AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 27 2012, Vol.335


バッタの楽園(Locust Heaven)

バッタの大発生は農業に大打撃をもたらすが、この大発生を促す条件は知られていない。Ceaseたち(p. 467)はバッタの食事に関して調べ、そして穀類草の窒素含有量の増加が草食性のバッタの種の大きさと生存率を下げていることを見出した。これらのバッタは低窒素含有の植物を好み、これら低窒素植物は家畜による大量の草食とその結果としてのそれに伴う土壌の浸食から生じるものである。(KU,nk)
Heavy Livestock Grazing Promotes Locust Outbreaks by Lowering Plant Nitrogen Content

自然選択を捕まえる(Natural Selectiom Caught in the Art)

新たな機能がどのようにして進化するかを理解することは、長い間の関心事であった。しかしながら、鍵となる新たな機能(innovation)の進化に必要な変異の数は殆ど知られておらず、或いは他の変異との組み合わせで十分であるのかどうか、、或いは中間段階が自然選択により促進されるのかどうか、あるいはどのような偶然性によりそのような結果が生じてきたのかも殆ど知られていない。Meyerたち(p. 428;Thompsonによる展望記事参照)は、或るケースに関してこれらの疑問に答えているが、そこではλファージが新規な受容体を通して宿主の大腸菌に感染する能力を進化させた。この変化には4っの変異を必要としたが、これらの変異は宿主の共進化と協調して自然選択のもとで蓄積された。しかしながら、Tenaillonたち(p. 457)が115系統の大腸菌を高温(42.2℃)に曝し、そしてそれらの配列決定を行なった際に、適応が多くの異なる遺伝的経路を通して生じてており、このことは遺伝子、及び相互作用するタンパク質複合体のそのレベルでの、しかしヌクレオチドのレベルでは滅多に起きない平行現象を示すものである。このように、エピスタシス(epistasis:上位性--或る遺伝子が他の遺伝子の発現を阻止するような相互作用)がこの環境への適応プロセスにおいて重要な役割を果たしているらしい。(KU,nk)
Repeatability and Contingency in the Evolution of a Key Innovation in Phage Lambda
The Molecular Diversity of Adaptive Convergence

カリウムの浸透(Potassium Permeation)

2っのポア領域カリウム(K2P)チャネルは、真核生物の細胞の原形質膜を横切ってK+イオンを導く。それらのイオンは細胞の静止電圧の維持に有用であり、それらの調節により、細胞の興奮性が調整される(Poulse and Nissenによる展望記事参照)。MillerとLong(p. 432)は、ヒトK2PチャネルK2P1(TWIK-1)の高分解能の結晶構造に関して記述しており、そしてBrohawnたち(p. 436)は、脂質と機械感受性のヒトチャネルTRAAKの高分解能の構造を報告している。2っの構造において、細胞外領域がチャネルの入り口を締め付けており、結果としてK+イオンは側面の門を通して選択性フィルターに到着する。膜貫通領域における開口により中心の腔が脂質二重層に露出し、そして或るラセン体はそのC末端部分がサイトゾル-膜界面に横たわるように捻られる。この構造的特徴はK2Pのコンダクタンスとゲート開閉を説明するものであり、そしてこのチャネルが多様な刺激によってどのように制御されているかの洞察を与える。(KU)
Crystal Structure of the Human Two Pore Domain Potassium Channel K2P1
Crystal Structure of the Human K2P TRAAK, a Lipid- and Mechano-Sensitive K+ Ion Channel

多孔性の膜(Porous Membranes)

