AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 31 2012, Vol.337


ミトコンドリアの振る舞い(Mitochondrial Dynamics)

細胞の発電所であるミトコンドリアは、彼ら自身のゲノムを有する独立した小器官である。細胞内で、ミトコンドリアは細胞質の周りを激しく、常に移動し、そして融合と分裂反応を行っている。Youle と van der Bliek (p. 1062)は、ストレスへの細胞応答におけるミトコンドリアの融合と分裂のその重要さをレビューしており、これら融合と分裂の阻害はパーキンソン病を含む多様な病気に重要な役割を果たしているらしい。Hoppins and Nunnariの展望記事において、彼らは小胞体がミトコンドリアの分裂に積極的に関与していることを説明し、そしてミトコンドリアの挙動と細胞死がどのように結びついているかを考察している。(KU)
Mitochondrial Fission, Fusion, and Stress

ダークフォース(Dark Forcing)

煤、すなわち、黒色炭素はどこにでもある大気汚染物質で、その温暖化効果は二酸化炭素に次ぐ可能性がある。黒色炭素が放出されると、他のエアロゾルと結合して不均質な混合物を作り出す。モデルでは、黒色炭素と他の物質の内部混合によって、吸収される輻射量は二倍になりうると予測されていた。Cappa たち (p.1078) は、これらの大気中の黒色炭素を含む混合物粒子が吸収する輻射量増加のその場測定により、その影響はずっと小さいことを報告している。これから、多くの気象モデルは、黒色炭素の放出で引き起こされる温暖化量を過大に推算している可能性がある。(Wt,KU,ok,nk) 【訳注】Dark Forcing:映画「スターーウォーズ」用語
Radiative Absorption Enhancements Due to the Mixing State of Atmospheric Black Carbon

密集した中での振動(Vibrating in a Crowd)

高真空中の分子線の研究により、分子が反応する際の、特定の振動や回転の役割を非常に細かく知ることができる。Glowacki たちは(p. 1066; Tyndall による展望記事参照)、今回、分光法と理論モデルの組み合わせにより、実際の大気と同等の条件の下では、アセチレンの酸化は、衝突によるランダム化の前に、部分的に、振動励起による中間状態を経て進行することを示した。(Sk,nk)
Interception of Excited Vibrational Quantum States by O2 in Atmospheric Association Reactions

ワイヤーのふりをする(Pretend Wires)

低温原子ガスは、量子臨界などの固体中の現象をシミュレーション(模倣)するのに貢献してきた。しかし、量子ワイヤーにて発現するメゾスコピック電子伝導現象をシミュレートするのは困難であった。Brantutらは(p.1069,8月2日号電子版)、フェルミオンである6Li原子(電子を模倣)で満たされた2つのタンクを細いチャネル(ワイヤーを模倣)で結合し、磁場勾配によって非平衡状態を作り出し、チャネル内の流れを観測した。原子の平均自由行程がチャネルの長さを超えた瞬間に、チャネル内の原子密度が、中心部では一定になり、端部でのみ変化する現象が見られ、接触抵抗の存在を示唆している。また、レーザーにより不純物に該当するポテンシャルを導入導入して作られた、それと正反対の拡散的伝導領域では、チャネル内原子密度に一様な勾配が現れた。(NK,nk)
Conduction of Ultracold Fermions Through a Mesoscopic Channel

プラズモン励起の境界(Boundaries on Plasmonic Excitations)

金属のナノ構造中では、光の場の局在化により入射光の場の強さよりも数桁大きな強さを得ることができる。この光の場の集中と増強は、センシング、非線形光学素子、光散乱の応用などに有用であると思われる。金属ナノ粒子の特性を調べることにより、Ciraci たちは(p. 1072; 表紙参照)、この増強が金属内電子の応答によって制限されることを示している。これはナノ光学系の性能極限に深く関係する結果である。(Sk,KU,ok,nk)
Probing the Ultimate Limits of Plasmonic Enhancement

きれいな水のしょっぱい起源(Salty Origins of Fresh Water)

アマゾン雨林上の雲の水滴は、ほぼ全て有機エアロゾルを囲んで形成されるが、そのエアロゾルの起源は謎に包まれている。Pohlkerたちは(p.1075)、アマゾンの植物から放出されるカリウム塩を豊富に含む粒子が、有機エアロゾル粒子の成長の種結晶として作用し、これが水滴の凝結核として機能することを報告している。生物起源の塩のこれら小粒子は、イソプレンやテルペン(多種類のアマゾンの植物によって大量に作られる分子である)の空気酸化によって形成される低揮発性、もしくは多少揮発性の有機化合物の濃集に必要な表面を与えている。(Uc,KU)
Biogenic Potassium Salt Particles as Seeds for Secondary Organic Aerosol in the Amazon

