AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 17 2012, Vol.337


カメレオンロボット(Mechanical Chameleon)

広範な種類の動物は、カモフラージュの手段として自分の色模様や外見を変えて環境に適応する。これは、色、コントラスト、模様、形を変化させることによって達成される。Morin たちは(p. 828)、基礎的なレベルで、これらの特徴のいくつかを、持ち運び可能で、屈曲可能な、軟らかい機械に貼り付けたマイクロ流体層という形で、付加することができる事を示した。流路に異なる液体を流すことにより、ロボットは自分の色や全体的なコントラストを変化させることができ、それによって、ロボットが置かれている外観の背景に溶け込ませることができた。逆に、異なる温度の液体を流すことにより、見た目の色を変化させずに、ロボットの赤外線プロフィールを変化させることができた。(Sk,KU,og,nk,ok)
Camouflage and Display for Soft Machines

高温超電導の状況(A State of High Tc Superconductivity)

銅塩系が示す高温超電導は、競合する秩序を伴って発生することが理論的に予測されているが、これまでに明確に観測された事例は2例しかない。ランタンベースの銅塩系においては、いわゆる縞状秩序が観測されている。同縞状秩序は電荷―スピン変調が共存した状態であり、転移温度Tcが減少するある特有のドーパント濃度で発生する。Ghiringhelli等は(p.821、7月12日号電子版;Tranquadaの展望記事参照)共鳴非弾性X線散乱を用いて、不純物の少ないYBCO銅塩系において2次元の電荷秩序が存在することを明らかにしている。電荷の縞状変化の巾は格子定数と整数比関係にはならず、またYBCO特有の酸素鎖にも起因しないという。この電荷秩序は、限られたドーパント濃度範囲内でしか発現せず、また超伝導性と競合しており、転移温度にプラトー領域が現れる原因となっている。(NK,nk)
Long-Range Incommensurate Charge Fluctuations in (Y,Nd)Ba2Cu3O6+x

アモルファスな結晶(Amorphous Crystals)

ふつう、結晶(crystal)というものは、原子や分子、あるいはその他の秩序ある単位が周期的に配列されて、より大きな構造をなしているもの、と考えられている。L. Wangたちは、C60 (フラーレン)のキシレン溶媒和化合物を室温で非常な高い圧力下で圧縮した(p. 825; またD. WangとFernandez-Martinezによる展望記事参照)。それが原因となってフラーレン分子は崩壊し、アモルファスのクラスターを形成するが、それぞれのクラスターは、挿入されたキシレン分子との相互作用のせいで、もとの結晶格子における位置を保持したままであった。つまり、アモルファスな構成要素から結晶が形成された。通常の気圧で加熱すると、キシレンは消滅し、その試料は完全にアモルファスになった。(KF,KU,nk)
Long-Range Ordered Carbon Clusters: A Crystalline Material with Amorphous Building Blocks

水が入り、オゾンが出ていく(Water In, Ozone Out)

成層圏のオゾン層消滅の危機状態は、南極のオゾンホールが発見、報告された、1980年代に大きな社会的問題となった。それ以降、他の地域、とりわけ、北極でのオゾン枯渇という恐ろしいものが確認されてきた。しかし、オゾン量の低下は、高緯度地方に限定されているわけでもなければ、Anderson たちが示したように(p.835, 7月26日付電子版; Ravishankara による展望記事を参照のこと)、塩素や臭素を含む人工化合物が成層圏に加わったことだけの結果でもない。アメリカ合衆国大陸上の大気からのデータによれば、対流により水蒸気が成層圏に注入されると、塩素や臭素を含む(主に人工的産物)フリーラジカルの化学反応に影響を与え、その結果、オゾン量低下を加速することが明らかになった。これらの水の注入という事象は、夏に最も一般的に発生するのだが、もしその頻度と強度が、地球温暖化の結果として増加するのならば、この過程は、成層圏のオゾン収支にとって重要になる可能性がある。(Wt,KU,nk)
UV Dosage Levels in Summer: Increased Risk of Ozone Loss from Convectively Injected Water Vapor

