとつの SAM 計測器からのほぼ同期間のデータを用いて、大気の CO2 と H20 中の H, C, O の同位体比を決定している。SAM によって測定された同位体比と、地球上の実験室で測定された火星からの隕石の同位体比の間に一致が見られることは、これらの隕石の起源を追認するものである。そして、現在の大気中のCO2と H2O の貯蔵源は主に、およそ40億年前の初期の大気喪失の時期の後にできたことを示している。(Wt,KU,nk,kj)
Abundance and Isotopic Composition of Gases in the Martian Atmosphere from the Curiosity Rover
Isotope Ratios of H, C, and O in CO2 and H2O of the Martian Atmosphere

大規模な融解(Major Meltdown)

南極を取り囲む氷棚や氷舌は、ほぼグリーンランドの全氷床の面積である150万平行キロメートルを超える範囲を覆っている。従来の知見によれば、南極の周囲の氷棚はその殆どが氷山分離によって、その質量を失っていると考えられていたが、近年、温暖化しつつある海洋による融解もまた、重要であることが徐々に明らかになってきた。Rignotたちは(p. 266, 6月13日号電子版)、全南極大陸の周囲の氷棚の融解に関する詳細な氷河学的推定結果について示しており、それによれば、基底部の融解は氷山分離と同じくらいの質量の損失に相当している。(Uc)
【訳注】氷舌(ice tongues):海岸線から舌状に突き出た狭く長い氷のシート
Ice-Shelf Melting Around Antarctica

古代の戦士,あるいは殺人者?(Ancient Warriors or Murderers?)

恐らく人類の出現まで遡る時代から,ヒトは戦争を好むと言われる一方,そのような古い時代の争いは証拠不足であるとも言われている。非定住採集民を初期の人類のモデルと考えて観察し、彼らの間で争いの可能性がどのくらいの規模になるかを調べた過去の研究から,戦争は我々人間そのものに根差しているものとされた。しかしながら,FryとSoderbergは (p. 270),採集民に関する行動調査の主要なデータファイルである、異文化に関する標準データ(standard cross-cultural sample)を再検討し,大規模な衝突や紛争の証拠はほとんどないことを見出した。代わりに,これらの社会では,死に至るような攻撃性とは,主として,多くの要因によりもたらされる個人や家族のレベルでの殺し合いであった。(MY,KU,nk)
Lethal Aggression in Mobile Forager Bands and Implications for the Origins of War

肥満へのアクセサリー?(Accessory to Obesity?)

メラノコルチン受容体は多様な生理機能を制御している細胞膜レセプターのファミリーである。メラノコルチン4受容体(MC4R)をコードしている遺伝子が変異すると,家族性肥満が早期に引き起こされる。Asaiたちは (p. 275),MC4Rシグナル伝達に対するアクセサリータンパク質 MRAP2の機能を調べ,遺伝的にMRAP2が欠損しているマウスでは,ひどい肥満が生じることを見出した。相互に無関係な、ひどく肥満している複数の人間のMRAP2を配列決定した結果,明らかな欠陥を示す遺伝子変異体を持つ人が一人見つかった。これから,MRAP2の変異もまた,人間の肥満に対しては,まれな原因となりうることが示唆された。ゼブラフィッシュモデルの中で,Sebagたちは (p. 278),MRAP2アクセサリータンパク質の2つのパラログ遺伝子(ゲノム内の複製で生じて遺伝子)を調べた。その1つは,摂取と成長を制御するαメラノサイト刺激ホルモンに対するMC4Rの応答性を向上させていた。(MY,nk,kj)
Loss of Function of the Melanocortin 2 Receptor Accessory Protein 2 Is Associated with Mammalian Obesity
Developmental Control of the Melanocortin-4 Receptor by MRAP2 Proteins in Zebrafish

カエルの求愛(Romancing the Frog)

トゥンガラガエルでは,通常,雌の気を引くのに,鳴き声と見た目の魅力は一緒には使われない。今回,TaylorとRyan (p. 273, 6月6日号電子版)は,雌のカエルに対して,単独で使われた場合には雌の気を引くことにはならないが,2つのシグナルが,一緒に使われた場合には大きな魅力を発揮することを明らかにしている。知覚的救済(perceptual rescue)の一種として,単独では気が誘われないシグナルが,独特の2つのシグナルの組み合わせになると,受け手の気をより引くようになっている。(MY,KU,nk)
【訳注】トゥンガラガエル(tungara frog):中南米に分布し、手足に水かきがなく、独特の鳴き声を出す
Interactions of Multisensory Components Perceptually Rescue Tungara Frog Mating Signals

