AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 21 2011, Vol.334 


ウイルスの侵略(Virus Invasion)

西ナイルウイルスは蚊を通じて鳥、野生動物そして人間に広がっており、1999年に北アメリカで発見されて以来、驚くべき速さで定着した。西ナイルウイルスは、どのようにして人間や野生動物の集団を脅やかすほど首尾よく定着したのであろうか? Kilpatrick(p.323)は想定されるウイルスの拡大シナリオやダイナミクスを比較検討して、ウイルス保持の中心となる鳥は何か、ウイルスを運ぶ蚊が人間を含む色々な動物の血を吸う際にどれを好むのかを示した。(Uc,KU,nk)
Globalization, Land Use, and the Invasion of West Nile Virus
p. 323

波を作る(Making Waves)

人工衛星から観測される海洋のクロロフィル変動のパターンは、海洋のロスビー波(Rossby waves)が原因であるとされてきた。この波は海表面で数センチの高さしかなく、数百キロメートルの波長でゆっくりと動く特徴を持ち、数ヶ月や数年かけて海盆を西から東に横切る波である。Cheltonたち(p. 328, 9月15日号電子版; McGillicuddyによる展望記事参照)は、これらのクロロフィル変則性の原因が誤って特定されていたと報告する。遠隔観測された海面高の分布と、同時期に観測した海洋上部でのクロロフィルの密度とを10年間に渡って解析した結果、こうした変則性の発生をコントロールする主要なメカニズムは、渦(eddies)の回転運動によって生じるクロロフィル濃度の高い表面水の水平移流(advection)であることを示している。(TO,KU,nk)
The Influence of Nonlinear Mesoscale Eddies on Near-Surface Oceanic Chlorophyll
p. 328

ナノ・ヘテロ接合の自己組織化(Nano-Heterojunction Self-Assembly)

ナノスケールの物質は、今や、自己組織化技術を含む広範囲な方法で合成することが可能である。異種物質間の接合領域は、しばしば予想外の好ましい性質を持つ。Zhang たちは(p.340) 自己組織化のための道具立てを拡張し、半導電性のナノチューブ断片のヘテロ接合を作製するのに成功した。結合された断片は、電荷を輸送することができ、また光誘起電荷の寿命も延びた。(Sk,nk)
Supramolecular Linear Heterojunction Composed of Graphite-Like Semiconducting Nanotubular Segments
p. 340

光を制御する(Controlling Light)

物質中や、ある物質から他の物質へ伝播するときの光の振る舞いは、古典的光学の用語でよく理解できる。Yu たちは(p. 333, 9月1日号電子版; 表紙参照; Engheta による展望記事参照)、今回、光の伝播を制御する強力な新方式を実証した。これは光路に沿った急激な位相変位の導入をベースにしている。これらの位相の不連続性は、光学的に薄い、光アンテナを波長以下の間隔で並べた二次元マトリックスからなるプラズモン界面を用いることにより作られる。この技術の柔軟性から、いろいろな種類の小さな面積の平面光学素子の開発に有用である事が示されるだろう。(Sk,nk)
Light Propagation with Phase Discontinuities: Generalized Laws of Reflection and Refraction
p. 333

水蒸気はいずこより?(Whence the Water Vapor?)

惑星が形成されつつある円盤において、水蒸気が検出されたのは、地球型惑星が産み出されている内側領域からであった。この円盤から、地球型惑星は形成された。Herschel Space Observatory に搭載された Heterodyne Instrument for the Far-Infrared (遠赤外線用ヘテロダイン測定器)を用いて、Hogerheijde たち (p.338; Akeson による展望記事を参照のこと) は、若い恒星である TW Hydrae 周りの円盤の全面に拡がった水蒸気を検出したことを報告している。この惑星が形成される円盤の外側領域では、氷で覆われた粒子のみが水蒸気の源であろう。したがって、これらの結果は、彗星や巨大惑星が形成される領域に、水(H2O)からなる氷の大きな貯水槽が存在していることを示唆している。(Wt,nk)
Detection of the Water Reservoir in a Forming Planetary System
p. 338

