AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 9 2012, Vol.335


ミツバチの冒険性(Bee Adventurous)

人は個人により異なる行動を取るが、その異なり方に一貫性が認められる場合がある。たとえば、或る人は新しい経験を求めるが、一方他の人はよく知っているやり方を固く守る。このことはミツバチにおいても同様なことが言える。一部の働き蜂は、しばしば危険で目新しいものを探す偵察の仕事を他の働き蜂より多く引き受けている。偵察行動を示すミツバチは、複数の状況(食物を探すことと巣を探すことの両方)で偵察する傾向をもつだけでなく、脳の遺伝子発現においても違いを示していることを、Liangたち(p. 1225)は発見した。遺伝子発現の実験的操作により、予想通り偵察行動が変化した。ミツバチの偵察行動の分子的土台は、人間を含む脊椎動物種が目新しいものを探すことと関連する分子的土台に似ているようである。(hk,KU,ok,nk)
Molecular Determinants of Scouting Behavior in Honey Bees

メルトダウンの仕組み(Mechanics of meltdown)

原子力発電所が持つ潜在的な危険にも拘らず、それが実際に人類や環境に危害を及ぼした事例は非常に少ない。しかし、ウクライナのチェルノブイリや1年前の日本の福島第一発電所のような実際に発生した事故は壊滅的な結果をもたらした。Burnsらは(p.1184;表紙参照)、原子力発生事故後に起こる化学的・物理的プロセスに関する現在の知識をまとめ、さらに将来の事故の際にそれらの知識を意思決定にどう使うかについて述べている。これまでは稼働中の原子炉ではなく、放射性廃棄物の貯蔵所からの漏れ出た放射性核種の移動について重点的に研究されてきたので、今後は大規模な炉心溶融事故のようなもっと厳しい 条件下での実証実験法には、ぞっとする意義があるであろう。(NK,ok,nk)
Nuclear Fuel in a Reactor Accident
        

サル免疫不全ウイルスからの教訓(Lessons from SIV)

ヒトにおけるHIV感染は慢性感染症であり、処置しないままに放置していると、感染したヒトの大部分はAIDSになる。多くの種のアフリカの非ヒト霊長類は、慢性的にサル免疫不全ウイルス(simian immunodeficiency virus:SIV)に感染しているが、しかしながら、これらの種の大部分の動物は高レベルのウイルスの存在にもかかわらず、健全な状態である。Chahroudiたち(p. 1188)は、自然宿主をAIDSへと進行させるのを防いでいるその根底にある免疫メカニズムを、そしてAIDSを発生するHIV-感染ヒトとSIV-感染霊長類で観察されることから、どのように応答性が異なっているかをレビューしている。(KU)
Natural SIV Hosts: Showing AIDS the Door

なめらかなオペレータ(Smooth Operator)

紙の端っこや肌をつまむ時のように、薄いシートが圧縮されると、座屈したりしわになったりすることがある。場所による厚みや剛性の違いは座屈のしかたを変化させるが、これを単純で予測可能な方法で制御することは困難である。Kim たちは(p. 1201; Sharon による展望記事参照)2枚のフォトマスクを用いたハーフトーンリソグラフィーを使って、低架橋密度の膨潤可能なポリマーのマトリックスに埋め込まれた高架橋密度のドットを作り出した。この材料は、任意の2次元形状の薄いシートに「なめらかな」膨潤特性を生成することが可能であり、複雑な3次元構造を作り出すことができる。(Sk,ok)
Designing Responsive Buckled Surfaces by Halftone Gel Lithography

免疫細胞を再度若返らせる(Making Immune Cells Young Again)

免疫系の発生である血球新生は、異なる波で生じる。免疫系は、最初胎生の造血幹細胞(HSCs)から発生する細胞と、次いでその後遅れて成体のHSCsから発生する細胞によって生じる。更に、胎生のHSCsは生得の免疫様(immunelike)性質を持ったリンパ球を作り、一方成体のHSCsは古典的なT細胞とB細胞を作る。Yuanたち(p. 1195,2月16日号電子版)は、これら異なる血球新生の波の背後にあるその分子メカニズムを明らかにしている。マウスやヒトにおいて、RNA結合タンパク質であるLin28とLin28bの発現は、胎生の造血幹細胞/前駆細胞(HSPCs)で盛んに起こっている。マウスの成体HSPCsにおけるLin28の異所性発現は、古典的T,B細胞系列と生得的リンパ球系列の双方の分化を誘発するに十分であった。(KU,nk)
Lin28b Reprograms Adult Bone Marrow Hematopoietic Progenitors to Mediate Fetal-Like Lymphopoiesis

