AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 5 2012, Vol.338


昆虫に対する植物の武器(Plant Anti-Insect Armaments)

個々の植物は場所を変えることができないため、 昆虫に摂食されるというひじょうに厳しい自然淘汰にさらされている。植物が摂食されるのを食い止めるひとつの手段は、毒性の化合物を作って摂食を阻止することである(Hareによる展望記事参照)。Agrawalたち(p. 113)は、殺虫剤処置された月見草と無処置の月見草を比較検討した。5年間に渡る殺虫剤の処置により、その果実の中の防御的化学物質の産生は減少し、開花の時期がシフトし、そして月見草のタンポポに対する競合能力が改善された。Zustたち(p. 116)は、モデル植物であるシロイヌナズナにおける多形性の化学的防御座位に関する大規模の地理的パターンを調べ、そしてシロイヌナズナだけを好んで食べる二種のアブラムシの相対的存在量の変化に合致していることを見出した。このように昆虫の摂食は、それへの植物の抵抗性形質と局所的な遺伝子型の組成とに対して、強力かつ即効性の影響を及ぼしている。(KU,ok,nk)
Insect Herbivores Drive Real-Time Ecological and Evolutionary Change in Plant Populations
Natural Enemies Drive Geographic Variation in Plant Defenses

地震物理学を作り上げる(Grinding Out Earthquake Physics)

研究室内で再現される地震は、多くの場合、大きくて被害を引き起こすような地震よりも、エネルギーとして何桁も低い。そのため、このようにして再現した断層に沿った動きが、大きな地震に関する物理学に、どの程度うまく当てはまるのかは不明であった。Chang たちは(p. 101; Shimamoto と Togo による展望記事参照)、円盤形状の岩石のサンプルと一緒に高速で回転する装置を用いて、マグニチュード4から8の地震に相当するエネルギーを生み出した。花崗岩とドロマイトの両者を用いた実験の結果は、大きな地震における断層ずれの低下が、破断現象に伴う強烈な加速度の産物である事を示唆している。(Sk,ok,nk)
Rapid Acceleration Leads to Rapid Weakening in Earthquake-Like Laboratory Experiments

均一な溶融(Homogeneous Melting)

結晶の核生成や溶融はまず表面や欠陥(相転移の際の熱力学障壁を下げる性質を持つ)から発生する。しかし、均一な環境においていつ相転移が発生するかの研究は大変困難である。Wangらは(p.87; Weeksによる展望記事参照)、レーザーを照射して結晶の内部で溶融を開始させることで、過熱コロイド結晶の均一溶融の可視化に成功している。著者たちは核形成先駆体と核成長過程を観測し、どのように欠陥や不安定要因が均一溶融過程を妨げるのか突き止めている。(NK.nk)
Imaging the Homogeneous Nucleation During the Melting of Superheated Colloidal Crystals

高次コイルのDNAに注目(Watching Supercoiled DNA)

DNAの二重らせんは付加的な捩じれ、すなわち高次コイルを形成して、転写やタンパク質結合に役立たせている。それはある程度までは、DNAの遠く離れた位置同士を近づける効果によってである。このプロセスにより、プレクトネメ(plectoneme:撚糸型コイル)と呼ばれる絡み合ったループが形成される。van Loenhoutたち(p. 94,9月13日号電子版;Sheinin and Wangによる展望記事参照)は、磁気ピンセットを用いて捩じれ力を与えることで蛍光性分子でラベルづけをした、21キロ塩基の繋がったDNA分子のプレクトネメの挙動を可視化した。プレクトネメはDNAに沿って拡散し、そしてもし新たな位置でプレクトネメスの核を形成する場合には「飛び跳ねて」、より迅速に移動する。(KU,nk)
Dynamics of DNA Supercoils

理論が理解を促す(Theory Drives Understanding)

過去数年にわたり、特に近年の人工または仮想の頭脳を創り出すことを狙いとしたいくつかの大きなプロジェクトが開始される状況下で、神経科学の分野における理論とシミュレーションの役割が、熱心に議論されてきた。Gerstner たちは(p.60)、数年にわたって理論とシミュレーションが、いかに相互に影響しあってきたか、またどのように脳が働いているのかについての我々の現在の見解に、いかに寄与してきたかについての概説を述べている。(Sk,nk)
Theory and Simulation in Neuroscience

