AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 6 2012, Vol.337


長期に渡る停止(A Long Collapse)

地球温暖化と海洋酸性化により珊瑚礁は脅かされている。そのため、環境変化が過去において、どのように、そして何故サンゴ礁に影響を及ぼしてきたかをより良く理解することは重要である。Tothたちは(p.81)、中央アメリカのパナマ湾沿岸沖合のサンゴ礁の6000年にわたる長期の記録を報告している。サンゴ礁は約4000年前ごろから約2600年間実質的は成長が停止していた。このサンゴ礁系の成長の停止はおそらくはENSO、すなわちエルニーニョ・南方振動の変動の増大によって引き起こされていた。もしENSOの強さや頻度が今後増大するとしたら、これらのサンゴ礁や他の太平洋のサンゴ礁系の生存可能性は更なるリスクにさらされことになるかも知れない。(Uc,KU,nk)
ENSO Drove 2500-Year Collapse of Eastern Pacific Coral Reefs

ネットワークについて(Networkk,Network,Network)

我々の他者との相互関係が我々の多くの決定に影響を与えるというという事実から、我々が属するそのネットワークを特徴づける研究や、そしてまた最近ではネットワーク自体に介入してそれを変化させ、人々の行動を変えさせる研究が始められるようになった。このことは、組織を通しての情報の流れを加速したり、あるいはバイオテロリストのネットワークにおける弱点の発見等、多様な目的を持っている。Valente(p. 49)は、ネットワークに影響を及ぶすための多様な戦略に関してレビューしている。(KU,nk)
Network Interventions

Wnt/Fzの相互作用を解明する(Dissecting Wnt/Fz Interaction)

Wntタンパク質は膜受容体Frizzled(Fz)を活性化して、脊椎動物や無脊椎動物を発生の中心的経路を開始する。Wntsはパルミトイル化(CH3(CH2)14CO-)され、複雑な構造的、かつ機能的な特徴を持つ。Jandaたち(p. 59,5月31日号電子版;Bienz and Heによる展望記事参照)は、ツメガエルのWnt8(XWnt8)をマウスのFz8システイン残基に富む領域(CRD)と同時発現させ、精製を行い、そしてその複合体の結晶構造を決定した。Wntは、その第1の界面においてキーとなる役割を果たしている脂質グループとの結合を含め、二つの異なる部位でFz8CRDに結合している。双方の界面は保存されたアミノ酸を含んでおり、これがWnt/Fzの相互作用に関して既知の多面作用を説明するものであろう。(KU,ogs,nk)
Structural Basis of Wnt Recognition by Frizzled

形成途上の褐色矮星(A Dwarf in the Making)

褐色矮星(惑星と恒星との間の質量を有している)が、どのように形成されるかは謎である。フランスのアルプス山脈に設置された、ミリメートル波電波天文学研究所 Plateau de Bure 電波干渉計(the Institut de Radioastronomie Millimetrique Plateau de Bure Interferometer)による観測に基づいて、Andreたち(p. 69;Basuによる展望記事参照)は、いまだ形成途上にある褐色矮星を見つけたことを報告している。その結果から、褐色矮星は、熱核反応が起きている、我々の太陽のような恒星と同じ方法で形成されていることを示唆するモデルを支持しているが、他のモデルを排除するものではない。(KU,ok,nk)
Interferometric Identification of a Pre?Brown Dwarf

早い開花をトリガーするもの(Early Bloom Trigger)

春季の植物プランクトンの開花は、高度の栄養濃度が十分な太陽光と重層化した上部海洋層と結びついたときに生じる。海洋の重層化は、春の季節性の温暖化により海水が膨張して密度が下がり、下の層との混合を妨げる層を形成するために起こると考えられてきた。Mahadevanたち(p. 54;Martinによる展望記事参照)は、北大西洋亜寒帯からの上部海洋層の観測と海洋のモデルシミュレーションとを結びつけ、それにより初期の重層化は海洋の小さな渦の通過に伴う力学効果によって引き起こされることを実証している。これらの渦は、季節性の温暖化によって生じるよりも20日〜30日間開花の時を早めている。(KU,nk)
Eddy-Driven Stratification Initiates North Atlantic Spring Phytoplankton Blooms

