AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 22 2012, Vol.336


スライドして見つける(Slide and Find)

転写制御因子は染色体DNA上の彼らの特異的結合部位をすばやく見つける。三次元拡散をDNAに沿っての一次元拡散で補完してこの探索が促進されていると提唱されてきた。DNA上でのこのスライドはin vitroで観察されていたが、in vivoにおいて転写制御因子が染色体に沿ってどれだけ遠くまでスライドするかは不明であった。Hammarたち(p. 1595)は単一分子のイメージングを用いて、lacリプレッサーが生細胞中でその染色体オペレーター中にスライドしていることを実証した。平均的スライド距離は約45塩基対であり、そしてリプレッサーは結合前にオペレータ上を頻繁にスライドしていた。(KU,nk)
The lac Repressor Displays Facilitated Diffusion in Living Cells

主要な制御因子(Master Regulator)

交感神経細胞と副腎髄質は自律神経系の一部であり、多様な身体機能の制御やストレスへの応答において重要である。神経系と血管系との間の相互作用はよく分かっていない。発生の際に、交感神経細胞と副腎髄質細胞はどちらも神経堤細胞から発生し、 その後遊走して分化しそれぞれの組織となる。ニワトリの胚における血管-特異的遺伝子操作を用いて、Saitoたち(p. 1578)は、神経堤細胞の初期遊走の制御とその後の副腎髄質と交感神経細胞の分離の発生とにおける背側大動脈の役割を明らかにした。背側大動脈は複数の可溶性の形態形成因子と増殖因子を発現し、時空間的方法で複雑な形態形成を制御している。更に、マウスにおいて副腎髄質の形態形成は大動脈と副腎皮質の双方により制御されていた。(KU,ok,ogs,nk)
The Dorsal Aorta Initiates a Molecular Cascade That Instructs Sympatho-Adrenal Specification

ひずみを有する浮遊グラフェン(Straining Suspended Graphene)

グラフェンの電子特性は、下部にある基板とは非接触の浮遊状態のシートで最も特徴を発揮する。Klimov たち (p.1557) は走査型トンネル顕微鏡を用いて、浮遊したグラフェンシートを変形すると、どれほどまでその電子特性が調整しうるかを調べた;グラフェンシートは、下部の電極層の電場によっても変形するであろう。分光学的な研究から、誘起されたひずみが電荷キャリアを局在化させ、空間的に閉じ込められた量子ドットになることを明らかにした。この効果は、ひずみにより誘起された擬似磁場の形成と整合している。(Wt,KU)
Electromechanical Properties of Graphene Drumheads

ドームの中のスパイク(A Spike Inside the Dome)

鉄系超伝導体の転移温度Tcは、化学的ドーピングに対してドーム型の依存性を示し、転移温度以下で発現する超伝導性は絶対零度で発現する潜在的な量子臨界点(QCP)をわからなくすることが知られている。この量子臨界の特徴を観測するために、Hashimotoらは(p.1554;Sachdevの展望記事参照)、プニクチド系BaFe2(As1-xPx)2の侵入長をxを変数として調べた。Tcが最大になる条件(x=0.3)近傍にて、鋭いピークが観測され、普通なら最もしっかりした超電導状態が期待される所で超流動密度が急激に減少したことを示唆している。。この意外な発見は、x=0.3の条件におけるQCPのしるしと解釈できる。(NK,KU,ok,nk)
A Sharp Peak of the Zero-Temperature Penetration Depth at Optimal Composition in BaFe2 (As1-xPx)2

Wntシグナルからテロメラーゼの活性まで(From Wnt Signals to Telomeraze Activity)

テロメラーゼの機能は幹細胞の再生や癌に関係している。一方、細胞の分化や老化の際にテロメラーゼの活性低下が見られる。Wnt/β-カテニンシグナル伝達も、また幹細胞の重要な制御因子であり、その伝達経路の制御の喪失は癌と関係している。Hoffmeyerたち(p. 1549,Greiderによる展望記事参照)は、これら二つの経路の間の結びつきを見出した。胚性幹細胞において、β-カテニンはテロメラーゼの発現と活性を直接制御していた。似たような観測が成体の幹細胞や腸腫瘍のモデル、およびヒト癌細胞において得られた。(KU,ogs,nk)
Wnt/β-Catenin Signaling Regulates Telomerase in Stem Cells and Cancer Cells

欠陥をすし詰めにする(Exploiting Defects in a Jam)

結晶状態とアモルファス状態間を容易に転換する相変化材料は、不揮発性メモリデバイスとしての利用が増えている(HewakとGholipourによる展望記事参照)。高分解能の透過型電子顕微鏡を用いて、Namたち(p. 1561)は、Ge2Sb2Te5において、電場の印加によりある一方向への結晶転位を引き起こし、結晶転位を蓄積してついにすし詰め状態へと導びき、最終的には相転移が起きることを示した。Lokeたち(p. 1566)は、Ge2Sb2Te5へ一定の低電圧をかけることによって、相変化した状態の長期安定性を損うことなく、相のスイッチング速度を上げることができることを見出した。(hk,KU,ok,nk)
Electrical Wind Force?Driven and Dislocation-Templated Amorphization in Phase-Change Nanowires
Breaking the Speed Limits of Phase-Change Memory

これ以上の核融合による混乱は無いね(No More Fusion Confusion)

