AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 29 2012, Vol.336


3次元で見た免疫系(The Immune System in Three Dimensions)

免疫細胞は、感染症に対して宿主を防御するために自分たちの常在しているその組織内部を、そしてまた、血流やリンパ系をとおして移動する必要がある。10年前までは、免疫学者は3次元空間で免疫応答がどのように協調しているかに関しては殆ど理解していなかった。これが、2光子顕微法によって免疫系に対して生体内と組織移植片の顕微鏡検査を行うことで大きく変化した。Germain たち(p. 1676) は、本手法を利用した研究によって、我々の免疫系への動的挙動に関する知識がどれほど広がり、そして更なる洞察を得るために本技術を将来どのように応用するかを考察している。(Ej,KU,nk,ao)
A Decade of Imaging Cellular Motility and Interaction Dynamics in the Immune System

流れに合わせる(Go with the Flow)

効率的な吸着や濾過は、複数レベルの多孔性を有する材料によりできる。つまり主要な流れはより大きな流路でおこない、同時により小さな流路を二次物質の捕捉に用いることできるようにする。これらの孔は異なる大きさであるにもかかわらず、互いが十分につながっている必要があり、このような材料を作ることは困難である。Zhang たちは(p.1684)、繰り返しの枝分かれを引き起こす単一の構造指向剤を用いた単純なプロセスで、階層状のゼオライトが作れることを示した。これは、より優れた輸送特性、触媒特性を持つ材料につながるものである。(Sk,ok)
Synthesis of Self-Pillared Zeolite Nanosheets by Repetitive Branching

地震による堆積層の生涯(The Sedimentary Life of Earthquakes)

これから起こりそうな巨大地震に関連する危険性の評価は、それ以前の地震活動の証拠となる物に大きく依存している。しかしながら、地震監視のために据え付けられた比較的最近の地球規模の地震ネットワークは、数千年間にわたる活動を維持している断層地帯のごく最近の歴史を捉えているに過ぎない。Berryman たち(p.1690) は、ニュージーランドの Alpine Fault に沿って繰り返し起こる巨大地震の発生を理解するために、表面破壊と垂直方向のずれの証拠を求めて、古い河川の近くの堆積層を調べた。この断層のセグメントに沿って、最近の6000年に渡り 24回の巨大地震が発生し、その結果、再発間隔は329年である。その活動は、カリフォリニアの San Andreas Fault のような、他の類似の走向-すべり断層よりも規則的である。(Wt,KU,nk)
Major Earthquakes Occur Regularly on an Isolated Plate Boundary Fault

樹木腐敗菌の年代判定(Dating Wood Rot)

担子菌類(basidiomycete fung)の特異的系列である白色腐敗菌は、近縁の褐色腐敗菌がリグニンを分解できないのに対して、樹木の主要な構造成分であるリグニンを分解する能力を持つように進化した。真菌発生の深い系統発生上のサンプリングを通して、Floudasたち(p. 1715; および、Hittingerによる展望記事参照)は、木材分解酵素の詳細な進化についてマップ化した。リグニンの分解に関係する主要なペルオキシダーゼや他の酵素は、担子菌類の一種Agaricomycetesの共通の祖先に存在している。これらの遺伝子は、その後に遺伝子重複に並列して拡張し、白色腐敗系列を生じた。(Ej,KU,nk)
The Paleozoic Origin of Enzymatic Lignin Decomposition Reconstructed from 31 Fungal Genomes

古代の穴居動物たち(Early Burrowers)

地球の歴史において、カンブリア紀における広範囲の動物多様化の直前の、エディアカラ紀に属する動物そのものの化石の証拠は乏しい。しかしながら、この時期を通じてほぼ完全に残存している地層中の動物活動の遺跡は、動物の振る舞いと進化についてのヒントを与えてくれる。Pecoitsたちは(p.1693;DroserとGehlingによる展望記事参照)、ウルグアイの堆積岩からの一組の動物の巣穴の遺跡を発見した。放射年代測定によって、5.85億年前であることが同定されたが、これは左右相称動物のステムグループ( stem-group bilaterians)の発生時期とおそらくは一致している。この巣穴の遺跡の複雑な形態から、このような動物は活動的に草食を行い、地中深くに巣穴を掘る能力を有していたことが示唆されている。(Uc)
Bilaterian Burrows and Grazing Behavior at >585 Million Years Ago