量子もつれの根幹(Entanglement On Cue)

粒子間の量子もつれは量子力学の核として存在している。長距離量子通信、暗号化、量子ネットワークのような実用的用途に対して、もつれが伝達されなければならない。つまり、もつれを操作し、伝達可能なようにもつれ状態の存在をあるシグナルがフラグを立てる。Hofmann たち (p. 72;および、Volz と Rauschenbeutelによる展望記事参照) は、20メートル離れた異なる実験室に於いてトラップされた単一の原子を励起し、そして原子がもつれ状態にあるとき、励起された原子からの光子の操作、干渉、および検出を信号可能であることを示した。観測されたもつれ状態の程度は、もつれプロセスに関係する基本的課題を、それゆえ量子力学の根幹を調べるには十分である。(Ej,KU,nk)
Heralded Entanglement Between Widely Separated Atoms

ミスタークール(Mr. Cool)

原子のレーザー冷却は、特異な構造を有する電子遷移が存在するかどうかにかかっており、そのため比較的低密度の限られた種類の原子に対してしか現実的ではない。代わりとなる方法は、光キャビティ(共振器)が必要となる遷移を含むもので、そこでは原子-キャビティの相互作用により、共鳴遷移を必要としない冷却が可能である。Wolke たち (p.75) は、Rb 原子からなる Bose-Einstein 凝縮体を熱した後に冷却するという光キャビティを用いる冷却方式を与えている。この方法はより高温の試料にも適用できるに違いないが、その場合、異なる周波数の一連のレーザーパルスの使用が必要となるだろう。(Wt,KU,nk)
Cavity Cooling Below the Recoil Limit

間接的注入(Indirect Injection)

成層圏のエアロゾル、特にマイクロメートル以下の水和した硫酸液滴は、気候変動に影響を与える重要な因子である。成層圏の硫酸塩エアロゾルは、下層の対流圏から運ばれてきた二酸化硫黄から形成される。大規模な火山爆発は二酸化硫黄や他の物質を成層圏に注入するが、火山爆発がもっと小さい場合、成層圏に注入できるほどのエネルギーが無いと考えられていた。Bourassa たち(p. 78)は衛星データを用いて、北東アフリカのエリトリアにおける Nabro stratovolcano 火山の2011年の爆発による二酸化硫黄が、アジアの夏季モンスーンに伴う深い対流によって成層圏高く持ち上げられたことを示した。(Ej,KU)
Large Volcanic Aerosol Load in the Stratosphere Linked to Asian Monsoon Transport

2つの毒についての2つの話(Twin Tales of Two Toxins)

発光細菌であるPhotorhabdus luminescensは、昆虫に寄生する線形動物の腸内にステルス兵器のように潜んで、運ばれている。対立遺伝子の交換技術をもちいて、Somvanshiたちは、、ほとんど休眠状態にあるM型の細菌(線形動物成体の後側腸に固着している)から、運動性のある発光性P型(これは線形動物の寄生した昆虫に打ち克つために必要となる有毒な病原性因子を備えている)へと細菌が切り替わるプロモータースイッチング機構を研究した(p. 88)。同様なスイッチが、無害な共生物と致死的な病原体との間で切り替わる細菌においても作用している可能性がある。バイオ駆除剤の細菌性のバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)もまた、結晶性の毒によって昆虫を殺しているが、これは細菌が宿主の腸に浸透して、栄養を横取りすることによる。栄養の遊離も、毒を作れない細菌が成長し、毒を産生する生着菌を出し抜くというずるさを細菌に許すことがある。フィールド実験においてRaymondたちは、結果的に、そうした細菌集団の病原性が弱まることを発見した(p. 85)。こうしたタイプの病原性因子は細胞から分泌され、多くの病原体に広まるので、そうした社会的相互作用が適応度に影響を与え、多くの毒産生細菌の病原性を束縛している可能性があるのだ。(KF)
The Dynamics of Cooperative Bacterial Virulence in the Field

ピルビン酸を取り込む(Letting Pyruvate In)