体内時計を合わせる(Synchronize Your Watches)

哺乳類では、脳の視交叉上核(SCN)にある概日周期の時計中枢が、生理学的な概日性の変化を調整し、他の末梢の体内時計を同期させている。T. A. Wang たちは(p.839, 8月2日電子版; Belle と Piggins による展望記事参照)、SCN におけるニューロンの電気的活性の一日の変化が、代謝の変化、特に代謝の一日の周期を反映する細胞内の酸化還元状態の変化によって、概日時計と結びついていることを報告している。ニューロン中の二種類のカリウムチャネルのコンダクタンスは酸化還元状態に敏感であり、そのためニューロンの膜電位と発火頻度は代謝活動の周期にリンクしている。(Sk)
Circadian Rhythm of Redox State Regulates Excitability in Suprachiasmatic Nucleus Neurons

侵入するDNAを溝に落とす(Ditching Invading DNA)

細菌や古細菌は、CRISPR(クラスター化した規則的に置かれた短い回文構造の繰り返し)/CRISPR-関連(Cas)と呼ばれるRNA-介在の適応性免疫系により侵入する外来性の核酸から自らを守っている。Jinekたち(p. 816,6月28日号電子版;Brounsによる展望記事参照)は、タイプUのCRISPR/Cas系に関して、トランス-活性化crRNA(これはpre-crRNAプロセシングに関与していることが知られている)と同様にCRISPR RNA(crRNA)の双方が、Cas9エンドヌクレアーゼに対して侵入する標的DNAを切断するよう指令するのに必要であることを見出した。更に、遺伝子操作したRNA分子はCas9エンドヌクレアーゼに対して特異的なDNA配列を切断して二本鎖DNAの損傷を起こすようにプログラムすることができた。(KU)
A Programmable Dual-RNA-Guided DNA Endonuclease in Adaptive Bacterial Immunity

別のキャップをかぶる(Take Another Cap)

細胞質タンパク質の選択的分解は、一義的にプロテアソーム(これはコアペプチダーゼと調節性のキャップから構成されている)によって仲介される。プロテアソームの20Sコアペプチダーゼは、もっぱら真核生物においては19S調節性粒子と、古細菌においてはPANと、そしてマイコバクテリアにおいてはMpaと一緒になって機能しているというのが今日の定説である。BarthelmeとSauer(p. 843,7月26日号電子版;Matouschek and Finleyによる展望記事参照)は、別のタイプのプロテアソームが古細菌において組み立てられており、それは20Sコアプロテアーゼとの複合体において二重-リングAAA+タンパク質、Cdc48から構成されているのではないかと述べている。(KU,nk)
Identification of the Cdc48-20S Proteasome as an Ancient AAA+ Proteolytic Machine

生物学が私にそうするようにさせた(Biology Made Me Do It)

機能障害的行動に生物学的な理由があるという証拠が提示された場合、裁判官は被告により軽い判決を課するようになるかも知れない。それは生まれつきの生物学が、彼らの行動の個人的な責任を小さくするという理由からである。一方において、それは又、より長い刑期に導く可能性もある。それはこのような生物学的性質が将来の犯罪行為に関するより高い危険性を伴なうという理由からである。Aspinwalたち(p, 846)は、現実のケースと密に近いモデル化したシナリオに関して、合衆国における全国的な裁判官グループからの判決意見を解析した。異なる二つの要因--生物学的基礎に関する証拠が提出されたかどうか、そしてそれが弁護側からか、あるいは検察側から提供されたかどうか--から、生物学が援用されたときには全体としての判決を軽くすることが明らかになった。(KU)
【訳注】ここでいう生物学とは個人の遺伝的要因や育った環境的要因をいう
The Double-Edged Sword: Does Biomechanism Increase or Decrease Judges' Sentencing of Psychopaths?

