AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 5 2013, Vol.341


脳発生における遺伝的モザイク(Genetic Mosaicism in Brain Development)

遺伝子配列決定技術やゲノム技術において利用可能な知力が増加したことで,一つの生体の中でも個々の細胞レベルでゲノムが互いに相異なり得るとの理解が進んでいる。Poduriたちは (10.1126/science.1237758),親世代の生殖系列、或いは子世代の発生過程で生じる新規な変異により,種々の神経発達障害がどのように引き起こされるのかについてレビューしている。(MY,ok,nk)
Somatic Mutation, Genomic Variation, and Neurological Disease

冷たい降着物(Cool Accretion)

数値モデルの予想によれば、星を作り続けるために、銀河は絶えず銀河間物質からガスを補充し続けなければならない。チリにある超大型望遠鏡VLT のデータを用いて、Bouche たちは(p. 50)、宇宙の星生成活動がピークであった時代の星を活発に生成していた銀河で、冷たく化学的に原始組成のガスが降着していると解釈して矛盾がないという観測結果を報告している。(Sk,KU,ok,nk)
Signatures of Cool Gas Fueling a Star-Forming Galaxy at Redshift 2.3

歪のあるナノ粒子(Distorted Nanoparticle)

ナノ粒子は現代の科学技術分野において多くの応用が見いだされている。しかしながら、個々の粒子の完全な特性解明は、挑戦的な課題である。最も興味深い力学特性の一つは、格子の歪に対するナノ粒子の応答である。この特性はナノ粒子の集合体に対しては探究されていたが、ここで求められる平均化処理は、結末を歪曲する可能性がある。Clarkたち(p. 56, 5月23日の電子出版;Hartland と Loによる展望参照)は、ピコ秒スケールで起きる不規則性を含む金のナノ結晶粒子一個からのコヒーレントな音響フォノンの生成とこれに続く展開を映像化することができた。(hk,KU,ok,kj,nk)
Ultrafast Three-Dimensional Imaging of Lattice Dynamics in Individual Gold Nanocrystals

量子のキラル選択(Quantum Handedness)

回転している物体を渦流体に置くと、圧力差が生じるためにマグナス力と呼ばれる偏向力が働くことが知られている。量子力学でも同様の効果が、3Heの低温A相に現れることが予言され、そこでは超流動体を形成するクーパー対がある特定のキラル選択制を有する。そのような超流動体中を移動する不純物は、クーパー対のキラリティーに依存してある方向に偏向力を受けるという。Ikegamiらは(p.59)、3Heの自由表面下で不純物を捕捉し、移動させ、横方向流の差分から偏向力の存在を実証した。冷却過程毎に偏向力の符号が変化する現象が観測され、超流動相に変化するごとに系はどちらか一方のキラリティーを選択していることが示唆された。自発的対称性の破れの証拠といえる。(NK,kj)
Chiral Symmetry Breaking in Superfluid 3He-A

非古典的結論(A Nonclassical Conclusion)

価数という考えは周期律表の根幹をなしているが,構造よりは反応性の知識をもとにしている。それでも,20世紀半ばの研究で,過渡的なノルボルニルカチオン(C7H11+)では,炭素中心が五配位の構造式をとっているかのように反応することが示唆された時,この非古典的な構造仮説についての激しい論議が生じた。Scholzたちは(p. 62)今回,X線結晶解析によりノルボルニルカチオンのキャラクタライゼーションに成功し,5回転対称の構造式を確認した。(MY,ok,kj)
Crystal Structure Determination of the Nonclassical 2-Norbornyl Cation

継承する腸(Inheritance Guts)

ヒトの腸内の構成微生物叢(constituent microbiota)の安定性は、ほとんど分かっておらず、また腸微生物叢が長期間の健康管理にとってどの程度の可能性のあるターゲットなのかも分かっていない。Faithたち(10.1126/science.1237439)は、37名からの糞便微生物を分析し、平均的に菌種の60%は5年までは安定であり、そして多くは数10年間安定であると推定されることを見出した。(TO,KU)
The Long-Term Stability of the Human Gut Microbiota

女性の不妊(Female Infertility)

女性の卵巣から卵子放出の機能不全である無排卵は、女性の不妊の主要な原因である。排卵のメカニズムは、その制御において重要な役割を果たす視床下部下垂体軸(hypothalamicpituitary axis)について、広範囲に研究されてきた。Hasuwa たち(p. 71, 6月13日号電子版) は、脳下垂体において発現する2つのmicroRNAの破壊が原因となって無排卵を引き起こすメカニズムについて記述している。(TO)
MiR-200b and miR-429 Function in Mouse Ovulation and Are Essential for Female Fertility