カールがカールを招く(Curls Beget More Curls)

キュウリのつるは、何かくっ付くものを見つけるまで伸びていき、それから巻き付いて縮み、植物本体を太陽に向けて引っ張り上げる。Gerbode たちは(p.1087)、キュウリのつるの巻き付きの生物工学的メカニズムを分析した。その過程は、つるの中の細胞の薄層に依存しており、それは巻き付きの過程で木質化していく。延伸したシリコーン樹脂シート、布製のリボン、および銅線からなる構成体により、巻き付きの機能が非生物的な材料で再現された。物理的および数学的モデルにより、キュウリのつるが先に進む場合、はじめに巻き付きすぎるという独特の反応が明らかになった。(Sk)
How the Cucumber Tendril Coils and Overwinds

皮膚特異的な(Skin Specifics)

人体に棲みついている何兆もの細菌に関して示された最近の関心のほとんどは、腸に棲む細菌に注がれていた。Naikたち (p. 1115, 7月26日号電子版)は、皮膚におけるエフェクターT細胞応答の調節において皮膚への共生細菌のコロニー形成が重要であり、そしてこのコロニーはマウスにおいて寄生虫森林型熱帯リーシュマニアによる皮膚感染症に対する防御免疫に重要であることを報告している。対照的に、腸微生物叢の選択的除去(これは腸における免疫応答の調節に重要な役割を果たしている)は、皮膚におけるT細胞応答に何らの影響をも与えなかった。(KU,nk)
Compartmentalized Control of Skin Immunity by Resident Commensals

進行中の自然選択(Natural Selection at Work)

自然界において、新たな機能の進化を捕らえ、そしてその進化の選択的パラメータを確定することは、大変に難しい課題として残っている。Prasadたち(p. 1081)は、ロッキー山脈に生息しているシロイヌナズナ類、 Boechera strictaの食性と生存に関する天然の対立遺伝子多形の分子基盤とその影響を証明することでこの課題の解明に着手した。(hk,KU,ok)
A Gain-of-Function Polymorphism Controlling Complex Traits and Fitness in Nature

炭素損失への真菌犯人説(A Fungal Culprit to Carbon Loss)

幾つかの生態系、たとえば植物の根や菌類、および細菌を含む土壌層において、CO2濃度の増加はより効率的な地上の光合成を刺激し、次に無胞子菌根の菌類の保護的作用により土壌中に有機炭素の隔離増加を促進するはずである。しかしながら、将来の放出シナリオと整合すると考えられるCO2の増加レベルの元で行われた一連の野外実験、および小世界の実験において、Cheng たち (p. 1084; Kowalchukによる展望記事参照)は、これらの菌類が実際には、土壌の有機炭素の分解を促進し、そのプロセス中でより多くのCO2を遊離することを観察した。(KU)
Arbuscular Mycorrhizal Fungi Increase Organic Carbon Decomposition Under Elevated CO2

上皮の防御力(Epithelial Defense Force)

食道を裏打ちしている上皮を維持し、治癒する細胞の性質に関して多々議論されてきた。Doupeたち(p. 1091, 7月19日号電子版 ;Kushnerによる展望記事参照)は、他の多くの組織と異なり、マウスの食道にはゆっくりと循環する幹細胞が欠如していることを示している。その代わり、上皮は単一の増殖細胞の集団によって維持され、修復されており、この増殖細胞が傷の近くで恒常的な反応から「修復モード」へと急速に切り替わる。(KU,ok)
A Single Progenitor Population Switches Behavior to Maintain and Repair Esophageal Epithelium

概日時計の調節(Modulating the Clock)

広範囲の生理的プロセスと概日時計との密な関係により、時計-調節性低分子の同定は、概日性睡眠障害、循環器疾患、癌、代謝疾患等の概日時計-関連の病気の治療に役立つであろう。 Hirota たち (p. 1094, 7月12日号電子版)は、ヒト骨肉種の株化細胞における概日時計の周期に影響を与える化学物質をスクリーニングした。 KL001と呼ばれるカルバゾール誘導体が、クリプトクロムタンパク質のタンパク質分解を抑制することで作用しており、これが次に概日周期の延長をもたらしていた。KL001はまた、マウスの幹細胞の初代培養においてグルカゴン-誘発の糖新生を抑制した。(KU)
Identification of Small Molecule Activators of Cryptochrome

DNAを柔軟に保つ(Keeping DNA Flexible)

