AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 19 2012, Vol.338


ブラックホールのクローズアップ(Black Hole Close-Up)

M87 は、およそ5500万光年の遠くにある巨大楕円銀河である。中心にある大質量ブラックホールへ向けて物質が降着することにより、それに付随する相対論的ジェットにエネルギーが与えられると考えられている。ブラックホールの周辺構造を事象の地平線と同じくらいのスケールで探索するため、Doeleman たち (p.355, 9月27日付電子版) は、Event Horizon Telescope を用いて、波長 1.3mm で M87 の相対論的ジェットを観測した。この望遠鏡はアリゾナとカリフォルニア そしてハワイに設置された4台の電波望遠鏡からなる、特別の目的を持った超長基線長干渉計である。この解析によると、このジェットにエネルギーを与える降着円盤は、ブラックホールの回転と同じ方向に軌道運動していることが示唆されている。(Wt,nk)
Jet-Launching Structure Resolved Near the Supermassive Black Hole in M87

全部変更(All Change)

生態系、気候そして世界規模の金融システムのような複雑系における臨界転移の早期の予兆に関する研究は、近年加速しつつある。同時に、複雑なネットワークに関する研究によって、どのような構造がシステムに崩壊をもたらす弱点の原因となるのか、という点が明らかにされ始めている。Schefferたちは(p.344)、以前は独立して進められていた研究がどう関連付けられるのかという点について報告しており、多数の臨界転移(例えば貧困の罠を逃れる)が前向きな結果をもたらすことを結論し、そして脆弱性を探知する新しい手法が、望ましい変化結果を得る際の危険性と可能性の双方を探るのに役立つことを強調している。(Uc,nk)
【訳注】貧困の罠:収入増加で補助金等がなくなり、かえって貧困となること
Anticipating Critical Transitions

概日性時計周りの転写(Transcription Around the Clock)

哺乳類の生理と行動における日常的なリズムを制御している生体時計は、その大部分を転写イベントにより制御されていると考えられている( Doherty and Kayによる展望記事参照)。Koikeたち(p. 349,8月30日号電子版)は、24時間周期に渡るマウスの全体的な肝臓のゲノムに関するこれら転写イベントの包括的な解析を行った。周期的なメッセンジャーRNA転写物の僅か25%のみが、新規な転写によって駆動されており、このことは転写後のイベントもまた、哺乳類の時計に重要な調節的役割を果たしていることを示唆している。生物体における生物学的タイミングもまた、環境からのリズム性の合図に応答する。Morfたち(p. 379,8月23日号電子版)は、このような合図の一つ、外界温度の周期的な変化が、哺乳類細胞の概日性のタイミングにどのように影響するかを調べた。体温が低下したときに、寒さ-誘発性のRNA-結合タンパク質(CIRP)が蓄積する。CIRPの結合パートナーに関する系統的研究により、概日性時計の中核的成分をコードしているRNAが同定された。CIRPの欠損は概日性遺伝子の発現の振幅を減少させ、そしてCIRPを欠如している細胞はより速く温度サイクルに適応した。(KU,nk)
Transcriptional Architecture and Chromatin Landscape of the Core Circadian Clock in Mammals
Cold-Inducible RNA-Binding Protein Modulates Circadian Gene Expression Posttranscriptionally

量子ドットを越えて(Beyond Quantum Dots)

半導体コロイドナノ粒子、すなわち量子ドットはその特異的な物性から高い関心を集めている。現在問題となっている課題の一つは、コロイド粒子の自己集合を制御してより大きな構造、たとえば基板上の2次元格子や3次元超粒子を創造することである。Wangらは(p.358)、CdSe/CdSからなる半導体ナノロッドを2段階で自己集合させ、メゾスコピックなコロイド超粒子を作製している。その超粒子は数百ナノメートルから数マイクロメートルの大きさの明確な超結晶ドメインを有しており、また構成要素であるロッドの数を制御することによって超粒子の形状を制御できるという。針状の超粒子からなる薄膜は偏光発光ダイオードとしても機能するという。(NK,nk)
Self-Assembled Colloidal Superparticles from Nanorods

光のねじれ(A Twist of Light)

