AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 2 2011, Vol.334 


あなたが誰かわかる(I Know You)

紙のような材質の巣を作るアシナガバチPolistes fuscatusは、複数の女王蜂を擁する社会的グループ群として生活しているが、様々な顔のマーキングに基づいて個体間を識別することが出来る。これが示唆するのは、この種が自分たちの高度に社会化された環境に対する応答として、顔の特徴を学習、認識できる能力を進化させてきた、ということである。しかしながら、この能力はまた、よく発達したパターン認識の形態のせいである可能性もある。それらの仮説の違いをはっきりさせるために、SheehanとTibbetsは、P. fuscatusにおける顔学習能力を、単独で巣を作る近縁種のP. metricusの能力と比較した(p. 1272)。P. fuscatusは顔について、顔でないもの(あるいは加工された顔)の画像よりもずっと正確に学習できた。さらに、餌や単純なパターンならどちらの種も同じように区別できるにも関わらず、P. metricusの方は顔を学習できなかったのである。(KF,KU)
Specialized Face Learning Is Associated with Individual Recognition in Paper Wasps

X線を利用する(Exploiting X-rays)

X線は長い間、骨折の検査からタンパク質の結晶構造の同定まで、物質を調べるのに用いられてきた。今や高強度集中型の装置の開発により、動的挙動に関する問題を含む、より科学的な問題を調べることができるようになってきた。さらに、光学技術の進歩は、局所的な挙動を見ることができるレベルにX線を集束させることを可能にした。Ice たちは(p.1234)、線源や集束手段の発達を評価し、X線技術を用いて現在行われている広範囲な分野の研究に脚光を当てている。(Sk,nk)
The Race to X-ray Microbeam and Nanobeam Science

ダイヤモンド量子力学(Diamond Quantum Mechanics)

古典力学で扱われる巨視的な世界と量子力学の微視的世界との境界が次第に薄れてきている。様々なマクロ系において量子力学的挙動が観測され始めているからである。Leeらは(p.1253;Duanの展望記事参照) 、室温において2つの巨視的なダイアモンドの振動モード間で量子もつれを生成・観測することに成功している。これらの結果から、量子現象はラボレベルの環境でも持続可能であることが確認され、光フォノンを活用した超高速量子情報処理を常温で行う共通基盤の可能性が示された。(NK,nk)
Entangling Macroscopic Diamonds at Room Temperature

水素を作る(Make Hydrogen)

水から水素を発生させるのに、電力を用いるという成熟した技術があるが、今、再生可能エネルギーにおける潜在的な重要性のため、プロセスの効率を向上させるための努力が精力的になされている。Subbaraman たちは(p. 1256)ニッケル酸化物と白金を組み合わせて、それぞれ単独の場合よりも効率の良い触媒を作った。その発見は、ニッケルが O-H 結合の切断に役立ち、その後、白金が分離された H 中間体から H2 の形成を促進していることを示唆している。(Sk)
Enhancing Hydrogen Evolution Activity in Water Splitting by Tailoring Li+-Ni(OH)2-Pt Interfaces

喪失した金属(Missing Metals?)

ビッグバン直後、最初の星が生まれる前には、宇宙には水素、ヘリウム、リチウムの3種類の元素しかなかったと思われている。天文学者の習慣では「金属」と呼ばれる他の全ての元素は星の内部で作られた。Fumagalli たち(p. 1245,11月10日号電子版; および、Kacprzakによる展望記事参照) は、金属元素が検出されない2つのガス雲を見つけたことを報告している。これらのガス雲はビッグバンの20億年後、多くの星や銀河が既に形成された後、の天体であり、そのためほとんどのガス雲は金属が豊富にあると期待されている。従って、星や銀河から周辺へ金属が輸送されるはずであるが、以前考えられたほど輸送が効率的ではなかったか、あるいは、金属の分布が均一ではなかったようだ。(Ej,KU,nk)
Detection of Pristine Gas Two Billion Years After the Big Bang

氷の歴史に協力して(Cooperating to Ice Histories)

南極は、過去3400万年の間氷に覆われている。大気中CO2の減少は、氷の蓄積の原因となる温度低下を引き起こす、「最も重要な容疑者」と考えられていたが、しかし大気中のCO2含有量の再構築はこの意見と矛盾していた。。Paganiたちは(p.1261)、大西洋と南洋の高緯度と低緯度の領域からのアルケノン(訳注:円石藻類が持っているアミノ酸)によるCO2を再構築した結果を報告している。その結果、CO2の大気レベルは実際、氷期の開始の直前とその期間で急激に低下していることが示されており、CO2が南極の氷期の開始に重要な役割を占めていることが確認された。最終退氷期の間での南極大陸と北極大陸の温度の歴史は、大きく異なっている。氷床の質量における変化に関してはどのようなことが?Weberたちは(p.1265)、東南極の氷床のウエッデル海岸から得られた海洋堆積物の記録を報告している。その結果、その氷床は同時代の北半球の氷床と共に最大の質量に達していたことを示している。(Uc,KU)
The Role of Carbon Dioxide During the Onset of Antarctic Glaciation
Interhemispheric Ice-Sheet Synchronicity During the Last Glacial Maximum

