AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 14 2011, Vol.334


光のかけら(Pieces of Light)

波動は、振動する媒体が海洋の水であろうと、光の電磁的エネルギーであろうと、山と谷からなっている。もし、さまざまな波長の波が厳密に重ね合うならば、そのパターンはもっと複雑となり、繰り返しが少なくなる。そして、最終的には十分な成分があれば、繰り返しはなくなり、ちょうど離散した固有のある方向を指すような孤立した点になる。Wirth たち (p.195, 9月8日電子版) は、十分に制御された位相を持つ広範なスペクトル光(近赤外から、可視光、そして、紫外にいたるまで)を単一の強いパルス中にパッキングすることで光の一周期以下の状態を達成した。彼らは、さらに、原子中の電子のダイナミクスを最速の時間スケールで探る上での、この光パルスの可能性を示している。(Wt,KU)
Synthesized Light Transients
p. 195

歯が語る(Talking Teeth)

ヒトの進化は、しばしば摂取していた食物と密接に関係しており、そして歯は最も入手しやすい化石の一つである。UngarとSponheimer (p. 190)は、初期のヒトの食物を解明する最近の進展した研究をレビューし、新たな展望を提供する2つのアプローチに焦点を当てている。1つ目は、食物の研磨性や硬さを部分的に反映する歯の微小磨耗の精査である。2つ目は安定同位体の、特に炭素同位体の解析であり、これは初期人類(hominin)が直接食べていたり、あるいは食用としていた動物が消費していた食物における草に対するフルートとナッツとの比率を反映している。初期のヒトの食物はこれまで推定されていたよりも多様であったらしい。(TO,KU,bb,nk)
The Diets of Early Hominins
p. 190

ストリング秩序(String Order)

量子シミュレータとしての冷却原子気体の初めての成功の一つは、いわゆるモット絶縁体と超流動相の間の転移を達成しことであった:即ち、レーザで形成される光格子では、絶縁相においては格子サイトに固定したままの原子で占められ、超流動相では非局在化していた。Endresたち(p. 200)は個々の格子サイト観察するための新らしい有用な技術を用いて、より詳細にこの転移を調べ、そして二重占有サイトと非占有サイトの相関対を観察した。この相関は、各サイトが一つの原子によって満たされている絶縁相の励起を示している。相関対の結果、つまり隠された“ストリング秩序”はこの転移を示すものである。(hk,KU,nk)
Observation of Correlated Particle-Hole Pairs and String Order in Low-Dimensional Mott Insulators
p. 200

ナノ粒子を配列するルール(Rules for Positioning Nanoparticles)

原子や分子が結晶化する際、その結晶格子は通常温度と圧力によって決まる。よりスケールの大きいナノ粒子やコロイドの場合、熱力学的パラメーターだけでなく表面コーティングや溶媒和を変えることができるため、得られる集合体の結晶格子を制御する手法が増える。例えば、粘着性末端を有するDNAによって被覆された金ナノ粒子を用いた場合、体心立法(bcc)や面心立方(fcc)の超格子集合体を得ることができる。Macfarleneらは(p.204; Travessetの展望記事参照)粒子の流体力学的半径と集合動力学を制御することで、ナの粒子径と格子パラメターの広い範囲に渡って、bcc および fcc 格子、さらにその他 7 種の結晶格子を創成できることを報告している。(NK,nk)
Nanoparticle Superlattice Engineering with DNA
p. 204

古代のオーカーの作業場(Ancient Ochre Workshop)

オーカー、基本的には赤、茶、黄色の土である、は、古代人類によって、シンプルな芸術、体の着色や保護などに使用されていた。オーカーの利用については約6万年前以降についてはよく研究されてきているが、更にそれ以前にも利用していた証拠が存在する。Henshilwoodたちは(p.219)今回、他のこのような作業場に比べて相当古い、約10万年前の南アフリカのブロンボス洞窟のオーカーの作業場について報告している。この作業場はオーカーの粉を作るためのハンマーや砥石や、オーカーが貯蔵されていた二つの貝殻が含まれている。(Uc,bb,nk)
A 100,000-Year-Old Ochre-Processing Workshop at Blombos Cave, South Africa
p. 219