光子の角運動量は、情報を符号化したり伝達したりするのに用いることができる。Cai たちは(p. 363)、再構成可能でスケーラブルなシリコンフォトニックチップから、制御可能な軌道角運動量状態の光を作り出し、放射する方法を開発した。角度付き回折格子に埋め込まれたマイクロリング共振器を用いることにより、共振器のウィスパリングギャラリーモード(whispering gallery modes)での光伝搬において、光学的角運動量を盛り込むことができる。その方法は、相補性金属酸化膜半導体(CMOS)互換のシリコンチップ上に、光渦放射体を大規模に集積することを可能にするであろう。(Sk)
【訳注】ウィスパリングギャラリーモード:誘電体球内の光の共振現象
Integrated Compact Optical Vortex Beam Emitters

暑すぎる時代(Too-Hot Times)

気候温暖化は、生物絶滅のより直接的な原因、例えば海洋の無酸素化、を引き起こしたり増幅したりと、広範囲な絶滅事象をもたらす要因の一つとして挙げられてきた。Sun たち (p. 366; Bottjerによる展望記事参照)は、例外的な高温自体が、ペルム紀末期の期間におけるいくつかの絶滅の原因であったという証拠を示している。急速な温度上昇と同時期に、海洋哺乳類の多くの種や石灰藻(calcareous algae)と同様に、赤道地域において魚類相(ichthyofauna )の全般的な消滅が起きており、これは海洋の低緯度地域における高温効果と見なすことができる。海表面温度は40℃近くに達し、すると陸地での温度の変動はおそらくもっと高い温度にまで達し、陸地での熱帯地方の植物や動物の生存量を三畳紀初期の殆どの期間において低下させていたことが示唆される。(TO,KU,nk)
Lethally Hot Temperatures During the Early Triassic Greenhouse

炭素の年代測定(Dating Carbon)

放射性炭素年代測定法は、炭素を含み、かつこの手法での正確さの限界となる5万年以降の標本の年代を測定する方法としては最も優れた方法である。しかし、正確な年代測定を困難にするいくつかの要因がある。それら中の最も重要な要因として、大気中の放射性炭素14Cの生成の変動 (これは放射性炭素量が大気中の二酸化炭素で決まる有機物標本に影響する)、海表面貯蔵庫の影響 (これは海水から放射性炭素を獲得している海洋の標本に影響を与える)、そして変動性の由来不明な炭素(dead carbon)分画の影響 (これは鍾乳石(speleothems )に影響を与え、これらは地下水から炭素を得ている)が含まれる。Bronk Ramseyたち(p. 370; Reimerによる展望記事参照)は、こうした推定を必要としない、日本の水月湖の堆積層の14の結果を報告している。一年毎に層を成して年代決定が可能な堆積層内で見つかった顕微鏡なしでも見える大型の陸生植物化石を分析して、測定が可能である5万2800年前までの全期間に対して、大気の放射性炭素の直接的な記録を作り出した。(TO,KU,nk)
A Complete Terrestrial Radiocarbon Record for 11.2 to 52.8 kyr B.P.

アフリカ人の起源(African Origins)

人類はアフリカで誕生し、全世界に広がっていった。サハラ砂漠以南のアフリカにおいてみられる高い遺伝的な多様性は、この見解と一致しているが、アフリカ人の集団間および集団内の関係は、あまりよく調査されていなかった。Schlebusch たちは(p.374, 9月20日号電子版)、南部アフリカのグループを代表する11の集団の220人の遺伝子型を同定し、彼らの関連性と履歴を確定した。データは、今日の人類集団が、集団間の複雑な混じり合いと遺伝的な層状構造から生じたことを示唆している。(Sk,bb)
Genomic Variation in Seven Khoe-San Groups Reveals Adaptation and Complex African History

リボソームで作られ、修飾される(Made and Modified)

リボソームで合成されるタンパク質はL-アミノ酸のみを含んでいると信じられている。ポリセオナミド(polytheonamides)は、海綿由来の48残基の毒物であり、多くの他の異常なアミノ酸修飾同様に、18個のD-アミノ酸を含んでいる。この複雑さを考えると、これらのペプチドは、非リボソーム的なペプチド合成酵素(NRPS)の産物であろうと推測されるであろう。しかしながら、Freemanたち(p. 387,9月13日号電子版)は、ポリセオナミドがリボソーム経路を用いる細菌性共生生物によって作られていることを示している。48の翻訳後修飾に対する6っの候補となる酵素が同定され、そして3っの酵素が機能的に確証された。このようなリボソーム系は生物工学において有用となるであろう。(KU)
Metagenome Mining Reveals Polytheonamides as Posttranslationally Modified Ribosomal Peptides