後方にスピンする(Spinning Backwards)

原子や分子が衝突すると、反応生成物に蓄積されたエネルギーは、並進、振動、回転に分配される。数十年にわたる細心の実験により、特に、3個の軽原子から成る単純な系において、この分配プロセスの根底にある量子力学の法則の詳細が明らかになっていた。今回、Jankunas たちは(p.1687; Yang たちによる展望記事参照)、水素原子と重水素の素反応における、これまで無視されてきたアイデアを説明している。一般に、低い振動や回転の励起状態にある生成物は衝突の後方に散乱する傾向にあり、一方、スピンを有する生成物は側方に散乱する。しかしながら、ある振動の閾値以上では、スピンを有する水素・重水素生成物が後方に散乱することが観察された。(Sk,KU)
Seemingly Anomalous Angular Distributions in H + D2 Reactive Scattering

壺や瓶(Pots and Crocks)

土器の発明は、竹などで編んだバスケットや獣皮の革袋に比べて、より安定した食料の貯蔵を可能にし、土器は調理にも使うことができた。最も初期の土器は、農業が始まる数千年前となる〜1万8千年前に、中国と日本に現れたと考えられてきた。Wuたち(p. 1696; Shelachによる展望記事参照)は、中国の洞窟で見つかった土器の破片の年代測定を行い、その中で最も初期のものは最終氷期極大期に当たる〜2万年前であった。多くの破片には焼け焦げた跡があり、土器が調理に使われたことを示している。(TO)
Early Pottery at 20,000 Years Ago in Xianrendong Cave, China

アルカロイドの合成経路(Alkaloid Synthetic Pathway)

ノスカピン(noscapine:阿片ケシ中で発見された非中毒性のアルカロイド)は、鎮咳薬やチューブリン結合性の抗腫瘍薬として用いられている。Winzerたち(p. 1704,5月31日号電子版;DellaPenna and O'Connorによる展望記事参照)は、10個の遺伝子のクラスターがノスカピン産生のキーであることを見出した。この遺伝子クラスターに関するホモ接合性のケシは高レベルのノスカピンを産生し、ヘテロ結合性のケシは低レベルのノスカピンを産生し、そしてこの遺伝子クラスターを欠いたケシはノスカピンを産生しなかった。個々の遺伝子を順次サイレンシングし、そしてその中間代謝物の蓄積物の解析から、ノスカピンの生合成経路が解明された。(KU)
A Papaver somniferum 10-Gene Cluster for Synthesis of the Anticancer Alkaloid Noscapine

植物ホルモンの修飾因子(Plant Hormone Modulators)

いくつかの植物ホルモンの活性と安定性は、多様なアミノ酸とその誘導体との結合により調節される。Westfallたち(p. 1708,5月24日号電子版)は、シロイヌナズナからの二つのアシル酸アミド合成酵素の結晶構造を解明した。その知見から、その酵素が無極性と酸性のアミノ酸をどのようにして識別しているかを示唆しており、そしてホルモンのシグナル伝達経路に機能的多様性を付加するその反応化学に関する洞察を与えている。(KU,ok)
Structural Basis for Prereceptor Modulation of Plant Hormones by GH3 Proteins

見栄えが良いのがいいのか、あるいは甘いのが(Pretty or Sweet)

食料品店で売られているトマトは美味しそうに見えるが、しかし食べると酸っぱいボール紙のような味で、これはトマトの商業生産が、もっと当てになるような(生物組織)表現型が支持されている選択過程に起因している。この選択プロセスの意味は、まばらに色ついた未成熟の緑のトマトを減少させ、均一な淡い緑のトマトにするという変異であった。Powellたち(p. 1711)は、この変異の分子生物学を解析した。均一に熟した変異体はGolden2-like (GLK2)と呼ばれる転写制御因子が無能になっていることが知られた。GLK2の発現は果実の光合成能力を高め、より高い糖の含有量となる。(KU,ok,nk)
Uniform ripening Encodes a Golden 2-like Transcription Factor Regulating Tomato Fruit Chloroplast Development

