AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 8 2012, Vol.336


量子メモリーを延ばす(Extending Quantum Memory)

量子コミュニケーションや量子コンピューターを実用化するためには、基本構成単位である量子ビットおよび量子メモリーを操作・格納が行えるように十分に安定でかつ長寿命にしなければならない。(BoehmeとMcCarneyらの展望記事参照)Steger等は(p.1280) 、ほぼ同位体的に純粋な28Si中の不純物31Pの核スピンが、1.7Kの温度で192秒のコヒーレンス時間を維持できることを示している。Maurer等は(p.1283)、室温でのダイアモンドにおいて、色欠陥(窒素空格子センター)近傍での同位体不純物、(13C)からなるスピンに基づくキュービット系を操作することで、1秒を超えるコヒーレンス時間を達成できることを示している。これら長いコヒーレンス時間の実証により、スピン系アーキテクチャーの量子情報サイエンスに対する基本構成単位への適応の可能性が示された。(NK,KU)
Quantum Information Storage for over 180 s Using Donor Spins in a 28Si "Semiconductor Vacuum"

次のレベルへ(To the Next Level)

ブロック共重合体は、重合体のブロック長と化学組成に依存した一連の微細構造に自発的に分離し、そして、そのブロックの一つを選択的にエッチングしたり、あるいは機能させることができるので鋳型物質として使われてきた。しかしながら、一層の厚さ以上の鋳型を作ることは困難である。Tavakkoli K. G. たち(p. 1294)は格子状に並んだ柱を用いて、二層のブロック共重合体の形態と配向を独立、かつ同時に制御し、ドメイン構造の曲率と間隔における局所的な変動を作り上げることができた。(hk,KU,ogs,ok,nk)
Templating Three-Dimensional Self-Assembled Structures in Bilayer Block Copolymer Films

長波長から短波長へ(From Long to Short)

弦楽器を演奏する場合、弦の振動部分を短くすることにより、音の周波数、すなわち音の高さを上げる。その長さを半分にすると、2倍の周波数の倍音が聞こえる。光の波についても、結晶や高圧ガスの中の電子を選択的に励起させたり緩和させたりすることにより、本質的には同じことができる。その中を通る光が高調波の光を生じるのである。過去十年にわたって、研究者たちは、赤色光をその数十倍の高調波に相当する極紫外光に、より効率的に変換しようとしてきた。Popmintchev たちは(p.1287)、今回、中間赤外光を高圧ガス中である処理を行うことで、X線領域にあたる5000倍以上の高調波が発生することを示している。(Sk,KU,nk)
Bright Coherent Ultrahigh Harmonics in the keV X-ray Regime from Mid-Infrared Femtosecond Lasers

しっかりとハンマーを振り下ろす(Hammering Home the Lesson)

シャコ等の口脚類(Stomatopods)は、海洋の甲殻類であり、ハンマー形状のハサミ(claws)を使い、身を守ったり彼らの獲物を襲ったりする。そのハサミは、繰り返される高速度かつ強い衝撃を受ける。Weaver たち(p. 1275;Tannerによる展望記事参照)は、さまざまな技法を用いて、モンハナシャコ(Peacock Mantis shrimp)のハサミの構造や機構的な動き、そして強靭にする仕組みを調べた。そのハサミの複合材料構造体はじん(靭)性向上のために最適化されており、それによりハサミの繰り返しの振り下ろしから生ずるであろう全破壊することを防いでいる。(TO,KU,ok)
The Stomatopod Dactyl Club: A Formidable Damage-Tolerant Biological Hammer

太陽前面に衝撃波は無いらしい(No Shock Ahead of the Sun)

太陽圏の境界とは、太陽風が星間空間と相互作用する領域であり、われわれの太陽系の周縁を示すものである。NASA の Interstellar Boundary Explorer からの観測結果に基づいて、McComas たち (p.1291, 5月10日付け電子版; Redfield による展望記事を参照のこと) は、太陽近傍星間空間のパラメータ、つまり速度、方向、温度を決定した。そして、これらの値や他の最近の研究に基づく制限条件は、、これまで信じられていた太陽圏の前のバウショック(弧状衝撃波)の存在とは整合しないことを示している。(Wt,ok,nk)
The Heliosphere’s Interstellar Interaction: No Bow Shock

