AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 20 2012, Vol.335


目隠しの量子計算(Quantum Blindness)

量子コンピューターは従来のコンピューターよりも高速処理が可能であるが、具現化するためにはコンピューターを特別な施設に設置しなければならないという技術的制約がある。故に、“量子コンピューターユーザー”は基本的に“量子サーバー”を通して信号のやり取りを行う必要がある。Barzらは(p.303;Vedralの展望記事参照)、そのような配置において、ユーザー側とサーバー側両方で完璧なセキュリティーを確保できる手続きが原理的に可能であることを証明した。このように外からは見えない状態にした量子計算プロトコルでは、ユーザーは自分のデーターと実行したい計算内容のセキュリティーを維持でき、そしてサーバーはユーザーのデータや計算にアクセスできない。(NK,KU,nk)
Demonstration of Blind Quantum Computing

海藻から湧き出した(Sourced from Seaweed)

バイオ燃料のための原材料としての海藻の利用は、あまり注目されていなかったが、一つには、その主要な糖の成分であるアルギン酸塩を工業的に利用可能な微生物によって容易に発酵させることができないためであった。Wargackiたちは(p. 308;表紙参照)今回、実験室レベルで遺伝子操作で代謝改変されたバクテリアによって海藻を分解し、続いて糖をエタノールに発酵させることができることを示している。(Uc,KU)
An Engineered Microbial Platform for Direct Biofuel Production from Brown Macroalgae

反応表面の追跡(Tracking Reaction Surfaces)

金は、セリア(酸化セリウム)のような還元性の金属酸化物の表面上にナノ粒子として分散されると、CO酸化に対してその反応が室温で進むほど著しく活性な触媒となる。Yoshidaたち(p. 317)は収差補正環境透過型電子顕微鏡を用いて、この反応に対するセリアに担持された金ナノ粒子と吸着化合物の両者の変化を追跡した。(hk,KU)
Visualizing Gas Molecules Interacting with Supported Nanoparticulate Catalysts at Reaction Conditions

タンパク質の動力学を観察する(Observing Protein Dynamics)

比較的長時間に渡つての典型的な酵素の動力学に関して、タンパク質の立体構造の変化を追うことは、難しい課題である。Choiたち(p. 319;およびLuによる展望記事参照)は、一個のリゾチーム分子をカーボンナノチューブの電界効果トランジスタにつなぎ、リゾチームの高次構造の変化(この変化が静電ポテンシャルを変化させる)を観察することに成功した。加水分解反応の酵素分子のゆっくりした変化は、反応に無関係なより速い蝶番運動とは対照的である。pHに伴うリゾチーム活性の変化は、進行的状態と、非進行的状態にある時間の相対比がかわることで生じることが判った。(Ej,hE,KU,nk)
Single-Molecule Lysozyme Dynamics Monitored by an Electronic Circuit

星がかすめる(Star Grazing)

ある種の彗星は、危険なほど太陽の近くにやってくる。Schrijver たち (p.324; Lisse による展望記事を参照のこと) は、そのような太陽をかすめて通る彗星の一つについて Solar Dynamics Observatory により行われた観測の説明をしている。この彗星は、太陽大気内部に進入し、ばらばらに砕け、そして、完全にその大気内部で昇華されてしまった。過去15年間に、2000個以上の太陽をかすめる彗星が観測されてきたが、いずれも太陽大気の中までは追いかけられていなかった。この研究は、彗星が太陽からこのような近距離でも観測されうることを示すことで、彗星、および、太陽大気を研究する新しい方法を切り開いたものである。(Wt)
Destruction of Sun-Grazing Comet C/2011 N3 (SOHO) Within the Low Solar Corona

動的複製(Dynamic Replication)