生物物理学的モデルでは、膜融合を一連のステップ、すなわち膜の接触、融合柄の形成(近位の単層の合併)、拡大したりしなかったりする遠位の単層間の接触の発生(半融合)、および最終的には融合細孔の開裂に帰結するこの隔壁の切断として説明している。生体膜の融合反応は、いわゆるSNAREタンパク質によって駆動されることが多い。再構成された膜融合系を利用して、Hernandezたち(p. 1581, 5月31日号電子出版を参照)は、融合経路に沿ってのSNAREジッパーリング(縫合)の状態を中間構造と正確に関係づけることができた。その結果は、タンパク質がその間に入り込めないほど密な膜距離を持った強く合体した状態が、SNAREジッパーリングの結果としての重要な融合中間体であることを示唆している。この中間状態は、膜融合に関するごく最近のモデルで描かれたSNARE駆動の柄とか、あるいはリング状に配列したSNAREとは一致しない。(Ej,KU)
Membrane Fusion Intermediates via Directional and Full Assembly of the SNARE Complex

空洞がもたらす最小値(Cavity-Induced Minimum)

低温の原子ガスにおける相互作用の強度や範囲を調整することは、それらの量子シミュレータとしての役割にとって重要である。ほとんどの原子−原子相互作用は、短距離範囲のものである。範囲を広げる一つの方法は、ガスを光学的な空洞に結合させることであり、それは原子間作用を伝搬させて、相互作用を実効的に長距離タイプへと変える。この方法は、市松模様の原子密度の配列によって特徴付けられる“超固体(supersolid)”相への転移を観察するのに用いられてきた。Mottl たちは(p.1570, 5月17日号電子版)ブラッグ分光法を用いて、相互作用強度を変化させながら87 Rb原子の超低温気体の励起スペクトルを測定した。理論的予測通り、超流動ヘリウムのロトン励起(roton excitations)で観測されるものと同様な、励起エネルギーの極小が出現するのが観測された。(Sk,KU,nk)
Roton-Type Mode Softening in a Quantum Gas with Cavity-Mediated Long-Range Interactions

熱帯の炭素損失(Tropical Carbon Loss)

熱帯森林の伐採と、その結果としての炭素排出量を正確かつ精度良く観測することは、気候政策をまとめるために必要である。Harrisたちは(p.1573;Zarinによる展望記事参照)は、3つの大陸の熱帯地方における森林伐採の衛星による観測結果を用いて、2000〜2005年の間に4300万ヘクタールの森林減少により、全体としての年間の炭素排出量はおよそ0.8Pg carbon per year(Pg=1015g)であると見積もった。この結果は、いくつかの先行研究における見積りの約1/3という結果であるが、熱帯森林の損失の速度における将来の変化のアセスメントのベースラインとして利用されるべきである。(Uc,KU)
Baseline Map of Carbon Emissions from Deforestation in Tropical Regions

昆虫を食べる植物(Plants That Eat Animals)

ウツボカズラやハエジゴクなどのいくつかの目立つ例外を除けば、たいていの植物は、窒素を、微生物による分解や窒素固定細菌の活動から受動的に獲得していると考えられている。(昆虫病原性糸状菌の一属である)メタリジウム属の種は、病気を引き起こすことなく植物組織内に生存しているよくある内部寄生菌類である。この属は土壌中にも遍在していて、そこでは昆虫に寄生する。一連のミクロ生態系実験において、Behieたちは、それら菌類が内部寄生菌としてのライフスタイルと自身の寄生モードとを結びつけて、植物が動物から窒素を得るための導管となることができるのかを研究した(p. 1576)。マメ類と草類が成長するミクロ生態系に、放射標識されたガの幼生を加え、その幼生が菌によって播種されると、植物中に標識された窒素が検出されるのは、日数だけの問題だった。(KF,ogs)
Endophytic Insect-Parasitic Fungi Translocate Nitrogen Directly from Insects to Plants

交差はなし(No Crossing Over)

減数分裂の際に染色体が正しく分裂するためには、相同染色体はそれら相同体を一緒に結び付けている二重鎖が切断される。これによって交差 と組換えが起こり、その結果さら に重要なこととして配偶子のゲノムに多様性を導入することになる。しかし、それら交差のごく少数しか、組換えという結果をもたらすことはなく、大部分は非-交差経路に向かってしまう。Lorenzたち(p. 1585)は、分裂酵母の研究において、Crismaniたち(p. 1588)は高等植物のシロイヌナズナにおいて、交差を制限し、非交差経路を促進する因子を探し求めた。ヒトのファンコニ貧血相補グループM(FANCM)ヘリカーゼタンパク質の相同体が、主要な減数分裂時のリコンビナーゼの活性に影響を与えている因子であることがわかったが、それは減数分裂の際の組換え中間体を非交差経路へと向かわせることができるのである。(KF,ogs)
The Fission Yeast FANCM Ortholog Directs Non-Crossover Recombination During Meiosis
FANCM Limits Meiotic Crossovers

破って芽を出す(Blasting Through)

イネイモチ病の原因となる菌類、マグナポルテ属oryzaeは、米の収量を壊滅的に減少させる。M. oryzaeは、appressoria(付着器:菌類が宿主に侵入する際に作る吸盤)と呼ばれる特殊な感染構造を発生させることによって、イネに入り込む。appressoriaは、何らかの方法で侵入の力となる莫大な内部圧力を産み出し、植物の角質を物理的に破壊する。Dagdasたちは、環状体(ドーナツ型)をなす糸状アクチンネットワークが、appressoria基部の正確な位置に形成され、そこにイネの葉の角質を破壊する侵入のためのペグ(とがった部分)が出現することを発見した(p. 1590)。このネットワークは4つのセプチンGTP分解酵素によって足場を与えられ、それらはFアクチンと共存する動的なリング状構造を形成している。こうした知見は、菌類が極圧 (extreme pressure)をどのように局所的な物理力に変換しているかを明らかにするものである。(KF,KU,ok)
Septin-Mediated Plant Cell Invasion by the Rice Blast Fungus, Magnaporthe oryzae
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