AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science March 15 2013, Vol.339


4枚の翼の鳥?(Four-Winged Birds?)

最近、前足と後足に羽毛をもつ非鳥類系の恐竜についての報告がなされてきた。Zheng たち (p.1309) は 11 個の原始的な鳥類系の化石について記述しているが、それらには羽毛化した後足を有しているという明らかな証拠がある。全体としてこれらの化石は、初期の鳥類系が2枚ではなく4枚の翼を有していることを示している。後足の羽毛発生が次第に退化し、ついには今日の鳥類の2枚の羽という状態となった。このような変化は、前足と後足との間の運動上の分離を伴った可能性があり、これにより前足が飛行可能な翼へと発達するのを促進した。(Wt,KU,nk)
Hind Wings in Basal Birds and the Evolution of Leg Feathers

平面光学への動き(A Move to Planar Optics)

メタマテリアルは、自然界で入手可能な物質では不可能な方法で、光を操ることができる。表面に配列された光波長以下の金属のナノアンテナアレイが平面光学素子の基本であり、そこでは、通常は波長の数千倍の大きさのバルク光学素子を、波長以下の厚みの二次元シートに「平板化」することが可能である。Kildishev たちは(10.1126/サイエンス.1232009)、メタマテリアル表面の光学における進歩についてレビューし、表面を利用した平面光学素子の有望な応用について論じている。(Sk)
Planar Photonics with Metasurfaces

屈曲性にすぐれた光ファイバー(Flexi-Fibers)

ガラスや金属の繊維は、信じられない屈曲性を示す。Natalio たちは(p. 1298; Sethmann による展望記事参照)、海綿の体内におけるシリケイトの生体鉱物形成作用を担うタンパク質であるシリカテイン-αを用いて、方解石でできた針状体を形成させた。この合成された針状体は、光のガイド能力を保持したまま、その固有の弾性によって極端に折り曲げることが可能であった。(Sk,nk)
Flexible Minerals: Self-Assembled Calcite Spicules with Extreme Bending Strength

恐怖と記憶における視床(The Thalamus in Fear and Memory)

中央前頭前野 (mPFC)は、多くの高レベルの脳機能の認知コントロールを仲介してる。しかしながら、恐怖記憶の詳細の保持と一般化との間の適切なバランスを保つために、mPFCから皮質下領域へのどのシナプス投射が重要なのか不明である。一連の行動学的、生理学的、及び解剖学的技術を用いて、Xu と Sudhof (p. 1290)は、記憶の一般化と特殊化をコントロールする神経回路について言及している。この回路は、ほとんど機能が良くわかっていない視床核である核ロイニエン (nucleus reuniens:NR)を含んでいる。覚醒下で行動しているマウスのNRニューロンの光遺伝学的活性化により、恐怖記憶の一般化におけるNRの役割が明らかになった。(hk,KU,nk)
A Neural Circuit for Memory Specificity and Generalization

累積効果(Additive Effects)

動物の毛の色に関する特異的な遺伝子が同定されてきたが、色-特異的な適応性における遺伝的変異に関するその根底にある自然選択は良く分かっていない。合衆国中北部のネブラスカの白足ネズミ(そこでの捕食関係から、明るい環境では明るい色をしたマウスが自然選択され、暗い環境では暗い色のマウスを自然選択される)のアグーチ遺伝子(Agouti gene)や他の座位を調べることで、Linnenたち(p. 1312)は、色に影響を及ぼす自然選択における複数の遺伝子変異を見出している。ネブラスカ砂丘のマウスの明るい色彩は、単一の大きな影響をもたらす変異の結果ではなく、多くの累積した変異の結果であり、その一つ一つが小さな表現型変化を引き起こしているのである。(KU,ok,nk)
Adaptive Evolution of Multiple Traits Through Multiple Mutations at a Single Gene

磁性の液滴(Magnetic Droplet)

孤立波が液体表面上を移動する際、他とわずかに異なる速度で移動する成分の影響で、その形状は一般に時間とともに変化する。非線形の媒質では、この拡散効果は非線形性に起因するスリミング効果によって打ち消され、形状を完全に保持したソリトンと呼ばれる孤立波が生じる。ソリトンは液体、粒体およびその他の系において観察されてきた。Mohseni たちは(p.1295)、磁気的な系において、散逸ソリトン(エネルギーの獲得と散逸が平衡するソリトン)を検出した。それは、中心部分のスピンが外部磁場に対して逆の向きを示す磁性液滴の形態をしている。 液滴は独特の動きを示し、電流による制御が可能であった。(Sk,nk)
Spin Torque?Generated Magnetic Droplet Solitons

代謝の調和調整(Coordinating Metabolism)