役に立つ被覆(A Useful Cover-Up)

金属酸化物の担体上に吸着させた金属ナノ粒子からなる多くの工業用の触媒は、長期の使用により不活化してしまう。有機の反応物質は分解し、金属を炭素で覆ってしまう(コーキング)。また、別のプロセスでは粒径分布を少数の大きな粒子に変化させて、反応可能な全表面積を減少させてしまう(シンタリング(焼結))。Lu たちは(p. 1205)原子層デポ技術を用いて、担持されたパラジウムナノ粒子にアルミナの均一な被覆層を設けた。この被覆は、エタンからエチレンへの酸化脱水素反応の際のコーキングやシンタリング(焼結)に対するナノ粒子の耐性を大きく増大させた。(Sk,KU,ok)
【訳注】コーキング:粒子の隙間が異物で充填されること     シンタリング:粉末粒子が結合して一つの大きな粒子になること
Coking- and Sintering-Resistant Palladium Catalysts Achieved Through Atomic Layer Deposition

水素吸着を調整する(Tuning Hydrogen Absorption)

不飽和有機化合物に水素付加反応を行なう不均一系の金属触媒は、水素分子と十分に強く結合し、その結果水素分子を解離し、吸着された水素原子を形成する必要がある。しかしながら、触媒がこれら水素原子に余り強く結合すると、有機化合物への水素移動が妨げられるであろう。Kyriakouたち(p. 1209)は、超高真空の条件下で走査型トンネル顕微鏡と脱離技術を用いて、パラジウム(Pd)原子を銅(Cu)表面上に吸着させて作った表面性の合金触媒を調べた。Pd原子は解離的に水素に結合し--一方、これらの条件下ではCuの表面は水素とこのような結合が出来ない--、その吸着水素原子を Cu 表面に付着できるようにしている。チレンやアセチレンへの選択的な水素付加反応が可能となった。(KU,nk)
Isolated Metal Atom Geometries as a Strategy for Selective Heterogeneous Hydrogenations

月に磁性材料を持っていく(Bringing Magnetic Materials to the Moon)

月に行ったアポロ探査機は、月の地殻の一部分が強く磁化していることを明らかにした。月の岩石は、磁場を記録するには十分な特性を有していないため、これらの磁気異常は説明が難しい。大規模衝突に関する数値シミュレーションに基づいて、Wieczorek たち (p.1212; Collins による展望記事を参照のこと) は、月の磁気異常の大部分が月の外にその起源を有し、月に衝突した小惑星によって撒き散らされた強い磁性を有する物質により説明可能であることを示している。この小惑星により、月において最も大きな衝突盆地である、南極-エイトケン(SPA)盆地が形成された。(Wt,tk,nk)
An Impactor Origin for Lunar Magnetic Anomalies

文明化の代償(A Price of Civilization)

中央アフリカの一部の熱帯雨林の広大な広がりは、おそらくは気候変動のために、約3000年前にサバンナによって急激に置き換えられた。しかしながら、この変化はバンツー族の拡大(現在のカメルーンとナイジェリア国境近傍からその南と東に向けて)した時期であり、その移住には農耕と鉄の精錬技術が伴っていた。 Bayonたちは(p.1219,2月9日号電子版;Dupontによる展望記事参照)その近傍の海洋堆積物の記録を解析し、そして中央アフリカにおける化学的な風化もまた、この時期に顕著に増加していることを発見した。この風化の増加は気候変動の影響だけではなく、バンツー族による耕作地造成や精錬所の燃料を得るための森林伐採によって生じたのであろう。(Uc,KU,ok,nk)
Intensifying Weathering and Land Use in Iron Age Central Africa

子殺しの回避 (Avoiding Infanticide)

オスが支配する階層社会において、新しく支配者になったオスは、時々群れ内にいる乳児を殺す。1950年代に研究室でのマウスを使った研究において、Hilda Bruceは、なじみのないオスに引き合わされたメスがそれまでの妊娠を中止する(このプロセスは、その後Hilda Bruce効果と呼ばれている)ことを示した。Roberts たち(p. 1222, 2月23日発行の電子版) は、野生のゲラダヒヒの複数の支配者の交代のケースを追跡し、妊娠したことが分かっているメスが生きた子供を産む割り合いは、安定なグループと比べると、不安定なグループ内ではずっと低いことを示した。さらに、オスの交代に続いて妊娠を中止したメスたちは、妊娠を中止しなかったメスに比べ出産間隔がずっと短かくなった。これはオスによる子殺しを避けるというメスのより高度な生殖率と適応性を示唆している。(Ej,KU,nk)
A Bruce Effect in Wild Geladas

