AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 25 2013, Vol.339


軸索のアクチン(Axonal Actin)

ニューロンの軸索や樹状突起において、アクチンがどのように組織化されるのかほとんど知られていない。Xuら(p.452,12月13日号電子版)は確率的光学再構築顕微鏡(stochastic optical reconstruction microscopy:STORM)を用いて、ニューロンの軸索と樹状突起中でのアクチンを撮像した。驚いたことに、樹状突起におけるアクチンは長い繊維を形成していたのに対し,軸索におけるアクチンは軸索の外周上で等間隔に配置された環状の構造として組織化されていた。スペクトリン(アクチンと相互作用して、赤血球中で細胞膜の骨格を形成することが知られている)は、アクチンと交互に現れる周期構造を形成していた。このアクチン-スペクトリン細胞骨格構造は軸索を物理的に支え,また,別の膜タンパク質を組織化することができると考えられる。(MY,KU,nk)
Actin, Spectrin, and Associated Proteins Form a Periodic Cytoskeletal Structure in Axons

陽子はまだ小さすぎる(Proton Still Too Small)

陽子は小さいにもかかわらず、電荷や磁化の分布に基づいて半径を測定することができる。陽子半径の伝統的な測定法は、陽子と電子間の散乱に基づいていた。最近、ミューオニウム-陽子と電子に代わって、陽子とミューオンからなる原子-の輝線スペクトルの精密な測定から、その半径が散乱の研究から割り出した半径と一致しないことが明らかになった。Antognini たちは(p.417; Margolis による展望記事参照)、ミューオニウムの異なるスペクトル線を調べ、より理論解析に依存しない結果を示し、それでもまだ散乱の結果と一致しなかった。実際のところ、矛盾は増大した。(Sk,nk)
Proton Structure from the Measurement of 2S-2P Transition Frequencies of Muonic Hydrogen

空腹と記憶(Hunger and Memory)

飢餓の間,脳機能は全て抑制されるのか,それとも,エネルギーをセーブするべく特別の機能だけが停止されるのであろうか? PlacaisとPreat (p. 440)は,ショウジョウバエの脳が厳しく制限された資源に対してどのように対処するのか調べた。生存への脅威を低減させるため,脳は特定の消費を切り詰め,また,負担が大きいタンパク質合成に頼っている長期忌避的記憶形成のスイッチをオフにしていた。しかしながら,Hirano らは (p. 443),ゆるやかな食糧不足に対して焦点を当てたところ,その場合、実際には長期記憶の形成が増強されることが分かった。限られた食物をめぐる競い合いの場合,恐らく,改善された記憶により生き残りが多くなる。長期にわたる食物不足の後では,長期忌避的記憶の強化は低減されたが,長期欲求記憶は高いままであった。恐らく,飢餓が近づくにつれ,全精力を使って食物を追い及めることがさらに重要となり,これにより,欲求記憶が忌避記憶に対して優勢になるためと思われる。(MY,ok,nk)
To Favor Survival Under Food Shortage, the Brain Disables Costly Memory
Fasting Launches CRTC to Facilitate Long-Term Memory Formation in Drosophila

環境にやさしい強誘電体(Environmentally Friendly Ferroelectrics)

ピエゾ素子、センサー、アクチュエータに広く用いられる強誘電体は、外部電場が無い状態でも分極状態を維持する。最も優れた強誘電特性は、チタン酸バリウム(BTO)やチタン酸ジルコン酸鉛のようなペロブスカイトにみられる。しかしながら、環境にやさしい、鉛フリーの代替物が非常に望まれている。Fu たちは(p. 425; Bonnell による展望記事参照)、有機分子結晶である臭化ジイソプロピルアンモニウムが BTO に匹敵する強誘電性を有し、ペロブスカイトの有望な代替物質になるかもしれないことを見出した。(Sk)
Diisopropylammonium Bromide Is a High-Temperature Molecular Ferroelectric Crystal

先鋭的有機ラジカル化合物(Radically Organic)

マンガンのような金属は広範囲の酸化状態に対して,比較的安定である。対照的に,純粋な有機化合物は,電子の付加や除去を受けて、断片化やカップリング反応なしに済ますことは滅多にない。Barnes らは(p. 429; Bennistonによる展望記事参照),その位相構造により,骨格中に1電子あるいは2電子が存在したり欠如することで生じる連続的な異なる6つの状態が安定化されているカテナン(知恵の輪状に絡まった環を有する化合物)について報告している。6酸化の状態は,酸素暴露に対して極めて回復性が高いことが判明した。(MY,KU,nk)
A Radically Configurable Six-State Compound