マウスにおける自閉症を直す(Reversing Autism in Mice)

自閉症は、コミュニケーションや社会的相互関係における欠陥によって特徴づけられる神経発達障害を持つ異質なグループからなる。自閉症のうちの非症候性型のグループは、シナプス後の接着分子をコードしているニューロリギン(neuroligin)遺伝子の変異と関係している。可逆的なノックアウトアプローチを用いて、Baudouinたち(p. 128,9月13日号電子版)は、マウスの小脳におけるニューロリギン-3のin vivoでの機能を調べた。変異マウスは代謝型グルタミン酸受容体-依存的長期増強;分裂した異シナプス性競合;および異所性シナプス形成に大きな欠陥を示した。これらのシナプス欠陥は、成体においてニューロリギン遺伝子の再活性化により救われるであろう。(KU)
Shared Synaptic Pathophysiology in Syndromic and Nonsyndromic Rodent Models of Autism

二酸化炭素削減に手を貸す(Lending a Hand to CO2 Reduction)

植物や微生物は、何千年もの間たやすく二酸化炭素を二酸化炭素を還元してきているが、人類にとってはそれはいまだ極めて困難なことである。二酸化炭素を燃料や日常的化学製品に変換するための、経費対効果の高い合成手法があれば、原油の削減を補充し(おそらく究極的には置き換え)、かつ温暖化ガスの大気濃度を減少させるという二重の恩恵をもたらすであろう。この最終目標に向けて、Costentinたちは(p.90)、二酸化炭素の一酸化炭素への電気化学的還元反応における鉄触媒(鉄テトラポルフィリン)が、リガンドの構造に付加されたフェノール置換基によりこの反応を効率的に進めることを示している。(Uc,KU,nk)
A Local Proton Source Enhances CO2 Electroreduction to CO by a Molecular Fe Catalyst

複雑な歯の問題(A Toothy Problem)

馬やバイソンなどの大型の草食動物は、複雑な臼歯を持っていることはよく知られており、それにより堅くて、セルロースの豊富な植物を食べやすくしている。カモノハシに似たくちばしのあるハドロサウルス科の恐竜も、また複雑な歯を持っているが、爬虫類は一般的に単純な歯を持っているため、これをどのように獲得したのかが解明されていなかった。Erickson たち(p. 98)は、ハドロサウルスは6つの組織から構成される歯をどのように進化させてきたのかを示している。これにより現在の草食性哺乳類の歯に匹敵する、あるいはそれ以上に優れた複雑な歯を発達させることができるようになった。(TO,KU)
Complex Dental Structure and Wear Biomechanics in Hadrosaurid Dinosaurs

重力について一生懸命考える(Puzzling Through Gravity)

科学が授業によって事実として教えられる時、科学的な発見の興奮の多くは、失われてしまうように思われる。Granger たちは(p. 105)、質問型の授業とより伝統的な授業法を比較した場合の成果に関する、大規模な研究の結果を発表した。4年生と5年生の125クラスで、2000人以上の生徒が参加した。生徒たちはモデルと証拠によって、科学への理解力を自分自身で向上させるよう誘いかけるよう作られたカリキュラムで宇宙科学を勉強した。自分達のモデルを裏付けるための証拠を用いるように勧められた生徒たちは、その内容に対してより理解が深まったように思われた。(Sk,nk)
The Efficacy of Student-Centered Instruction in Supporting Science Learning

微生物と癌の関係(Of Microbes and Cancer)

炎症は明きらかに腫瘍形成を促進する。例えば、炎症性腸疾患を持つ患者は直腸結腸癌(CRC)発生のリスクが大きい。腸内微生物叢も、またCRCの発生に寄与しているかどうかは定かではない。Arthurたち (p. 120, 8月16日号電子版 ; Schwabe and Wangによる展望記事参照) は、マウスのCRC炎症促進モデルにおいて、微生物叢が実際に腫瘍形成を促進していることを示している。無菌のマウスは癌発生を抑制したが、大腸菌のコロニーだけでマウスの腫瘍を促進するのに充分であった。(KU,nk)
Intestinal Inflammation Targets Cancer-Inducing Activity of the Microbiota