すべての生物において、DNA複製にはレプリソーム(replisome:複製複合体)と呼ばれる多タンパク質複合体が含まれる。活性な大腸菌のレプリソームにはDNAポリメラーゼV(PolV)の3コピーが含まれている。Lia たち(p. 328, および、12月22日号電子版参照)は単一分子の分光測定を行い、生体内での大腸菌複製中の単一タンパク質の動力学を測定した。その結果、活性レプリソーム中に3つのPolV分子が存在し、このPolVの1つが貯蔵された内の1つと規則的に交換されることが確認された。一本鎖DNA量との協調から推測出来ることは、ラギング鎖合成を行うPolVが交換されて、新しいPolVが各々の岡崎フラグメントの合成のために用いられるようになることである。(Ej,hE)
Polymerase Exchange During Okazaki Fragment Synthesis Observed in Living Cells

志賀毒素を避ける(Shunning Shiga)

志賀毒素(Shiga toxin)を持つバクテリアの感染により、全世界で毎年100万人以上を死に至らしめる。その毒素に対する解毒剤は手に入らず、そして抗生物質を使った処置は、死んだバクテリアから毒素が放出されて症状を悪化させるリスクが増すため、その処置を用いることはできない。マンガンは必須栄養素であり、人に対する毒性は十分に研究されていて、マンガンは組織培養細胞中での志賀毒素の正常な輸送を抑制するということである。Mukhopadhyay とLinstedt (p. 332)は、正常細胞プロセスへの有害な影響を及ぼさないMn2+のレベルが、志賀毒素の細胞内輸送を変化させ、結果としてリソソーム内で分解されることを見い出した。これは、毒素が誘因する死に対して培養細胞の保護を大変高いレベルで可能にし、志賀毒素が引き起こす麻痺や死に完全に抵抗力があるマウスを作り出した。(TO,KU)
Manganese Blocks Intracellular Trafficking of Shiga Toxin and Protects Against Shiga Toxicosis

範囲を広げる(Extending the Range)

超低温の気体原子は、調整が容易であるため、凝縮系の量子シミュレーションの対象として魅力的である。しかしながら、その相互作用の強度は調整可能ではあるが、その範囲は事実上ゼロである。Williams たちは(p. 314, 12月8日号電子版)一対のラマンレーザーを用いて、二つの衝突するボース-アインシュタイン凝縮体間の相互作用を、s波外(dおよびg波)の寄与を含むように変化させた。この手法は、エキゾチック超流動が起こるような系を含む、より複雑な固体状態の系のシミュレーションを可能にするであろう。(Sk,nk)
Synthetic Partial Waves in Ultracold Atomic Collisions

メスの目を欺く(Trick of the Eye of the Beholder)

オスのコヤツクリ鳥は、メスが立ち止まり近づいて来る飾り道(avenue)とオスがディスプレーする舞台(arena)からなる手の込んだ棲家を造る。オスは自分のアリーナを石や、花、及び見つけた物を用いて几帳面に飾る。以前の研究から、このような棲家は観客であるメスに遠近感の錯覚を強いるものということが示されていた。Kelley and Endler(p. 335;Andersonによる展望記事参照)は、交配の成功が巣の物理的な性質ではなく、その錯覚の構成に基づくと言うことを示している。このように、メスはディスプレーするオスによって丹精込めて作られ、維持された錯視に基づいてオスを選択している。(KU,nk)
Illusions Promote Mating Success in Great Bowerbirds

運命の決定は確率論的、或いは非対称的?(Stochastic or Asymmetric Fate Determination?)

