AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 21 2012, Vol.338


地球へと落下した隕石(The Meteor That Fell to Earth)

2012年4月、カリフォルニアの シェラネバダ山脈で流星が目撃された。Jenniskens たち (p.1583) は、その火球の写真とビデオの画像をドップラー気象レーダー像と結びつけて用いることで、隕石の破片をすばやく回収することに成功した。いくつかの破片の総合的な解析から、Sutter's Mill 隕石が、新しいタイプの炭素質コンドライトを代表するものであることを示している。それは、まれでかつ原始的な隕石であり、太陽系の始原物質の起源と進化の糸口を含んでいる。C型の小惑星は、炭素系コンドライトの母天体と推定されているが、その隕石の破片の予想外で複雑な特性は、その小惑星表面が以前考えられていたよりももっと複雑で あることを示している。(Wt,tk,nk)
Radar-Enabled Recovery of the Sutter’s Mill Meteorite, a Carbonaceous Chondrite Regolith Breccia

いかなる原因で種の多様性が生じるか?(Whence Species Variation?)

脊椎動物は広範囲に異なる表現型を有しており、これは、極めて限られたタンパク質をコードする遺伝子型や保存されたメッセンジャーRNAの発現パターンとは相容れない。複数のエクソンとイントロンを持つ遺伝子は選択的スプライシングをこうむり、その結果、複数のタンパク質のイソ型を生じさせる可能性がある(PapasaikasとValcarcelによる展望記事参照)。 Barbosa-Moraisたち(p.1587)とMerkinたち(p.1593)は、ヒト・霊長類・齧歯動物・フクロネズミ(有袋類)・カモノハシ(原始的哺乳類)・ニワトリ・トカゲ(爬虫類)・カエル等、種々の脊椎動物のゲノムにまたがる選択的スプライシングを解析した。それにより得られた知見から、選択的スプライシングの進化はその大部分が急速であったこと、そして殆どの器官の選択的スプライシングのパターンは、器官のタイプよりもより強くその種の独自性に反映されることを示唆している。種を分類づける選択的スプライシングは、しばしばタンパク質間相互作用に影響を及ぼす可能性のあるタンパク質の乱れた領域や、或いはタンパク質のリン酸化に関連する領域において、キーとなる制御因子に影響を与えている。(Uc,KU)
【訳注】エクソン:塩基配列をコードするDNAの構造配列。イントロン:遺伝子の中でメッセンジャーRNAにならない領域。選択的スプライシング:一つの遺伝子からイントロン除去部位の違いにより異なる複数のタンパク質が生成する現象。イソ型:機能が類似しているがアミノ酸配列の異なるタンパク質
The Evolutionary Landscape of Alternative Splicing in Vertebrate Species
Evolutionary Dynamics of Gene and Isoform Regulation in Mammalian Tissues

心機能の強化(Enhancing Heart Function)

哺乳類の心臓を包む保護組織層である心外膜は、哺乳類の胚形成段階で決定的な役割を果たしている。これは、心臓の発生に必須な増殖因子や多能性前駆細胞が心外膜から提供されるからである。成体の場合には心外膜の機能は休止状態にあるが、心臓に損傷が起きた場合には再活性の状態になり、心臓発生遺伝子の再発現がもたらされる。マウスモデルを使った研究により、Huangらは(p. 1599,11月15日号電子版、Rosenzweigによる展望記事参照)、発生と損傷の時期に、C/EBP 転写因子によって心外膜が活性化されることを見出した。損傷を受けて虚血性となった心臓の心外膜におけるC/EBP 転写因子のシグナル伝達を阻害すると、心臓の炎症が低減し、心臓機能が改善される。この研究結果は、究極的には、損傷した心臓の修復に対する新しい戦略に結びつく。(MY,KU,ok)
C/EBP Transcription Factors Mediate Epicardial Activation During Heart Development and Injury

対称性の意味論(Symmetry Semantics)

