AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 20 2012, Vol.337


それは酸素である(It's the Oxygens)

銅塩高温超伝導体の走査型トンネル顕微鏡観測により、超伝導ギャップ(pseudogap:偽ギャップ)として知られているエネルギースケールやその臨界温度に関する驚くべきナノスケールでの不均質性が明らかにされた。これらの影響のいくつかはドーピングにより引き起こされる銅塩物質の化学的な乱れと相関していたが、しかし技術的な限界があるため、限られたエネルギー範囲のドーパント像だけが見えていたに過ぎなかった。Zeljkovicたち(p. 320)はこの範囲を拡大して、Bi2+ySr2-yCaCu2O8+xにおいて、残りの酸素欠陥の位置も明らかにした。(KU,nk,ok)
Imaging the Impact of Single Oxygen Atoms on Superconducting Bi2+ySr2-yCaCu2O8+x

原始のスープ(The Primordial Soup)

かつて、陽子と中性子は分割できないと考えられてきたが、現在ではクォークと呼ばれる素粒子から構成されていることが明らかとなっている。クォーク群はグルオンによって強く結合されており、これらはビックバン開始のマイクロ秒後のような極度に高温で、高密度でのみばらばらに分かれ、クォークとグルオンがごちゃ混ぜの「スープ」状のクォーク・グルオンプラズマ(QGP)と呼ばれる状態となる。QGPは極高温を達成できる重イオン衝突器により実験的に作り出すことができる。JacakとMullerは(p.310)は、本分野の研究進捗および極低温原子ガスやひも理論との予期せぬ関係について概説している。(NK,KU,nk)
The Exploration of Hot Nuclear Matter

クレーターからのコア(Crater Core)

北極近傍の高緯度地方は、気候に重大な影響を有しており、独特の一連の複雑なフィードバック機構をもつた領域を構成し、この複雑さが気候の作用を理解することを難しくしている。Melles たち (p.315, 7月21日付け電子版) は、北極の気候の280万年にわたる記録を明らかにしたが、その解明には、隕石衝突で350万年以上前に形成されたロシア北東の湖からの堆積物のコアを用いた。明白な氷河のエピソードは260万年前に始まったが、しかし残り70万年間にわたる軌跡を得ることができなかった。(Wt,KU,nk)
2.8 Million Years of Arctic Climate Change from Lake El’gygytgyn, NE Russia

風変わりなスピントランジスタ(A Different Spin Transistor)

典型的なトランジスタはソースとドレインから構成されている:ドレインへ流れる電流はゲートと呼ばれる第三の端子へ印加される電圧によって制御される。電荷チャージの代わりにスピン電流を使うスピンベースのエレクトロニクスにおいて、ソースとドレインは狭い半導体チャネルによって結合されている強磁性材料である。しかしながら、この設計では、低効率なのが悩みである。Betthausenたち(p. 324; ZuticとLeeによる展望記事参照)は均質な磁場とらせん状の磁場を組み合わせて、ドレインに流れる途中でスピンの向きを変化させたが、そこではスピン平均自由行程の何倍もの距離にわたってスピン情報を保存している。このトランジスタは、輸送が断熱性であるとき、即ちスピンが局所磁場に適応できるほど十分に遅いとき“オン”状態となり、その他の場合は“オフ”状態となる。(hk,KU,nk)
Spin-Transistor Action via Tunable Landau-Zener Transitions

磁気的に結合する(Magnetically Bound)

地球上での日常生活から連想する巨視的なスケールでは、磁力はかなり強いというイメージがあるかもしれない。磁石クレーンが運ぶ重たい荷物を考えてみよ。しかしながら、微視的には、人間が作り出せる磁場の強さは、原子を結合して分子を形成するクーロン力に対しては、ほんのわずかな外乱としてしか作用しない。Lange たちは(p.327; Schmelcher による展望記事参照)理論計算を用いて、ある種の星のすぐ近くの環境における原子の振る舞いを調べた。そこでの磁場は、地球上で達成可能な磁場の10,000倍以上となった。この結果は、スピン平行状態の水素原子や基底状態のヘリウム原子が互いに引き合って対となるような、全く異なる種類の化学結合の存在を予測している。(Sk,KU,nk,ok)
A Paramagnetic Bonding Mechanism for Diatomics in Strong Magnetic Fields

誰が誰に影響する?

