AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 11 2011, Vol.334 


歳の割には若い(Young for Their Age)

ソテツは時には生きた化石とも呼ばれるが、この植物は2億5千万年以上前のペルム紀に始まる非顕花植物の古代のグループに属していると思われる。しかし、古代植物出身のソテツであり、新たに派生した特徴が比較的少ないにもかかわらず、Nagalingumたち(p. 796, および、10月20日発行の電子版、さらに、Rennerによる展望記事参照)は、系統発生に関する解析を化石で較正し、大部分の実存する分類群は、約500万年〜1000万年前に多様化したことを示した。このように、ソテツグループは古代発生にもかかわらず、ずっと新しい分散化によって今日の多様性が生まれた。(Ej,KU,nk)
Recent Synchronous Radiation of a Living Fossil
pp. 796-799

鉄が切る(An Iron Cleaver)

100年以上の歴史を持つハーバーボッシュ法は、現在でも肥料の原料であるアンモニアの製造法として用いられている。表面科学の研究により、鉄系触媒表面における反応メカニズムの大勢は理解されているが、分子モデル化合物を用いることで、分子結合の開裂・形成ステップに関してより詳細な知見が得られると期待されている。Rodriguezらは(p.780)、カリウムとペアでの二核鉄配位化合物が窒素分子の三重結合をかい離し、水素と結合してアンモニアとなるよく特徴づけられた前駆体を生み出すことを報告している。(NK)
N2 Reduction and Hydrogenation to Ammonia by a Molecular Iron-Potassium Complex
pp. 780-783

火事予報(Fiery Forecast)

南アメリカ、特にアマゾンにおける伐採と森林減少による炭素排出は、1990年代の土地利用と土地被覆の変化により地球全体の排出量の約25%に相当する。この排出の約半分は山火事によるものであった。山火事を管理するより効果的な方法は、気候変動や適応の戦略にとって有用であろう。乾季での山火事の活動状態を事前に予測出来れば、山火事を鎮火する手段の準備や目標とする火事の場所など、山火事を制御する選択手段を決定する時間的余裕を与えるだろう。Chenたちは(p.787)、衛星によって得られた海水表層の温度異状を用いて南アメリカでの山火事の活動状況を見積もることで、毎年の山火事のひどさを3〜5ヶ月前に予測することができるようになった。(Uc,KU,nk)
Forecasting Fire Season Severity in South America Using Sea Surface Temperature Anomalies
pp. 787-791

ゲノム全体に広がる脱メチル化現象(Genome-Wide Demethylation)

哺乳類のゲノムでは、CpGジヌクレオチドがしばしばメチル化され、転写のサイレンシングと関係した後成的な標識を与えている。発生初期に2回、着床前胚中と始原生殖細胞中でゲノム全体に広がるメチル化の欠失があるが、これがゲノムの「再プログラム化」に寄与すると考えられている。Shearstone たち(p. 799) は、正常な赤血球の分化に伴うゲノム全体に広がるDNAメチル化の欠失という3番目の事例について述べている。(Ej,KU)
Global DNA Demethylation During Mouse Erythropoiesis in Vivo
pp. 799-802

困難な分解(A Difficult Break-Up)

地球表面のテクトニックプレートの分布は地質年代を通じて進化し、マントル対流による力によって、あるプレートは併合し、他のプレートはばらばらに分解した。時間と共に断層(リフト)として知られている伸展プロセスが大陸全体を分解する可能性がある。現在、合衆国南西地方においては、断層活動(リフティング)がカリフォルニアの岩石圏(リソスフィア)を引き裂きつつある。Lekic たち(p. 783, および、10月6日発行の電子版参照)は高密度の地震波ネットワークから得られた地震波信号を解析して、南部カリフォルニア下部の岩石圏を直接画像化した。その画像はリフト帯では岩石圏(リソスフィア)が極めて薄いことを示しており、そこでは岩石の張力が集中して有効に局在化して引っ張り力と釣り合っていることが推測される。(Ej,nk)
Lithospheric Thinning Beneath Rifted Regions of Southern California
pp. 783-787

毒物の同定(Toxin Identified)

グラム陰性菌である類鼻疽菌(類鼻疽を引き起こす菌)は、南東アジアと北オーストラリアに固有の菌であり、そして流れのないよどんだ水や米作水田と関係することが多い。類鼻疽の臨床症状は無症候性の感染症、急性の敗血症、及び亜急性と慢性の疾患を含んでいる。類鼻疽に対する認可されたワクチンは無く、この菌は宿主の殆どいかなる組織にも感染し、多くの抗生物質にも耐性を示す。Cruz-Migoniたち(p. 821)は、マウスやヒトの細胞で強力な毒物として作用し、そしてタンパク質の翻訳を抑制する類鼻疽菌タンパク質の同定と分子的解析に関して報告している。(KU)
A Burkholderia pseudomallei Toxin Inhibits Helicase Activity of Translation Factor eIF4A
pp. 821-824

ウイルスの制御(Viral Control)