この場所だ(This Is the Place)

コウモリ、ハチ、アザラシ、そして多くの海鳥は、ミツバチの巣箱やアザラシの集団繁殖地のような、中心となるホームサイトを離れて、特定の縄張りで採餌を行う、中心点採餌(central-place foraging)を行う。そのような種はまた共通の課題として、別の群居地からの個体とそこでの資源を競い合うという問題に対処しなければならない。人工衛星タグを用いて、Wakefield たちは(p. 68, 6月6日号電子版; Weimerskirchによる展望記事参照)は、180羽を越えるシロカツオドリ(northern gannets)を追跡し、採餌の縄張り分割の潜在的促進要因を決定した。群居地縄張りにおける境界は、他の縄張りからの個体との競争の結果として生じていた。同じ群居地からの個体は、採餌サイトに関する情報を共有しているようであり、そのことはおそらく特定の長期間の群居地縄張りの確立と維持に貢献している。(TO,KU,nk)
Space Partitioning Without Territoriality in Gannets

免疫療法の強烈なワン・ツーパンチ(Immunotherapy Packs a One-Two Punch)

免疫機構に関して最善の努力が払われてきたにもかかわらず、癌は常に一歩先を行っている。この一例としては、腫瘍細胞は自分たちの細胞表面にCD47を発現していることである。CD47は食作用のマクロファージに「私を食べてはいけない」というシグナルとして作用する。可能性のある治療方針の一つは、このシグナルをブロックすることであろう。Weiskopfたち (p. 88, 5月30日号電子版; Kershaw and Smythによる展望記事参照)は、CD47受容体であるSIRPαの変異体を作ったが、この変異体はCD47の高親和性の拮抗物質(阻害剤として作用する。この拮抗物質は腫瘍を持ったマウスにおいて効率的にCD47をブロックしたが、彼ら自身で腫瘍細胞を貪食するマクロファージを誘発することはなかった。しかしながら、多様な治療的抗腫瘍性抗体と組み合わせることで、CD47拮抗物質は幾つかのマウス腫瘍モデルの治療において非常に有効であった。(KU,ok)
Engineered SIRPα Variants as Immunotherapeutic Adjuvants to Anticancer Antibodies

土地利用の監視(Monitoring Land Use)

土地利用をどう行うかの決定は、ほぼ農業市場の価値に基づいて行われる。しかしながら、このような決定は、野生生物の生息地や憩いの場の提供等の生態系サービスを損なう可能性があり、その損失の大きさは、いかなる農業市場の利益をも凌駕するであろう。英国自然生態系評価( UK National Ecosystem Assessment)の一部を担う研究プロジェクトにおいて、Batemanたちは(p.45)これらの純損失の価値を評価した。自然環境の多様性や複雑性を認知する政策は、農業や温室効果ガス排出、保養地、野生種の生息地や多様性といった見地から土地利用を根本的に改善するために、様々な分野で変化を推進することができる。(Uc,KU,nk)
Bringing Ecosystem Services into Economic Decision-Making: Land Use in the United Kingdom

神秘的な電波バースト(Mysterious Radio Bursts)

これまでに観測されている、単独で存在し、短時間で明るい電波放射バーストの起源が、宇宙的なものか、地球的なものかは、はっきりしていなかった。Thornton たち(p. 53; Cordes による展望記事を参照のこと) は、オーストラリアの 64m Parkes 電場望遠鏡からのデータ中に、ミリ秒持続する4っの単発の過渡的な電波事象が検知されたことを報告している。これらの電波バーストの特性から見て、このバーストはわれわれの銀河系外に起源を有する。しかしながら、それが何に由来するかを示すことはできていない。銀河間物質は、そのバーストの特徴に影響を与えているため、そのバーストを銀河間物質の特性の研究に活用できる可能性がある。(Wt,nk)
A Population of Fast Radio Bursts at Cosmological Distances

初期の農夫?(Early Farmers?)

