AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 24 2013, Vol.340


生命 V.S. 火山 (Life Versus the Volcanoes)

隕石の衝突や巨大火山噴火の発生時期を地質学的記録の中で正確に決めることは非常に難しく、大量絶滅をそれら引き金となる特定の事象と関連付ける際のあいまいさの原因になっている。Blackburnたち(p. 941, 3月21日号電子版)は、北アメリカとモロッコで収集された岩石サンプルに基づき、三畳紀とジュラ紀の間の2億100万年前に発生した大量絶滅付近の事象に関する正確な年代を求めた。海洋や陸上の化石が消滅している時期と、中央大西洋マグマ分布域の連続した噴出の地球化学的証拠とは、強い因果関係を示している。(TO,KU,tk,ok,nk)
Zircon U-Pb Geochronology Links the End-Triassic Extinction with the Central Atlantic Magmatic Province

ヘキサンを分ける(Telling Hexanes Apart)

今日の内燃エンジンの効率は、燃料を構成する炭化水素の相対的反応性に依存している。特に、枝分かれした炭化水素は、直鎖型よりも,すぐには反応しにくく、この特性が混合燃料のオクタン価に反映されている。Hermたちは(p. 960)、三角形の孔管を有する有機金属骨格材料について報告している。ゼオライト等の上市されているものに比べて、枝分かれした異なる形状を持つヘキサン異性体をより精密に分離できるという。(NK,KU,ok,kj)
Separation of Hexane Isomers in a Metal-Organic Framework with Triangular Channels

よりよき測定を目指して(3.For Good Measure)

SS Cygni は、北方の星座である白鳥座(Cygnus)のなかにある、これまで十分に研究されてきた連星系である。その系は白色矮星と伴星とからなり、白色矮星には伴星からの物質が降着している。Miller-Jones たち (p. 950; Schreiber による展望記事を参照のこと) は電波望遠鏡を用い、モデルに依存しない方法でこの系までの距離を導き出した。ちなみに、この SS Cygni の系は、降着を伴う白色矮星系の原型となるものである。その測定結果によると、この系までの距離は従来測定されたものよりも遥かにより接近しており、そしてSS Cygni の観測された特性は、われわれの降着理論に関する理解と一致していた。(Wt,KU,nk)
An Accurate Geometric Distance to the Compact Binary SS Cygni Vindicates Accretion Disc Theory

微妙に触れる(A Touchy Subject)

水で満たされたグラスをこぼさずに持つことが出来るのは,我々に備わっている,対象物に触れ,加えるべき圧力を正確に知る能力のおかげである。それゆえ,ロボット工学や人工皮膚作りにとっては,微細な圧力検知の手法が必要とされる。Wuたちは,酸化亜鉛ナノワイア配列に基づいた,曲げられたときに圧力信号に変換しうる微小電圧が発生するデバイスを作った(p. 952, 4月25日発行電子版)。このデバイスは,30キロパスカルまでの圧力検知幅を有し,これは,ヒトの指が持つ10から40キロパスカルと同等である。(MY,KU,nk)
Taxel-Addressable Matrix of Vertical-Nanowire Piezotronic Transistors for Active and Adaptive Tactile Imaging

かゆみのマスタースウィツチは?(The Master Switch for Itch?)

最近、ガストリン-放出ペプチド(GRP)が、脊髄におけるかゆみ-感受性の神経線維と下流のニューロンとの間の一次神経伝達物質ではないかと示唆されてきた。しかしながら、Mishra と Hoon (p. 968)はこの見解に挑戦し、ナトリウム利尿性ポリペプチド b (natriuretic polypeptide:Nppb)が、主要なかゆみの神経伝達物質であるという証拠を与えており、そしてGRPは、Nppb受容体を発現し、Nppbによって活性化される脊髄後角における二次的ニューロンによって放出されることを示唆している。(KU,nk,ok)
【訳注】ガストリン:胃の幽門部粘膜にあって胃液分泌を促す消化管ホルモンの一つ
The Cells and Circuitry for Itch Responses in Mice

説明された脾臓のノックアウト(Spleen Knockout Explained)

孤立性先天性無脾症 (Isolated congenital asplenia:ICA)は、まれな障害で、その患者たちは無脾臓で生まれ、細菌感染の危険は高いが、他の発生異常は無い。家族性と孤発性の発症患者の配列解析から、Bolzeたち(p. 976, 4月11日号電子版)は、ICA患者がリボソームタンパク質 SAをコードしている遺伝子に変異を有しており、結果としてこのタンパク質が正常な量の半分しか発現していないことを見いだした。ハウスキーピング タンパク質発現の減少が臓器特異的欠損をどのようにして引き起こすかというメカニズムは不明である。(KU,kj)
Ribosomal Protein SA Haploinsufficiency in Humans with Isolated Congenital Asplenia