瞬間の動き(Flash Drive)

岩石が互いに滑り合う比率は地殻の断層に沿って蓄積される応力を支配し、最終的には地震を引き起こす。地震生成の初期段階や破断を説明するために、摩擦による温度上昇を伴う種々のメカニズムが持ち出されてきた。それには、溶融層の形成により接触領域の潤滑性が上がるプロセスも含まれている。しかし、それらの説明の多くでは、断層の摩擦が十分に減少した状態になるために、かなりの距離の滑りが起きることを必要とする。Goldsby と Tullis は(p. 216)、種々のケイ酸塩の岩石を用いた一連の摩擦実験を通じて、短い距離−ほんの数センチ−でも、スリップ速度が高いと、"フラッシュ"加熱として知られている過程により、摩擦係数が劇的に低下することを実証した。フラッシュ加熱は、小さな地震や大きな地震の初期段階における、断層の脆弱化に寄与するであろう。(Sk,nk)
Flash Heating Leads to Low Frictional Strength of Crustal Rocks at Earthquake Slip Rates
p. 216

炭水化物が連結する(Hydrocarbons Get Hitched)

飽和炭化水素は最も反応性の低い有機化合物の一つである。触媒上で加熱することで、不飽和炭化水素(隣接する炭素センターで水素原子が奪われる)になるやいなや、重合しやすくなるが、しかしその結果としての生成物の分布は複雑になりがちである。Zhongたち(p. 213)は、長鎖の直鎖炭化水素を一次元の金表面のチャネル中に閉じ込めることで、熱的に誘導される水素の脱離に伴い、鎖の末端同士の選択的な結合が生じることを示している。(KU)
Linear Alkane Polymerization on a Gold Surface
p. 213

Hox遺伝子クラスターの動的構造(The Dynamic Architecture of Hox Gene Clusters)

哺乳類の体のパターン形成は、Hox遺伝子の段階的転写活性に依存している。Noordermeer たち(p. 222)は、この過程には、不活性な3次元(3D)区画から活性化区画へと順次遷移する個々の遺伝子と共に、Hox遺伝子クラスターの全体的構造の動的遷移を含んでいることを示した。この二峰性の立体配置は明瞭な染色質マークの分布と類似していることから、染色質領域と3次元染色体構造の形成の間には関連があると推察できる。このようなHox遺伝子の活性化モデルは、各遺伝子クラスターにおける転写活性化に適切な配列が存在することを保証していると思われる。(Ej,KU)
The Dynamic Architecture of Hox Gene Clusters
p. 222

森の転換点(Forest Tipping Points)

自然のシステムにおける転換点の存在は、近年ますます認識されてきている(MayerとKhalyaniによる展望記事参照)。Hirotaたちは(p.232)、森林の分布に対する地球規模のデータを解析し、サバンナと森林、そして木の無い状態が大きなスケールで三者択一の安定状態であることを示している。この結論により、気候や伐採といった要因が転換点に達したとき、不可逆的シフトが発生する可能性が示唆される。Staverたちは(p.230)、サハラ砂漠以南のアフリカ地域、南アメリカ、そしてオーストラリアに至る森林植生における二峰性について研究し、サバンナと森林の分布やダイナミクスにおける火事の潜在的役割について評価した。降雨と季節性は、樹木被覆率を予想するために、地球のどこでも使える指標であるが、中程度の降雨に穏やかな気候という条件下では、植生は二つの状態をとりうる。このような気候の条件では、サバンナになるか森林になるか、火事によって決まるのだ。(Uc,KU,nk)
Global Resilience of Tropical Forest and Savanna to Critical Transitions
p. 232
The Global Extent and Determinants of Savanna and Forest as Alternative Biome States
p. 230

複製をスキップする(Skipping Replication)