DNAが伸縮自在に振舞えることは、DNAが屈曲したり、ループ化したりする生化学的過程にとって重要である。しかしながら、持続長(およそ150塩基対)以下の長さでのDNAの柔軟性については、かなりの議論がなされてきた。広く用いられている近似法、ミミズ鎖(wormlike chain)モデルでは、短いDNAは硬いことを予想している。VafabakhshとHaは蛍光アッセイを用いて、DNAの単一分子の環化を直接的にモニターし、67塩基対から105塩基対の間で顕著なループ化が起き、ループ化速度の DNA 長さ依存性はほんの少ししかないことを発見したが、これはミミズ鎖モデルとは整合しない(p. 1097; またNelsonによる展望記事参照)。その代わり、DNA結合タンパク質は一過性の屈曲やループ化したDNAの高次構造を安定化させている可能性がある。(KF,KU,ok,nk)
Extreme Bendability of DNA Less than 100 Base Pairs Long Revealed by Single-Molecule Cyclization

そこそこならそこそこに(Good Enough Can Be Good Enough)

なぜ、ある種の酵素が無差別に、多くの基質をもっている一方、他の酵素は高度に特異的であるのか、また、なぜ、あるものは高い活性を示すのに、他のものは最適化されていないのか、を理解する手始めに、Namたちは細菌における代謝ネットワークを分析した(p. 1101)。専門化した酵素は生命にとって必須であり、酵素活性の高い代謝速度を触媒していて、より高度に制御されている。しかしながら、すべての酵素が特異性と効率を徐々に改善できてきたわけではない。一般的な酵素はそれ自身の目的を良く果たしているので、さらなる最適化は進化のコストに見合わないということらしい。(KF,KU,nk)
Network Context and Selection in the Evolution to Enzyme Specificity

農地から病院へ?(From Farm to Clinic?)

土壌生物は、長らく抗生物質耐性遺伝子の重要な源だと考えられてきたが、それは部分的には抗生物質処置された家畜のせいであり、また部分的には、土壌中での抗生物質産生の自然な生態学のせいでもあった。Forsbergたちはメタゲノムのプロトコルを開発し、すべての抗生物質クラスにおける12種の異なった薬剤を用いて、抗生物質選択実験後の短い読み取り配列データを集め、土壌細菌と臨床の場で生じた病原体との間で抗生物質耐性を比較した(p. 1107)。7種の遺伝子産物を表す16種の配列が、臨床の場での病原性プロテオバクテリアと完全にヌクレオチド同一性の配列を農地の土壌細菌中で発見されたのである。(KF,KU)
The Shared Antibiotic Resistome of Soil Bacteria and Human Pathogens

海洋のメタン(Ocean Methane)

メチルホスホン酸(methylphosphonate)は、天然物だろうか? もしそうなら、リンを求める微生物によるその異化反応で、海洋におけるメタンの遍在を説明できるかもしれない。嫌気性古細菌は、メタンの有意な源としてこれまでに知られた唯一のものである。そこで、Metcalfたちは、広範に広まっている古細菌 Nitrosopumilus maritimus 中での、メチルホスホン酸の生化学の証拠を探し求めた(p. 1104)。この生物はホスホエノールピルビン酸ムターゼを用いて、C-P結合を合成できる。その遺伝子 ppmをマーカーとして用いることで、ありうるホスホン酸塩生合成遺伝子集団が同定され、これに隣接して cupinの遺伝子も発見された。Fe(II)とO2とともに、cupinはメチルホスホン酸とギ酸塩の産生を触媒していた。そのcupin遺伝子の相同体は、Pelagibacter ubiqueやProchlorococcusなどの広範囲のありふれた海洋微生物中に見いだされた。(KF)
Synthesis of Methylphosphonic Acid by Marine Microbes: A Source for Methane in the Aerobic Ocean

二重の脱獄者(A Double Escapee)

Toll様受容体(TLR)のTLR2とTLR7は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)などのグラム陽性菌の免疫系による検知に貢献していると考えられている。しかしながら、これら受容体を欠くマウスですら、それら細菌による感染に対する感受性はある。Oldenburgたちは、TLR13もまたグラム陽性菌の検出に役割を果たすことを実証している(p. 1111,7月19日号電子版)。TLR13は細菌性23SリボソームRNAのペプチド転移酵素ループ中に保存されたある領域を認識した。興味深いことに、この同じ配列は、エリスロマイシン(erythromycin)に抵抗性を与える特異的なメチル基転移酵素によって修飾される。実際に、エリスロマイシン-耐性菌はもはや、TLR13によって検知できないものになったのである。(KF)
TLR13 Recognizes Bacterial 23S rRNA Devoid of Erythromycin Resistance-Forming Modification
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