ヒト免疫不全ウイルスやC型肝炎ウイルスのような慢性のウイルス感染症は、結果として免疫応答に変化が生じ、これにより感染症を抑制し、そしてウイルス-関連の病状を制限するのに役立つ。Harkerたち(p. 825,9月29日号電子版)は、サイトカインインターロイキン-6(IL-6)が、マウスにおいて慢性のウイルス感染症の消散に必要であることを示している。驚いたことに、IL-6はウイルス感染症の急性期には必要でなく、感染症が慢性化するや否や必要となった。(KU,nk)
Late Interleukin-6 Escalates T Follicular Helper Cell Responses and Controls a Chronic Viral Infection
pp. 825-829

認識と注意(Awareness and Attention)

一次視覚野における活性が知覚認識に必要であるかどうかは、長い間議論されてきた。Watanabeたち(p. 829)は、知覚認識を単純な注意から分離することが出来た。認識は両眼の閃光抑制の様式で操作され、そして注意は標準的な注意指示を用いることで操作された。一次視覚野における活性は、標的が見えるかどうかに関係なく殆ど変化しなかった。しかしながら、ヒトの一次視覚野における活性は、被験者がその標的を注視したり、或いはそれを無視したときに変化した。このように、ヒトは何かを見てると気づくのに一次視覚野の活性を必要としない。(KU)
Attention But Not Awareness Modulates the BOLD Signal in the Human V1 During Binocular Suppression
pp. 829-831

ノイズをやっつける(Beating the Noise)

干渉計は微小な変位を計測するために波を利用しており、その波長によって計測精度が決定される。さらに、電磁波干渉計の他に、物質波干渉計というものがあり、そこでは原子の小さなド・ブロイ波長によって精度が向上するが、ショットノイズ(粒子の本質から生じるもの)によって精度が制限される。ショットノイズの限界を打破して実用的なデバイスを手に入れるには、多数の原子間のもつれを作り出す必要がある。Lucke たちは(p. 773, 10月13日号電子版)、ボース−アインシュタイン凝縮のスピン動力学を用いて、ほぼ半分の原子がアップ、残り半分がダウンのスピンを有する10,000個以上の原子から構成されるもつれ状態を作り出した。この入力状態により、ショットノイズの限界をわずかに超える干渉計の精度が達成された。この原理証明の実証は、新世代の原子干渉計への道しるべとなるであろう。(Sk,nk)
Twin Matter Waves for Interferometry Beyond the Classical Limit
pp. 773-776

表面での非対称(Asymmetry at the Surface)

生物由来の化合物はホモキラル(二つの可能な鏡像異性体のうち一方のみが存在)であるため、医薬品の合成において非対称な生成物を作ることが重要な課題である。キラル配位子を持つ液相の金属錯体は、高い選択性で生成物を一方または他方の鏡像異性体に偏らせることができる。原理的に、不均一系の不斉触媒は、金属表面に吸着したキラルな物質を、配位されたリガンドの類似体として影響を与えることが出来るはずであるが、実際には、このような系において目に見えるような結果を殆どもたらしていない。Demers-Carpentier たちは(p. 776)、走査トンネル顕微鏡と密度汎関数理論の計算を相乗的に組み合わせて、白金表面の基質分子とキラルな吸着物質の間の相互作用を厳密に分析することにより、この目的に向かっての進展を実証した。(Sk,KU)
Direct Observation of Molecular Preorganization for Chirality Transfer on a Catalyst Surface
pp. 776-780

対流の手がかり(Convecting Clues)

地球の外部コアを構成し、対流が発生している高温液体は、地球の磁場を支配している。しかしながら、外部コアの流体力学的モデルは、その深さでは一般的な鉄やニッケル、その他の軽元素の構造的、組成的な特性に依存しており、これらはあまりよく判っていない。Ozawa たち (p.792) は、外部コアの温度と圧力の条件に対応するX線回折実験を行い、軽元素に結合した鉄の主要な相の一つである、一酸化鉄(FeO)の構造を解明した。この解析に基づくと、外部コア中央に相当する圧力と温度では、FeO はFe-O 結合距離の変化した新しい構造をとっている。このような相転移は地震学的には検出できないが、外部コアを二つの対流領域に層状化させ、今日の磁場の原因となっている可能性がある。(Wt,KU)
Phase Transition of FeO and Stratification in Earth’s Outer Core
pp. 792-794

別のエアロゾルの影響(Another Aerosol Effect)

人為的なエアロゾルは、直接的影響(粒子自身が放射を吸収したり反射したり)と間接的な影響(粒子が雲の形成に影響を与え、次いで大気の放射バランスに影響する)を通して、多様な仕方で気候に影響をもたらす。Mahowold(p. 794)は、これらの粒子が、気候に影響する他の方法があることを示唆している。その方法とは、二酸化炭素の大気中と大気からの流れに潜在的に影響する生物地球化学的な循環に関する緩慢な影響に依る。(KU)
Aerosol Indirect Effect on Biogeochemical Cycles and Climate
pp. 794-796

代謝制御におけるイノシトールピロリン酸(Inositol Pyrophosphates in Metabolism Control)