時と場所(A Time and a Place)

形態形成細胞の形態変化の開始は、アクトミオシンの収縮の開始がきっかけになると考えられている。Roh-Johnson たち(p. 1232, および、2月9日発行の電子版、さらに Razzell and Martinによる展望記事参照)は、線虫とショウジョウバエの双方の胚において、細胞の形態変化を促進するアクトミオシンの収縮が、発生時の特定の時間にのみ細胞の形態変化のトリガーに関わって働くよう構成されいることを発見した。(Ej,KU,nk)
Triggering a Cell Shape Change by Exploiting Preexisting Actomyosin Contractions

ヌクレオソームマップと変異(Nucleosome Maps and Mutation)

変異の蓄積を支配しているプロセスを理解することは、進化生物学の多くの面にインパクトを与えることになる。DNA修復に欠陥のある酵母系統における変異の蓄積実験から得られたデータを、ゲノム全体での置換と組み合わせることで、Chenたちは、C/GのT/Aへの変化が、ヌクレオソームのない領域により影響を与えていることを実証した(p. 1235)。さらに、酵母の種間やメダカや線形動物の系統で比較解析を行なった際にも、同様のパターンが見られた。この結果は、ヌクレオソームによって結合されるDNAはDNA損傷によって引き起こされる変異から保護されている、というモデルと整合するものである。(KF)
Nucleosomes Suppress Spontaneous Mutations Base-Specifically in Eukaryotes

神経発生とパターンの統合(Neurogenesis and Pattern Integration)

成体の海馬は、歯状回ネットワークに組み込まれ、そして情報処理に寄与することになる新たなニューロンを連続的に産生している。成体において生まれるニューロンのどんな特徴が、歯状回における情報処理にとって重要なのだろうか? Marin-Burginたちは、新生ニューロンに標識付けし、そして高性能の電気生理学的技法と画像処理技術とを用いて、入力について、高度に特異的である成熟ニューロンと比べて、未成熟なニューロンはさまざまな起源をもつ多様なシナプス入力をずっと幅広く統合していることを示している。 (p. 1238,1月26日号電子版; またKempermannによる展望記事参照)。つまり、未成熟なニューロンは、過渡的な期間に広く大ざっぱに調整される積分器の集団を表し、そして入ってくる情報の殆どの特徴をコード化している可能性がある。成熟後には、新しい顆粒細胞は高い活性閾値と入力特異性を示し、よりよいパターン分離器となっていくのである。(KF,KU,ok)
Unique Processing During a Period of High Excitation/Inhibition Balance in Adult-Born Neurons

派手な羽毛(Flashy Feathers)

羽毛の色は、トリの生活にとって重要な役割を果たし、カモフラージュから温度調節、性的シグナルの伝達まで、あらゆることにおいて機能している。最近の多くの研究は、恐竜のあるものには羽毛があったことを明らかにしているし、化石中の羽毛成分と保存されていた羽毛の検証によって、それら恐竜の生活において羽毛の色がいかなる役割を果たしていたかが明らかになり始めている。Liたちは、原鳥類の恐竜Microraptorのメラノソームの特徴を、現存の鳥類において見つかっているものと比較したが、それは、その羽毛が黒色で真珠光沢があったことを示唆している(p. 1215) 。反射率に微妙な色合いがついていることと、羽毛のある尾の形態学的側面とが相俟って、羽毛の初期の進化におけるシグナル伝達の重要性が示唆されるのである。(KF,nk)
Reconstruction of Microraptor and the Evolution of Iridescent Plumage

有毒な樽(A Toxic Barrel)

アルツハイマーなどのアミロイド病において、多くの研究により、オリゴマーが重要な有毒種であると示唆されてきた。それらオリゴマーをよりよく定義するための努力として、Laganowskyたちは、アミロイド線維と相対的に安定なオリゴマーの双方を形成する、原線維形成タンパク質αB結晶質(ABC)のセグメントを同定した(p. 1228)。ABCオリゴマーは細胞生存率アッセイにおいて有毒であり、アミロイド-オリゴマー-特異的抗体によって認識された。そのオリゴマーの結晶構造は、6つのペプチドがcylindrinと呼ばれる逆並行樽型(バレル)を形成することを示していた。アミロイドオリゴマーは、構造的に多形性であるらしいが、cylindrin様の組立構造は、このとらえどころのない構造についての1つのモデルを提供してくれる。(KF)
Atomic View of a Toxic Amyloid Small Oligomer
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