AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 23 2011, Vol.334


プラスの反応性(Positively Reactive)

相間移動触媒は、大きく異なった相対的極性をもつ基質間の反応を加速するための用途の多い戦略である。無極性の炭化水素基で修飾された陽イオンは、しばしば反応性の陰イオンを溶液中に引き寄せ、そこでは疎水性化合物が待ち受けていて、反応性の陰イオンと結合する。Rauniyarたち(p. 1681; Sodeokaによる展望参照)は逆のシナリオを報告しており、マイナス・チャージのリン酸イオンがプラスチャージのフッ素化化合物の溶解度を高めている。このキラルなリン酸は不斉触媒として倍の働きをし、オレフィンへのフッ素の付加反応を高選択性と高効率に導く。(hk,KU)
Asymmetric Electrophilic Fluorination Using an Anionic Chiral Phase-Transfer Catalyst

磁場を作る(Making Magnetic Fields)

水星は地球のように内部起源の磁場を有しているが、しかしずっと弱い。この二つの惑星は、磁場が太陽風(太陽によって生成された荷電粒子の流れ)と相互作用する際に発生する磁気圏によって囲まれている。3次元の数値シミュレーションを用いて、Heyner たちは(p.1690)、水星が太陽風との相互作用によって生じる電流が外部磁場を生成し、その磁場は惑星深部にまで拡散し、そして惑星の液体鉄の核で働いていると考えられているダイナモ作用によって生ずる磁場の強さを弱めることを示した。磁気圏と内部磁場の間のこの相互作用は、内部の対流によって駆動されるダイナモからこのように弱い水星の大局磁場がどうやって生じ得るのか、という長年の問いについての解答がこの磁気圏と内部磁場の間の相互作用によって与えられる可能性がある。(Uc,KU,nk)
Evidence from Numerical Experiments for a Feedback Dynamo Generating Mercury's Magnetic Field

適所でのスピン回転(Spinning in Place)

リン光物質の発光はスピン状態の変化が必要なため、長時間光っている。孤立した分子発色団の光の吸収と放出のスペクトルの説明において、スピン保存は中心的な原理である。その原理はまた、発色団間のエネルギー移動の挙動をも説明できることを、Guo etたち(p. 1684)は示している。二つの異なった二金属錯体が合成されたが、それらはスペクトルの重なり合うドナーとアクセプターイオン間のエネルギー移動を促進するように設計された。リガンドとドナーは両錯体では同一であるが、しかしアクセプターイオンはそれらのスピン状態で異なっていた。光励起により、スピン適合性のドナーとアクセプター部位をもつ錯体においてのみエネルギー移動が起こった。(hk,KU)
Angular Momentum Conservation in Dipolar Energy Transfer

ヘッジホッグはゲートを守る(Hedgehogs Man the Gate)

血液脳関門(BBB)は、強く結合した血管内皮細胞と血管周囲のアストロサイトから構成され、そして潜在的に危険な細胞と血液由来の分子を脳から遠ざけている。多発性硬化症といった神経病において、BBBはその関門を破られ、炎症性メディエーターや細胞が脳に近づき、病の発生となる。Alvarez たち(p. 1727, 12月1日号電子版、および、Engelhardtによる展望記事参照)は、ソニックヘッジホッグ(Shh)のシグナル伝達がBBBの完全性を促進していることを実証した。マウスにおいて、Shhのシグナル伝達を薬剤で抑制したり、或いは血管内皮細胞におけるShhのシグナル伝達の遺伝子除去は、マウスのBBBの透過性を増大させる。多発性硬化症のマウスモデルでは、Shhシグナル伝達の遮断によって病状は重症化する。炎症はShhシグナル伝達を促進し、また多発性硬化症の障害においてはShhのシグナル伝達メディエイターの発現が活発になった。(Ej,KU,nk)
The Hedgehog Pathway Promotes Blood-Brain Barrier Integrity and CNS Immune Quiescence

磁性を利用して生合成する(Magnetic Biosynthesis)