トポロジカル絶縁体(TIs)は、時間反転対称性によって保護される境界状態を持つことで知られている。この系に限らず、他の対称性によって保護される状態に関しても、体系的研究は、相互作用の無い系では可能であるが、相互作用が存在すると複雑さが増し困難とされてきた。Chen等は(p.1604;Qiの展望記事参照)コホモロジー群理論を用いて、相互作用しているボソンの対称性によって保護された相について理論的予測を行っている。この解析は、経路積分式を用いることで、一次元における従来の結果を一般化できるだけでなく、そのほかの対称性に保護された相と同様に、三次元系におけるTIsの3つの対称性の存在と、更に2次元では1つの対称性の存在を示唆している。この形式化は、あらゆる対称性群、および次元に適応可能であり、任意の強さの相互作用にも対応できるという。(NK,KU,nk)
Symmetry-Protected Topological Orders in Interacting Bosonic Systems

負の値を除く(Getting Rid of Negativity)

強い相互作用を含む物性物理学における問題は、解析的に取り組むことが大変難しいことが知られており、しばしば物理学者は量子モンテカルロ (QMC)のような数値解析に頼っている。しかしながら、最も関心のあるケースにおいて、この方法は計算上大変困難になる。なぜならば、フェルミ粒子系に対する分配和が、一般的に正の値と負の値をもつ振動関数に関する積分を含むからである。Bergたち(p. 1606)は、反強磁性量子相転移の近傍での二次元金属に関してこの問題を回避する方法を見出した。そのような物質としては、電子をドープした銅塩超伝導体や鉄系超伝導体、及び重フェルミ粒子化合物などが含まれる。彼らの格子理論は、分配和に対する正の被積分関数に導き;その結果として、符号問題を回避している。また、臨界点近傍での反強磁性秩序と非従来型超伝導体の間で予想通りの競合が生じている。(hk,KU,nk,ok)
Sign-Problem?Free Quantum Monte Carlo of the Onset of Antiferromagnetism in Metals

静的空間の誘導(Inducing a Quiet Space)

光と物質の間の相互作用は、通信やセンシング領域における多くの応用の基盤となり、また基礎的量子レベルのプロセスに関する理解をもたらしている。力学系に光を結合させる方法は、これらのプロセスの研究に用いることができる。しかしながら、機械的振動子はやむをえず環境と作用してしまうため、機械的振動子の熱的なノイズにより、オプトメカニカル的結合の鋭敏性が損なわれてしまう。Dongらは(p. 1599,11月15日号電子版発行)、熱誘導雑音から効率的に力学系を切り離す力学的な「暗状態」を形成できる方法を開発した。そのようなノイズフリーな領域の形成により、量子オプトメカニカル系を調べるシンプルな手段が提供され、全ての熱運動が凍結する量子的な極限にまで振動子を冷却する必要がなくなることになる。(MY,KU,ok)
Optomechanical Dark Mode

高濃度を得る(Earning a High Grade)

全世界で産出される銅やモリブデンのほとんどが、地殻の班岩鉱床(porphyry-type ore deposits)から産出される。これらの金属は、マグマ溜りのプリューム(上昇流)の端に関係した破砕岩石中に、あるいは閉じ込められたシェル(confined shell)の中で濃縮された金属の鉱脈として堆積されている。しかし、何故に高純度の金属堆積物の蓄積を可能にしている温度-圧力の急なこう配の前部(front)が、安定したまま存在し続けられるのかが解明されていなかった。Weisたち(p. 1613,11月15日号電子版; Ingebritsenによる展望記事参照)は、高い金属濃度のマグマ性流体を供給する班岩システムの水熱モデルを構築した。注入された揮発性流体(volatile fluids)の熱力学的特性と、注入が引き起こす破砕によってもたらされる母岩の透過性のダイナミックな変動が、前部(fronts)の安定性と進化を決定づけており、そしてマグマ溜まり内部から広がる鉱脈の広いネットワークの形成を可能にしている。(TO,KU)
Porphyry-Copper Ore Shells Form at Stable Pressure-Temperature Fronts Within Dynamic Fluid Plumes

古のグランドキャニオン(A Grand Old Canyon)