薄い半透膜は化学的障壁や濾過の目的で通常は利用されている。孔の大きさによってどんな分子が通過できるかが影響されるが、他の因子--孔壁表面の化学的特性や静電気的相互作用、溶解性の差を含む--もまた、拡散速度に影響しうる。また、膜を厚くすると強度は上るが透過速度が下がるという相反する関係もある (Paulによる展望記事参照)。Karan たち(p. 444) は、無定形炭素から膜を作ったが、これは優れた強度を発揮し、有機溶剤を含む液体の濾過に利用できることを示した。Nair たち(p. 442)は、グラフェンを基にした膜において異常な挙動を観察したが、この膜はヘリウムのような多くの小分子ガスの拡散を阻止するが、水に関してはほとんどフリーな障壁が無いような動きを示した。(Ej,hE,nk)
Ultrafast Viscous Permeation of Organic Solvents Through Diamond-Like Carbon Nanosheets
Unimpeded Permeation of Water Through Helium-Leak Tight Graphene-Based Membranes

過酸化物を箱に納める(Boxing in Peroxide)

過酸化水素 (H2O2)は強力なオキシダントであり、この反応性は合成だけでなく,多くの生物学的な研究で利用されて来た。Lopez たち(p. 450)は、その2価陰イオン(O22-)をクリプタンド(cryptand)---基本的には、ベンズアミドの誘導体で作られた分子の箱---に保持することに成功し、良い位置に配置された内部水素結合ドナーのネットによって、2価陰イオンを何日も有機溶液中で安定な状態に保った。このカプセルで覆われた2価陰イオンは、化学的にも電気化学的にもO2への可逆的にクリーンな酸化反応を示している。(Ej,hE)
Reversible Reduction of Oxygen to Peroxide Facilitated by Molecular Recognition

中心体がステージの中央に立つ?(Centrosome Center Stage?)

中心体は動物細胞において細胞骨格の主要なオーガナイザーである。この小器官の各細胞サイクルにおける正確な複製によって、分裂装置や染色体分離の適正な組織化を保証している。しかし、マウスやショウジョウバエのある発生段階における細胞分裂には、中心体は必要としない。Bornens (p. 422)は、多様な生物における中心体の役割をレビューし、なぜ・どうして、これらが時に必要とされないのかを考察した。この点に関して、Azimzadeh たち(p. 461, および、1月5日号の電子版を参照) は、驚くべき再生能力で知られている扁形動物のプラナリアの中心体は、細胞分裂にも発生にも中心体が不要であることを実証した。(Ej,hE,KU)
The Centrosome in Cells and Organisms
Centrosome Loss in the Evolution of Planarians

磁気を帯びた月(Magnetic Moon)

月は、かつてはコアのダイナモ効果によるによる磁場を有していたと思われている。Shea たち (p.453) は、アポロ11号によって持ち帰られた月の玄武岩について記述している。この玄武岩は、37億年前の月には強いダイナモ効果があった形跡を記録している。これまでの月の別の岩石に関する研究とともに、この研究は、月のコアのダイナモ効果が42億年前から37億年前の間、存在していたことを示唆している。つまり、月のダイナモの寿命が 5 億年伸びたことになる。(Wt,nk)
A Long-Lived Lunar Core Dynamo

森林の多様化(Forest Diversification)

生態学的コミュニティー(とくに熱帯樹林における)中の種の豊かさを生み出すにあたっての、中性的プロセスと決定論的プロセスの相対的役割は、多様性のパターンと種の豊富さに関する最近の議論の中心的話題となってきている。RicklefsとRennerは、何百万年もの間、独立に存在し分岐してきた別々の大陸の森林地域の植物ファミリーにおける個体数と種の数を比較することで、ランダムな多様化と個体数変動に関する分析結果を報告している(p. 464)。ランダム事象に基づいた確率論的理論では、地域間には相関がありえないと予想する。しかしながら、そのデータは、統計学的に有意な強い相関を明らかに示している。つまり、多様性のパターンは、決定論的プロセスによって支配されているらしい。(KF,nk)
Global Correlations in Tropical Tree Species Richness and Abundance Reject Neutrality

正しい距離の判断(A Good Judge of Distance)

