AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 11 2013, Vol.339


小さくて強力な筋肉(Mini Mighty Muscle)

アクチュエータ(または人工筋肉)は電気的または化学的なエネルギーを利用し、それを機械的な力に転換する。一般に、高分子材料から作られるアクチュエータは大きな変形を示すが、大きな力を発生させることが出来ない。Ma たちは(p. 186; Kim と Kwon による展望記事参照)、水の吸収に応じて膨張する変性ポリピロールをベースにした高分子複合体について述べている。その複合体は大きな歪みや力を生み出すことが可能であり、最も優れた導電性高分子の電気化学的アクチュエータに迫る、高い作業密度を提供した。高分子フィルム中に導入された磁性ナノ粒子が、アクチュエータの運動を制御するために用いられた。(Sk)
Bio-Inspired Polymer Composite Actuator and Generator Driven by Water Gradients

メタボリック病におけるマクロファージのJNK(Macrophage JNK in Metabolic Disease)

炎症は食事性肥満やインスリン抵抗性の重要な促進因子であると考えられている。炎症誘発性のM1表現型マクロファージとc-jun NH2末端キナーゼ(JNK)は、このプロセスの中心的プレィヤーである。しかし、マクロファージの内部でJNK発現が特異的に必要とされているのかどうかは不明である。Jnk1とJnk2の双方をマクロファージ-特異的に欠損したマウスにおいて、Hanたち(p. 218,12月6日号電子版;Ferrante Jr.による展望記事参照)は、このマウスが高脂肪食の対照マウスと同じような体重増加にもかかわらず、インスリン抵抗性等の食事性代謝変化の多くに対して保護されていることを見出した。この保護は、脂肪組織におけるM1マクロファージの存在量の減少と関連していた。(KU)
JNK Expression by Macrophages Promotes Obesity-Induced Insulin Resistance and Inflammation

量子進化を追跡する(Tracking Quantum Evolution)

量子系を実測するプロセスによって状態は影響を受けるため、その最終状態を予測することは非常に困難である。Hatridgeらは(p.178)、マイクロ波キャビティーに置かれた超伝導キュービットにおいて、一連の部分観測を行う場合であれば量子系をそのままの状態に維持できることを見出した。実測データーを分析することで、超伝導体からなる量子系の最終状態を正確に測定できるという。このような制御は、通常の量子系の完全なフィードバック制御を実現するために重要である。(NK)
Quantum Back-Action of an Individual Variable-Strength Measurement

リボソーム的ロタキサンとは?(Ribosomal Rotaxane?)

リボソームは洗練された分子機械であり、メッセンジャーRNAに書かれた正確な配列に基づいてアミノ酸をタンパク質に組み立てる。Lewandowskiたち(p. 189)は、人工的な合成リボソーム類似体の合成に向けて一歩前進させた。彼らの機械はロタキサン(棒状分子が環状分子を貫通している)から構成されている。環状分子はペンダントチオールを持っており、アミノ酸を棒状分子から引き抜く;次に、末端の窒素がペプチド結合を形成するように周りを包み込み、そして更なる反応のためにチオールを遊離する。この系は予め合成された棒状分子から3つのアミノ酸を順番に結合することができた。(hk,KU,nk)
Sequence-Specific Peptide Synthesis by an Artificial Small-Molecule Machine

ポップフィッシュメダカの種の分化(Pupfish Speciation)

生物進化は表現型の軌跡(phenotypic trajectories)に沿って進行し、そしてそれは、比較的適応性の高い複数のピークと適応性の低い谷からなる地形として可視的に表現することができる。MartinとWainwright (p. 208)は、 メダカの仲間であるキプリノドンポップフィッシュの3種の適応地形(adaptive landscape)を調べた。これらの種は、最近の適応放散(adaptive radiation)を表しており、それぞれの種は各自の環境内の異なるニッチの中へと入り込んで行った。著者たちは、高密度と低密度な囲い地(enclosures)において親の表現型(parental types)と関係する複製ハイブリッド移植(replicate hybrid transplant)を精査することによって、特定な親の表現型(specialist parental phenotypes)を発見し、そしてより高い生存率と成長性を観測した。この結果、高い密度は、適応放散の初期段階の際に複数の適応のピークを促している。(TO,KU,nk)
Multiple Fitness Peaks on the Adaptive Landscape Drive Adaptive Radiation in the Wild

色々な花束(A Varied Bouquet)