塩素とメタンが衝突するとき(When Cl and CH4 Collide)

最もシンプルな2体化学反応といえば2原子分子の生成反応である。2つの原子が衝突して生じるこの反応の変数は、相対速度のみであるといって差し支えない。この系にもう一つ原子を加えて、あらかじめ生成した2原子分子との反応を考察する場合はかなり複雑である。第3の原子との軸と相対的に空間方向が定義されることとなり、振動状態、回転状態などを考慮しなければならないためである。しかし、過去50年の間に化学者たちは、この複雑な反応がどのようにして起きるのか詳細なメカニズムを解明してきた。次の未開拓分野は、単原子と全く異なる振動状態を有する多原子分子との反応メカニズムを解明することである。CzakoとBowman(p.343)はメタンと塩素原子の反応性をシミュレーションにより考察し、これまでに実施されてきた数多くの重要な実験結果を説明できる理論を提案している。(NK,nk)
Dynamics of the Reaction of Methane with Chlorine Atom on an Accurate Potential Energy Surface
p. 343

北極と南極のつながり(Polar Connections)

グリーンランドの氷床で採取したアイスコアから取り出された気候記録は、詳しく記録されているが、12万年程度の時間的にはやや短い。他方南極大陸で採取したアイスコアは、時間的な解像度は低いが80万年以上に遡る。グリーンランドの気候が、長期間でどのように変化してきたかを推測するために、Barker たち(p.347, 9月8日号電子版)は、南極大陸の温度記録、中国の鍾乳洞からのデータ、そして北極と南極の温度シーソー(bipolar seesaw)の概念を用いて、推測されていたグリーンランドの温度変動について正確な年代の再現を行った。北半球気候の突然のシフトは、後期更新世全般にわたって発生していたらしく、氷河期の終焉はバイポーラシーソーの振動と関係があったのだろう。(TO)
800,000 Years of Abrupt Climate Variability
p. 347

制御と協力(Control and Cooperation)

宿主は体内にいる共生生物をどのようにして制御して、その関係の利点を損なうことなく共生生物が宿主の体を支配することを防いでいるのだろうか? Login たち(p. 362)は、コムギの重要な有害甲虫であるゾウムシ中の内部共生体の細菌複製と宿主の自然免疫反応のバランスについて調べた。甲虫によって合成される単一のペプチドであるcoleoptericin-A(ColA)は、細菌を菌細胞内に束縛し、そして細菌複製をブロックする。ゾウムシのColA発現がサイレンスされると、細菌は正常に複製し、菌細胞を逃れて、昆虫体内全体に拡がる。(Ej,KU)
Antimicrobial Peptides Keep Insect Endosymbionts Under Control
p. 362

マストドンを狩りする(Hunting Mastodons)

1970年代の終りにワシントン州のマニスの近くで、骨に飛翔物体(投げ槍の穂先ような鋭利な尖端)が包埋されたマストドン(新生代第三紀に生存した巨象)の骨格が見つかった。これは当初14,000年前のものとされたが、しかしその年代と、この飛翔物体を含む骨が他の骨格部分と直接関連するかどうかが疑問視されていた。Watersたち(p. 351)は化石の年代を新たに決定したが、それは14,000年前という数字を確認するものであった。このデータと遺伝子解析の結果を総合して、骨格部品同士は関連しており、しかも飛翔物体はマストドンの骨から得られたものであることが示された。その年代は北アメリカのクロビス(Clovis)文化以前に遡り他の地点と共に、大型動物が既に狩猟されていたことを示している。(Ej,KU,nk)
Pre-Clovis Mastodon Hunting 13,800 Years Ago at the Manis Site, Washington
p. 351

腫瘍壊死因子の応答(Tumor Necrosis Factor Response)