ハエトリグモ(Jumping spider)は、獲物を追いかけ、それを捕えるために、しばしばかなり長い距離ジャンプする。そうした妙技には正確な奥行き感覚が必要である。Nagataたちは、ハエトリグモが、「画像の焦点をぼかす」(image defocus)と呼ばれるプロセスを用いていることを示している(p. 469; またHerbersteinとKempによる展望記事参照のこと)。image defocusとは、同じ眼の内部で焦点の合っていないボケた画像と焦点の合った画像と比較することで、奥行き感覚を得ることである。クモの眼の内部のある単一層は、緑色光を焦点を合わせることができなかったが、それにもかかわらず、緑色に感受性のある色素を含んでいた。つまり、この層はいつも焦点の合わない画像を受け取っている一方で、他の層は焦点の合った画像を受け取っているのである。この眼の構造が奥行き感覚で果たす役割を確認することになるが、不幸にも緑色光だけに満たされた環境ではクモのジャンプはいつも目標に届かないのである。(KF,KU,nk)
Depth Perception from Image Defocus in a Jumping Spider

パッシブ型光ダイオード(A Passive Optical Diode)

電気的ダイオードはマイクロエレクトロニクスの核をなすものである。しかしながら、光学的ダイオードは、電磁波の伝搬を記述するマクスウェルの方程式の時間反転対称性のため実現することが困難であった。通常、その対称性を破るには電磁場の形の制御された入力が必要である。そのような入力は、光集積回路に対しては現実的でない。Fan たちは(p.447, 12月22日号電子版)シリコンベースの微小共振素子を開発し、それを通すことで光の非対称的な伝送を制御することができた。パッシブ型光ダイオードは、現状の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の加工技術と互換性があり、したがって、容易にオプトエレクトロニクス回路に組み込めるであろう。(Sk)
An All-Silicon Passive Optical Diode

プリオン問題(Prion Problem)

「狂牛病」などのプリオン病は、種間の障壁を乗り越えて伝染する怖い能力を示しているが、幸いなことに、その能力は低いものである。しかしながら、プリオンの異種間の伝染におけるさまざまな組織の役割は不明である。Beringueたちは、頑強な伝染障壁を越えてのプリオンの伝染を調べるために、「ヒツジ化」遺伝子導入マウスモデルと「ヒト化」遺伝子導入マウスモデルとから得られた、脳組織とリンパ組織の能力を比較した(p. 472; 表紙参照; またCollingeによる展望記事参照のこと)。これらマウスのリンパ組織は脳組織よりも、慢性消耗病やウシ海綿状脳症の原因となるようなプリオンに対して常に感染しやすかった。伝染の障壁についての従来の測定は脳に焦点を当てていたので、プリオン病のサイレントキャリアの数を見積もる際に、リンパ組織の高い感受性は大きな衝撃を与えることになりうる。(KF,KU,ok,nk)
Facilitated Cross-Species Transmission of Prions in Extraneural Tissue

B細胞分化における抗原の極性(Antigen Polarity in B Cell Differentiation)

細胞接触を介して受け取られるコミュニケーションは、免疫応答の際の特殊化された効果細胞集団の分化にとって決定的に重要である。たとえば、Bリンパ球はヘルパーTリンパ球へ提示する抗原を獲得する。Tリンパ球は次に、Bリンパ球に鍵となる分化シグナルを供給する。このプロセスをさらに学ぶために、Thaunatたちは多光子顕微法とイメージング・フローサイトメトリーを用いて、免疫応答の際のBリンパ球における抗原の局在化を可視化した(p. 475; またDustinとMeyer-Hermannによる展望記事参照のこと)。Bリンパ球によって獲得された抗原は、何回かの細胞分裂に渡って持続する極性化の分布を示した。これが非常に低いレベルの抗原を含む活性化Bリンパ球の集団を産生した。より多くの抗原を受け取った娘細胞は、T細胞を更によく活性化することが出来た。Tリンパ球との相互作用を介して受け取られる手がかりが、Bリンパ球の運命の決定に影響を与えるらしく、分裂するBリンパ球における抗原の不均等な分布が彼らの分化に影響している可能性がある。(KF,KU)
Asymmetric Segregation of Polarized Antigen on B Cell Division Shapes Presentation Capacity

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