あまりにも緩慢に折りたたみすると、出ていくよ(Folding Too Slow, Off You Go) |

シャペロン-アシストタンパク質フォールディング経路の主要な疑問の一つは、折り畳みに失敗した基質が、どのようにして無益な折り畳みサイクルを回避するかということである。Xuたち(p.978, Kleizen and Braakmanによる展望記事参照)は、折り畳む能力がありながら小胞体内で折り畳みに失敗したタンパク質を調べるためのモデルを展開した。これらの環境下で、折り畳まれていないタンパク質は異常な糖鎖付加、O-マンノシル化を受けやすく、これが未完成の分子の折り畳みを終結させるらしい。O-マンノシル化を除去すると、タンパク質は完全に折り畳むことが可能となった。(KU)
【訳注】シャペロンタンパク質:タンパク質や核酸の折り畳みを補助するタンパク質の総称
Futile Protein Folding Cycles in the ER Are Terminated by the Unfolded Protein O-Mannosylation Pathway

マラリアのスパイ活劇(Malaria Cloak and Dagger)

蚊は、効果的な抗寄生虫応答を行う複雑な免疫系を持っているが、しかしながらマラリアの感染力はまだ高い。Molina-Cruzたち (p. 984, 5月9日号電子版; Philip と Watersによる展望記事参照)は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)が原虫の虫様体(ookinetes:オーキネート)を蚊の免疫系から隠すことができる、遺伝子産物、Pfs47を持っていることを示している。このメカニズムを破壊すれば、もしかするとマラリア感染を止めるのに役立つかもしれない。(TO,KU,nk,ok)
The Human Malaria Parasite Pfs47 Gene Mediates Evasion of the Mosquito Immune System

張力を検知する(Sensing Tension)

多くの細胞プロセスは力学的シグナルによって制御されている。単一分子力の分光法が、分子のアンフォールディングや結合解除を測定するのに用いられてきたが、しかしながらシグナル伝達を活性化するに必要な一個の分子の力を測定するのは困難である。Wang と Ha (p. 991)は、一個の受容体・リガンド結合にかかる力を測定するための「張力測定テーザー(Tension Gauge Tether)」法に関して記述している。様々な張力の許容範囲を持つつなぎ紐(tether)を用い、活性化をモニターすることで、シグナル伝達を活性化するに必要な力が測定可能になった。(KU,nk,ok)
Defining Single Molecular Forces Required to Activate Integrin and Notch Signaling

糖の嫌悪(Sugar Aversion)

ドイツゴキブリの集団のいくつかが、毒性の罠に餌として用いられるグルコースを嫌悪するようになってきていて、これが罠の効果をひどく減少させている。Wada-Katsumataたちは、この嫌悪が末梢性の味覚系における変化の結果であること、そこではグルコースが、「甘さ」の受容体だけでなく、嫌悪するような苦い化合物の受容体をも刺激していたことを明らかにしている(p. 972; また表紙参照)。(KF,kj)
Changes in Taste Neurons Support the Emergence of an Adaptive Behavior in Cockroaches

サイトメガウイルスはすべてのルールをルールを破る(CMV Breaks All the Rules)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対して探求されてきたワクチン戦略の一つは、体液性の免疫応答ではなく、細胞性の応答に依存した防御を作り出すことである。サル免疫不全ウイルス (SIV)抗原を発現する、サイトメガロウイルス (CMV)ベクター化ワクチンは、ワクチン接種されたアカゲザルの約半数において、SIVの投与に対して、緊縮性(ストリンジェント)と持続性のウイルス制御を示した。Hansenたちは、その防御の基盤を決定しようと探求し、ワクチン接種されたサルにおけるCD8+ T細胞応答が、SIVに逃げられてしまうような従来型のSIVの抗原決定基を標的にせず、幅広い、無差別な応答を生み出すことを発見した(10.1126/science.1237874, またGoonetillekeとMcMichaelによる展望記事参照)。(KF,kj)
Cytomegalovirus Vectors Violate CD8+ T Cell Epitope Recognition Paradigms

クエルカヤ氷冠(Quelccaya Ice Cap)