社会科学の目的の一つは、人々の他の人々に対する影響力を評価する方法である。AralとWalkerは(p.337,6月21日号電子版)、人為的にコントロールせずに、大規模かつ無作為な実験に基づいて、社会的ネットワークでの影響力があるメンバーと影響を受け易いメンバーを特定できる一般的な手法について説明している。この手法は、1200万人のFacebookユーザーの見本例において、Facebookの商業的アプリケーションに対する消費者ニーズに対するメンバー間相互作用効果を見積もるために用いられた。高年齢のユーザーは、若いユーザーに比べて影響力を有しており、男性が女性に影響するよりも、女性は男性に対して影響力を有しており、そして、既婚者は提供された製品を採用する決断において、最も影響を受けにくかった。(Uc,KU,nk,ok,ogs)
Identifying Influential and Susceptible Members of Social Networks

性染色体の進化(Sex Chromosome Evolution)

ショウジョウバエは繰り返し進化的に新たな性染色体を産生している。XとY染色体を形成する際のその変化を理解するために、ZhouとBachtrog(p. 341)は、ショウジョウバエmirandaのゲノムの配列を決定したが、このハエはほぼ100万年前にネオ(新しい)-Xとネオ-Y染色体を形成した。そのデータは、性染色体上でのオスの機能選択するかメスの機能選択するかで今日も続いている争いを明らかにし、そしてY染色体の進化が、オスの機能に有利な遺伝子における遺伝子機能の欠損とオス特異的な適応に関する選択の双方によって特徴づけられることを示している。(KU)
Sex-Specific Adaptation Drives Early Sex Chromosome Evolution in Drosophila

少々の海の塩以上に(More than a Dash of Sea Salt)

硫黄のような主要元素の海洋における循環は、バクテリアによる有機物質の呼吸作用から海床における熱水噴出孔からのガス噴出に至るいくつかのプロセスに依存している。地質学的時代を通して、海床に積もった堆積物は、硫黄の循環や海水の化学的特性に関する主な変化の化学的記録を保存している(Hurtgenによる展望記事参照)。Halevyたち(p. 331)は、北米とカリブ海を含む層位学的データベース(stratigraphic database)を用いて硫黄同位体の変動(swings)を観測した。この現象をモデル化してみるとそれらの変動は、蒸発岩(evaporite)が再度溶けずに残るという変動性の高い保存量と黄鉄鉱(sedimentary pyrite)堆積層の高い生成量(high turnover)とに対応する事が判った。WortmannとPaytan (p. 334)は、過去1億3千万年にわたって堆積層の硫黄同位体における最も新しい2つの大きな変動をモデル化し、そして硫黄循環における短期間の急激な流動が、少なくとも部分的に蒸発岩の成長と溶解が原因で発生したことを示唆している。(TO,KU,nk,ok)
Sulfate Burial Constraints on the Phanerozoic Sulfur Cycle
Rapid Variability of Seawater Chemistry Over the Past 130 Million Years

レドックス状態が配偶子形成を刺激する(Redox Status Incites Gametogenesis)

生殖細胞は、染色体の補体が二倍体でなく一倍体であるという点で体細胞と異なる。動物において、生殖細胞は、一般的に発生の初期を除いて別々の系列のセットにより産生される。しかしながら、植物では保存された生殖細胞系列が欠如している。KelliherとWalbot(p. 345;Whippleによる展望記事参照)は、トウモロコシにおいて、生殖細胞の産生におけるキーとなるシグナルは低酸素状態であり、これが一般的な始原細胞の場から葯(雄ずいの一部)生殖細胞の分化をトリガーしている。特殊化した生殖細胞は、次に支持的な体細胞の分化を誘発する。(KU)
Hypoxia Triggers Meiotic Fate Acquisition in Maize

相互関係の多様性(Diversity of Interactions)