アルツハイマー病の酵母モデル(Yeast Model of Alzheimer's Disease)

ヒトの病気に現れる様々なプロセスに対して酵母細胞学は基本的な洞察を与える。Treusch たち(p. 1241, 10月27日号電子版;および、McGurk and Boniniによる展望記事参照) は、β-アミロイドペプチドAβ1-42(アルツハイマー病(AD)の原因と考えられている)によって生じる細胞毒性の酵母モデルを作った。毒性の修飾因子に関する偏りのないゲノム全体のスクリーニングによって、エンドサイトーシスに関係する確認されたAD危険因子であるPICALMの酵母相同体が明らかになった。ADの発症や病の重さとこれら遺伝子の関連性に基づいて、ADのリスクに影響を与えると思われる3つの付加的遺伝子が更に同定された。線形動物のグルタミン酸作動性ニューロンにおいてAβの毒性モデルが作られ、そして毒性修飾因子の役割を確認するために利用された。PICALMは毒性のAβオリゴマーからラットの皮質ニューロンも保護することが示された。(Ej,KU,nk)
Functional Links Between Aβ Toxicity, Endocytic Trafficking, and Alzheimer’s Disease Risk Factors in Yeast

健康的な行動の普及(Diffusing Healthy Behavior)

人々が健康的な行動を行なうようにするため、我々はどうすれば影響を与えることが出来るのか?支援グループがあればこの普及目的には有効であるが、同類の人々を一緒のグループにしても(homophily:似た者同士による相互作用)、健康に関する技術革新の情報を普及させるには役立たないであろうということが、研究から示唆されていた。。Centola (p. 1269; および、van der Leijによる展望記事参照) は、homophilyと、オンラインのコミュニティーネットワークの構造を制御できるオンラインの実験を作った。参加者はネットワーク構造が同じグループの一つをランダムに指定される。しかし、1つのグループだけは類似した傾向の人達同士がつながれる。他のグループでは参加者の特徴はランダムに分散している。homophilyグループにおいては、この健康的な行動(例えば、健康日誌を付ける)を採用する傾向が強い。(Ej,KU,nk)
An Experimental Study of Homophily in the Adoption of Health Behavior

癌細胞の脆さ(Cacer Cell Vulnerability)

多くの癌細胞は代謝酵素ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)の別のスプライス型を発現する。PKM2は、癌細胞がグルコースを効率的に用いて、急速な細胞増殖に必要な分子の生成を助けていると考えられている。Anastasiouたち(p. 1278,11月3日号電子版;Hamanaka and Chandelによる展望記事参照)は、PKM2を発現する癌細胞に関する別の利点について報告している。PKM2はPKM2の活性を減少させる活性酸素種(ROS)による酸化に鋭敏である。癌細胞内の変異と癌細胞環境の特性はROSのレベルを上げて毒性を引き起こすようである。PKM2の抑制は、細胞が過剰のROSに対処するのを助ける代謝変化を促進することで毒性と戦っているらしい。このように、PKM2の持続した活性化の促進は、癌細胞を選択的に標的とする方法を提供する可能性を与える。(KU,nk)
Inhibition of Pyruvate Kinase M2 by Reactive Oxygen Species Contributes to Cellular Antioxidant Responses

寄生虫の楽園とは?(Parasite Paradise?)

ヒトマラリア寄生虫である熱帯性マラリア原虫は、ヒト集団において進化圧を発揮し、重篤なマラリア関連の病や死に対してキャリアを保護するようヘモグロビンにおける様々な多形性の選択に導いた。Cryklaffたち(p. 1283,11月10日号電子版)は、マラリア寄生虫が赤血球の膜骨格からアクチンを「掘り出し(mine)]て、マウラーの裂け目(Maurer'cleft)機構(寄生虫のタンパク質の赤血球表面への移動に関与する)に関連したアクチンの細胞骨格を産生することを示している。ヘモグロビンS、或いはCを含むマラリアの寄生した赤血球において、寄生虫によるアクチンの再構築が阻害され、結果として異常なアクチン細胞骨格やマウラーの裂け目の変性を引き起こしていた。(KU,nk)
Hemoglobins S and C Interfere with Actin Remodeling in Plasmodium falciparum-Infected Erythrocytes

減数分裂の問題(Meiosis Matters)

減数分裂の際に、二倍体細胞は4っの一倍体配偶子や胞子を作る。最初の減数分裂において、相同染色体は、注意深く制御されたDNA切断を通して物理的に結合され、乗り換え(crossing over)を開始する。これらの結合、或いはキアズマ(chiasmata:染色体交差点)は、相同体の正確な分離を容易にし、そして有性生殖において生じる組み換えを促進する。Rosuたち(p. 1286)は、線虫における乗り換えの制御を解析し、そして相同体における単一のDNA切断においてすら高性能に乗り換え事象に転化されてることを見出した。DNA切断を通して相互作用する相同体のこの能力は時間的に制御されており、最初は乗り換えが実際に起こっていると言うことを保証し、次に乗り換えの数が制限されていることを保証している。(KU)
Robust Crossover Assurance and Regulated Interhomolog Access Maintain Meiotic Crossover Number

