AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 30 2011, Vol.333 


うなり音を出す(Making the Buzz)

エイのようなひれを持つ魚やさえずる鳥では、これらの種に於ける音声伝達には不可欠な音声器官内に、超高速筋の存在が確認されている。コウモリでは音響定位の最終段階では音響パルスのピッチが高くなることが知られており、周波数は逆に下がるので「バズ(うなり)」と呼ばれる。Elemans たち(p. 1885)によると、極めて高速の鳴き声がうなりに伴って生じるのは超高速筋によるものであり、トリやエイでも類似の発声が知られていたが、哺乳類では知られていなかった。このような筋肉が多様な分類種にわたって存在していることは、情報交換や捕食に音声信号を利用することが有利であるからであろう。(Ej,nk)
Superfast Muscles Set Maximum Call Rate in Echolocating Bats
p. 1885

病原性微生物の研究(Exploiting Microbial Pathogens)

標的細胞のゲノムのコントロールを行なうことで汚れた仕事を行なう病原性微生物は、今や科学者たちに利用され、遺伝子コントロールにおける研究促進に繋がる変化を目指している。Bogdanove and Voytas(p. 1843)は、このプロセスに関与するDNA-結合分子の発見や、これらの分子がどのように作用しているかという今日知られている事柄、そして生物工学における今後の利用に関する示唆をレビューしている。(KU,nk)
TAL Effectors: Customizable Proteins for DNA Targeting
p. 1843

MESSENGER からメッセージ(Messages from MESSENGER)

MESSENGER宇宙船は、2011年3月18日以来、太陽系で最も小さく最も内側の惑星である、水星の周回軌道に入った。MESSENGERの最初の90日間にわたる、軌道上での科学的運用の期間に得られたX線スペクトルに基づいて、Nittler たち (p.1847) は、水星表面の岩石を形成している主要な元素量を決定した。水星の表面組成は他の地球型惑星のものとは異なっている。これは水星の前身となる材料が何であったのかに対する手がかりを与えるものである。Peplowski たち (p.1850) は水星の表面からのγ線放射を分析して、放射性物質である K、Th、U の量を決定した。これは、水星は比較的揮発性材料が豊富な物質から形成されたことを示唆している。水星の周りの軌道から得られた高精細画像から、Head たち (p. 1853) は、水星の北側の滑らかな平原は溶岩流によって形成されたことを示している。そして、これは広範囲にわたる全球的火山活動を追認するものである。Blewett たち (p.1856) は、以前知られていなかった地形について記述している。これは、揮発性化合物を含む、いまも活動中かもしれないプロセスで形成された可能性がある。Anderson たち (p.1859) は、水星の内部で発生した磁場が回転軸から3°以内の傾いた軸を有し、地理上の赤道に対して 484km だけ北側に移動した、双極子によって表現できることを示している。Zurbuchen たち (p.1862) は水星のイオン化した外気圏の解析を与えている。これによると、太陽風が惑星表面を照射する極領域の近傍で重イオンの濃度が最も高い。Ho たち (p.1865) は、MESSENGER の最初の水星の一年(地球の日数では 88日)の間に蓄積された高エネルギー粒子のデータを用いて、水星の磁気圏は地球のものとは非常に異なっていることを示している。特に、それの電子群は、水星の周りを巡回していないように見える。かくして、水星は、地球の Van Allen 放射線帯のように荷電粒子の環を保有していない。(Wt,nk)
The Major-Element Composition of Mercury’s Surface from MESSENGER X-ray Spectrometry
p. 1847
Radioactive Elements on Mercury’s Surface from MESSENGER: Implications for the Planet’s Formation and Evolution
p. 1850

火星のほんの僅かの霧氷(Too Little Rime on Mars)

火星の大気は、地球の大気に比べてかなり希薄で、また水蒸気もほんの少ししか含まれていない。そうだとしても、火星における水蒸気の振る舞いを理解することは、水の循環サイクルにおける水蒸気の役割において重要である。Maltagliatiたち(p. 1868; Heavenによる展望記事参照)は、1火星年における火星北側の春季と夏季の期間、大気中に含まれる水蒸気の高度における分布を計測し、そして火星全体の気候モデルから予想される結果と比較した。標高20-50キロメートルにある水蒸気の量は予想以上に多く、飽和量を超えていた。このことは、飽和水蒸気量によって水蒸気の高度プロファイルが調整されているのではないことを示している。この過飽和は、雲の存在により促進される、水蒸気から氷への凝集作用が有効に働いていない結果であるらしい。(TO,KU,nk)
Evidence of Water Vapor in Excess of Saturation in the Atmosphere of Mars
p. 1868

ポリマーの振舞いを予測すること(Predicting Polymer Behavior)

