AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 18 2013, Vol.339


みんな一緒に(All Together Now)

極端な気象現象等の環境要因は、集団構成員の数の変化に影響を与え、一つの種に属する集団全体で個体数変化を同期させる可能性がある。たくさんの種が似た調達資源に依存している場合、個体群の動態が同時に起きるように、このような事象が予想されるが、しかし、多様な種の共同体の有する複雑さにより、それらの変化の裏に潜む共通の要因を明らかにするのは難しい。Hansenたちは(p.313)、同時に起きることを検証するために、高緯度北極圏のスピッツベルゲンの島に年中、生息している集団の簡潔さを巧みに利用した。個体数の変動は、3つの草食動物種(スヴァールバルトナカイ、スヴァールバルライチョウ、ロシアハタネズミ)で同期しており、唯一棲息している捕食動物であるホッキョクキツネはやや遅れて同期していた。このような変動の要因は真冬の積雪上の降雨現象であり、氷により地表が覆われることによって冬の食料の入手可能性を低下させる。(Uc,KU,ok,nk)
Climate Events Synchronize the Dynamics of a Resident Vertebrate Community in the High Arctic

シトクロームに炭素を配置する(Putting a C in Cytochrome)

シトクロームP450酵素は、非常に高い反応性を示す中間体であるオキソ鉄体により炭化水素を酸化している。この反応が生じうる炭化水素の範囲を拡大するため、多くの研究が、遺伝子工学によるシトクロームタンパクの構造変異体の作成に焦点をあててきた。 Coelhoらは(p. 307,12月20日号電子版,NarayanとShermanの展望記事参照)、P450変異体をシクロプロパン化の触媒とするため、酸素をカルベン化合物に置換し、それによって酸素の代わりに炭素フラグメントがトランスファー(転移)されるようにした。鉄原子によるカルベンの活性化は,酸素活性化の固有の経路と化学的には同様であるが、反応全体としては、既知のどの酵素変換反応とも全く異なったものになっている。(MY,KU,ok,nk)
Olefin Cyclopropanation via Carbene Transfer Catalyzed by Engineered Cytochrome P450 Enzymes

濡れた水星(Wet Mercury)

1990年代の水星の極地方のレーダー観測により、高い後方散乱を示す領域が明らかとなった。そして、この散乱は、厚く堆積した水の氷を示すものとして説明されてきた。しかしながら、また、他の説明も提案されてきている(Lucey による展望記事を参照のこと)。Lawrence たち (p.292, 11月29日付電子版) によって報告されたメッセンジャー(MESSENGER) の中性子データと、Paige たち (p.300, 11月29日付電子版) による熱的モデルとを結びつけると、水星の北極におけるレーダー反射物質の主たる成分は水の氷であることが確かなものとなった。Neumann たち (p. 296, 11月29日付電子版) は、メッセンジャーに搭載された水星レーザー高度計 (Mercury Laser Altimeter) からの表面反射率測定結果を分析した。その結果、レーダー後方散乱の強い幾つかの地域は、可視光で明るい領域と一致しており、これは、表面に露出しているのが水の氷であることと矛盾しない。その一方、幾つかのレーダー反射領域は可視光で暗い領域と関連があり、これは、水の氷の上に有機昇華性化合物の後からの堆積物が存在することを示すものである。電波帯で強い後方散乱を示す領域の外側に広がる暗い地域は、かつては水の氷はもっと拡がっていたことを示唆している。(Wt,KU,tk,nk)
Evidence for Water Ice Near Mercury’s North Pole from MESSENGER Neutron Spectrometer Measurements
Thermal Stability of Volatiles in the North Polar Region of Mercury
Bright and Dark Polar Deposits on Mercury: Evidence for Surface Volatiles

はっきりと定められた経路(A Well-Defined Path)

ケモカインは、長い間、組織内の免疫細胞の移動を導いていると考えられてきたが、in vivoでの直接的な実証がなく、また詳しくはわかっていなかった。マウスの耳で樹状細胞の移動を追跡することで、Weberたち(p. 328)はその双方を提供することができた。ケモカインCCL21の内在性勾配が耳の組織内で観察され、そして90μmを超える距離に、樹状細胞はこれらの勾配を用いて、リンパ管に向かってまっすぐに移動することができた。このCCL21の勾配はヘパラン硫酸に固定され、その勾配の破壊により樹状細胞の遊走が抑制された。(KU,ok)
【訳注】ヘパラン硫酸:哺乳動物の組織に広く分布し、細胞表面に存在するムコ多糖類
Interstitial Dendritic Cell Guidance by Haptotactic Chemokine Gradients