暗闇での視力(Seeing in the Dark)

エレファントノーズフィッシュは、濁って暗い淡水環境で泳ぐために電気的なセンシングを用いることで知られている。しかしながら、暗い環境に住む他の動物と違い、彼らは目を温存し、ある程度、視覚に依存している。たいていの脊椎動物の視覚は光子の捕獲(より多くの光をとらえるため)か、あるいは視力のいずれかを最適化しているが、Kreysing たちは(p. 1700)、このエレファントノーズフィッシュの目で発見されたグループ化された網膜の独特な構造が、桿体と錐体の感度にうまく調和させており、それが、弱い光強度が広範囲にわたって両方の種類の光受容器を同時に用いることを可能にしていることを示した。(Sk,KU,ok)
Photonic Crystal Light Collectors in Fish Retina Improve Vision in Turbid Water

非標準的な経路(Noncanonical Pathway)

メッセンジャーRNAからタンパク質への翻訳についての教科書的な見方は、翻訳が常に、開始因子であるメチオニンの結合した転移RNA(tRNA)によるAUGコドン(メチオニンをコードする)で始まる翻訳領域(ORF)から開始される、というものである。しかしながら、AUGによって開始されていないORFによって産生されたポリペプチドがあるという証拠がある。Starckたちは、多様な生化学的技術を用いて、伝統的見方に沿わない、そうした翻訳開始の根底にある仕組みを決定した(p. 1719; またDeverによる展望記事参照のこと)。AUGによって開始されるORFと、ロイシンCUGによって開始されるORFとで、その翻訳開始を比較すると、CUGコドンから翻訳を開始するのに、細胞はヒストンのアセチル化に関わるロイシンtRNAを利用できることが明らかになった。CUGによって開始されるペプチド類は、主要組織適合性クラスI分子によって提示され、T細胞を活性化することができた。(KF)
Leucine-tRNA Initiates at CUG Start Codons for Protein Synthesis and Presentation by MHC Class I

私を終わらせないで(Don't Terminate Me!)

DNA転写は、開始(initiation)、伸長(elongation)、そして終結(termination)という、メッセンジャーRNA鎖の3段階を介して進行する。転写酵素であるRNAポリメラーゼ(Pol)IIが。そうした段階それぞれを助ける因子を補充している。Mayerたちはこのたび、活発に伸長するPol IIのC末端領域(CTD)が、保存されたチロシン残基においてリン酸化されていることを明らかにした(p. 1723)。この修飾は終結因子の補充の障害になる。重合酵素の転写における因子交換は、そのCTDにおけるチロシンおよび特徴の明確な2つのセリン残基の別のやり方によるリン酸化に依存した、拡張されたCTDコードによって説明することができるかもしれない。(KF)
CTD Tyrosine Phosphorylation Impairs Termination Factor Recruitment to RNA Polymerase II

バネにエネルギーを貯える(Loading a Spring)

細胞のRNAレベルを制御するには、転写はRNA分解によってバランスをとられなければならない。重要な役割を果たしているのが、構造化されているRNAを巻戻し分解するエキソソームである。Leeたちは単一分子蛍光分析法を用いて、酵母のエキソソーム複合体であるRrp44の触媒サブユニットにおいて、分解と巻戻しが、どのように結び付いているのかを調べた(p. 1726)。Rrp44は明らかにいくつかの塩基対を巻戻すことなしに消化し、そのエネルギーを蓄積し、そしてそのエネルギーを4つないし5つの塩基対を瞬時に巻戻すために用いている。同様のバネ様の振る舞いは、通常のヘリカーゼにもこれまで提唱されていて、その違いは、蓄えられたエネルギーがRNA重合体からではなく、アデノシン三リン酸の加水分解からきているという点にある。(KF,KU)
Elastic Coupling Between RNA Degradation and Unwinding by an Exoribonuclease
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