掻くだけでは終わらない(More Than Scratch)

αδT細胞受容体を発現する免疫学的T細胞は、ストレス誘発性のリガンドに結合することで皮膚における様々なストレス因子に急速に応答する。この応答は感染症の拡大を押さえたり、或いは障害後の組織の恒常性の回復に役立つ。このような「リンパ様ストレス監視」応答の影響は、主に局所的なものである;しかしながら、免疫応答に関する全身性の影響も起こりうる。マウスの研究から、Stridたち(p. 1293)は、軽く皮膚を引っ掻いたというその前後関係で生じた抗原が、全身性のTヘルパー2(TH2)型の免疫応答を誘発することを示している。TH2応答は、ごく一般的にはアレルギーと喘息に関係している。この場合に、TH2応答の誘発はリンパ様ストレス監視に依存している;皮膚-常在性のαδT細胞がこの応答に必要であるが、これは受容体NKG2Dが物理化学的なストレスに応答して誘発される分子を認識するためにαδT細胞を用いているのと同様である。このように、皮膚アレルギーは、普通良性な抗原が組織傷害や引っ掻きといった事柄と同じ時間に遭遇した時に生じる可能性がある。(KU)
The Intraepithelial T Cell Response to NKG2D-Ligands Links Lymphoid Stress Surveillance to Atopy

そんなに重くない(Not So Massive)

宇宙における最初の恒星の形成過程の数値シミュレーションは、これらの星が太陽の数百倍も重いことを示唆している。しかしながら、われわれの銀河の最も老齢の星は、これら初期の恒星の残骸の子孫であると考えられているが、それらは、そのような大質量星の祖先の痕跡を有してはいない。二次元の数値シミュレーションに基づいて、Hosokawa たち (p.1250, 11月10日付け電子版) は、原始星の放射がそれら自身の降着過程と成長にどのような影響があるかを議論している。その計算から、最初の恒星が太陽質量の数十倍以上へと成長することは困難であったろうと示唆している。これから見て、宇宙の最初の恒星は、結局のところ、おそらくはそう重くはなかったであろう。 (Wt,KU)
Protostellar Feedback Halts the Growth of the First Stars in the Universe

予想は不可能?(Impossible to Predict?)

我々の環境が急激に変化していると認識し始めたとき、とき、それがいかなる影響を種やコミュニティー、さらには生態系に与えるかを理解し予想する、という課題を自分自身に投げかけてきた。Coulsonたちは複合的な投射モデルを用いて、20年以上前のイエローストーン国立公園へのオオカミの再導入以来の、環境変化へのオオカミの応答の生態学的および進化的な要素間の相互作用を探求した(p. 1275; またSchreiberによる展望記事参照のこと)。変化の生態学的、および進化的要素は実際には絡み合っていて、双方とも環境における変化への応答であったが、しばしば相反する方向を目指した。その上、平均的環境での変化は、環境変動に伴う変化よりも大きかった。しかしながら、そうした変化の形状と結果を予想することは極めて困難であり、特定の環境変化が個体群サイズや生活史にどう影響するかに関する正確な予測は、我々の現在の能力を超えている可能性がある。(KF,nk)
Modeling Effects of Environmental Change on Wolf Population Dynamics, Trait Evolution, and Life History

よりよい抗体を作るには(How to Make a Good Antibody Better)

HIVワクチン設計における主要なゴールは、高度に強力で幅広い中和能力のある抗体を誘発するワクチンを産生することである。そうした抗体はある種の感染者で見出されていて、それら抗体をヒト以外の霊長類に注射すると、SIV(サル免疫不全ウイルス)の感染から保護することが可能になる。一対のクローン抗体変異体に焦点を合わせて、Diskinたちは、そのような作用強度と広がりをもつための構造的要求を決定しようと試みた(p. 1289,10月27日号電子版)。彼らは、gp120と結合したNIH45-46の結晶構造を解決し、それを、中和の作用が弱く、広がりも少ないVRC01と結合したgp120の構造と比較した。主にgp120の外側領域と相互作用するVRC01と対照的に、NIH45-46への4アミノ酸の挿入は、抗体にgp120の内側領域との相互作用を可能にし、中和の増強と相関するものだった。gp120架橋シートとの相互作用を改善するための、単一アミノ酸残基の変異は、さらにNIH45-46の中和能力を増強した。つまり、gp120の外側領域以外の残基が抗体によって仲介される中和にとって重要である可能性があり、ワクチンの免疫源を設計する際に考慮されなければいけないのである。(KF,KU,nk)
Increasing the Potency and Breadth of an HIV Antibody by Using Structure-Based Rational Design

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