麻薬への応答の制御(Regulating Opioid Responses)

依存性の薬物に違いはあれど、それらは共通の機構を用いて、脳内の類似した報酬系を乗っ取って利用していると考えられている。しかしながら、Kooたちはこのたび、阿片の報酬を制御する神経機構のうちのあるものが、覚せい剤による報酬を制御する機構と異なるだけでなく、逆のものでありうることに気づいた(p. 124)。マウスにおける腹側被蓋野の脳由来神経栄養因子(BDNF)をノックダウンすると、コカインへの応答が拮抗(中和)され、同じ操作によって阿片がドパミンニューロン興奮性を増加させる能力を強化した。側坐核のドパミン作動性末端に光遺伝学的刺激を与えると、モルヒネ報酬遮断に関するBDNFの効果を逆転させた。(KF,KU )
BDNF Is a Negative Modulator of Morphine Action

腸よ、汝自身を癒せ(Gut, Heal Thyself)

食物や薬剤、そして病原体、これらはすべては、われわれの腸への日々の脅威を代表するものである。幸運なことに、腸はそれ自身を補修するのに長けている。しかしそれはどのようにしてか? マウスを研究する中で、Miyoshiたちは、腸の幹細胞を含む腸の陰窩を選択的に傷つけ、その修復プロセスを観察した(p. 108,9月6日号電子版; またBarrettによる展望記事参照)。陰窩の再生には、非標準のWntリガンド、Wnt5aが必要とされた。Wnt5aは腸の幹細胞増殖を抑制し、それによって逆説的に、陰窩組織の再生を促進したのである。(KF)
Wnt5a Potentiates TGF-β Signaling to Promote Colonic Crypt Regeneration After Tissue Injury

脳での価値決定の特徴(Salience, Values, and Decisions)

脳はいかにして価値に基づく決定をするのだろう? これには、競合する主要な2つのモデルがある。価値に関するモノ・モデルと行動モデルである。LeathersとOlsonは、この2つの見方のどちらであるか判断するための決定的実験を設計した(p. 132)。サルの脳においては、外側頭頂間ニューロンが大きな報酬と大きなペナルティーの双方を予測する刺激に対して強く応答していて、これは報酬の値よりも刺激の特徴をコード化するものであり、どちらのモデルをも論破するものだった。(KF,ok)
In Monkeys Making Value-Based Decisions, LIP Neurons Encode Cue Salience and Not Action Value

信念の変更(Changing Your Belief)

行動の柔軟性を示す能力は、その環境についての内部表現、すなわち経験をもとに調整可能な複数の信念からなる枠組みに依存している。ラットの中央前頭前野に刺した複数の電極からの記録によって、Karlssonたちは、行為と報酬との随伴性についての知識を修正しなければならないタスク遂行の際に、ニューロンの集団がいかにしてその活性を変えるかを調べた(p. 135)。この結果は、行為と結果との随伴性への認識の変化には、ラットの中央前頭前野における神経細胞表現における突然の切り替えが伴っていたことを示唆するものだった。(KF,KU,nk)
Network Resets in Medial Prefrontal Cortex Mark the Onset of Behavioral Uncertainty

ブラックホールの近くで(Close to a Black Hole)

われわれの銀河の中心には、太陽質量の400万倍のブラックホールが存在する。Keck Observatory からのデータを用いて、Meyer たち (p.84) は、このブラックホールの周りを11.5年の周期で軌道運動する星を検出した。この周期は、そのブラックホールを周る星の中では最も短いものである。そして、この星は、20年以下の周回周期のもののなかでは、良くデータが取られている2番目の恒星である。短周期で、かつ、周回軌道上の全位相のデータのあるこの二つの星の詳細な知見は、大質量ブラックホール近傍の重力場における Einstein の一般相対論の検証に決定的な役割を果たすであろう。(Wt,nk)
The Shortest-Known?Period Star Orbiting Our Galaxy’s Supermassive Black Hole
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