走磁性細菌の細胞内部には、細胞が磁場に沿ってナビゲートできるような微小な磁性のナノ結晶から成る特別の区画を持っている。これらの粒子は一般的に酸化鉄の磁鉄鉱鉱物からできているが、ある種の細菌は硫化鉄のグレイジャイト粒子から出来ている。アメリカ南西部の湖と堆積物をサンプリングすることで、Lefevre たち(p. 1720)は、硫酸塩を還元するいくつかのDeltaproteobacteria属のメンバーを単離した。これは、増殖培地に依存して磁鉄鉱かグレイジャイトのいずれかを含んでいる。このことから、生体内鉱質形成は外部の化学によって制御されていることが推察できる。しかし、1つの系統は、マグネトソーム(走磁性細菌の細胞内小胞)の生合成のために、2つの別々の遺伝子クラスターを含んでいる:その1つのクラスターは磁鉄鉱を利用する細菌のものと似ており、もう一つはグライジャイトを生成する細菌にもっと似ている。(Ej,nk)
A Cultured Greigite-Producing Magnetotactic Bacterium in a Novel Group of Sulfate-Reducing Bacteria

滑らかな股関節(Smooth Hips)

樹脂製受け口(ソケット)を用いた器具によって引き起こされる摩耗や摩耗粉の問題を避けるため、金属−金属タイプの人工股関節の割合が増大している。金属−金属の器具は過剰な摩擦に悩まされると考えるかもしれないが、なぜか患者の内部では面が接する部分に低摩擦な層が形成されている。Liao たちは(p. 1687)、患者から回収した人工股関節の表面層を調べ、薄いグラファイト層を見出した。グラファイトは優れた固体潤滑剤であるため、これによってこれらのタイプの人工股関節にみられる低い摩擦の説明がつく。(Sk)
Graphitic Tribological Layers in Metal-on-Metal Hip Replacements

炭素の変動(Carbon Swings)

地球の歴史を通して何度か、海洋の酸素レベルと世界的な炭素の循環との間の関係の崩壊があった。これらの状況の因果関係を解明する試みはしばしば極めて困難で、手掛かりを求めて何十億年という地球の歴史を表す岩石を探る作業を伴う。Kump たちは(p.1694, 12月1日号電子版;Hayes による展望記事参照)、ロシアの原生代前期(約20億年前)の岩石から炭素と窒素の同位体の証拠を示した。それは、還元状態での炭素貯蔵箇所から大気中や海洋中の二酸化炭素への、炭素の大規模な移動があったことを示している。これはおそらく、新たに進化した酸素発生型の光合成微生物によって産み出された酸素が蓄積し始めた、大酸素イベントの結果であろう。(Sk,KU,og,nk)
Isotopic Evidence for Massive Oxidation of Organic Matter Following the Great Oxidation Event

鳥の餌も不足している(Not Enough Bird Feed)

オキアミ等餌魚の収穫が急激に増加している。これらの種は他の多くの生き物の餌であり、これらの個体群サイズの減少は海洋生態系全体に連鎖的な影響をもたらすであろう。Curyたち(p. 1703)は、複数の海洋系に関する数十年間の長期にわたるデータセットを用いて、海鳥(海の捕食種の大きなグループである)の繁殖増加に関する餌魚の個体群サイズの影響を定量化した。餌魚の総数がこれまでの最高値の1/3以下に低下した時には、複数の海鳥の繁殖が低下し変動も大きくなった。(KU,nk)
Global Seabird Response to Forage Fish Depletion?One-Third for the Birds

ラミンタンパク質を必要とせず(No Lamins Required)

核のラミンタンパク質は核膜を整列し、そして核の物理的完全性を促進する。ラミンタンパク質は、転写やDNAの複製及び染色質の修飾の制御の制御等の多数のプロセスに関与している。更に、一連の病もラミンタンパク質の変異によって引き起こされる。にもかかわらず、Kimたち(p.706,11月24日号電子版)は、マウスにおいて3っのラミン遺伝子総て欠如した際の比較的穏やかな影響に関して記述している。ラミンタンパク質は胚性幹細胞の形成と増殖には必要でなかった。ラミンタンパク質の無いマウスは器官形成、特に脳の発生に異常をもたらしたが、これはおそらく紡錘の配向と神経細胞移動の欠陥によるものである。(KU)
Mouse B-Type Lamins Are Required for Proper Organogenesis But Not by Embryonic Stem Cells

開いて閉じる(Open and Shut)

染色体のDNA複製の進行は、DNAを取り囲みそしてポリメラーゼに結合する滑りクランプによって促進される。滑りクランプはクランプローダー(loader:積み込み機)によってDNA上に置かれるが、このローダーはATP分解酵素のAAA+スーパーファミリのメンバーである。Kolchたち(p. 1675)は、滑りクランプとDNAに結合したATP-結合T4バクテリオファージのクランプローダーの構造に関して報告している。ATP-結合クランプローダーは開構造においてそのクランプを取り込み、その結果その複合体はDNAのラセン構造に対応するスパイラル構造を形成する。DNAターゲットへの結合により、ATPの加水分解、クランプローダーの分離、そしてターゲットDNA上の閉じたクランプの遊離をトリガーする。(KU)
How a DNA Polymerase Clamp Loader Opens a Sliding Clamp