挫折、悩みとグルココルチコイドの関係(Defeat, Distress, and Glucocorticoids)

個々人がどのように情動を制御し、ストレス源に対処しているかの理解は、主要な臨床面での関心事であり、精神医学的な病気の処置において重要である(McEwenによる展望記事参照)。Barikたち(p. 332)は、マウスにおける激しい挫折のストレスがグルココルチコイドの遊離をもたらし、そしてドパミン系の活性を亢進させることを見出した。ドパミン感受性のニューロンにおけるグルココルチコイド受容体を除去すると、通常は激しい挫折の後に生じる社会的回避を完全に防いだ。思春期における遺伝的因子と環境的ストレス因子の結びつきが、どのように成人の行動を左右するのか、そしてこれらの乱れがどのような神経精神医学的障害に導くのかはよく分かっていない。Niwaたち(p. 335)は、思春期における隔離ストレス(野生型のマウスにおいて、このストレスは何等の長期持続性の変化をもたらさない)が、変異マウスにおいてかなりの神経化学的、かつ行動面での変化を引き起こスことを見出した。この変異マウスは、プリオンタンパク質プロモータのコントロール下において統合失調症 1 遺伝子の破壊されたドミナントネガティブ変異体を発現する。これらの欠陥はグルココルチコイド受容体拮抗物質によって元に戻る可能性がある。(KU)
Chronic Stress Triggers Social Aversion via Glucocorticoid Receptor in Dopaminoceptive Neurons
Adolescent Stress?Induced Epigenetic Control of Dopaminergic Neurons via Glucocorticoids

圧縮されたサンプル(Compressed Sampling)

よく「百聞は一見にしかず」といわれる。しかし、画像は多くの場合、たくさんの余分な情報を含んでおり、それは実際に、意味の無い情報からなる巨大なデータファイルを作り出してしまう。アルゴリズムにより、情報の欠落無しにファイルサイズを圧縮することは可能であるが、そのようなプロセスは、写真をとった後に行うことになる。Hunt たちは(p.310)メタマテリアルセンサーを用いて、後処理を必要とせずに、直接サンプルの風景を圧縮した。メタマテリアルの応答を調整することにより、風景画像に対して 40:1 の圧縮比を得ることができた。メタマテリアルカメラを使えば、「干し草の中から針を探す」こともずっと簡単になるのかもしれない。(Sk)
Metamaterial Apertures for Computational Imaging

癌の炎症性バランスのシフト(A Shift in Cancer's Inflammatory)

癌の始まりと進行に寄与する多くの因子のうちの一つは、炎症である。炎症は癌の発生を、直接的にも間接的にも助けており、そして腫瘍は免疫抑制につながる慢性的な炎症性環境を促進し、これが癌にとって有利となる。Coussensたち(p. 286)は、腫瘍で見られる慢性炎症に寄与する免疫系の成分をレビューしている。潜在的な治療法は、この炎症性の環境を病原性の感染症に似た、急性の消散性炎症に特徴的な環境に向けてシフトすることである。このようなシフトは免疫抑制を開放し、そして抗腫瘍免疫を促進し、他の治療法と組み合わせることで、究極的には癌細胞の除去につながるであろう。(KU,nk)
Neutralizing Tumor-Promoting Chronic Inflammation: A Magic Bullet?

特性改善となる二環式化合物の架橋(Bicyclic Bridge to Improvement)

微小な空隙が内在している重合体は、非常に大きな自由体積(穴だらけの内部空間)を有するねじれた剛直なガラス状態のはしご状重合体という近年進展した分野である。これらの物質はその固有の空隙により,極めて高速の透過性ガス分離膜として興味を抱かれている。しかしながら,この種の重合体は良好なガス透過性は有しているが,ガス選択性については単なる並程度である。 Carta らは (p. 303; GuiverとLeeによる展望記事参照)、重合体中のダイオキシン類似の環を、より強い架橋した二環式の環構造に置き換えることができれば、重合体の膜特性が向上できるのではないかとの仮説を立てた。 二環式環構造の形成には複数の共有結合(multiple covalent bonds)を作ることが必要で、この結合を作り出すTroger塩基の生成と関連した反応を利用をすることで,得られた重合体のガス選択性と透過性が著しく改善された。(MY,KU,ok)
An Efficient Polymer Molecular Sieve for Membrane Gas Separations

外来植物侵入の規模(The Scale of Plant Invasions)

