AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 8 2013, Vol.339


地球の成分(Earth's Ingredients)

最初に地球が作られた構成要素の成分はどんなものだったのだろうか?その答は、地球内部がマントルとコアの成分にどのように分離したかを理解することにある。Siebert たち (p.1194, 1月10日付電子版) は一連の高温、高圧実験を行い、鉄に対する親和性をわずかに示すクロムやバナジウムが、金属とケイ酸塩の化合物にどのように分かれていくのかを追跡した。微惑星の衝突で地球が形成されたという降着モデルと組み合わせると、このデータは、大部分の一般的なタイプの隕石が形成されたのと同じ比較的酸化性の状況下で地球はひとつに固まっていったことを示唆している。FeO の形態で酸素がマントルからコアに移動することにより、マントルは次第に還元されて、現在の酸化レベルになったのだろう。(Wt,ok,nk)
Terrestrial Accretion Under Oxidizing Conditions

量子計測を調べる(Characterizing Quantum Measuremen)

古典物理においては、測定の結果は測定装置に依存しないとされている。一方量子物理においては、観測行為がバックアクション、もつれ、デコヒーレンスといったプロセスにより影響を及ぼす。単一イオンによる単一電子の散乱と同イオンのスピン状態の進化を観測することで、Glickmanらは(p.1187)、これらのプロセスがどのように絡み合っているかを調べ、そして被測定系と測定環境との相互作用から、どのようにして量子測定の 結果が立ち現れてくるのかを解析した。(NK,KU,nk)
Emergence of a Measurement Basis in Atom-Photon Scattering

私を伸ばして(S-T-R-E-T-C-H Me)

多くの金属はたいてい1%以下の弾性的なひずみ限界を示し、それを超えると永久塑性変形が生じる。金属ナノワイヤーは、4から7%というずっと高いひずみまで弾性的に伸びる。しかし、複合材料を形成するために金属マトリックス中に配置されると、ナノワイヤーがよく分散されて、マトリックスとよい結合を示す時でさえ、これらの金属ナノワイヤーはもはや同じ程度に伸びることができない。Hao たちは(p. 1191; Zhou による展望記事参照)マトリックス材料として形状記憶合金を用いて、より優れた(より弾性的な)複合材料を作った。(Sk,ok)
A Transforming Metal Nanocomposite with Large Elastic Strain, Low Modulus, and High Strength

今は例外(Exceptional Now)

産業革命以後、気候は温暖化してきているが、それ以外の完新世の時期と比べてどの程度気候は温暖化しているのだろうか? Marcottたちは(p.1198)世界中から得られた様々な陸地や海洋に基づいた代用データを用いて、最近の11,000年以上の地球の平均表面気温の記録を構築している。気温のパターンは、世界が最終氷期を脱した時に気温上昇し、完新世中期までの温暖化の状態であり、そして次の5000年の間、冷温傾向となり、小氷期の約200年前前後に最低の温度になったことを示している。気温はそれ以来確実に上昇しており、全完新世の90%の期間の地球の気温よりも現在の気温は高くなったままに、われわれはほっておかれている。(Uc,KU,ok)
【訳注】完新世:現代を含む最も新しい地質時代区分
A Reconstruction of Regional and Global Temperature for the Past 11,300 Years

蜂によるあのカフェインの興奮の獲得(Bees Get That Caffeine "Buzz")

カフェインは人々の記憶を増進する。毎日コーヒーを飲むことで、何百万の人が頭がさえ,集中力や注意力が高まることを経験している。しかしながら,人間とカフェインの関係は比較的最近であり,カフェインの本当の生態学的役割から見ると,人間の脳への影響というのは副次的なものでありそうだ。自然環境ではカフェインはコーヒー類や柑橘類の花蜜に存在する。Wrightらは,自然が与えるカフェイン量で,蜂は学習した花の匂いを記憶し,場所を探し当てる能力が著しく高まり,味覚の学習と記憶に関与するニューロンの応答性が高まることを見出した(p.1202;ChittkとPengによる展望記事参照)。(MY,ok,nk)
Caffeine in Floral Nectar Enhances a Pollinator's Memory of Reward

熱に強く、毒に強い真核生物(Hot, Toxic Eukaryote)

異常な、単細胞性の真核生物である紅藻、Galdieria sulphurariaは、熱い、酸性の鉱泉で繁茂している。この紅藻は並はずれた代謝能力に恵まれており、一風変わった様々な炭水化物を摂取できるが、食べ物が尽きた時には光合成に切り替えることもできる。Schonknecht たち(p. 1207; Rochaによる展望記事参照)は、そのゲノムの系統発生的解析から、進化の間で、G.sulphurariaが少なくても75の細菌と古細菌の遺伝子を遺伝子水平伝播により取り込み、そして次に遺伝子拡大を行なって代謝のレパートリーを拡げたことを明瞭にした。(KU,ok,nk)
Gene Transfer from Bacteria and Archaea Facilitated Evolution of an Extremophilic Eukaryote

それはSIRTだ(It's a SIRT)

老化防止薬剤に関する可能な標的としてSIRT1 脱アセチル化酵素に、大きな注目が寄せられている。しかし、SIRT1活性に関する分析の予想外の複雑さから、サーチュイン-活性化化合物(STACs:sirtuin-activating compounds)であると考えられていた化合物が、実際にその酵素の直接的な制御因子であるのかどうかが不明であった。Hubbard たち(p. 1216; Yuan and Marmorsteinによる展望記事参照)によるこれらの効果に関するさらなる研究により、いくつかの基質とSIRT1の相互作用が、STACsによるSIRT1の活性化を可能にしていることが明らかになり、そしてこれらの効果に必要とされるSIRT1における重要なアミノ酸を同定した。このアミノ酸の変異したSIRT1を用いて再構成されたマウスの筋芽細胞は、STACへの反応性をなくした。(KU,ok)
Evidence for a Common Mechanism of SIRT1 Regulation by Allosteric Activators