グリーンランドや南極の氷床で掘削された氷床コアは、高緯度地域の古気候に関する最も重要な情報源の一つである。しかしながら、対応する熱帯地方における記録は稀であるが、それは長期間維持され、静止した不動の氷が発見される場所が非常に少ないからである。Thompsonたちは(p. 945, 4月4日号電子版)、このような数少ないサイトの一つである、ペルーのアンデス山脈のクエルカヤ氷冠で得られた結果を報告している。1800年前に遡る1年ごとのデータによって、氷の酸素同位体組成の変化の詳細な年代記が得られた。この組成比は水の供給源である海水面温度に関連づけられた。アンモニアや硝酸塩のような主なイオンの収集データの分析により、この地域における大気循環がこの期間にどのように変化したかが明らかにされている。最後に、近年の氷床後退によって露出した古代植物の放射性炭素量から、クエルカヤ氷冠は少なくとも6000年の間は現在ほど小さくはなかったことが示された。(Uc,KU,nk,kj)
Annually Resolved Ice Core Records of Tropical Climate Variability over the Past ~1800 Years

不純物の力(The Strength of Impurities)

材料が示す(理論的というよりは)実際的な強度は,結晶ドメイン間に欠陥が存在することや不純物が含まれることによって左右される。速度障壁により,不純物が整列する程度が制限される可能性はあるが,幾つかのケースでは,不純物原子がドメインの境界に偏析して,相乗効果が生じる。Nieたちは,マグネシウム合金中の整合した双晶境界で,普通より大きいサイズと小さいサイズの溶質分子の偏析を明らかにしている(p. 957)。ひずみエネルギーの極小化により,異なるサイズの不純物が異なる双晶境界に移送され,材料の強度を高めている。(MY,KU,ok,kj)
Periodic Segregation of Solute Atoms in Fully Coherent Twin Boundaries

金属酸化物ナノ粒子の中空化(Hollowing Out Metal Oxide Nanoparticles)

腐食は,通常,困った問題であるが,有用にもなりうる。例えば,中空状の金属ナノ粒子を作りたい場合である。この場合,液中で1つの金属種が還元されることにより,粒子の中心部が溶かし出されるのである。Ohたちは,この方法を金属酸化物ナノ粒子に対して適用し,Fe2+イオンを含む溶液にMn3O4ナノ結晶を入れた(p. 964: IbanezとCabotによる展望記事参照)。Fe2+イオンは,ナノ結晶の外側をγ-Fe2O3に置換する。Fe2+が十分に高濃度の場合,中空状のγ-Fe2O3ナノケージが形成された。これらの中空構造はリチウムイオン電池の負極用材料に用いることができるかもしれない。(MY)
Galvanic Replacement Reactions in Metal Oxide Nanocrystals

協調を保つ(Keeping Coordinated)

細胞が分裂する前に、細胞はそのゲノムを複製して、2つの娘細胞の両方が親のDNAのコピーを1つ受け取ることができるようにしないといけない。複製はしっかりと制御され、ゲノムは一度だけ複製されないといけないが、それは、複製の過剰あるいは不足が、ゲノム不安定性の原因となる異常をもたらしかねないからである。つまり、複製は、細胞周期やDNA損傷応答系などの細胞内での他の事象と協調していないといけない。Boos et たち (p. 981)は、サイクリン依存性キナーゼとDNA損傷 チェックポイントによって制御される必須のDNA複製因子である、Treslin/TICRR タンパク質の機能を解析した。Treslinは、発癌に関与するMdm2結合タンパク質(MTBP: Mdm Two Binding Protein)と相互作用している。MTBPとTreslinは、細胞周期とDNA損傷応答経路からのシグナルを統合し、それによってDNA複製の開始を制御しているのである。(KF,KU)
Identification of a Heteromeric Complex That Promotes DNA Replication Origin Firing in Human Cells

標的を外す(Going Off-Target)

スルファメトキサゾールは、広く使われているサルファ剤で、免疫無防備状態にある個人のニューモシスチス肺炎(PCP)において、しばしば高用量で用いられる。Harukiたちは、スルファメトキサゾールとある種の他のサルファ剤が、テトラヒドロビオプテリン(BH4)の生合成の最終段階を触媒するセピアプテリン還元酵素を抑制することを明らかにした(p. 987)。BH4は、セロトニンやドパミンなどの神経伝達物質の生合成における補助因子である。細胞培養において、スルファメトキサゾールは、BH4の枯渇を介して神経伝達物質のレベルを低めたが、これによって、PCP処置に付随した中枢神経系の副作用を説明できるかもしれない。(KF)
Tetrahydrobiopterin Biosynthesis as an Off-Target of Sulfa Drugs
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