傷治癒での幹細胞(Stem Cells in Wound Healing)

過剰の幹細胞(SCs)は癌のリスクを高める可能性があるが,組織の修復と再生の促進には,少なくとも一時的には,幹細胞が増えることが望ましい。Fuchsたちは (p. 286, 6月20日発行電子版),アポトーシス促進性 Sept4/ARTS遺伝子の欠乏したマウスでは,アポトーシス抵抗性毛包幹細胞が増え,劇的に治癒と再生が高められることを見出した。ARTSのアポトーシス促進への直接標的であるカスパーゼ阻害剤 XIAPを不活性化すると,これらの表現型が抑止され,傷治癒性が弱められた。(MY)
Sept4/ARTS Regulates Stem Cell Apoptosis and Skin Regeneration

水素を解放する(Setting Hydrogen Free)

有機化合物の酸化反応は元来、水素原子が分子骨格から酸素分子、過酸化物、金属酸化物錯体といった酸化剤に移動する過程と考えられていた。Gunanathan と Milstein (1229712)は、ある触媒において水素が水素分子の形で離脱する別の反応に関する最新の研究動向について述べている。これらアクセプターを必要としない脱水素反応は、廃棄物削減の観点から魅力的である。ある反応系では、発生した水素ガスを積極的に反応系から分離・回収され、別途利用できるという。また別の反応系では、原料分子が水素の無い中間変換を経過した後に、再びそこへ水素原子が取り込まれる。(NK,KU,nk)
Applications of Acceptorless Dehydrogenation and Related Transformations in Chemical Synthesis

磁場による自己組織化(Magnetic Self-Assembly)

自己組織化の際に、物体はより大きな整列されたパターンへと自然に組織化する。例えば、それはブロック共重合体の相分離やエレクトロニクスにおけるマイクロサイズの物体や部品の組み立てにおいて観察される。ダイナミックな自己組織化において、整列されたパターンは外部エネルギー源を必要とするが、それでも組織化の進行は系内部の固有の相互作用が原因である。Timonenたち(p. 253; Hermansたちによる展望記事参照)は、低摩擦の表面上で磁性流体の形状における磁性液滴の組織化について研究した。時変磁場により、静的に整列した液滴が動的なパターンへと転換した。(hk,KU,nk)
Switchable Static and Dynamic Self-Assembly of Magnetic Droplets on Superhydrophobic Surfaces

翻訳の減少の感知(Sensing Reduced Translation)

腫瘍細胞において、代謝経路と、腫瘍の増殖を可能にする細胞生存プログラムとの相互作用は、あまりよく分かっていない。しかし、そこでは。熱ショック因子1 (HSF1)は、発癌に関与する、予想外に多様な転写ネットワークを調整している。 Santagataたちは、腫瘍細胞において、翻訳の減少を、細胞の代謝状態の感知と、転写の制御に用いること、特にHSF1を不活性化することでその標的に結果的に影響できること、を発見した(1238303; またGandinとTopisirovicの展望記事参照)。この転写ネットワークに影響した小分子薬剤は、培養中の形質転換された細胞と動物の腫瘍モデルの増殖を抑制することができた。(KF,KU,kj)
Tight Coordination of Protein Translation and HSF1 Activation Supports the Anabolic Malignant State

ゼウスの復讐(Zeus' Revenge)

堆積層に棲みついているアメーバは、巨大ウイルスに対する不幸な親和性を備えているらしい。1メガ塩基(Mb)オーダーのゲノムをもつ巨大な正二十面体のミミウイルス(アカントアメーバ・クズリ・ミミウイルス)は、最初にアカントアメーバで同定された。対蹠地(antipodean:チリ中部の海岸とオーストラリア・メルボルンの淡水湖)での堆積層を掘ることによって、再度実りある成果が得られた。 Philippeたちは、アカントアメーバ中に、光学顕微法で見ることができ、2.5 Mbに達するゲノムを持つ幾つかの極めて大きなウイルスを発見した(p. 281; また表紙参照)。このパンドラウイルス(Pandoraviruses)は、標的細胞によって貪食され、食胞膜と融合した後、その内容物は細胞質中に放出されるが、そこではその核に対しておそるべき危害を与える。こうしたウイルスは、覆い様の外被に包まれ、カプシドタンパク質のための遺伝子を欠き、タンパク質翻訳やアデノシン三リン酸の産生、あるいはバイナリー分裂のための遺伝子をもたないことで、確かにウイルスとして分類されるのである。(KF,KU,kj)
【訳注】バイナリー分裂(binary fission):細菌等の単細胞生物は細胞分裂において同じ大きさの2つの娘細胞に分裂すること。
Pandoraviruses: Amoeba Viruses with Genomes Up to 2.5 Mb Reaching That of Parasitic Eukaryotes