コンピュ−タ−を用いた合成生物学(Computer-Aided Synthetic Biology)

エレキの技術者が電子回路を考え、設計するその方法と類似した仕方で、コンピュータを用いた設計により 合成生物学者が遺伝子制御マシンを作ることが可能になったらどうなるのだろうか?Carothersたち(p. 1716)は、このような技術が目前にせまっていることを示している。著者たちは、RNA分子の折りたたみや結合及び触媒活性に関する比較的予想可能な性質(タンパク質のそれと比べての)を用いて、遺伝子発現デバイスを設計した。このデバイスはバクテリア中で生物活性化合物や工業的に有用な化合物の産生に有用な化合物を作るよう機能した。バクテリア中で発現したほぼ30個のこのようなデバイスの定量的な予測が達成された。(KU)
Model-Driven Engineering of RNA Devices to Quantitatively Program Gene Expression

きちんとたたむ(Folding in Place)

タンパク質がどのように折りたたまれるかと言う我々の洞察の殆どは、in vitroでの全長のタンパク質や領域の研究に依る。しかしながら、in vivoにおいて、部分的に合成されたタンパク質はリボソームに結合している間に折りたたみを開始し、それ故リボソームはこの折りたたみに影響を与えるであろう。Kaiserたち(p. 1723)は単一分子での実験を行い、リボソームに結合したポリペプチドの折りたたみをモニターした。T4リゾチームにおいて、リボソームはコンパクションを促進したが、しかし全長のタンパク質三次構造の形成を遅延させ、そして不完全なポリペプチドが誤った折りたたみをするのを防いでいた。このように、リボソームはタンパク質の折りたたみを本来の状態にするよう寄与している。(KU,nk)
The Ribosome Modulates Nascent Protein Folding

心理学的治療プラス、プロザック(Psychotherapy Plus Prozac)

臨床経験では一貫して、気分障害に対して抗うつ薬による薬物療法と心理学的治療の組み合わせの方が、どちらか一方の治療だけよりもよく効果があることを示してきた。しかしながら、こうした知見の根底にある機構は、まだよく理解されていない。マウスを使って、Karpovaたちは、恐怖条件付けされた記憶に対するフルオキセチン(プロザック)の効果を調べた(p. 1731)。フルオキセチンは恐怖応答の消去を促進した。さらに、フルオキセチンと消去訓練(extinction training)とを組み合わせると、恐怖の更新と復元が妨げられた。この結果は、フルオキセチンが扁桃体内の可塑性を再活性化し、これが消去訓練と組み合わさって、条件付けされた恐怖応答の抹消をもたらしうる、ということを示唆するものである。(KF)
Fear Erasure in Mice Requires Synergy Between Antidepressant Drugs and Extinction Training

ライマンα線の観測(Observing the Lyman-α Line)

ライマンのアルファ線(Lyman-α Line)は中性水素の第1と第2エネルギーレベルの間で電子が遷移するとき放射される。これは遠方の銀河から日常的に観測されるが、我が銀河系では計測されたことは無い。その理由は太陽の周りを継続的に流れる水素原子というもっと強烈な局所的発生源があるからである。Lallement たち(p. 1665, 12月1日電子出版号、および、Linskyによる展望記事参照)は、我々の銀河系からのLyαの放射が検出できたことを報告している。これは、現在では近傍のLyα線放射帯を通り抜けるほど太陽から遠く離れたVoyager宇宙船に載せたスペクトルから得られたデータを解析したものである。銀河系からのLyα線は、新しく生れた星を取り囲む領域が主な放射源である。(Ej,KU,ok,og,nk)
Voyager Measurements of Hydrogen Lyman-?? Diffuse Emission from the Milky Way

記憶の修飾因子の支配者(Master Memory Modulator)