コウモリのゲノム(Bat Genomes)

コウモリは、彼らの飛行能力や感染症に対する宿主として非常に関心が持たれている。Zhang たち(p. 456, 12月20日号電子版 )は、遠い縁戚関係の2種のコウモリ、ホオヒゲコウモリ属のDavid's Myotisとオオコウモリ属のBlack flying foxのゲノムの配列を決定した。双方のゲノムの解析から、コウモリの進化に付随した類似した変化が明らかになったが、その変化には飛行に必要なエネルギー産生に必要な酸化的リン酸化経路に関与する遺伝子の発現等を含んでいる。更に、幾つかの免疫遺伝子が失われている一方で、他の遺伝子はポジティブ選択下にあり、ウイルス貯蔵庫としての潜在的なコウモリの役割を説明するものであろう。(KU)
Comparative Analysis of Bat Genomes Provides Insight into the Evolution of Flight and Immunity

星が近づき過ぎると(When Stars Get Too Close)

恒星の爆発は二つのクラスに落ち着くと云われてきた:超新星と新星であり、各々完全なる星の爆発と進化した星の表面での熱核反応の暴走である。過去20年にわたって、新星と超新星の爆発の間の光度を有する、中間的な光度の赤色の過渡的星(intermediate-luminosity red transients:ILRTs)というもう一つのクラスの恒星の爆発が浮上してきた。Ivanovaたち(p. 433)は、ILRTsが共通外層事象(common envelope events:二つの恒星が一時的に共有したエンベロープ内を回っている)の特徴であり、そこでは近接連星系(close binary system)における低質量の星が、より大質量の、かつより進化したもう片方の星から伸びてきたガス中に飲み込まれていると提唱している。(KU,nk)
Identification of the Long-Sought Common-Envelope Events

ミトコンドリアの分裂を指図する(Masterminding Mitochondrial Fission)

ミトコンドリアはきわめて活発であり、融合や分裂を行い、そして細胞中を動き回る。ミトコンドリアの動きの変調は多くの神経変性疾患と関係がある。最近の知見から、ミトコンドリアの分裂は、分裂の際にミトコンドリアを取り囲み、そしておそらくミトコンドリアの狭窄を促進す小胞体(ER)との、ER接触部位でまず起こる。Korobovaたち(p. 464)は、ERに局在化したフォルミン、INF2がミトコンドリアの分裂に必要であること、そしてINF2-介在のアクチン重合がミトコンドリアの狭窄を促進していることを示唆している。(KU,ok,nk)
【訳注】フォルミン:アクチン重合を促進するタンパク質
An Actin-Dependent Step in Mitochondrial Fission Mediated by the ER-Associated Formin INF2

カタログの完成(Completing the Catalog)

分類学者の数が減少していると広く信じられているにも関わらず、より多くの研究者が新しい種の報告を行っているという証拠がある。平行して、海洋を含め、地球上に存在する可能性のある種の数を更に精度よく定量化するために、いくつかの統計的に洗練された試みが行われてきた。最近の絶滅の速度を見積もることもまた、既に人為的な大量絶滅が起こっているのか、それとも起こりつつあるのか、という問題を問うために、再検討されてきた。Costelloたちは(p.413)、このような知見について報告を行い、科学は今世紀中に殆どの種の記述を完了させうるとの希望があることを示し、このような完璧な記述をどのようにすれば促進できるかを示唆している。(Uc,KU,nk)
Can We Name Earth's Species Before They Go Extinct?

シナプス小胞融合を再構成する(Reconstituting Synaptic Vesicle Fusion)

膜融合反応は、試験管内で再構成されてきたが、試験管内で再構成された反応は、多くの場合、生体内でのシナプス小胞融合に必要な要求を直接反映していなかった。従来の研究は一般に、Nエチルマレイミド感受性因子(NSF)付着タンパク質SNAP受容体(SNARE)と、1つか2つの付加的成分だけを使っていて、Munc18-1あるいはMunc13の除去により、なぜ神経伝達物質放出が完全に失われ、ノックアウトマウスにおけるシナプス小胞遊離の烈しい破壊をもたらすのかが説明できなかった。Maたちはこのたび、シナプス小胞融合の忠実な再構成を提示している(p. 421,12月20日号電子版; またHughsonによる展望記事参照)。再構成実験がキーとなる8つの成分すべて(3つのSNAREと、Munc18-1、Munc13、シナプトタグミン-1、NSF、そしてα-SNAP)を含む際には、膜融合にはMunc18-1とMunc13とが必要であった。(KF,KU,nk)
Reconstitution of the Vital Functions of Munc18 and Munc13 in Neurotransmitter Release