米国南西部にあるグランドキャニオンは、時を超えて浸食の威力を知る顕著な例である。数百万年に渡って、川の水の流れが峡谷を削り取り、今日1.6kmの深さと29kmを超える距離になっている。モデルの多くは、渓谷の主要な部分は500万年〜600万年前に形成されたと仮定している。Flowers とFarley (p. 1616, 11月29日号電子版)は熱年代測定法を用いて、浸食が地表近くの地殻の岩を運んできた時に冷却した渓谷底部の代表となる鉱物粒子内部におけるヘリウムの熱依存拡散を調査した。反対側の年代の若い渓谷東部でこのアプローチの妥当性を確認した後、このモデルは、渓谷西部が浸食プロセスによる古い冷却イベントを経たことを示唆しており、即ち7,000万年前頃に現在の深さに達していたようである。そうなると一般に信じられているよりも6000万年ほど早いことになる。(TO,KU)
Apatite 4He/3He and (U-Th)/He Evidence for an Ancient Grand Canyon

明らかにされたインフルエンザ(Influenza Revealed)

インフルエンザウイルスは、一本鎖RNAウイルスであり、世界中での罹患率と死亡率に相当程度の影響を与えている。インフルエンザリボ核タンパク質(RNP)複合体は、ウイルスの複製と転写を行なっていて、そのウイルスのライフサイクルおよびウイルスの宿主適応にとって中心的なものである(TaoとZhengによる展望記事参照)。このウイルス性RNPの構造的特徴づけは難題だが、Moellerたち(p. 1631,11月22日号電子版)とArranzたち(p. 1634,11月22日号電子版オ)はこのたび、低温電子顕微法とネガティブ-染色電子顕微法を用いることによって、この複合体の構造と組立てを報告している。その構造は、いかにしてウイルスの重合酵素やRNAゲノム、ヌクレオプロテインがRNP中で相互作用しているかを明らかにし、インフルエンザゲノムの複製と転写の仕組みについての洞察を与えてくれるものである。(KF)
Organization of the Influenza Virus Replication Machinery
The Structure of Native Influenza Virion Ribonucleoproteins

繰り返し見られる自閉症遺伝子(Autism Genes, Again and Again)

配列解析技術における最近の進歩とコスト低下にもかかわらず、大きなコホートからの関心のある遺伝子の効果的、高感度、特異的配列解析を行うにはコストがかかる。O'Roakたち(p. 1619;11月15日号電子版)は、ターゲット-特異的キャプチュアー、および配列決定のための分子反転プローブ法を改良して、数千人の患者における候補遺伝子の再配列解析を行った。この技術が44の候補遺伝子に適用され、大勢の自閉症圏障害有、無の人々の中で新たな変異を同定した。この解析から、遺伝子におけるいくつかの新たな変異が明らかになり、これらが一緒になって孤発性自閉症圏障害の1%に寄与しており、このことは複数の遺伝子が自閉症圏障害の原因であるという意見を支持している。(KU,nk)
Multiplex Targeted Sequencing Identifies Recurrently Mutated Genes in Autism Spectrum Disorders

単一細胞の配列決定(Single-Cell Sequencing)

配列決定技術の急速な進展によって、いまや単細胞の配列決定が可能になり、細胞間の不均一性が生物の行動にいかなる影響を与えているかについての洞察も期待できるようになってきた。ゲノムの十分な範囲をカバーすることは難題のままだが、それは、単細胞配列決定が配列決定に偏りをもたらすゲノム増幅に頼っているからである。Zongたちは、新しい増幅法を報告している。複数アニーリング及びループ化依存の増幅サイクルで、ヒト細胞のゲノムカバー率93%にもなるものである(p. 1622)。この方法によるカバー率は、点変異とコピー数の変異を正確に検出することを許すものである。Luたちは、この方法を用いて、単一の個人から得られた99個の精細胞の配列決定を行なった(p. 1627)。減数分裂のクロスオーバーをマップすることによって、転写開始点近くでの組換え速度の減少(reduced recombination rate)と共にクロスオーバー事象が非ランダムな分布であることが明らかにされた。(KF,KU,nk)
Genome-Wide Detection of Single-Nucleotide and Copy-Number Variations of a Single Human Cell
Probing Meiotic Recombination and Aneuploidy of Single Sperm Cells by Whole-Genome Sequencing
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