技術者は情報理論を用いて、例えば、電話システムにおいてノイズが情報伝達にどのように影響するかを解析する。Gheongたち(p. 354,9月15日号電子版;Thomasによる展望記事参照)は、数千もの単一のマウスの線維芽細胞の異なる量の腫瘍壊死因子(TNF)による刺激への応答をモニタリングすることで、このような解析を生物実験に応用した。シグナル伝達は驚くほどノイズにまみれており、このことはTNFの有無にかかわらず、細胞は単に実際的に分化するだけであることを意味している。単一のシグナル伝達経路のこのような制限はネットワークにおける複数のシグナル伝達経路の協調によって、或いは同じシグナルへの細胞応答をまとめて平均化する細胞集団によって克服されているらしい。(KU)
Information Transduction Capacity of Noisy Biochemical Signaling Networks
p. 354

ミトコンドリアの分裂(Mitochondrial Devision)

ミトコンドリアの分裂は、ミトコンドリアのネットワークの形状と分布の双方を制御しており、これは細胞の健全性の維持に重要である。Friedmanたち(p. 358,9月1日号電子版;Rambold and Lippincott-Schwartzによる8月14日の展望記事参照)は、酵母と哺乳類細胞において、ミトコンドリアが小胞体と安定な接触部位を形成する位置において、ミトコンドリアが束縛され、そして分裂することを実証している。(KU)
ER Tubules Mark Sites of Mitochondrial Division
p. 358

遺伝子とは違ってNot in the Genes)

植物ゲノムにおけるDNAメチル化の仕組みと分布、そして機能の特徴は明らかにされてきたが、複数世代にわたるDNAメチル化の安定性や変化の速度は、さほど分かっていない。Schmitzたちは、これまでに配列決定されたシロイヌナズナの幾つかの系統(その中には30世代隔てられた3つの祖先と5つの子孫系統が含まれている)のメチル化状態を決定した(p. 369,9月15日号電子版)。DNAメチル化の変化の頻度は、遺伝子変異のそれよりも5桁も大きいものだった。また、ほとんどがランダムである遺伝子変異とは異なり、DNAメチル化はホットスポットに生じていた。(KF,KU)
Transgenerational Epigenetic Instability Is a Source of Novel Methylation Variants
p. 369

親和性が改善される(Improving the Fit)

特異的な機能を持つようにタンパク質を設計するには、現存するタンパク質骨格上への官能基の接合に頼ることになる。もっと複雑な接合が可能になるであろうタンパク質の骨格構造の再構築は計算機による設計でも困難であり、成功の可能性は少ない。Azoitei たち(p. 373)は計算機による設計と定向進化を統合して、断続的な機能的モチーフの骨格と側鎖の移植に必要なタンパク質骨格構造の操作を可能にした。彼らは、交差-中和(cross-neutralization)抗体b12が標的にする2セグメントのHIV gp120エピトープ(抗原決定基)を或る無関係の骨格に移植した。最終的なデザインはb12に対して高い親和性と特異性を示し、その複合体はgp120-b12の相互作用を構造的に再現していた。(Ej,KU)
Computation-Guided Backbone Grafting of a Discontinuous Motif onto a Protein Scaffold
p. 373

小脳でナビゲーション(Navigating with the Cerebellum)

空間をナビゲートする場合、動物は2つの戦略を利用する;目印(標識)を利用するか、地図を利用するかであるが、後者の場合は自分の動きに対する合図が必要である。小脳が自己運動の情報を統合する際の補助的役割を果たすことは知られているが、空間ナビゲーションにおける小脳の役割は良く解ってない。Rochefort たち(p. 385)は、小脳の機能障害が海馬の空間コードに影響をするかどうかを、平行線維-プルキンエ細胞シナプスでのプロティンキナーゼC-依存的可塑性の選択的破壊を持つ遺伝子組み換えマウスを使って検討した。小脳機能障害があっても、目印を利用するナビゲーションには影響が少ない。しかし、例えば闇の中でのように、ネズミが自己運動から生まれる合図に頼っている時にはナビゲーションに問題が生じた。(Ej,KU,nk)
Cerebellum Shapes Hippocampal Spatial Code
p. 385

明らかにされた遺伝子回路(Gene Circuitry Revealed)