採集から農業への移行における、肥沃な三日月地帯東部(それはトルコ南東部、イラク北西部、イラン西部を含む)の役割は何だったのであろうか? Riehl たちは(p. 65; Willcox による展望記事参照)、2000年以上にわたり明らかにそこに人が住み続けて、採集から農業へ移行した痕跡が残っている、現代イランの Chogha Golan からの植物考古学的アセンブリッジを調査した。豊富な植物考古学的遺物は、重要な収穫用植物(小麦、大麦、大粒のマメ科植物)の祖先を含む、多岐にわたる植物種が利用されていたことを示している。このように肥沃な三日月地帯東部のの住人は、植物の管理や、ひょっとすると収穫用野生植物の栽培作物化にも携わっていたように思われる。(Sk,nk)
【訳注】アセンブリッジ:遺跡からの種々の遺物を分類し、その組合せを検討したもの
Emergence of Agriculture in the Foothills of the Zagros Mountains of Iran

RGMタンパク質(RGM Proteins)

タンパク質の反発的ガイダンス分子(RGM)ファミリーのメンバーは細胞表面に分泌したり、或いは常在しており、そこで彼らは細胞表面の受容体であるネオゲニン(neogenin)に結合する。RGMタンパク質は、発生中のニューロンに対する軸索誘導におけるその役割から命名されているが、しかし彼らの機能はまた、炎症、多発性硬化症や癌等の一連のヒト疾患とも関係している。Bellたち(p. 77)は、ネオゲニンの幾つかの部分と一緒になったRGMBタンパク質の外側部分の結晶構造を解明した。その構造から、ネオゲニンとRGMBの二量体の相互作用が明らかになったが、リガンドの結合が構造変化を誘発し、受容体からの細胞内シグナル伝達を開始する。RGMタンパク質はタンパク質の分泌に影響を与える自己触媒的な切断部位を含んでおり、そしてRGMタンパク質におけるいくつかの病に関連した変異がこの部位に集中していた。(KU,nk)
Structure of the Repulsive Guidance Molecule (RGM)?Neogenin Signaling Hub

形と機能(Form and Function)

小胞体(ER)における酸化的タンパク質の折りたたみと組立て、その品質管理やストレス応答に対するジスルフィド結合の寄与は、広く認識されている。対照的に、ER下流でのジスルフィド結合形成の触媒作用についてはその効果が明確になっていない。ゴルジに局在化する、あるいはゴルジで分泌されるジスルフィド触媒である QSOXは1970年代に同定され、より最近になって多くの癌において上方制御されていることが明らかになってきた。しかしながら、QSOXの触媒活性の生理的重要性はずっと不明であった。Ilaniたちは、ヒトQSOX1がラミニンの細胞外基質への取り込みにとって必須であり、インテグリンによって仲介される細胞接着と細胞遊走を支えている基質のその能力に対して著明な効果を持っていることを発見した(p. 74, 5月23日号電子版)。(KF,KU,ok)
A Secreted Disulfide Catalyst Controls Extracellular Matrix Composition and Function

スプライソソームのヘリカーゼ(Spliceosome Helicase)

イントロンは、真核生物のメッセンジャーRNA前駆体からスプライソソームによって除去される。スプライソソームは、個々のスプライシング反応のプロセスのなかで構築され、そして解体される。その中で、RNA-タンパク質の再構築はRNAヘリカーゼによってなされるが、その活性は逐一密接に制御される必要がある。Mozaffari-Jovinたちは、Prp1スプライソソームのタンパク質の Jab1領域と複合体をなしている、ヒト Brrヘリカーゼの結晶構造を決定した(p. 80, 5月23日号電子版) 。Prp8 Jab1領域のC末端の尾部は、Brr2の RNA結合トンネルへと入り込み、RNAとトンネル内にある保存されたヘリカーゼモチーフとの相互作用を破壊している。Brr2の RNA結合および ATP分解酵素活性の時間的制御によって、スプライシング反応の際に必要となる構造の早期分解が回避されるらしい。(KF,KU,ok,kj)
Inhibition of RNA Helicase Brr2 by the C-Terminal Tail of the Spliceosomal Protein Prp8

薬物の標的(Drug Targeting)

薬剤の有効性は、細胞標的(多くはタンパク質)への結合の程度に依存している。標的へ過剰に結合したり、あるいは標的以外へ結合して引き起こされる逆効果をもある。細胞内の標的タンパク質の結合は、有効薬剤濃度とタンパク質構造を制御する因子とによって影響を受けており、それが試験管内での親和性研究に基づく有効性の予測を困難にしている。Martinez Molinaたちは、薬剤結合によって生じるタンパク質の熱安定性の変化を利用して、直接的に細胞における標的タンパク質と薬剤の相互作用をモニターした(p. 84)。この方法は、癌細胞およびマウスの肝臓と腎臓において、薬物と標的の結合をモニターするのに用いられた。(KF,ok,kj,nk)
Monitoring Drug Target Engagement in Cells and Tissues Using the Cellular Thermal Shift Assay
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