AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 16 2011, Vol.334 


人の手触り(Human Touch)

環境への工業的プロセスの影響を考慮するとき、その源から遠く離れた間接的な影響を考えるよりは、直接的な事例、たとえば、炭鉱廃棄物の膨大な山や、排水の川への流れ込みのような例のほうが、はるかに容易に把握することができる。北半球のいくつかの自然のままのきれいな湖から得られた、堆積物コアの同位体比(15N:14N)を分析することによって、Holtgrieve たち (p.1545; Elserによる展望記事を参照のこと) は、化学肥料の生産は反応性窒素のソースとして知られているが、それが広く行われる前の19世紀後半までに、人間の活動が相当量の反応性窒素を付加し始めたことを示している。この窒素レベルの上昇は石炭屑を燃やしたためだったかも知れない。そして、直接的な排水に比べれば低レベルではあるが、初期の産業活動が直接に足跡を残した地域からはるかな外側では、生物地球化学的な循環とプランクトンによる一次生産の速度に影響を与えるには十分であったのかも知れない。(Wt,KU,nk)
A Coherent Signature of Anthropogenic Nitrogen Deposition to Remote Watersheds of the Northern Hemisphere

原因と結果(Cause and Effect)

1961年、ハーバード大学の進化生物学者、Ernst Mayrは「生物学における原因と結果」という表題の論文を「サイエンス」に発表した。その論文では、形質(どのように機能するのか?)に関する直ぐ前の(個体発生学的な)原因と自然選択(何故存在するのか?)に関する歴史的(系統発生学的)な影響との間の違いについて示した。50年後、Lalandたちは(p.1512)、この論文のその後の影響について評価し、生物学におけるいくつかの現在の論争(例えば、進化と発展、ニッチの構築、人間の協力行動、そして言語の発展に関して)は、Mayrの因果関係のモデルを許容するか/拒絶するか、という共通の軸上に位置している、と主張している。(Uc,KU,nk)
Cause and Effect in Biology Revisited: Is Mayr’s Proximate-Ultimate Dichotomy Still Useful?

痛みを感じない(Feeling No Pain)

ハダカデバネズミは最大80匹の仲間と共に、酸素交換のほとんど無いCO2濃度の高い地下深くのトンネル中に住んでいる。この環境のためと思われるが、ハダカデバネズミは他の脊椎動物と同じように、同一の酸センサーを痛覚受容体内に持っているにもかかわらず、驚くほど酸に対して感受性が無い。Smith たち(p. 1557)は、ハダカデバネズミの痛覚受容体のナトリウム・チャネルには特異的な変異があり、これがプロトンによって強くブロックされており、そのため、活動電位を活性化せずにその電位を抑制していることを見出した。(Ej,hE,KU)
The Molecular Basis of Acid Insensitivity in the African Naked Mole-Rat

ゼオライトがまっすぐに並ぶ(Zeolites Straight Up)

多孔性ゼオライト膜は分子分離のために有効である。しかし、膜合成の際に細孔の向きに乱れが生じると分子分離の効率が下がる。Phamたち(p. 1533)は、温度と成長培地として使われるゲル組成の正確な制御よって、2種類のゼオライトフィルムにおいて確実に細孔の向きを均一に揃えられることを見出した。その鍵は、バルクな媒質中で新らしい結晶の核形成が起きて、それが別の方向の配置で基板に接着するような事態を回避しながら、その一方で基板上には単層の種結晶を乱れなく作るように成長を抑制ことであった。(hk,KU,nk)
Growth of Uniformly Oriented Silica MFI and BEA Zeolite Films on Substrates

免疫のために正しく食べる(Eating Right for Immunity)

環境要因は免疫組織の発生を方向づけるとともに、免疫応答も制御する。Kiss たち(p. 1561, および、10月27日号電子版を参照)は、アリール炭化水素受容体(AhR)の天然リガンドが、リンパ濾胞と呼ばれる腸の特定化した免疫構造の生後発達と、腸内細菌のシトロバクター(Citrobacter rodentium)に対する防御的応答に重要であることを示した。食事の中のAhRリガンドは生得的リンパ球プールのサイズを制御しており、AhRリガンドを欠いた食事を与えられたマウスは、腸のリンパ濾胞の発達に障害を持つ。(Ej,hE)
Natural Aryl Hydrocarbon Receptor Ligands Control Organogenesis of Intestinal Lymphoid Follicles

自己貪食と腫瘍細胞のクリアランス(Autophagy and Tumor Cell Clearance)

自己貪食のプロセス(これにより細胞は細胞自身の成分を消化する)は、複雑な、時には相矛盾する影響を癌細胞にもたらす。自己貪食の損失はゲノムの不安定さに導いたり、癌細胞の産生を有利にしたりする一方で、維持或いは増強された自己貪食はストレス性の環境において癌細胞の生存を助けたりする。Michaudたち(p. 1573;Amaravadiによる展望記事参照)は、マウスにおいて自己貪食が、また化学療法に応じて死んでいく腫瘍細胞への免疫系の応答に強い影響を持つことを見出した。自己貪食はこのような細胞からアデノシン三リン酸を遊離させ、この化合物が癌細胞のクリアランスに寄与する免疫細胞の補充を助けている。(KU)
Autophagy-Dependent Anticancer Immune Responses Induced by Chemotherapeutic Agents in Mice