個々の細胞における遺伝子回路の振る舞いを観察することによって、非常にダイナミックな制御戦略を明らかにすることができる。Lockeたちは、微速度撮影を用いて、細菌における主要なストレス応答経路の一つ、二者択一のシグマ因子σBによって制御されている応答経路を分析した(p. 366、10月6日号電子版)。細胞はσBの全体的活性を、主に離散的で散発的なσB活性化の「パルス」の頻度を変えることによって制御していた。遺伝的再配線と量的モデリングを組み合わせることで、この振る舞いの根底にある緻密な遺伝子回路のアーキテクチャが明らかになった。細胞は避けられない確率論的ゆらぎ、すなわち「ノイズ」を利用して、それらのパルスを生み出していた。この知見は、多くの異なった制御系で用いられている、高度にダイナミックな原核生物の制御の仕組みを明らかにしたのである。(KF)
Stochastic Pulse Regulation in Bacterial Stress Response
p. 366

アポトーシスを許すには(Allowing Apoptosis)

アポトーシス阻害タンパク質(IAP)は、細胞死の引き金を引くカスパーゼを食い止めている。それは癌治療の標的の一つであるが、その理由は、多くの癌細胞がIAPを過剰発現することによって小脳機能障害があっても、目印を利用するナビゲーションには影響が少ない。しかし、例えば闇の中でのように、ネズミが自己運動から生まれる合図に頼っている時にはナビゲーションに問題が生じた。しかし、例えば闇の中でのように、ネズミが自己運動から生まれる合図に頼っている時にはナビゲーションに問題が生じた。ドラッグデザインの1つの戦略は、IAPの自動ユビキチン化とそれに続く分解を誘発する天然リガンドを模倣することである。Dueberたちは、いかにしてIAPが分解に向けて活性化されるかを示す構造的および生化学的な研究を記述している(p. 376)。リガンド非結合のIAPにおいて、触媒作用のあるRING領域はコンパクトな単量体中に隔離されている。バキュロウイルスIAP反復領域への拮抗物質結合によって、ユビキチン化に必要な、RING領域の二量体形成を駆動する立体構造変化が促進されるのである。(KF,nk)
Antagonists Induce a Conformational Change in cIAP1 That Promotes Autoubiquitination
p. 376

全体として(The Whole Thing)

回転式のATP分解酵素(ATPases)/合成酵素は、水素イオンあるいはナトリウムイオンが膜を横切る運動を、膜に埋め込まれたローターが仲介する分子機械である。これらは、可溶性の頭部複合体によって、ATPの加水分解か合成かのどちらかに結び付く。この2つの複合体は、周辺にある長い構造(peripheral stalks)によって一緒に保持されており、中心の回転シャフトによって機械的に結び付いている。膜のローターと可溶性頭部の構造から、機能についての洞察が得られる。しかしながら、無傷の複合体について入手可能な構造情報はこれまでなかった。Zhouたちはエレクトロスプレー質量分析を用いて、無傷のATP分解酵素/合成酵素を調べた(p. 380; またWhiteleggeによる展望記事参照のこと)。サブユニットの化学量論と膜のリングに結合している脂質が何であるかが決定され、それが、従来からの構造に関するデータと組み合わせて、ヌクレオチド・リガンドと脂質の調節的役割への洞察がもたらされた。(KF)
Mass Spectrometry of Intact V-Type ATPases Reveals Bound Lipids and the Effects of Nucleotide Binding
p. 380

電気的シナプスの可塑性(Electrical Synapse Plasticity)

電気的シナプスを通しての情報伝達は、重要かつ速い局所性のメカニズムである。しかしながら、電気的シナプスの有効性と整流現象特性が使用頻度によってどの程度まで変動するかに関しては殆ど知られていない。Haasたち(p. 389;Hestrinによる展望記事参照)は、視床の網様核におけるギャップ-結合情報伝達を調べた。in vitroにおいて、結合した視床網様核ニューロンのペアにおける誘導群発発火は、長期抑圧に帰結した。ギャップ-結合情報伝達の変化は、又、非対称であり、群発の強さに依存していた。結合したニューロンの活性化に由来する電気的シナプスのこのような変化は、電気的に結合したネットワークを再構成するための広範かつ強力なメカニズムであるらしい。(KU,nk)
Activity-Dependent Long-Term Depression of Electrical Synapses
p. 389

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