AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 12 2012, Vol.338


ベスタの核まで(Vesta to the Core)

ベスタは、主小惑星帯のなかでは最も大きな天体のひとつである。かってはもっと大きな天体であったものの破片であるベスタは、多くの他の小惑星とは異なり、太陽系の初期に形成された原始惑星として生き残ってきたと考えられている(Binzel の展望記事を参照のこと, 9月20日付け電子版)。Dawn探査機に搭載されたガンマ線と中性子線検出器(Gamma Ray and Neutron Detector)を用いて得られたデータに基づき、Prettyman たち (p.242, 9月20日付け電子版) は、揮発性物質が欠乏している言われているベスタの表土は、炭素質コンドライトの衝突物体によって運ばれた相当の量の水素を含んでいることを示している。ベスタの窪みのある地域は、Dawn搭載の地形カメラによって観測され、Denevi たちによって解析された (p.246, 9月20日付け電子版) のだが、その地域には、揮発性物質が脱ガスされ、すなわち水和した物質が存在する証拠を与えている。最後に、Fu たち (p.238) は、ベスタに起源を有するひとつの隕石の古磁気を研究した。その研究によると、37億年前のベスタの表面には、磁場が存在していたことが示唆されており、これは、昔、磁気コアダイナモ機構が存在していたことを支持している。(Wt,KU,nk,tk)
Elemental Mapping by Dawn Reveals Exogenic H in Vesta’s Regolith
Pitted Terrain on Vesta and Implications for the Presence of Volatiles
An Ancient Core Dynamo in Asteroid Vesta

左右を区別する(Distinguishing Right from Left)

胚発生の際に殆どの脊椎動物において、節部(node)として知られる胚構造内部の繊毛の回転運動は、その後の体内器官の左右非対称性に必要となる一方向への流体の流れ(flow)を生成する。この流れは決定要因となる分子を運搬したり、あるいは物理的な力を与えるとされてる。しかし、この流れが胚によってどのように検知されるのかは明らかでなかった。Yoshibaたち(226p, 9月13日号電子版;NorrisとGrimesによる展望記事参照)は、マウスの胚におけるノード流(nodal flow)が、Pkd2依存的な仕方で、節部の縁に位置する原始節部細胞(perinodal cells)の繊毛によって検知されることを示している。Pkd2は、ヒトの多発性嚢胞腎に関係があるとされてきたCa2+-陽イオン透過性チャンネルである。(TO,KU)
Cilia at the Node of Mouse Embryos Sense Fluid Flow for Left-Right Determination via Pkd2

曲げて検証する(Bend to Straighten)

低温においては、ガラスのような無秩序な固体の振る舞いは、規則的な結晶のそれとはかけ離れている。この結晶状態との差異は、ほぼ同一のエネルギー状態にある二つの部位の間を (トンネル効果で)通り抜ける能力をある種の原子が持ち、二つの低エネルギー状態を形成することによって生じるのであろう。そのような二準位系(TLSs)はまた、超伝導キュービットにおけるデコヒーレンスの主な原因になっていると考えられている。Grabovskij たちは(p.232)機械的歪を用いて、超伝導キュービットのジョセフソン接合における無秩序な障壁で形成される TLSs のエネルギー準位間の分離を制御した。検出された TLSs のいくつかに対し、分離は歪の関数として予想された最小値を示し、無秩序な固体の TLSs モデルが検証された。(Sk,nk)
【訳注】キュービット:量子情報の最小単位(キュービットでは0と1の状態の量子力学的重ね合わせ状態もとることができる)
    デコヒーレンス:環境により量子力学的重ね合わせが壊れること
Strain Tuning of Individual Atomic Tunneling Systems Detected by a Superconducting Qubit

上昇しそして沈む(Rise and Subside)

マグマ流が下方から表面に向かって上昇する際に、地球表面は変形するが、それは通常、大陸地殻の隆起という形で現れる。 しかしながら、FialkoとPearseは(p.250;Brooksによる展望記事参照)、沈下もしくは広範な沈み込みが、マグマが上昇する際の隆起に伴うことを示している。中央アンデスのアルティプラノ-プーナ山脈の大質量のマグマの固まりが上昇しておりその結果、まるでソンブレロ(南米で用いられる頭頂部が高く幅広のつばがせりあがった麦藁帽子)のようにその隆起している地域の周囲を沈下させていることが、衛星からの観測によって明らかにされている。マグマが上昇する時、周囲の岩石を溶融することによって物質を引き込み、沈下を引き起こすのだ。(Uc,KU,nk)
Sombrero Uplift Above the Altiplano-Puna Magma Body: Evidence of a Ballooning Mid-Crustal Diapir