腫瘍Tregsの起源に関して(On the Origin of Tumor Tregs)

腫瘍の微小環境は、抗腫瘍免疫を抑制する調節性のT細胞(Tregs:regulatory T cells)により種をまかれることが多い。遺伝子的に促進された前立腺癌を持つたマウスを用いて、Malchouたち(p. 1219; Joshi and Jacksによる展望記事参照)は、腫瘍を有するマウスの前立腺に豊富に存在するTregの集団を見つけた。驚くことに、このような細胞はメスのマウスにも存在し、そして腫瘍-特異的抗原に対してではなく、むしろ前立腺で正常に発現した抗原に対して特異的であることが見いだされた。前立腺の抗原-特異的なTregsは胸腺で生じ、そしてそれらの選択はAire(胸腺での組織-特異的な抗原の発現を促進するタンパク質)に依存していた。このように、腫瘍の種まきをするTregsは胸腺で生じ、必ずしも腫瘍-特異的ではなく、そして腫瘍が生じる際に器官中に補充されたり、器官中で増殖する。(KU)
Aire-Dependent Thymic Development of Tumor-Associated Regulatory T Cells

母親の家で静かに生きる(Still Living in Their Mother's House)

疎開というのは、生物が生まれたところから遠くへの移動であり、幼児から成体への成長における重要なステージであり、そしてこのプロセスに関するいくつかの促進要因が提唱されていた。Hamilton と Mayによって主張された古典的な仮説では、生物個体は自分と類似の表現型を持つ個体と競うのを避けるために親族から離れて遠くに疎開するとしている。多くの種がこのパターンに従うことが知られており、そして生物のほとんどは、彼らが生まれた場所からかなり遠くに疎開するということが一般的に受け入れられている。しかしながら、すべての種がこのパターンに従うわけではなく、いくつかの種は異なる傾向を示し、母親の行動圏内にとどまる。Hooglandたち(p. 1205)は、30年以上にわたって3種のプレーリードッグの集団を研究し、そしてこれらの高度な社会的げっ歯動物における親密な親族の存在が、実際に若い動物を彼らの生まれた場所にとどめるようにしているが、一方親密なメスの親族がいないときにはほぼ例外なしにそこから遠くへの疎開が起きることを見出した。このことは、社会的協調性の結果として各個体は協力により利益を得るため親密な親族の下に留まるようになったこと、そして協力の機会が存在しないときには、親族の下に留まる代わりに遠くへの疎開が起こることを示唆している。(KU,ok,nk)
Prairie Dogs Disperse When All Close Kin Have Disappeared

パーコレーションモデルの限界(Limits in Percolation Models)

ランダムに形成されるネットワーク中の接点(例えばソーシャルネットワークにおける接点)の数のわずかな変化が、接続性の大きな変化に繋がることがある。「爆発的パーコレーション」と呼ばれる現象である。このようなパーコレーション遷移は、しばしば Erdos と Renyi のモデルを用いて研究されており、その端部ではネットワークにおける頂点の接点対が、ランダムまたは規則に従って追加される。これらの遷移が本質的に連続的なものかどうかが、最近のいくつかの研究の対象であった。Cho たちは(p. 1185; Ziff による展望記事参照)、d次元の格子(最高6次元)に対する遷移の連続性において、パーコレーション経路を完結させるスパニングクラスターを作り出すブリッジ結合の数を削ったらどうなるかを調べた。分析的な議論と計算的研究により、結合数mの臨界値が明らかになった。つまり、この値以下ではパーコレーション遷移が連続的になり、これ以上では不連続になる。臨界値は、dとクラスターのブリッジ結合のフラクタル次元に依存する。(Sk,ok,nk)
Avoiding a Spanning Cluster in Percolation Models

抗生物質の作用機構の再検討(Antibiotic Mechanisms Revisited)

最近の研究では,殺菌性抗生物質の細胞死滅機構として,活性酸素(reactive oxygen species;ROS)が関与する共通的な機構が示唆されていた。2つのグループが多様な実験を用いてこの仮説を検証し,キノロン系抗生物質,ラクタム系抗生物質,アミノグリコシド抗生物質では,酸素(あるいは硝酸塩)の有無に関わらず同レベルの殺菌効能があることが見出された。Liuらは,抗生物質に晒された細胞中で過酸化水素が増えないことを観察し,抗生物質への暴露と,酵素中での鉄-硫黄クラスターの崩壊やDNAに対するヒドロキシラジカル損傷のような酸化的損傷に関して予想された症状との間には関連性がないことを見出した(p. 1210)。同様に、Kerenらは,ヒドロキシフェニルフルオレセン色素の測定から推測されるROSの生成と細菌生存の間に相関がないことや,チオ尿素により作り出される顕著な保護効果が発現されないことを見出した(p. 1213)。これらの結果は,ROSが介在する殺菌性抗生物質に対する従来の共通作用機構を支持していない。(MY,ok)
Cell Death from Antibiotics Without the Involvement of Reactive Oxygen Species
Killing by Bactericidal Antibiotics Does Not Depend on Reactive Oxygen Species
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