適応性免疫応答の際に、Bリンパ球は急速に分裂し、そして抗体-分泌性形質芽細胞や記憶B細胞等のエフェクター細胞集団に分化する。この多くはまた、イソタイプスイッチと呼ばれるプロセスを通して、それらが分泌している抗体のクラスを変える。このプロセスの際に、或る細胞は死んでいく。しかしながら、これらの細胞が自らの異なる運命を確率論的な、或いはプログラムされた様式で獲得しているのかどうかは不明である。Duffyたち(p. 338,1月5日号電子版)は単一細胞トラッキング法を用いて、刺激されたBリンパ球の分裂、形質芽細胞への分化、イソタイプスイッチ、及び死に関するその時間を決定した。統計的解析と数学的モデルにより、これらの細胞の運命決定はランダムな時計の結果であることが明らかになった:どのタイマーが最初に終わるか(分裂、分化、或いは死)が、その細胞の運命を決めていた。Barnettたち(p. 342,12月15日号電子版)は、非対称性の細胞分裂(これはT細胞におけるエフェクター細胞の運命決定に寄与していると考えられている)が、Bリンパ球において作用しているかどうかを決定するために調べた。実際に、祖先の極性タンパク質に加えて、胚中心のBリンパ球のアイデンティティの開始と維持にとって重要な因子は、非対称的に分布し、そして細胞分裂の間その非対称性を維持していた。(KU,nk)
Activation-Induced B Cell Fates Are Selected by Intracellular Stochastic Competition
Asymmetric B Cell Division in the Germinal Center Reaction

天然の殺し屋の制御(Natural Killer Controls)

細胞溶解性のナチュラルキラー(NK)細胞は、抗菌と抗腫瘍免疫の双方に関与している。その応答性は、それらの細胞表面上に発現する多様な抑制性と活性化の受容体を介して受け取るシグナルによって調整されている。Narni-Mancinelliたちはこのたび、活性化受容体であるNKp46を介したシグナル伝達が、NK細胞の応答を逆に抑制状態にしていることを明らかにした(p. 344)。NKp46発現が生じないようにされたマウスのNK細胞は、刺激に対して応答性亢進状態になり、ウイルス感染に対してよりよく保護された。NK細胞応答は、感染初期の応答の一部なのだが、つまるところ、保護的な長命の免疫記憶細胞の形成と順応性免疫の最適な開始を保証するために、注意深く調整される必要がある。(KF,KU)
Tuning of Natural Killer Cell Reactivity by NKp46 and Helios Calibrates T Cell Responses

Mycの扱い(Taking the Myc)

Myc癌遺伝子調節不全が腫瘍形成に寄与する仕組みについての、30年近くになる研究にも関わらず、Myc活性を抑制する効果的な治療法は、いまだに存在していない。Kesslerたちは、Mycによって駆動される腫瘍形成を支える遺伝子産物を探索した(p. 348,12月8日号電子版; またEvanによる展望記事参照のこと)。スクリーニングによって薬理学的に扱いやすい標的として浮かび上がってきたのは、ユビキチン様タンパク質(SUMO)活性化酵素複合体SAE1/2で、これは、タンパク質の振る舞いと機能を変化させる翻訳後修飾(SUMOylation)を触媒するものである。SUMOylationはMyc転写反応を制御することがわかり、それを抑制するとMyc依存的乳癌細胞における有糸分裂の欠損とアポトーシスが引き起こされたのである。(KF)
A SUMOylation-Dependent Transcriptional Subprogram Is Required for Myc-Driven Tumorigenesis

シナプスを協調させる(Coordinating Synapses)

皮質性局所回路網(cortical microcircuit)は、時空間的に組織化されたスパイク活性を放出する神経細胞集合を作り出す。それら活性パターンは、下流ニューロンの樹状突起によって解読される。シナプス入力が、与えられた時点で、標的となる樹状突起群に対してクラスター化されているか、分散しているかは、樹状突起の計算力を決定するのにきわめて重要である。しかしながら、そうした細胞内の動力学は不十分にしかわかっていない。げっ歯類の器官をスライス培養して、Takahashiたちは、樹状突起棘の活性が、互いにごく近傍にある棘のグループ内でしばしば同期していることを発見した(p. 353)。この局所的同期化は、内因的に同期化されたシナプス前ニューロン集団からの収束性のシナプス入力を反映しているらしい。(KF)
Locally Synchronized Synaptic Inputs

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