胚細胞の選別と移動(Embryonic Cell Sorting and Movement)

相異なる細胞の接着は、長いこと細胞選別を促進していると考えられてきた。Maitreたち(p. 253,8月23日号電子版)は、ゼブラフィッシュの原腸陥入における細胞選別が、細胞間接触での皮質の張力(これによって接触領域の拡大を制御している)を調節するその細胞の能力の差によってトリガーされることを示している。このプロセスにおいて、細胞接着は接触時に接着細胞の皮質を機械的に結合させることで機能しており、皮質の張力による接触領域拡大の制御を可能にしている。ゼブラフィッシュの被包において、外被の細胞層(EVL)(原腸胚の動物極で形成される表面上皮)は、卵黄細胞全体に徐々に拡がり、原腸陥入の最後に貪食される。収縮性のアクトミオシンの環はその外周の環の収縮によって多様な形態形成プロセスを促進している。Behrndtたち(p. 257)は、この環が収縮だけでなく、流体摩擦的メカニズムで機能していることを示している。彼らは、上皮の縁に結合したアクトミオシンの環が、その外周を収縮することと、そして逆行性のアクトミオシンの流れに対する抵抗による引っ張り力の発生によるこの双方によってEVLの拡大をトリガーしていることを示した。(KU)
Adhesion Functions in Cell Sorting by Mechanically Coupling the Cortices of Adhering Cells

相対的な冷たさ(Relatively Cold)

温度は、本質的に原子や分子の運動の目安である。低温とは試料が完全な静止状態にあることを必ずしも意味していない。重要なことは、その試料のすべてのメンバーが同じ速度で動いている(あるいは動いていない)ことである。それにもかかわらず、これまでの極端な冷却下で反応を研究する手法は分子を静止させることに集中しがちであった。Hensonたち(p. 234)は、別のアプローチを研究しており、そこでは異なる反応ガスの二本のビームが速度拡がりの非常に小さな状態で進む一本のビームへと合流される。相対速度が小さいため、その相互作用はミリケルビンの温度で生じ、例えばわずかのエネルギーシフトでイオン化確率が振動的に変化するといった非古典物理的な挙動を明らかにしている。(KU,ok,nk)
Observation of Resonances in Penning Ionization Reactions at Sub-Kelvin Temperatures in Merged Beams

正しい選択なのか?(The Right Choice?)

人がやってしまう、いわゆる、ばかげた決断は、「信じられないかもしれないが、実は・・」という類の話の素材である。しかし、我々が純粋に経済的または論理的な理由からは、もっともであるとは思えない選択をしてしまう時、実際には何が起きているのであろうか?おそらく、我々は単に間違いを犯しているわけではなく、我々の選択は、我々の気づかない内面的な先入観を反映しているのかもしれない。Wimmer と Shohamy は(p.270)、 海馬がいかにして評価における無意識の先入観を植え付けることができるのかを示した。それによって、それ自身では高価値ではないものが、本当に高価値を有するものと暗黙のうちに関連付けられた時、価値を増大させる。その結果、我々は、実際になぜかわからないまま、同等の客観的な価値を持つ普通のものよりも、関連付けがなされたものを好むことになってしまう。(Sk,ok,nk)
Preference by Association: How Memory Mechanisms in the Hippocampus Bias Decisions

光に感じる(Feeling the Light)