DNA複製の機構は5'to3'の方向でDNAを複製する。かくして、DNA二重らせんのリーディング鎖(5'to3')は連続的に複製され、一方ラギング鎖(3'to5')は不連続に複製されると考えられている。ラギング鎖上のDNA損傷は、その複製の不連続性という性質により、複製複合体の進行に何等の妨害ももたらさない。リーディング鎖上のDNA損傷は、DNAから分離し、損傷の下流に再開始を行なうためにはDNAポリメラーゼが必要であると考えられていた。Yeeles とMarians(p. 235)は、リーディング鎖上に単一のシクロブタン ピリミジン二量体損傷を持つ大腸菌プラスミドのin vitroでの複製を研究した。損傷した鋳型に遭遇すると、最小の大腸菌の複製複合体はDNAと結合したままで、その損傷をスキップし、そして何等の複製再スタートタンパク質に無関係に、その損傷の下流にリーディング鎖の合成を再び開始した。(KU)
The Escherichia coli Replisome Is Inherently DNA Damage Tolerant
p. 235

大腸菌がその縞模様を得た方法(How Escherichia coli Got its Stripes)

生きている生物体が規則的な解剖学的パターンをどのように発生させるかは、複雑な生理学の文脈で研究しようとすると解明することが困難である。合成生物学は、パターン形成を促進する最小の回路を同定するためのボトムアップのアプローチを提供する。Liuたち(p. 238)は、合成遺伝的回路について記述しているが、この回路は増殖する大腸菌集団において周期的な縞の模様形成をプログラム化するために細胞密度と運動を結び付けている。この系はパターン形成を変えることが出来、そして数学的モデルにより実験結果が予測可能となった。(KU)
Sequential Establishment of Stripe Patterns in an Expanding Cell Population
p. 238

子宮筋腫に関する遺伝的手掛かり(A Genetic Clue to Fibroids)

子宮筋腫(平滑筋腫)は、50歳以上の女性の人口の半分以上に影響が見られると推測されている。これらの腫瘍は良性と言えども、重大な健康上の合併症を起こし、子宮摘出の最も大きな原因の一つである。Makinen たち (p. 252, および、8月25日号電子版参照)は、80人の患者から得られた225個の腫瘍試料に関する遺伝子配列解析によって、子宮筋腫の病理学的基礎を研究した。驚いたことに、70%以上の腫瘍からMED12と呼ばれる遺伝子に体細胞の変異が見つかった。MED12によってコード化されたタンパク質は、メディエーター複合体のサブユニットである26-サブユニット転写制御因子であり、この因子はRNAポリメラーゼIIとDNA調節エレメントとの相互作用によって遺伝子発現を制御していると考えられている。(Ej)
MED12, the Mediator Complex Subunit 12 Gene, Is Mutated at High Frequency in Uterine Leiomyomas
p. 252

距離を保て(Keep Your Distance)

約1兆個の細菌が我々の腸に棲んでいるが、驚いたことに我々の免疫系はこれに戦争を仕掛けることはしない。なぜ、これほどの平和共存が可能なのだろうか?多分、これには一連のメカニズムが存在するようで、その一つは、細菌を免疫学的に活発な粘膜上皮から物理的に分離した小腸と結腸に閉じ込める必要がある。Vaishnava たち(p. 255;および、 Johansson and Hanssonによる展望記事参照)は遺伝的手法を組合せて、Toll様受容体(TLR)(これは免疫応答を引き起こすために微生物の保存されたサインを認識する)の下流へのシグナル伝達が、この分離を維持するのに必要であることを実証した。(Ej,KU)
The Antibacterial Lectin RegIIIγ Promotes the Spatial Segregation of Microbiota and Host in the Intestine
p. 255

円錐をみる(Conical Vision)

通常、化学反応の際に、電子は核よりも急速に運動する。しかしながら、ある場合には、2種の運動(電子的な運動と振動性の運動)が互いに結合し、ある特異的な分子の位置関係において、2つの異なった電子状態を結び付けている。電子状態は、しばしばエネルギー地形として抽象的に描写されるので、そうした結合イベントは、2つの地形が出会うところが円錐状の特徴を示すという理由から、円錐交差と名付けられている。それらは多くの光化学反応において決定的役割を果たしているが、円錐相互作用は、実験によって調べるよりは、理論的に研究する方が、ずっとたやすいことが示されている。Wornerたちは、急速に変化する電子分布にとりわけ敏感な、最近開発されたレーザー分光法技術を用いて、二酸化窒素の光励起後の、円錐相互作用のダイナミクスを詳細に追跡したのである(p. 208; またWhitakerによる展望記事参照のこと)。(KF)
Conical Intersection Dynamics in NO2 Probed by Homodyne High-Harmonic Spectroscopy
p. 208