背景絶滅(Background Extinction)

多様性は、種の発生と絶滅の双方のプロセスを通じて起こった結果である。しかしながら、背景絶滅は絶滅した分類群(taxa)の絶対数の観点からはより大きな喪失であるという事実にも関わらず、絶滅に関する研究は、大量絶滅の方に焦点を当てがちである。この背景絶滅の速度に影響を与える因子を明確にする目的で、QuentalとMarshallは (p. 290,6月20日号電子版)、19の哺乳類のクレードの進化のダイナミクスについて調査を行い、生物群の間での拡大と衰亡の速度を、ランダムなプロセスを仮定した有り得べきモデルと比較した。殆どのクレードは、「加速させられた」状態、すなわちランダムな偶然のみで予測されるよりも早いスピードで、絶滅に向かっているのだ。(Uc,KU,kj)
【訳注】
・背景絶滅(Background Extinction):適者生存により種間の競合が生じた結果、その種が子孫を残すことなく生じた絶滅の様式のこと、大量絶滅に対比される小規模の絶滅
・クレード:共通の祖先から進化した生物群
How the Red Queen Drives Terrestrial Mammals to Extinction

生命のテープを再生する(Playing the Tape of Life)

生命のテープを再生したとしたら、同じ音楽が聞こえてくるだろうか? 影響力ある多くの進化生物学者、特にStephen J. Gouldなどは、その答えは「否」だと主張してきた。しかしながら、さまざまの種が世界中の似たようなニッチを満たす際の収束のパターンは、答えはそんなに単純でもなければ、そう否定的なものでもないことを主張するものだった。オーストラリア大陸の有袋類やアフリカ地溝湖のカワスズメ(cichlid)などにみられる、収束の古典的ケースは、類似した生態学的圧力が類似した生態学的形質という結果をもたらしうることを実証してきた。そうした古典的事例は、しかしながら、ニッチを満たすのが純粋に偶然の影響によることを許していない。Mahlerたちは、よく研究された、カリブの樹上性食虫性小型トカゲ類の種クレードを利用して、種や島を越えてのニッチ充填と適応のパターンを検討した(p. 292)。少数の異なった順応性ピーク(すなわちニッチ)における島を越えての収束が、種の多様化を促進してきた。それら生態型の異常は、最も大きく、最も多様性のある島々でのみ発見される。つまり、生態学的ニッチは強力に複数の種を形成するし、特定の形態への収束こそが、適応というものに固有の要素なのである。つまるところ、生命のテープは、異なる楽器によって生み出されるのではあるけれど、同じ音楽を演奏するのである。(KF)
【訳注】
・クレード:共通の祖先から進化した生物種群
Exceptional Convergence on the Macroevolutionary Landscape in Island Lizard Radiations

ジゴキシンの危機(Digoxin Dangers)

心機能異常に対処するために用いられる強心配糖体、ジゴキシンで処置される患者の一部は、不活性の代謝産物ジヒドロジゴキシン(dihydrodigoxin)を産生し、有効性が乏しい結果となる。Haiserたちは、この化学変化の原因となりうる潜在的犯人であるアクチノバクテリウム、Eggerthella lentaを検討し、微生物叢-ジゴキシン間の相互作用を探究した(p. 295)。 微生物の増殖はアルギニンによって促進され、発現差異解析によって、低アルギニン条件下で、ジゴキシンによって誘発された2遺伝子の強心配糖体還元酵素(cgr)オペロンの存在が明らかになった。E. lenta のすべての系統がジゴキシンを還元できたのではなく、健康な人の糞便試料をテストすると、ジゴキシン不活性化は人により様々なレベルであることが検出された。E. lenta のジゴキシン還元系統を、高タンパク(すなわち高アルギニン)食餌を与えられていた無菌マウスに与えると、血清中でのジゴキシンレベルは高いままに留まり、薬剤不活性化は抑制されたのである。(KF,nk)
Predicting and Manipulating Cardiac Drug Inactivation by the Human Gut Bacterium Eggerthella lenta
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