細胞間シグナル分子としてのある種のイノシトールポリリン酸の役割はよく知られている。しかしながら、より最近になって記述された、高エネルギーのリン酸結合を含むジホスホイノシトール五リン酸などのイノシトールピロリン酸の機能は、さほど明確ではない。Szijgyartoたちは、それらの分子が代謝とミトコンドリア機能の制御を助けている可能性があると提唱している(p. 802; またIrvineとDentonによる展望記事参照のこと)。イノシトールピロリン酸を欠くよう遺伝子操作で作られた酵母は、よりゆっくりと成長した。そうした酵母や、同様にイノシトールピロリン酸を欠くマウス胎仔の線維芽細胞は、ミトコンドリア機能を減少させ、解糖を増加させたのである。(KF)
Influence of Inositol Pyrophosphates on Cellular Energy Dynamics
pp. 802-805

Sirt5の活性を解き明かす(Unraveling Sirt5 Activity)

ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存的な脱アセチル化酵素として知られるサーチュインは、加齢や転写、アポトーシス、代謝に関与している。Sirt5は、哺乳類の7つのサーチュインの1つである。Duたちはこのたび、Sirt5がNAD依存的な脱スクシニラーゼ(desuccinylase)かつ脱マロニラーズ(demalonylase)であることを報告している(p. 806)。試験管内で、Sirt5は特異的にスクシニル基およびマロニル基の加水分解を、アセチル基よりもより効率的に分解したのである。(KF)
Sirt5 Is a NAD-Dependent Protein Lysine Demalonylase and Desuccinylase
pp. 806-809

プロスタグランジン産生の新経路(A New Pathway for Prostaglandins)

プロスタグランジンは、多くの生理的過程や病的過程において、しばしば炎症誘発性メディエーターとして、主要な役割を果たしている。プロスタグランジンの炎症誘発性効果は、感染症との闘いにおいては有益であるかもしれない。しかしながら、慢性的に産生されると、それは回復不能のダメージをもたらすこともある。プロスタグランジンは、シクロオキシゲナーゼ酵素によって、アラキドン酸から合成されている。アラキドン酸の主要な源は、ホスホリパーゼA2酵素によるその合成によると考えられてきた。Nomuraたちはこのたび、アラキドン酸産生の別経路の存在を実証している(p. 809,10月20日号電子版; またStellaによる展望記事参照のこと)。それは、モノアシルグリセロールリパーゼによる内在性カンナビノイド 2-アラキドノイルグリセロールの加水分解である。(KF)
Endocannabinoid Hydrolysis Generates Brain Prostaglandins That Promote Neuroinflammation
pp. 809-813

必死にXMRVを探し求める(Desperately Seeking XMRV)

慢性疲労症候群(CFS)の患者はXMRVと呼ばれるレトロウイルスに感染しているという報告[サイエンス誌326, 585 (2009年)]は、かなりの注目を集めたが、他の研究者によるフォローアップ研究は、この知見の確認に失敗した。Simmonsたちの研究(p. 814,9月22日号電子版; また9月23日のCohenとEnserinkによるニュース記事参照のこと)では、すでにそのウイルスに陽性だとわかった15人(うち14人はCFS患者)からの血液サンプルと陰性だとわかっている15人の健康な対照群からのものとをどれが何かわからないようにコード付けした上で、オリジナルの報告の著者を含む9つの研究所が独立に分析した。オリジナルの報告に関わっていた2つの研究所だけがXMRVを検出した。しかしながら、それらの研究所において、ウイルスはCFS患者におけるのと同じくらい、健康な対照群においても検出され、複製されたサンプルでは、一貫しない結果が得られたのである。XMRV検出の現行の分析が信頼できないということに加えて、こうしたデータは、XMRVとCFSの間の関連に疑問を投げかけたこれまでの研究を支持するものである。(KF,nk)
Failure to Confirm XMRV/MLVs in the Blood of Patients with Chronic Fatigue Syndrome: A Multi-Laboratory Study
pp. 814-817

RNAの最期(RNA Endings)

多くの転移RNA(tRNA)とtRNA様の小さなRNAの最後の3つの塩基(CCA)が、tRNA機能にとって決定的に重要だが、それらはゲノムではコードされていない。その代わり、それらの塩基はCCA付加酵素によって加えられている。Wiluszたちはin vitroにおいて、もし、tRNAやtRNA様の分子がそのRNAの最初と二番目の位置に不安定なアクセプターステムとグアノジンを持っておれば、生命のすべての領域から得られたCCA付加酵素は、tRNAやtRNA様の分子にCCACCA(またはCCACC)を付加できることを示している(p. 817)。CCACCAを付加されたtRNAの最期は、HeLa核抽出液中での急速な分解である。多くのtRNAにとって、酵母における急速なtRNA崩壊監視経路への感受性は、アクセプターステムの安定性およびCCACCA付加と相関している。後者は、3'-5'エキソヌクレアーゼによって認識されるのにじゅうぶんな長さの一本鎖の尾を産生するものである。(KF,KU)
【訳注】アクセプターステム(acceptor stem):tRNAのクロバー葉モデルの一領域
tRNAs Marked with CCACCA Are Targeted for Degradation
pp. 817-821

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