ピルビン酸の輸送は代謝において重要であり、そこでは解糖作用で形成されたピルビン酸がミトコンドリアに輸送され、クエン酸回路へと注ぎ込まれる(MurphyとDivakaruniによる展望記事参照のこと)。2つのグループがこのたび、ミトコンドリアのピルビン酸輸送体の要素であるタンパク質を同定した。Brickerたちは、ミトコンドリアのピルビン酸キャリア1と2(MPC1とMPC2)というタンパク質が、酵母とショウジョウバエ細胞における完全なピルビン酸輸送に必要であること、またMPC1に変異のあるヒトは、輸送体の損失に起因すると考えて矛盾のない代謝欠損をもつことを発見した(p. 96,5月24日号電子版)。Herzigたちは、同じタンパク質を酵母のキャリアの要素として同定した(p. 93,5月24日号電子版)。さらに、細菌中でのマウスのキャリアタンパク質の発現は、細菌細胞へのピルビン酸の輸送を増加させた。(KF,nk)
Identification and Functional Expression of the Mitochondrial Pyruvate Carrier
A Mitochondrial Pyruvate Carrier Required for Pyruvate Uptake in Yeast, Drosophila, and Humans

われらの遺伝子を深く見ていく(A Deep Look Into Our Genes)

最近の討論は、ヒトゲノムレベルでの遺伝子変異の程度と、その健康へのインパクトに焦点を合わせている(CasalsとBertranpetitの展望記事参照のこと)。Tennessenたち(p. 64,5月17日号電子版)はヒトゲノム中のすべてのタンパク質翻訳領域遺伝子に注目することで、Nelsonたち(p. 100,5月17日号電子版)は薬物標的をコードしている遺伝子に注目することで、、複数の個人から得られた試料に対する深い配列決定の努力により、この疑問に取組んでいる。そこでの知見は、ヒトの変異のほとんどは稀なものであり、集団の間で共有されることなく、また稀な変異体がヒトの健康においてそれなりの役割を果たしていることを示唆するものである。(KF,KU)
Evolution and Functional Impact of Rare Coding Variation from Deep Sequencing of Human Exomes
An Abundance of Rare Functional Variants in 202 Drug Target Genes Sequenced in 14,002 People

癌遺伝子の島(Cancer Gene Islands)

ヒトの腫瘍は、広範囲の遺伝子を再編成したり、除去したり、増幅したり、さもなければ破壊するようなゲノムの変化によってその謎が説明されるが、キーとなる難題は、そうした変化のどれが、原因として腫瘍形成に関与しているかを同定することにある。反復性の半接合体の限局的な欠失の役割が、特に不可解なのだが、それは、そうした欠失が優先的に特定の染色体領域に影響し、隣接する遺伝子のクラスター全体のコピーを1つ失わせる結果をもたらすからである。Soliminiたちは、それらの欠失が、細胞増殖をネガティブに制御する遺伝子に富んだゲノム領域にわたって広がっていることを発見した(p. 104,5月24日号電子版; またGreenmanによる展望記事参照)。「癌遺伝子島」内でのその遺伝子の量と腫瘍抑制性機能の累積的減少が、腫瘍増殖を促進する決定的要因であろう。(KF,KU)
Recurrent Hemizygous Deletions in Cancers May Optimize Proliferative Potential

あなたは人間に違いない(You Must Be Human)

社会的認知、あるいは社会的認知としばしば一緒に生じる情報処理の側面に関連した特異的な脳構造があるのだろうか? Carterたちは、被験者に頼んで、人間あるいはコンピューター相手に、単純化した仮想ポーカーゲームで遊ばせて、そのゲーム中に集めた脳のスキャン情報を検討した(p. 109)。カードを見せられたときの脳のスキャン画像は、参加者の6秒後の意思決定を予測するのに利用された。1つの領域、側頭頭頂接合部における活性は、人間を相手にしたゲームでの将来の意思決定の最適な予測の1つだったが、コンピュータ相手のゲームについては、最悪の予測に終わった。(KF,ok)
A Distinct Role of the Temporal-Parietal Junction in Predicting Socially Guided Decisions
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