花粉媒介者は匂いに先天的に惹きつけられるが、また花の蜜の報酬と匂いとを関連づけることをも学習する。Riffellたちは(p.200,12月6日号電子版,KnadenとHanssonによる展望記事参照)、スズメガが先天的に惹きつけられる花の匂いの特性を解析し、そしてその大多数には明白な化学的特性があり、スズメガの嗅脳では単一の匂いとして表示されていることを発見した。このガはまた、通常は惹きつけられない匂いと蜜の報酬とを結びつけ、結果として新しい匂いの魅力を学ぶように訓練することができた。学習により触角葉にある神経細胞は変化したが、先天的な嗜好は変化しなかった。(Uc,KU,nk)
Neural Basis of a Pollinator’s Buffet: Olfactory Specialization and Learning in Manduca sexta

カーボンナノチューブの最適化(Optimizing Carbon Nanotubes)

短い長さのカーボンナノチューブは容易に作製できるが,これを繊維にした場合,出来上がったものの特性は理論的に予測されたものよりもはるかに低いものになってしまう。逆に,長いカーボンナノチューブは,より良好な特性を示すが加工が困難である。Behabtuら(p. 182)は拡張性のある湿式紡糸法により,この双方の領域のいいとこ取りをした。長鎖のカーボンナノチューブを溶解させ,これから紡糸して作製された繊維は,優れた強靭性,剛性,熱伝導性を示した。(MY)
Strong, Light, Multifunctional Fibers of Carbon Nanotubes with Ultrahigh Conductivity

ストレス保護装置(Stress Protector)

長期の飢餓状態にある間、脂肪酸の酸化により血流中の d-β-ヒドロキシ酪酸塩(d-β-hydroxybutyrate:βOHB) の蓄積が増加する。このような βOHB 濃度の増加によって、クラスIのヒストンデアセチラーゼが抑制される。次に、このヒストンのアセチル化が、さまざまな遺伝子の転写活性に影響を与えることになる。Shimazu たち (p. 211, 12月6日電子版; Sassone-Corsi による展望記事を参照のこと) 高濃度の βOHB に処理された動物の転写活性の増加を示す遺伝子のなかで、二つの遺伝子が酸化性のストレスに対する細胞レベルの反応に関与していることを見出した。マウスをあらかじめ βOHB で処理しておくと、パラコート毒を生ずる酸化性のストレスの毒性から守ることができた。(Wt)
Suppression of Oxidative Stress by β-Hydroxybutyrate, an Endogenous Histone Deacetylase Inhibitor

大きさが形状に影響を与える(Size Affects Shape)

多孔性の分子フレームワークを形成する物質は,ゲスト分子を吸収してフレームワークが一様に歪むと,異なる相になるkこともある。ゲスト分子が離脱すると,通常,フレームワークは元の形に復帰する。Sakataらは(p.193)は,この過程は表面応力により牽引されるため,小さな結晶ではこの変化が回避されるのでないかと着目した。確かに,柔軟で多孔性の錯体高分子である[Cu2(dicarboxylate)2(amine)]nでは,サブミクロン程度の十分小さな結晶子が形成された場合には,メタノールのようなゲスト分子により誘起される構造が保持された。また,さらに結晶子が小さくなるとこの程度が顕著になった。(MY)
Shape-Memory Nanopores Induced in Coordination Frameworks by Crystal Downsizing

成体のアストロサイトは別物である(The Adult Astrocyte Is Different)

三者間シナプス(tripartite synapse)の概念(これによってアストロサイト(星状膠細胞:神経膠細胞の大型の物)はシナプス前、後部の間の情報伝達を活発に調整する)は、広く受け入れられている。神経膠伝達物質(gliotransmitters)の遊離は、シナプスからのグルタミン酸流出によるアストロサイトの代謝型グルタミン酸受容体5 (mGluR5)の活性化を通して細胞内貯蔵庫からのCa2+の遊離と結びつけられていた。しかしながら、三者間シナプスに関するほぼすべての研究は若い個体から収集された脳組織を用いていた。多くの受容体は成長と共に発現レベルの変化をこうむる。Sunたち(p. 197,GroscheとReichenbachによる展望記事参照)は、ゲノム解析、電子顕微鏡、および組織切片とin vivoでのカルシウムイメージングを適用して、ヒトとマウスのアストロサイトにおいて生後発達の段階でのmGluR5 と mGluR3受容体の存在量と機能性を調べた。mGluR5のアストロサイト発現は、マウスにおいて生後3週間ほどで失われており、そしてヒト皮質のアストロサイトにおいては存在しなかった。このことは、成体のシナプスに関する三者間シナプスモデルに関するその妥当性に疑問を投げかけるものである。(KU)
Glutamate-Dependent Neuroglial Calcium Signaling Differs Between Young and Adult Brain