多くの研究が、在来種の多様性における外来種の大きな影響を示しているが、それと同時に、外来種(特に植物)が在来種の絶滅に関係することはまれである。Powell たちは(p.316)、小さな影響を示した研究がたいてい広い地域を対象になされている一方で、大きな影響を示した研究は狭い地域に焦点を当てている傾向があることに気付いた。そのようなスケール依存効果が生じているということは、外来種が種数面積関係(SAR)の形を変化させているにちがいない。米国の3つの異なるタイプの生態系において、SARs の違いと植物群落の外来種侵入の有無を比較することにより、対象地域を広げていくほど生物多様性における外来種の影響が小さくなっていることが明らかになった。実証データとシミュレーションから、観察されたパターンは、外来種が希少種よりも一般種に偏ってより大きな影響を与えるためであることが示唆された。これは、サンプリング効果と外来種の侵入に対する特異的な反応の組み合わせに起因している。(Sk)
Invasive Plants Have Scale-Dependent Effects on Diversity by Altering Species-Area Relationships

ステムループ構造の認識(Recognizing a Stem-Loop Structure)

後生動物のヒストンメッセンジャーRNA(mRNA)は、3'末端に、ステムループ(SL)構造を保存している。このステムループには、ヒストンmRNAの3'末端のプロセシングや搬出、安定性、翻訳にとって必要となるステムループ結合タンパク質(SLBP)が結合している。3'-5'エキソヌクレアーゼ3'hExoもまたステムループに結合して、3つのヌクレオチドを切り落とす。Tanたちは、ヒトの3'hExoと一緒にヒトのSLBPのRNA結合性領域(RBD)の結合したSLの高分解能構造を決定した(p. 318)。このループの高次構造は、その他のRNAテトラループとは実質的に異なっていて、SLBPのRBOは、基部(ステム)の長さを測定する定規として機能している可能性がある。SLBPは基部の第2のヌクレオチドのグアニン塩基を直接認識するが、SLBPと3'hExoは、SLの特有な形状を認識しているらしい。(KF,KU)
Structure of Histone mRNA Stem-Loop, Human Stem-Loop Binding Protein, and 3′hExo Ternary Complex

損なわれる匿名性(Anonymity Compromised)

個人のプライバシーを維持することと研究目的でゲノム情報を共有することのバランスは、相当な論議のトピックとなってきている。Gymrekたちは、参加者(およびその家族)の匿名性が、同じ姓をもつ(ときには遠い)親戚を含む、遺伝的系統学の公開ウェブサイトでのY染色体の分析によって損なわれかねないことを実証している(p. 321; またRodriguezたちによる政策フォーラム参照)。ターゲットになる(その人の配列がGenBankによって無料で利用でき、同定できる)個人のY染色体上の短いタンデム反復(STR)が公開の系統学ウェブサイト上の情報と比較されることで、もっとも最近の共通の祖先にいたる最短時間が決定され、もっとも似た姓が見つけられて、これを年齢や居住地域と組み合わせることで、個人が特定されたのである。911人の個人のSTRが出発点として用いられたとき、その分析では、コーカサス人種を祖先にもつ米国の男性人口のうち、成功率は12%になると推定された。ある集団の詳細な系図をさらに分析すると、ゲノムが公開リポジトリーにある個人の家族が高い確率で同定されることが明らかになった。(KF)
Identifying Personal Genomes by Surname Inference

分化のシグナル(Signaling Differentiation)

6-膜貫通タンパク質GDE2は、細胞外グリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼ(GDPD)活性を介して分化を促進し、幹細胞あるいは前駆細胞状態を維持し、また複数の癌に関係している主要経路の一つ、Notchシグナルの抑制を介して神経細胞分化を誘発している。GDPD酵素がグリセロホスホジエステルをグリセリン3リン酸および対応するアルコールへと代謝すると知られている条件下で、ではGDPD活性はどのようにしてNotchシグナルを抑制しているのだろうか?Parkたちは、GDE2などの6-膜貫通GDPDは通常のGDPD酵素として機能するのではなく、代わりにグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によってアンカーされているタンパク質のGPIアンカーを切断することを明らかにしている(p. 324)。GDE2のGDPD活性はGPIによってアンカーされたタンパク質RECK(このタンパク質は、通常はNotchリガンドDeltaの分断を防いでいる)を切断、不活性化している。したがって、RECK不活性化がDeltaの分断を刺激して前駆体におけるNotch不活性化と細胞分化の開始をもたらすのである。(KF,ok)
GDE2 Promotes Neurogenesis by Glycosylphosphatidylinositol-Anchor Cleavage of RECK
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