プラスとマイナス(Pluses and Minuses)

その大きな表面積と調整可能な電子的構造のため、ナノ粒子は次世代の光触媒や光捕集の用途で注目されている。これらの用途の多くは、光吸収後の粒子表面での電子の移動現象に関係している。Schrauben たちは(p.1298)、今回、一連のラジカルトラップ反応の研究を通して、ありふれた二種のナノ粒子化合物(チタンと亜鉛の酸化物)の溶媒界面において、プロトン移動が同時に電子移動を伴なっていることを示している。その結果は、ナノ粒子の構造の最適化やエネルギー学に役立つであろう。(Sk,KU)
Titanium and Zinc Oxide Nanoparticles Are Proton-Coupled Electron Transfer Agents

変化する雨(The Rains of Change)

約40〜50万年前、大気中二酸化炭素濃度や地球全体の気温の変動巾が大きくなる等、氷河サイクルの根本的な変化が起こった。Mecklerたちは(p.1301,5月3日号電子版;Kuritaによる展望記事参照)、20〜55万年前の降雨の記録を有するボルネオの石筍の記録を報告している。この間の4つの間氷期全てを通じて、その地域の降雨量は同程度であり、そして氷期の終わりにおける旱ばつ事象は北半球の高緯度地域の冷温化現象と一致していた。(Uc,KU,ogs,nk)
Interglacial Hydroclimate in the Tropical West Pacific Through the Late Pleistocene

アクチンの配向(Actin Up)

細胞の形態形成や極性、細胞運動などの基本的な細胞プロセスにおいてアクト ミオシンの相互作用が深くかかわっているが、それらの時間的・空間的 な協調 を促進している普遍的な原則は曖昧なままであるin vitroでの研究で、ミクロにパターン形成された基質を用いて、Reymannたち(p. 1310)は、ミオシンが「選択的な配向」メカニズムを用いて、アクチンフィラメントを選択的に引き寄せ、アクチンネットワークを収縮させてそれを分解したり、あるいはフィラメント上をゆっくりと動きまわり、それらを整列したり、その成長をうながし、そしてフィラメントの配向を制御していることを実証している。(KU,ogs)
Actin Network Architecture Can Determine Myosin Motor Activity

菌類(The Mycobiome)

過去数年間、我々の腸内に棲む無数の細菌と、そしてそれらが我々の全体的な健康に及ぼす無数の作用に大きな関心が寄せられた。しかしながら、菌類に関してはどうだろうか?Ilievたち(p. 1314)は、いくつかの他の哺乳類と共にマウスとヒトが常在性の腸内菌集団を含んでいることを報告している。Dectin-1(これは菌類に対する主要な自然免疫のセンサーとして作用する)の欠如は、マウスでの化学的に誘発された大腸炎モデルにおいて、病への感受性を高め、そしてより悪い病状へと導いた。Dectin-1をコードしている遺伝子の多形性が潰瘍性大腸炎の患者で観察されたが、このことは伝統的な細菌類以外に、「菌類(mycobiome)」の変質も、また健康と病気に役割を果たしていることを示唆している。(KU,ogs,nk)
Interactions Between Commensal Fungi and the C-Type Lectin Receptor Dectin-1 Influence Colitis

ミトコンドリアを絶好調に保つ(Keeping Mitochondria in the Pink)

Pink1はミトコンドリアのキナーゼであり、ハエやマウスにおいて、Pink1機能の欠損は非効率的なミトコンドリアの蓄積をもたらす。パーキンソン病に関係する遺伝子、pink1の修飾因子に関するスクリーニングにおいて、Vosたち(p. 1306,5月10日号電子版;Bhalerao and Clandiniによる展望記事参照)は、ショウジョウバエのUBIAD1の相同体である「Heix]を同定した。UBIAD1はミトコンドリア中に局在しており、そしてビタミンK1をビタミンK2/メナキノン(MK-n,nはフェニル基の数)に変換することができた。細菌において、ビタミンK2/MK-nは膜における電子キャリアとして作用しており、同様に、ショウジョウバエにおいて、ミトコンドリアのビタミンK2はアデノシン三リン酸の生成を促進する電子キャリアとして作用している。heixを欠くショウジョウバエは重篤なミトコンドリアの欠陥を示すが、ビタミンK2の投与によって回復することができた。(KU,ogs)
Vitamin K2 Is a Mitochondrial Electron Carrier That Rescues Pink1 Deficiency