発生と振動(Development and Oscillation)

感覚に駆動される体験は、脳内の皮質マップの発生に強く影響を与えている。しかしながら、感覚性入力が、対応する発生中の皮質性カラム内でどのように処理されているかは不明である。Minlebaevたちは、洗練された生体内電気生理学的記録と、内因性の光学的シグナル・イメージングとを組み合わせることによって、新生仔ラットのバレル皮質を対象に、この疑問に取り組んだ(p. 226; また表紙参照)。主要なウィスカーの活性化は、対応するバレルカラムに特異的なγ振動を引き起こした。こうした初期のγ振動は、視床のγ発振器によって駆動され、現われてくる皮質性抑制とコルチコ-視床性フィードバックに支えられている。初期のγ振動はきわめて正確な時間性かつ組織分布的な、視床と皮質ニューロンの結合を可能にし、これがニューロン性刺激の「リプレイ」を反映して、つまるところ、感覚にとって必要な視床皮質系回路の増強において積極的な役割を果たしている可能性がある。(KF)
Early Gamma Oscillations Synchronize Developing Thalamus and Cortex
p. 226

リーダーに従え(Follow the Leader)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のRNAゲノムの5'リーダーは、HIV複製の複数のステップを制御しているが、その仕組みの理解は、構造情報の欠乏によって妨害されてきた。Luたちは核磁気共鳴標識戦略を用いて、5'非翻訳領域全体(335個のヌクレオチド)およびそのコード配列の21個のヌクレオチドから成るRNA配列の、単量体型および二量体型の双方の構造的要素に探りを入れた(p. 242)。長距離の塩基対形成に付随する立体構造の切り替えスイッチが同定されたが、この切り替えにより、そのゲノムがパッケージされるか翻訳されるかが制御される。一方の立体構造は開始コドンを隔離するが、しかし二量体形成と、パッケージングを仲介するウイルス性ヌクレオカプシドタンパク質への結合とを促進していた一方、他の一つは二量体形成を促進する配列を隔離し、ウイルスRNAの翻訳を可能にする。(KF,KU)
NMR Detection of Structures in the HIV-1 5′-Leader RNA That Regulate Genome Packaging
p. 242

粘膜での微生物の戦い(Mucosal Microbe Melee)

我われの粘膜の表面は、細菌とチームを組んでいる。そうした細菌、すなわち微生物叢は、我われの免疫系の発生と機能を形作り、栄養獲得に影響を与えていて、種々の病に寄与することもある。相対的に良性な微生物叢の他に、我われの粘膜表面はまた、多様な病原微生物によって襲われてもいる。Kaneたちは、非経口的にではなく粘膜性の経路経由でマウスが感染した際、マウスの共生微生物叢により、レトロウイルスであるマウス乳癌ウイルス(MMTV)が免疫系を逃れられることを明らかにした(p. 245)。ウイルスの回避は、MMTVが微生物叢由来の分子リボ多糖を受け入れたときに達成された。Kuss たちは、ポリオウイルスとレトロウイルスを調べ、双方のケースで、この微生物叢が感染マウスでのウイルス病変形成を増強し、共生由来のリボ多糖がそれらウイルスに追加免疫を与えていることを明らかにした(p. 249)。つまり、複雑な共生病原体相互作用が、とくに感染が粘膜表面で生じる際に、感染後の結果を左右する役割を果たしている可能性がある。(KF,nk)
Successful Transmission of a Retrovirus Depends on the Commensal Microbiota
p. 245
Intestinal Microbiota Promote Enteric Virus Replication and Systemic Pathogenesis
p. 249

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