成長因子は、プロテインキナーゼであるmTOR複合体1 (mTORC1)の活性を刺激することで,部分的に成長と代謝との協調に役立っている。Ben-Sahraたち (p. 1323, 2月21日発行の電子版)と Robitaille たち(p. 1320, 2月21日発行の電子版)は、mTORC1-carbamolyl-phosphate synthase 2、或いはピリミジンの新規合成での律速酵素であるCADの重要標的を独立に特定した。正常細胞およびmTORC1によりシグナル伝達の欠如した細胞に対して行われたメタボロミック・プロファイリング(Metabolomic profiling)とホスホプロテオミックス解析(phosphoproteomic analyses:リン酸タンパク質の研究)のどちらにからも,成長促進信号が核酸の産生を強化する際のキーポイントとしてCADを指し示した。(MY,KU,nk)
【訳注】mTORC1;グルコースやアミノ酸などの栄養源を感知して、細胞の増殖や代謝、生存における調節因子の役割を果たすmTORから構成されるタンパク質複合体。キナーゼ(リン酸化酵素)に属し,タンパク質を基質とし細胞内シグナル伝達経路で機能するプロテインキナーゼの一種。前記栄養源の他、成長因子、ホルモン、ストレスなどによって活性化される。
【訳注】デノボ合成;生体内での物質合成で,原料から新たに合成して作ることを言う。これに対し,中間体をもとにした合成をサルベージ合成と言う。
【訳注】CAD;ピリミジンの生体合成における最初の3ステップの仲立ちをする多官能タンパク質で,正式の名前は「carbamoyl-phosphate synthetase 2, aspartate transcarbamylase, and dihydroorotase」。
【訳注】メタボロミックプロファイリング;代謝プロセスを解析する手法。
Stimulation of de Novo Pyrimidine Synthesis by Growth Signaling Through mTOR and S6K1
Quantitative Phosphoproteomics Reveal mTORC1 Activates de Novo Pyrimidine Synthesis

海洋底の下(Under the Sea Floor)

堆積層の下に存在する玄武岩質の海洋底に棲息する微生物は、浸透してきた海水(この海水は溶存酸素と共にその他の微量栄養素を運んでくる)と反応する母岩由来の無機化合物からエネルギーを得ている。Leverたちは(p.1305)、太平洋のファン・デ・フーカ海嶺(Juan de Fuca Ridge)の東翼部の海洋底微生物の群集のサンプルを直接採取し、進行中の微生物の硫酸塩還元現象とメタン産生の証拠を発見した。母岩のサンプルを用いて行った多年にわたる培養実験によって、海洋底の現場で観察された微生物の活動を裏付けることができた。(Uc,KU,nk)
Evidence for Microbial Carbon and Sulfur Cycling in Deeply Buried Ridge Flank Basalt

光合成能力の同期化(Synchronizing Photosynthetic Capacity)

光合成活性が太陽光と効果的に相互作用すると、植物の生産性は高まる。Noordallyらは (p. 1316),どのようにシロイヌナズナの体内時計が太陽光と連動して、葉緑体の作用を保持し続けているのかを調べた。SIGMA FACTOR5 (SIG5)は細胞核でコード化され,そしてSIG5の転写量の変化でシロイヌナズナの概日性のサイクルに反映する。しかしながら,SIG5は葉緑体の中で機能しており,そこでの光化学系IIの産生を支える役割を果たしている。(MY,KU,ok)
【訳注】シグマ因子;細菌のDNA上で転写を開始する場所を決定するタンパク質で,核のDNAにコードされていて細胞質で合成される。合成されたシグマ因子は葉緑体に輸送されて機能する。葉緑体は,太古にシアノバクテリアが真核細胞に細胞内共生して生じたもので自己の染色体DNAを維持している。
【訳注】光化学系II;光吸収により活性化し,そのエネルギーにより水分子から電子を取り出す機能を有し,光合成の最初の過程を担当するタンパク質複合体。
Circadian Control of Chloroplast Transcription by a Nuclear-Encoded Timing Signal

表面分子は完全には離脱していない(Surface Molecules Not Quite Desorbing)

表面から脱着したり、吸着する分子の運動では、分子が其の大部分のエネルギーを、或いは並進と回転運動のエネルギーを一気に得るか、或は失なうことで、気相になるかならないかになる。分子が緩やかに表面と相互作用するものの、表面を並進運動し、局所的に表面と結合することなくエネルギーを交換するような、中間的前駆状態の存在が昔から言われていた。Dell'Angela(p.1302)らは、光励起により急激に加熱されたルテニウム表面に吸着した一酸化炭素分子のX線吸収・放出スペクトルの変化から、そのような状態が実在することを突き止めた。自由電子レーザーを用いることによりX線分光の時間分解能を高めた。密度汎関数理論と高温状態モデルによって、レーザー加熱の間、脱着バリアを超えるほど高エネルギーではないが、化学吸着状態よりも緩やかに表面に結合した分子からなる状態が存在していることが明らかとなった。(NK,KU,ok,nk)
Real-Time Observation of Surface Bond Breaking with an X-ray Laser