バランスの取れたアプローチ(A Balanced Approach)

ニューロンへの興奮性と抑制性の入力のバランスは、皮質ネットワークの安定性を保証し、そしてその応答を感覚性の刺激に具体化する。Vogelsたち(p. 1569,11月10日号電子版;Ernst and Pawelzikによる展望記事参照)は、興奮と抑制の自己組織化されたバランスが抑制性シナプスでの可塑性に起因することを見出した。この枠組みにおいて、記憶とはニューロンのグループをHebbianアセンブル中に結合させ記憶の完全なる呼び戻しを可能にする強化された興奮性シナプスに、そして記憶の呼び戻しが望まれない時にはその記憶を沈黙させる抑制性シナプスのミラーパターンにおいて具現化されるのであろう。(KU)
Inhibitory Plasticity Balances Excitation and Inhibition in Sensory Pathways and Memory Networks

一つを二つに(Two for One)

通常の太陽電池は或る閾値を越えるフォトンを一つ吸収する毎に、チャージキャリアが一つ発生する。 閾値を越える短波長のフォトンの持つエネルギーは殆ど使われていない。Semoninたち(p. 1530)は、過剰エネルギーの一部を電流の流れにするナノ粒子の鉛セレン化物太陽電池を実証している。Chanたち(p. 1541)は、有機の(無機ではなく)吸収体における複数個のキャリア発生に関する基礎的な挙動を探索し、そして高エネルギーの単一のキャリア状態と二つの異なる低エネルギーのキャリア状態を橋渡しする短寿命の状態を解析した。(KU,nk)
Peak External Photocurrent Quantum Efficiency Exceeding 100% via MEG in a Quantum Dot Solar Cell

改善されたデータ分析(Improved Data Analysis)

巨大なデータセットの中の変数間に存在する可能な関係を見出すことは困難である。理想的には、その分析は単なる線形な関係だけでなく、すべての可能な関係を見つけ出す普遍性(generality)と、形が異なっても同じようなノイズを持つ関係は同等と評価する公平性(equitability)とを兼ね備えるべきである。Reshef たち (p. 1518;Speedによる展望記事参照)は、これらの課題に適応するあるアプローチを開発した。それは、二変数を格子上に分布させてその関係をフィットし、格子の分解能を上げて行きながらフィットの度合いを評価していく方法に基づいている。標準的な線形回帰法から他のより柔軟な統計解析法まで様々な他のアプローチと比較した時、この新しい判断基準(measure)すなわち、最大情報係数(maximum information coefficient)は、世界中の健康データ、野球の統計、酵母の遺伝子発現データそして腸内細菌の生態等において、さらに可能性のある関係を見出した。(TO,nk)
Detecting Novel Associations in Large Data Sets

真核生物のリボソームを詳しく調べる(Close-Up of the Eukaryotic Ribosome)

細菌リボソームの高分解能構造により、その保存されたリボソームのコアに関する詳細な知見が得られた。最近になって、真核生物のリボソームの構造が注目され始めた。Ben-Shemたち(p. 1524,11月17日号電子版;表紙参照)は、完全な真核生物リボソームの3.0オングストローム分解能の構造を提供することでその知見を大きく前進させた。その構造は真核生物特有のリボソームの要素と保存されたリボソームコアとの相互作用に関する分子レベルの記述を与え、そして真核生物のリボソームの機能を理解するうえでの基礎を与えるものである。(KU)
The Structure of the Eukaryotic Ribosome at 3.0 A Resolution

不安定なパートナーを追跡する(Tracking Unstable Partners)

例えば、メタン(数年にわたり貯蔵が可能で十分に供給できる)と酸素原子(一時的にしか作ることができない)の反応のように、安定な物資と不安定な物質の反応は近代の分光手法を用いることで比較的容易に観測できるようになってきた。Daranlotらは(p.1538;Simsの展望記事参照)、低温で不安定な物質同士の反応、すなわち窒素原子と水酸基ラジカルがNOラジカルと水素原子に変化する反応の反応速度計測について報告している。この反応は星間雲で生じる化学反応に係わるものであるという。本研究には、マイクロ波放電とガス相ビームの技術との正確な結合が必要とされ、そして高度な理論計算を駆使したものである。(NK,KU)
Revealing Atom-Radical Reactivity at Low Temperature Through the N + OH Reaction

協力と騙し合い(Cooperation and Cheaters)