乳児を安全に保つ(Keeping Baby Safe)

母胎で発育中の胎児の遺伝子の半分は父親からのものであるため、母親の立場から言えば、この胎児は「外来性」と言える。では、どうやって母親の免疫系は胎児を許容するのか?Nancy たち(p. 1317)は、マウスにおいて、細胞を動員するためのシグナルの入念な制御によって、マウスの胎児の許容を可能にしていることを見つけた。妊娠したマウスでは多数のT細胞が子宮壁の子宮筋層付近に集まっているが、胎児と胎盤を包み込む子宮組織である脱落膜中にはごく少数のT細胞しか存在していなかった。このように、妊娠においては、免疫細胞の局在性の 制御が臓器特有の免疫寛容を可能にしているのである。(Ej,KU,ogs,nk)
Chemokine Gene Silencing in Decidual Stromal Cells Limits T Cell Access to the Maternal-Fetal Interface

ミツバチよ、ダニに注意せよ(Honey Bees Beware of the Mite)

世界中でのミツバチの死と長らく関連してきたウイルス性疾患の病原型の出現が、ハワイ諸島でも生じた。Martinたちは、この独特の状況を利用して、病原型出現の背後にある仕組みを研究した(p. 1304)。ミツバチ集団は、孤立したハワイの島々にそれぞれ確立されてきたのだが、ここ最近、いくつかの島がVarroaダニに汚染されるようになった。このダニが、ミツバチ集団中に羽変形ウイルスという単一のウイルス性病原体を選択的にもちこみ、これが、いまや世界中に広まった優性な単一のウイルス系統の出現をもたらすのである。つまり、正常なら良性であるウイルス性病原体が、地球上でもっとも広く分布し、伝染性のある昆虫ウイルスの1つとなったのである。(KF)
Global Honey Bee Viral Landscape Altered by a Parasitic Mite

障壁が破れないよう保護する(Protecting Against a Barrier Breach)

平和的に共存するため、「ファイアウォール(防火壁)」があって、それがわれわれの腸や関連したリンパ組織中に存在する共生細菌を封じ込めている。しかしながら、いくつかの病気や感染症がこの壁を破ることがあり、それによって慢性炎症や病気がもたらされる。Sonnenbergたちは、マウスで、先天的に存在するリンパ球細胞(ILC)が、インターロイキン-22(IL-22)依存的様式において、共生細菌の解剖学的封じ込めにとって決定的であることを発見した(p. 1321)。ILCの枯渇あるいはIL-22の遮断が、細菌封じ込めの失敗と全身性炎症をもたらしたのである。(KF,KU,ogs)
Innate Lymphoid Cells Promote Anatomical Containment of Lymphoid-Resident Commensal Bacteria

腸内感染の確立(Establishing an Enteric Infection)

腸に存在する細菌と免疫系との間で平和を保つためには、複雑かつ高度に制御された相互作用が必要とされる。胃腸炎を引き起こすある種の大腸菌などの病原菌は、いかにして感染のための足場を確保しているのか、またこの過程での常在性細菌の役割は何なのだろうか? Kamadaたちは、シトロバクター属を経口的にマウスに感染させ、そして共生細菌を欠くマウスは感染を排除できないのに対し、正常な共生微生物叢をもったマウスは感染をよりうまく封じ込めることができることを発見した(p. 1325,5月10日号電子版; またSperandioによる展望記事参照のこと)。(KF,ogs,nk)
Regulated Virulence Controls the Ability of a Pathogen to Compete with the Gut Microbiota
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