パルサーについて思案する(Pondering Pulsars)

パルサーは、高速に回転する、磁化した中性子星であり、その輻射エネルギーは、パルサーの回転エネルギーの低下によって与えられている。また、それらの輻射はビーム状であるため、その光は、規則正しい間隔で脈打つような点滅をしている。電波領域の輻射挙動の変化は、これまで多くのパルサーで観測されてきており、それは、強度とパルス波形において秩序変動と不規則変動の間の切り替えが発生していることを示している。しかし、これらの変化は、他の波長では見られてこなかった。Hermsen たち (p.436) は、pulsar PSR B0943+10 の電波、および、X線の同時観測に基づいて、電波観測で同定された輻射状態の変化が、X線の強度と時間的挙動において対応したゆらぎを見せることを示している。これらの変化のあるものは、予想外の特徴や物理特性を示しており、これはパルサーの輻射理論に対する挑戦的課題となっている。(Wt,ok)
Synchronous X-ray and Radio Mode Switches: A Rapid Global Transformation of the Pulsar Magnetosphere

転位因子を動員する(Mobilizing Transposable Elements)

転位因子とは、ゲノムのあちこちを動き回る寄生的DNA要素である。それらは、真核生物ゲノムの大きな部分を占めている(ヒトゲノムでは50%近く)。短期的にみれば、転位因子は変異を産み出すことがあり、大規模なダメージを引き起こす。しかし長期的には、それは後押しすることになる。Majumdarたちは、ショウジョウバエのP-因子(element)トランスポサーゼにも見いだされるTHAP DNA結合領域を含むヒトTHAP9遺伝子(hTh9)が、ショウジョウバエ細胞中でP-因子を動員することができることを示している(p. 446)。このhTh9遺伝子はまた、ヒト細胞中でプラスミド-由来のショウジョウバエP-因子の切除を引き起こした。さらに、hTh9はP-因子DNAに刻み目を入れ、ヒトゲノム中にその遺伝子転位を仕向けたのである。(KF,ok)
The Human THAP9 Gene Encodes an Active P-Element DNA Transposase

後成的な制御(Epigenetic Controls)

哺乳類の生殖細胞からは、精子と卵子が生じる。発生の際に生殖細胞は、胚発生の全能性にとってきわめて重要な、DNA全体の脱メチル化を含む広範な後成的再プログラミングを経験する。Hackettたちは、酵素Tet1およびTet2が個々の遺伝子の脱メチル化と刷り込まれた配偶子の特異的なメチル化領域に関わっていることを示している(p. 448)。 これら酵素はまた、CpGのメチル化の5-ヒドロキシメチルシトシン(hydroxymethylcytosine)への全体的な変換を行っており、それはその後次第に減退していく。この知見は、積極的な仕組みの存在は除去できないにしても、脱メチル化が複製-結合希釈(replication-coupled dilution)によって生じうることを示唆するものである。少数の座位が脱メチル化を逃れ、世代間遺伝のための可能な仕組みの基礎を提供することになる。(KF,KU)
Germline DNA Demethylation Dynamics and Imprint Erasure Through 5-Hydroxymethylcytosine

コンピュータとしての転写制御因子(Transcription Factor as Computer)

細胞のシグナル伝達経路は、細胞が多様な環境刺激に適切に応答できるように情報を処理する役目を担っている。Haoたちは、ストレス応答によって活性化される単一の酵母転写制御因子Msn2が、シグナル処理装置として働いていることを示している(p. 460)。細胞におけるシグナル伝達の強さと持続時間が緊密に制御される実験状況では、その輸送を核の中へか外へかを決定するMsn2上のリン酸化の部位により、検出されたシグナルの強さに依存した全く違う動的な応答が可能となる。転写制御因子は入力シグナルを追跡するか、篩にかける(無視する)か、組み込むかを決めることができた。そうした性質を理解することは、生物学的制御系の振る舞いを設計する際に有益となるであろう。(KF)
Tunable Signal Processing Through Modular Control of Transcription Factor Translocation
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