社会性アメーバである細菌性粘菌(Dictyostelium discoideum)は、個々の独立したアメーバ細胞が集まって一種の多細胞体を形成する。個々のアメーバは集団化して(およそ105個の細胞)、最初にナメクジのような(slug)形態になり、次に、子実体と柄(stalk)に分化する:子実体中の個々のアメーバだけが再生し、柄のアメーバは犠牲となって死ぬ。この系は、クローン系における闘争解決のための近親性の果たす重要性の研究に役立つ。Kuzdzal-Fick たち(p. 1548)は、細菌性粘菌において、凝集したslug中の個々のアメーバの近親性を弱めることで、“騙す”変異体を増加させ、細胞が柄に留まることを回避し、これによって正直者の犠牲のもとで騙す変異体の生殖が増加することを実証した。(Ej,hE,KU)
High Relatedness Is Necessary and Sufficient to Maintain Multicellularity in Dictyostelium

ついに完全に(Complete at Last)

酵素活性あるいは遺伝子配列の検出の失敗に基づいて、過去44年間ラン藻は不完全なクエン酸回路(TCA)サイクルをもっていると考えられてきたが、このことは、この生物の殆どが何故に絶対の独立栄養体であるかを説明していた。2-オキソグルタル酸脱水素酵素の活性は検出されたことがなく、この酵素のための遺伝子配列はラン藻のゲノムには見出されなかったのである。ZhangとBryantは、多くのラン藻と嫌気性菌の機能的に等価な酵素の発見によって、このドグマをひっくり返した(p. 1551; Meeksによる展望記事参照のこと)。2つの酵素、2-オキソグルタル酸脱炭酸酵素とコハク酸性セミアルデヒド脱水素酵素が一緒になって、2-オキソグルタル酸をコハク酸塩へと直接的に転換することによって、クエン酸回路(TCA回路)を閉鎖している。さらに、この2つの酵素をコードする遺伝子の相同体が、2-オキソグルタル酸脱水素酵素を欠く多くの細菌中で発見されているのである。(KF)
The Tricarboxylic Acid Cycle in Cyanobacteria

飢え死にしそうだ(I'm Starving!)

空胞内病原体である在郷軍人病菌(レジオネラ菌)は、宿主アメーバあるいはヒト細胞中にAnkB F-boxエフェクターを注入する。宿主に仲介されたファルネシル化(不飽和炭化水素:C15H27-)によって次に、AnkBはレジオネラを含む空胞(LCV)膜の外側葉にアンカーされる。これは、レジオネラ菌の空胞内での増殖と、生体内での病原性発現のために必要とされている。Priceたちはこのたび、AnkBが、Lys48-連結されたポリユビキチン化宿主タンパク質のLCVへの優先的ドッキングを促進していることを示している(p. 1553、11月17日号電子版)。その後で、それらはプロテアソーム分解されることになる。これは、細胞内アミノ酸源を産生することであり、レジオネラ菌によるアミノ酸飢餓応答を抑制し、空胞内増殖を可能にするものである。アミノ酸の補充は完全に、ankBヌル変異体を甚大な細胞内増殖欠損から救い、アメーバとヒト細胞中においてアミノ酸飢餓応答を抑制していた。(KF,KU)
Host Proteasomal Degradation Generates Amino Acids Essential for Intracellular Bacterial Growth

マトリクスの仕組みの変異体(Matrix Machinery Mutants)

シナプスの細胞基質(cytomatrix)とは、不十分にしかわかっていない、プレシナプスの活性ゾーン(active zone)中にあるタンパク質からなる網目構造である。プレシナプスのactive zoneは、神経伝達の際、効率的なシナプス小胞遊離のために、シナプス小胞やSNARES、カルシウムチャネルなどが適正に組織化されることを保証している。Liuたちは、ショウジョウバエのRab相互作用分子結合タンパク質(DRBP)がactive-zoneの細胞基質のコアの1重要な要素であることを発見した(p. 1565)。DRBPはカルシウムチャネルの正常な組織化に必要とされ、それがないと、シナプス伝達はひどく障害を受ける。、適正なactive-zoneの超微細構造の実現と機能のために、化学量論的DRBPの量が必要とされた。つまり、DRBPは、電位依存性のカルシウムチャネルとシナプス小胞の融合機構とを結びつけるために必要とされるのである。(KF,KU)
RIM-Binding Protein, a Central Part of the Active Zone, Is Essential for Neurotransmitter Release

数こそ力?(Power in Numbers)

トリの群れや魚の群れは、驚嘆するほどの協調をしながら、一緒に移動することがよくある。そうしたグループは、しかしながら、それぞれが自身で決定することが可能な個体から構成されている。それほど多数の個体が、どうして一緒になって、単一の集団としての決定を行なうことができるのだろうか? 過去の研究が示唆するのは、動物の場合も人間においても強固な意見をもった少数が、意思決定プロセスに対して個体数比以上の圧力を発揮することができる、ということである。理論と実験を、魚の群れを作るコイ科の魚に適応することで、Couzinたちは、情報を有する少数派が、グループの決定を支配できることを確認した(p. 1578; またWestとBergstromによる展望記事参照のこと)。しかしながら、情報のない個体の存在は、少数派の意見の影響に制約を与えていたのである。(KF)
Uninformed Individuals Promote Democratic Consensus in Animal Groups

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