マップ化されたミトコンドリアの組織構成(Mitochondrial Makeup Mapped)

質量分析法(MS)を生細胞で行うことができないため、生物学者は、MS分析を行う前に小器官やタンパク質複合体を精製することで、間接的に空間的情報を復元している。これらの精製により、試料への不純物汚染により誤った物質を存在するとしたり、試料の損失により本来存在する物質を過って存在しないとしたりすることがしばしば起きる。Rhee たち(p. 1328、1月31日号電子版)は顕微法とプロテオミクスを結びつけて、生細胞からのミトコンドリアのプロテオミクスのマップ を時間的、空間的解像度で作成するアプローチを報告している。非特異的な標識酵素 (ペルオキシダーゼ)が生細胞内のミトコンドリアを遺伝的にターゲットし、そこではペルオキシダーゼが1分間というウインドウ(1-minute window)内で空間的に制限されたやり方で内在性のタンパク質にタグ付けし、それに引き続いてMSにより同定と解析を行う。この迅速、かつ直接的な技術は、この技術がなければ得られないような細胞領域を観察することが可能になり、そしてごく微量の試料で済む。(KU,nk)
Proteomic Mapping of Mitochondria in Living Cells via Spatially Restricted Enzymatic Tagging

水銀をメチル化する微生物(Mercury Methylating Microbes)

生物が取り込み可能となり、有機物として食物網に入り込む水銀(Hg) の最も普通の形態はメチル水銀としてであり、そこでは急性の毒性効果を誘発して、食物連鎖を上がるごとにその毒性は拡大していく。しかし、天然および人工の水銀 Hg の殆どは無機水銀 Hg2+ として存在しており、これは嫌気的な微生物、典型的には硫黄還元細菌によって、メチル水銀へと転換される。比較ゲノム解析を用いて、Parksたちは、6種の既知のHgメチル化細菌に存在し、非メチル化細菌には存在しない、コリノイドと鉄硫黄タンパク質をコードする2つの遺伝子を同定した(2月7日オンライン発行されたp. 1332; またPoulainとBarkayによる展望記事参照)。関係がさほど近くない2つのHgメチル化細菌モデルにおいて、どちらかの遺伝子あるいは2つの遺伝子を同時に欠くようにすると、その細菌がメチル水銀を産生する能力は減退したが、細胞の増殖は障害されなかった。ゲノム配列が入手できている他のいくつかの細菌や系統においても、この2つの遺伝子クラスターが存在していることは、メチル水銀産生の能力が、従来認識されていた以上に、微生物界により広く分布している可能性を示唆するものである。(KF,nk)
The Genetic Basis for Bacterial Mercury Methylation

異常な凝集物(Unusual Aggregates)

最近のいくつかの論文が、前頭側頭葉変性症(FTLD)と筋萎縮性側索硬化症(ALS)との間の、遺伝学上かつ病理学上の意外な部分的一致を明らかにしている。もっともよく見られる遺伝的原因は、C9orf72コード領域上流のGGGGCCヘキサヌクレオチド反復増殖が、すべての患者のおよそ10%に影響しているということである。反復増殖がいかにして神経変性をもたらすかは、現在までわかっていない。C9orf72患者は、中枢神経系に2つの異なるタイプのユビキチン化含有物を示すが、その1つは、リン酸化したTDP-43タンパク質と同定された。しかしながら、小脳でのすべての含有物と海馬および新皮質でのほとんどの含有物は、TDP-43を欠いており、実際の病気のタンパク質は知られていない。Moriたちは、これら特徴的な含有物のほとんどが、poly-(Gly-Ala)と、やや程度は少なくなるが、3つの読み枠中の増殖したGGGGCC反復からの非ATGで開始される翻訳によって産生されるpoly-(Gly-Pro)とpoly-(Gly-Arg)のジペプチド反復タンパク質とを含んでいることを発見した(p. 1335, 2月7日号電子版; またTaylorによる展望記事参照)。この知見は、C9orf72反復増殖のあるFTLD/ALSの病変形成への仕組みに関する洞察を与えるものであり、よく見られるこの変異を特徴的な病理に直接的に結び付けるものである。(KF,KU,ok)
The C9orf72 GGGGCC Repeat Is Translated into Aggregating Dipeptide-Repeat Proteins in FTLD/ALS
[インデックス] [前の号] [次の号]


リコー
AbstractClub
ご意見ご質問は www-admin@ic.src.ricoh.co.jp までお寄せ下さい。

お問合わせ
アンケート
検  索


Copyright (C) 2013 RICOH Co.,Ltd. All rights reserved.