目的地の特異性(Destination Specificity)

脳の発生の際、ある種のニューロンは、それが生じた場所から最終的に機能する位置へと遊走していく。放射状に、内から外に向けて遊走するニューロンもあるが、それ以外のニューロンは接線方向に遊走する。Di Meglioたちは、後脳において(回転するように)接線方向に遊走するニューロングループの遊走の仕方を解析した(p. 204)。それらニューロンはすべて同じ遊走の流れに入ったが、それぞれが位置情報を保持していて、目的地における相対的な組織化は、元の組織での位置を反映していた。後成的シグナルとHox転写制御因子をコード化する遺伝子との相互作用が、位置情報と微妙に調整された遊走とをコードしていたのである。(KF,nk)
Ezh2 Orchestrates Topographic Migration and Connectivity of Mouse Precerebellar Neurons

修復と組換え(Repair and Recombination)

性的に繁殖する生物体のほとんどにおいて、一倍体の配偶子は減数分裂によって生み出される。減数分裂は特殊な細胞分裂で、親の染色体の組換えによって適切な染色体分配を保証するものである。DNAに産生された二重鎖切断(DSB)は、この組換えを促進し、染色質における組換えのホットスポットに結び付いており、そこではヒストンH3がSet1C/COMPASS酵素複合体によってリジン残基 4(H3K4me)上でメチル化される。Acquavivaたちは、DSB産生機構のMer2/Mei4/Rec114 複合体が、H3K4meへの結合が可能なPHD-fingerを含むSpp1サブユニットを介して、Set1C/COMPASS酵素複合体に結び付いていることを明らかにした(p. 215,11月15日号電子版)。このSpp1サブユニットは、組換えが生じる部位へのMer2タンパク質を補充し、おそらくH3K4meマーク付けされた染色質と他の因子の双方に結合することによって、行なっているのである。(KF,KU)
The COMPASS Subunit Spp1 Links Histone Methylation to Initiation of Meiotic Recombination

S-アデノシルメチオニンとヒストンと幹細胞(SAM, Histones, and Stem Cells)

マウスの胚性幹細胞は、成長のためにスレオニンを必要とし、スレオニン代謝の第一段階を触媒する大量の酵素を発現する。その細胞でスレオニンの何が重要なのかを見いだすため、Shyh-Changeたちは、誘発された多能性幹細胞における質量分析によって、代謝の変化をモニターした(p. 222,11月1日号電子版; またSassone-Corsiによる展望記事参照)。スレオニンは、タンパク質メチル化に用いられる基質、S-アデノシルメチオニン(SAM)の細胞での濃度を維持するのに必要とされていた。スレオニンを制限すると、ヒストンのメチル化が抑制されたが、これが胚性幹細胞における染色質の特徴である。つまり、幹細胞におけるスレオニンとメチオニンの代謝の変化は、後成的変化に結び付いている可能性があり、遺伝子の再プログラミングと幹細胞が増殖するか分化するかについての決定に影響を与える。(KF,KU)
Influence of Threonine Metabolism on S-Adenosylmethionine and Histone Methylation

破壊前に回折させる(Diffraction Before Destruction)

x-線結晶構造解析法のボトルネックは、照射ダメージが限界以下であるような露光で高解像の回折データを得るために、秩序正しい結晶を十分大きく成長させる必要があるというところにある。一連の、フェムト秒レーザーを用いた結晶構造解析法は、照射ダメージを避けられる短い強烈なパルスを用いることにより、これらの束縛を克服しそうである。結晶は自由電子ビーム中を横切って移動し、結晶が破壊される前に、それぞれのパルスに対する単一の結晶からの回折データが記録される。Redecke たちは(p. 227, 11月29日号電子版; Helliwell による展望記事参照)この技術を用いて、虫の細胞中で成長したミクロンサイズの結晶から、眠り病を引き起こす寄生虫であるブルーストリパノソーマ由来の酵素の構造を決定した。その構造は、宿主のタンパク質の分解に関わるこの酵素が活性化する前にはもともとどのようにして抑制されているのかを明らかにした。それは、寄生虫を狙い撃ちする阻害薬の開発の助けになるであろう。(Sk,nk)
Natively Inhibited Trypanosoma brucei Cathepsin B Structure Determined by Using an X-ray Laser
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