ディーゼルの排気ガスをクリーンにする(Cleaning Diesel Exhaust)

ディーゼルエンジンの排気ガスからの汚染物質を除去する方法の一つは、不完全燃焼のカーボンの煤をトラップし、次にNOから作られるNO2を用いてその煤を燃焼させることである:そうすることで、二つの汚染物質がN2とCO2に変換される。ディーゼルの排気ガスはガソリンエンジンの排気ガスと比べて比較的冷たく、そしてNOのNO2への変換には白金触媒を用いる必要があった。W.Wangたち(p. 832)はシミュレートされたディーゼル排気ガス実験において、Mn-ムライト(Sm,Gd)Mn2O3金属酸化物に基づいたより地球に豊富に存在する触媒が、75℃の低い温度でNOを酸化したことを報告している。分光学的研究と量子化学によるモデル化から、Mn-Mnの二量体の部位に形成されたMn-硝酸塩がNO2形成をもたらす重要な中間体であることが示唆された。(KU)
Mixed-Phase Oxide Catalyst Based on Mn-Mullite (Sm, Gd)Mn2O5 for NO Oxidation in Diesel Exhaust

場所細胞の作り方(How to Make a Place Cell)

海馬の場所細胞(place cell)は、40年にわたって研究されてきたが、その著しい空間的チューニング(spatial tuning)の根底にある機構は、まだ確立されていない。自由に運動するラットにおける、細胞全体のパッチ-クランプ記録を用いて、Leeたちは、海馬の錐体神経細胞におけるベースラインとなる膜電位を変化させた(p. 849)。膜電位が閾値に達した際の脱分極後に、場所細胞野(place field)が別のサイレントな錐体細胞で自発的に出現した。。海馬中の場所細胞と、嗅内皮質中の格子細胞は、動物における空間的ナビゲーションのための枠組みを提供していると考えられている。しかしながら、格子細胞において、そんなに顕著な六方晶系の対称性がいかにして出現するのかは、いまだに不明である。空間的行動を行なっているラットの嗅内皮質から、また海馬台前野および海馬台傍野中で記録することによって、Krupicたちは、それら構造中のニューロンに、多くの型の空間的周期性が存在していることを発見した(p. 853)。格子細胞は、自己組織化のダイナミクスによってうまれたこの大集合のなかの小集合を反映しているもののようである。(KF,KU,ok)
Hippocampal Place Fields Emerge upon Single-Cell Manipulation of Excitability During Behavior
Neural Representations of Location Composed of Spatially Periodic Bands

TOG領域をうまく使って(All TOGether Now)

αβ-チューブリンとは、微小管の重合サブユニットで、細胞分裂や細胞内組織化において必須の役割を果たす動的な重合体である。TOG領域とは、進化的に保存されたStu2p/XMAP215タンパク質のファミリー中に生じ、微小管伸長を促進するαβ-チューブリン結合モジュールである。Ayazたちは、結晶学的実験および生化学的実験を用いて、TOG1領域がグアノシン三リン酸結合αβ-チューブリンと高次構造-選択的なやり方で相互作用し、「湾曲した」微小管-不適合性の高次構造に優先的に結合することを明らかにした(p. 857)。この結合モードは明らかに、同じへテロ二量体への第二のTOG領域の類似の結合を排除するものであり、極性化した微小管の増殖を保証する助けになるものである。(KF)
A TOG:αβ-tubulin Complex Structure Reveals Conformation-Based Mechanisms for a Microtubule Polymerase

まっとうなお飾り(Truthful Embellishments)

カブトムシの角やシカの角、極端に長いトリの尾などの誇張された装飾は、典型的に、個体の繁殖能力に関する質を表すシグナルとして、性的選択の対象であると想定されているが、いかにしてそうなるのだろうか? Emlenたちは、誇張された形質に関する一般的な仕組みのモデルを提示し、インスリン応答経路への感受性で個体間の変動を説明できる、と提唱している(7月26日オンライン発行されたp. 860)。そうした装飾の誇張されたサイズと個体間の変動の増加は、個体の適応度のまっとうなシグナルである形質の性的選択の結果なのである。(KF,ok)
A Mechanism of Extreme Growth and Reliable Signaling in Sexually Selected Ornaments and Weapons
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