切断して去る(Cleave and Leave)

植物はエチレンガスを産生するが、これはホルモンとして作用し、そして果実の成熟や、病原菌への植物の抵抗性、ストレス条件への植物の適応性、および幹細胞の維持に必須である。エチレンガスのシグナル伝達経路の多くの成分はよく研究されて入るが、小胞体(ER)膜に存在するこのエチレンガスの受容体が、どのようにしてこのシグナルを核へ伝達しているかはほとんど知られていない。シロイヌナズナを研究することで、Qiaoたち(p. 390,8月30日号電子版)は、ERにおけるエチレンガスの検知により、膜貫通のETHYLENE SENSITIVE2 タンパク質のサイトゾル部分の切断と急速なER-核の転位置によってシグナル伝達が促進されることを見出した。ETHYLENE SENSITIVE2 タンパク質は、植物においてエチレン-依存性の遺伝子発現と他のエチレン応答性の表現型を活性化する。(KU)
Processing and Subcellular Trafficking of ER-Tethered EIN2 Control Response to Ethylene Gas

微妙なバランス(A Fine Balance)

知的および神経学的な障害は、発生上のさまざまな異常によって生じることがある。Novarinoたちは、このたび、小さな患者グループについて、そうした障害の1つの遺伝的基礎を決定した(p. 394,9月6日号電子版; またBeaudetによる展望記事参照)。エキソーム( ゲノムのタンパク質コード領域)配列決定は、バリン、ロイシン、イソロイシンなどの分枝鎖アミノ酸の代謝を制御するBCKDK(Branched Chain Ketoacid Dehydrogenase Kinase:分枝鎖ケト酸脱水素酵素キナーゼ)というキナーゼにおける変異の同定をもたらしたのである。BCKDK遺伝子にホモ接合性の変異をもつマウスは、ある種のマウス自閉症のそれに似た発生上および神経学的異常を示した。血液脳関門を越えてのアミノ酸輸送を担っている輸送機構を分析すると、分枝鎖アミノ酸と大きな中性アミノ酸の間の競合が明らかになった。BCKDK遺伝子にホモ接合性変異をもつマウスの食事に、余分な分枝鎖アミノ酸による栄養補充を行なうと、その表現型は正常なものとなった。(KF,KU)
Mutations in BCKD-kinase Lead to a Potentially Treatable Form of Autism with Epilepsy

リボスイッチを作る(Making a Riboswitch)

RNAポリメラーゼによるRNA合成の際に、新生RNAの折りたたみが始まる。この転写と同時に起きる折りたたみは、最終的な高次構造とRNA全体の機能に影響を与えることになる。単一分子分光法と光学的ピンセットを用いて、FriedaとBlockは、枯草菌のpbuEリボスイッチの同時転写性折りたたみを直接、リアルタイムに追跡し、アデニン結合アプタマー構造、あるいはそれに代わる転写ターミネータのヘアピン構造が形成されるのを観察した(p. 397)。それら構造は、その配列がRNAポリメラーゼの痕跡を消してから数秒以内に形成し、pbuEリボスイッチが動力学的に制御されていることを確認するものだった。(KF)
Direct Observation of Cotranscriptional Folding in an Adenine Riboswitch

遺伝子の複製、新たな特徴(Duplicate Gene, New Tricks)

機能の新たな遺伝子が出現したという事実は明瞭だが、新たな機能獲得をもたらす進化の過程はよくわかっていない。Nasvallたちは、遺伝子の複製後も祖先の機能は保持される一方で、複製されたコピーは、変異の蓄積や発現における変化などを介して選ばれた新たな機能を獲得できる、と示唆する「革新-増幅-分岐(innovation-amplification-divergence)」モデルを提示している(p. 384)。サルモネラ菌での実験的選択では、先祖遺伝子が3000世代以下で新たな酵素機能を進化させることが可能であった。(KF)
Real-Time Evolution of New Genes by Innovation, Amplification, and Divergence
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