海馬のCA3領域は、文脈記憶(contextual memory)の速いコード化に必要である。しかしながら、CA3に特異的などの分子経路が文脈記憶形成を制御しているかは不明である。マウスで、機能欠失型と機能獲得型の双方の遺伝的操作を用いて、Ramamoorthyたちは、CA3の転写制御因子Npas4の活性化が、文脈記憶形成において中心的であることを発見した(p. 1669)。Npas4は直接、活動依存的転写プログラムを制御している。その転写の標的はいくつかの特徴がはっきりした即時型初期遺伝子(IEG)などである。Npas4は、RNAポリメラーゼIIをプロモータ領域やエンハンサー領域に補充することによって、それらIEGの発現を引き起こしているのである。(KF)
Npas4 Regulates a Transcriptional Program in CA3 Required for Contextual Memory Formation

胚は語らずとも(Embryos Need Not Apply)

中国南部のDoushantuo層には、もっとも初期かつもっともよく保存された、エディアカラ紀 (およそ6億年前)、つまりカンブリア紀爆発前の化石が含まれている。この層には、初期の動物の胚のよく保存された核を残した状態での残遺物、と考えられているものなど、いくつかの目立つ化石タイプが含まれている。胚に加えて、関連する若年あるいは成体の検体がないとか、上皮性組織の証拠が存在しないなどの理由で、動物としてのこの分類はチャレンジな課題であった。シンクロトロンに基づくX線断層撮影法を用いて、Huldtgrenたちは、それら化石の形状と内部構造を探査し、それらが原生生物と動物の祖先を含むグループの生物の残遺物を表していることを示唆している(p. 1696; またButterfieldによる展望記事参照のこと)。(KF,KU)
Fossilized Nuclei and Germination Structures Identify Ediacaran 'Animal Embryos' as Encysting Protists

ゾウの指(The Elephant's Toe)

外見では、ゾウの足は樹の幹に似ていて、円形の足跡を残す。しかしながら、足の内部構造は、実際にはつま先立ちのタイプで、イヌの足とシカの足の中間である。この内部構造を外見的にそんなにも円柱状に見えるようにしているのは、足底部にある大きな脂肪のパッドである。Hutchinsonたちは、ゾウが前足と後ろ足の両方の種子骨を拡大し、それらが6番目の支持的「指」として機能していることを明らかにした(p. 1699)。この構造の発生は、祖先の長鼻類(proboscideans)が体のサイズを大きくし、水生の偏平足歩行から陸生のつま先立ち歩行へと移った際に生じたらしい。(KF,bb,nk)
From Flat Foot to Fat Foot: Structure, Ontogeny, Function, and Evolution of Elephant 'Sixth Toes'

アクチン制御におけるMical(Mical in Actin Regulation)

細胞の振る舞いは細胞外シグナルによって制御されているが、これはアクチンの細胞骨格の組織化を制御しているシグナル伝達系を通して作用している。これら外因性シグナルのいくつかは、細胞骨格に積極的に影響し、アクチン重合を誘発するが、しかし消極的に影響し、アクチン線維を解体する外因性シグナルもまた存在している。多領域タンパク質のファミリーであるMICALは、消極的あるいは反発的なきっかけに関与する細胞表面受容体であるセマフォリンに直接結びついている。精製されたタンパク質と生体内での研究で、Hungたちはこのたび、アクチン線維がMicalの酵素活性の直接の基質として働いていることを発見した(p. 1710,11月24日号電子版)。Micalは翻訳後に、メチオニン44残基の位置でアクチンを変化させ、これにより単量体アクチン間の会合を壊しそしてアクチン線維を切断する。ショウジョウバエにおける試験管内および生体内実験で、メチオニン44残基を変化させることでMicalによって仲介される解体に対する抵抗性がアクチンに生じたのである。(KF,KU)
Direct Redox Regulation of F-Actin Assembly and Disassembly by Mical

複製とミスマッチ修復(Replication and Mismatch Repair)

DNAのミスマッチ修復(MMR)には、DNA複製エラーによって生じたDNAにおける塩基の誤対合の認識と修復のために新たに合成されたDNA鎖のターゲッティングが関与している。真核生物におけるMsh2-Msh6およびMsh2-Msh3ヘテロ二量体を含むこのMMR機構は、いかにして新たなDNA鎖のエラーを認識しているのだろう? Hombauerたちは、真核生物におけるMMRが、DNA複製と協調しているかどうかを、Msh2-Msh6エラー対認識複合体を出芽酵母の細胞周期の特定の段階に制限することによって検証した(p. 1713)。S期におけるMsh6の発現は、MMRが機能するのに必要とされたのである。(KF,KU)
Mismatch Repair, But Not Heteroduplex Rejection, Is Temporally Coupled to DNA Replication

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