ショウジョウバエの眼の光受容体細胞中のロドプシンに、フォトンが 吸収される際に、開始される生化学的シグナル伝達のメカニズムに関する我々の理解には「失われた環」があった。ロドプシンの光異性化により、グアニンヌクレオチド-結合タンパク質が活性化され、ホスホリパーゼCの活性化に導く。しかしながら、ホスホリパーゼCが、その細胞応答の静止をもたらす一過性の受容器電位 (TRP)、あるいは一過性の受容器電位様 (TRPL)イオンチャネルをどのように活性化しているかは不明であった。Hardie と Franze (p. 260; Limanによる展望記事参照)は、物理的なメカニズムが作用していると提唱している。原子間力顕微鏡から、光受容器の光-誘発性の収縮が明らかにされた。物理的結合メカニズムと一致して、膜の操作により、受容器の光への応答が変化した。このように、膜における物理的な変化がホスホリパーゼCの活性を機械感受性のTRPとTRPLチャネルの開口に結びつけているらしい。(KU,ok)
Photomechanical Responses in Drosophila Photoreceptors

ずるい奴の制御(Cheat Control)

クオラムセンシング(quorum-sensing)の誘導において、カゼインなどの単一炭素源上に成長する緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)集団は或る個体密度に近づくと、彼らが集合的に分泌するシグナル伝達分子のレベルが、カゼインを消化するためのタンパク質分解酵素を合成、分泌するよう細胞の引き金を引く。しかしながら、タンパク質分解酵素を分泌するのは代謝的にコストがかかるので、その系は「ずるい」変異体をもたらすことになる。そのずるい奴はクオラムセンシングには応答せず、タンパク質分解酵素を合成するコストはかけないが、すべての細胞、つまりずるい奴と協力者、に同じように成長を可能にする崩壊産物から利益を得ることになる。Dandekarたちは、クオラムシグナル伝達に非感受性のずるい緑膿菌が、ヌクレオチド加水分解酵素を合成できず、そのために、カゼインをアデノシンに置き換えただけで成長できなかったことを発見した(p. 264)。このことは、協力者がずるいやつの生長を可能にし、「ずるい」やつと協力者の間の安定的平衡をもたらすことになる。この制御の原則は、他の細菌性クオラムセンシング系に適用可能であり、細菌の協力を破壊する薬剤の開発においても活用されるであろう。(KF,KU)
【訳注】クオラムセンシング(quorum-sensing)とは、一部の真正細菌に見られる、自分と同種の菌の生息密度を感知して、それに応じて物質の産生をコントロールする機構のこと。(wikiによる)
Bacterial Quorum Sensing and Metabolic Incentives to Cooperate

古代人のゲノム学(Ancient Genomics)

デニソワ(Denisovan)人とは、ネアンデルタール人と密接に関連する古代人で、その集団は現在の人類の祖先たちとオーバーラップして存在していた。一本鎖ライブラリ標本(single-stranded library preparation)法を用いて、Meyerたちは、高品位のデニソワ人のゲノムの詳細な解析結果を提示している(p. 222,8月30日号電子版)。そのゲノム配列は、デニソワ人における異型接合性が非常に低比率である証拠を示しているが、それは最近の近親交配のせいではなく、個体群の規模が小さかったためであった。そのゲノム配列はまた、現代人とネアンデルタール人を含む古代人の間の関係に光を当てるもので、ヒト系列内での遺伝的変化の一覧表をはっきりさせるものでもあった。(KF,ok,nk)
A High-Coverage Genome Sequence from an Archaic Denisovan Individual

携帯電話の「ホットスポット」(Mobile Phone "Hot Spots")

国家レベルのマラリア制御プログラムを開発する際の障害は、感染の重要な要素である人間の移動についての理解が欠けていることである。携帯電話が当たり前になったので、今や、人の移動に関する個人レベルでの長期にわたるデータを大規模に収集することが可能になっている。Wesolowskiたちは、1年間にわたるケニヤでの1500万人の携帯電話所有者の移動パターンを示す携帯電話のコールデータの記録を分析した(p. 267)。これが詳細なマラリアのリスク地図と組み合わせられ、人の移動によって引き起こされる国内でのマラリア寄生虫の移動が推定された。この情報は、何百もの局所的な人間の居留地域の間での寄生虫源、および巣窟の詳細な分析を可能にした。推定結果はナイロビの病院のデータと比較され、ナイロビ周囲で、首都には感染がないとされる通念に反して、その場所で罹ったケースがあることを説明できる局所的な感染孤立地帯が存在していることが明らかになった。(KF,KU,ok)
Quantifying the Impact of Human Mobility on Malaria
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