異なる種間に生じる捕食、競合、共生のような相互関係における多様性は、自然界の生態系の基本的特徴である。理論的モデルを利用して、Mougi と Kondoh (p. 349; および、Boydによる展望記事参照)は、多様な生態学的な相互関係が生物コミュニティーの安定化を支えており、結果として生物多様性それ自身を維持する要めとなっているのではないかと述べている。(Ej,KU,nk,ok)
Diversity of Interaction Types and Ecological Community Stability

リソソームのアミノ酸輸送体(Lysosomal Amino Acid Transporter)

シスチン症は、フリーなシスチン(天然アミノ酸であるシステイン2分子が酸化され、ジスルフィド結合を介して結合したもの)がリソソーム内に蓄積するという特徴をもち、それが腎臓や筋肉、網膜、中枢神経系における年齢依存的な問題をもたらす結果になる。この病気の原因となる遺伝子は、リソソームのシスチン輸送体をコードしている。シスチン症に対するもっとも効果的な治療薬はシステアミンである。システアミンはフリーなシスチンに作用すると、システイン1分子と、ジスルフィド結合したシステイン-シ ステアミン分子に転換する。これによりリソソーム内のシスチンは枯渇する。この転換反応による生成物はリジン類似体として、リジン/カチオン性アミノ酸輸送体によってリソソーム外へ放出されると推定されている。 Liuたちは順遺伝学的手法を用い、アポトーシス細胞やオートファゴ ソームが蓄積している線虫変異体を解析した結果、リソソームのリジン/アルギニン輸送体の分子的アイデンティティを明らかにしている(p. 351)。これによると、この分子がリソソームの機能とアミノ酸恒常性の維持にどのような役割を果たし、またいかにしてシステアミンがリソソーム蓄積症を軽減するかを説明できる、としている。(KF,ok,ogs)
【訳注】  順遺伝学的手法:でたらめに変異を入れて、その遺伝子の機能を探る手法
LAAT-1 Is the Lysosomal Lysine/Arginine Transporter That Maintains Amino Acid Homeostasis

私を放さないで(Never Let Me Go)

動原体は、染色体内の構造であって、有糸分裂の際に紡錘体の微小管と相互作用しているものである。生きている哺乳類細胞中の個々の動原体の変形を測定することによって、Dumontたちは、 動原体が微小管脱重合の自由エネルギーを、微小管との接触を失わずに、いかにして利用しているかを問うている(p. 355,6月21日号電子版)。動原体は、2つの機構的インターフェースを用いて、微小管と接触している。微小管の端近くにある能動的な力を生み出すインターフェースと、微小管格子沿いに少なくとも20ナノメーター離れたところにある、受動的摩擦性のインターフェースである。この分離した能動的および受動的インターフェースは、間欠的な力の産生と持続的な付着という、正確な染色体分配に必要とされる双方を可能にしているのである。(KF)
Deformations Within Moving Kinetochores Reveal Different Sites of Active and Passive Force Generation

一緒になるように生まれて(Born to Stay Together)

脳には非常に多くのニューロンが存在しているが、それ以上多くあるのがアストロサイトである。この影の立役者は、血液脳関門の維持や、ニューロンに対する安定した環境の提供など、多様な機能を遂行している。アストロサイトの機能多様性は、分子発現プロファイルの違いに反映されている。Tsaiたちは、マウスの脊髄の異なった領域に由来するアストロサイトに選択的に標識を付けて、すべてのアストロサイトが同等に作られているのではないことを発見した(p. 358,6月28日号電子版)。アストロサイトの近親性は、生まれた場所が共有されているかどうかによって定められるのである。(KF,ogs)
Regional Astrocyte Allocation Regulates CNS Synaptogenesis and Repair

大きさはあまり重要でない(Size Matters Less)

X-線結晶構造解析は、タンパク質や他の巨大分子の構造を明らかにするための中心的な研究手段である。しかしながら、X-線によって引き起こされるダメージに耐えるためには試料の格子中に十分な数の分子が必要であり、一般に、この方法を用いるためには大きな結晶に成長させておく必要がある。Boutet たちは(p. 362, 5月31日号電子版)、今回、自由電子レーザー源から放出される強烈なX-線パルスを用いることにより、ごくわずかな光量で、微細結晶の高分解能での構造解析データが得られることを示した。(Sk)
High-Resolution Protein Structure Determination by Serial Femtosecond Crystallography
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