ポリマー科学における長期にわたる目標は、ポリマーの分子構造をその流れ特性あるいは粘弾性と結び付けることである。実験と計算を駆使することによって、Readたち(p. 1871; Larsonによる展望記事参照)は、複雑に枝分かれしたポリマー溶融体の成形特性をその統合的な化学的性質から予測した。(hk,KU,ok,nk)
Linking Models of Polymerization and Dynamics to Predict Branched Polymer Structure and Flow
p. 1871

正しく振舞う触媒(A Well-Behaved Catalyst)

不斉触媒を設計する最も簡単な方法は、構造の一方側にバルキーな基を配置することであり、それにより分子はもう一方の側で結合し、二つの可能な鏡像関係にある物質のうちの一つだけが作られる。もちろん、この方法はいつもうまくいくわけではない。電子的な因子の影響が立体効果を相殺することがあり、バルキーな基をどの程度の大きさにすべきかと言うその疑問がいつも残っている。Harper と Sigman は(p. 1875; Wiest と Helquist による展望記事参照)、ケトンへのアルキン誘導体の選択的な付加反応に用いる触媒開発において立体的因子と電子的因子を最適化する系統的なアプローチを行ない、そして立体的因子と電子的因子の間の予想外の相乗作用を明らかにした。これは、各々の特性のみの調べ方では明らかにならなかったであろう。(Sk,KU)
Three-Dimensional Correlation of Steric and Electronic Free Energy Relationships Guides Asymmetric Propargylation
p. 1875

時代精神を測る(Measuring Zeitgeist?)

大勢の集団に対して、個人レベルの気分(mood)に関するデータを獲得することは難しい。Golder とMacy (p. 1878)は、集団的な気分(mood)を研究するために、2年間かけて240万を超えるユーザからの5億900万件以上のツイッターの投稿を調べた。2つの標準的な辞書(lexicon)を用いて、テキストを気分に関係付けした。米国、カナダ、英国、オーストラリア、インド、アフリカ英語圏において、文化、地理、宗教がかなり異なるにもかかわらず、それら全てで同様な気分のリズムが示された。人々は、週末、そして早朝において積極的になる傾向がある。(TO)
Diurnal and Seasonal Mood Vary with Work, Sleep, and Daylength Across Diverse Cultures
p. 1878

脱メチル化酵素は何時脱メチル化酵素でなくなるのか?(When Is a Demethylase Not a Demethylase?)

転写の負のフィードバックのメカニズムは哺乳類の概日時計の中心であるが、発信器の正確なコントロール、なかんずく転写に影響するヒストンへの修飾を説明する詳細なメカニズムは良く分かっていない。DiTacchioたち(p. 1881;Brown による展望記事参照)は、Per2遺伝子(この遺伝子は時計成分をコードしており、次々に他の遺伝子の転写を抑制する)のプロモータ部位での制御が、JARID1aと呼ばれるヒストン脱メチル化酵素の結合に関与していることを示している。しかしながら、Per2プロモータ部位でのJARID1aの重要な機能は、そのヒストン脱メチル化酵素の活性に依存してはおらず、むしろPer2プロモータ部位でのヒストンのアセチル化を減少させるというその影響である。JARID1aを欠くハエやマウスにおいて、概日リズムは破壊され、変化した。(KU)
Histone Lysine Demethylase JARID1a Activates CLOCK-BMAL1 and Influences the Circadian Clock
p. 1881

カルシウムをカラーで見る(Calucium in Color)

カルシウムの指示薬は、細胞内シグナル伝達の活性を検知するために広く用いられている。緑色蛍光タンパク質に基づいたカルシウム指示薬がこの十年の間利用されてきた。しかしながら、工学的な多様な蛍光タンパク質の成功にもかかわらず、遺伝子的にコード化されるカルシウム・イメージングは緑色に限定されたままであった。Zhaoたち(p. 1888,9月8日号電子版)は、カルシウム-依存性の蛍光の変化を目的に、大腸菌コロニーをスクリーンする方法を開発し、そして次に定向進化(directed evolution)を用いて、蛍光放射比測定(emission ratiometric)指示薬同様に、青色と赤色、及び改良した緑色指示薬を開発した。この指示薬は単一細胞内での多色カルシウムイメージングやカルシウム挙動のイメージング、及び線虫における神経活動のイメジングが可能となった。(KU,nk)
An Expanded Palette of Genetically Encoded Ca2+ Indicators
p. 1888

ストレス応答に対する陰と陽(Yin and Yang Stress Responses)

コルチコトロピン(副腎皮質刺激ホルモン)放出ホルモンとその1型高親和性受容体(CRHR1)は、脳に広く分布している。これらは一緒になって、神経内分泌学的に、かつ、行動的に、ストレスに対して組織的に順応している。条件付きの突然変異マウスを使って、Refojo たち (p. 1903, 9月1日号電子版参照)は、扁桃体や海馬内の神経細胞上のグルタミン酸作動性ニューロンのCRHR1が、特異的に不安に関係していることを見出した。しかし、中脳のドーパミンニューロンのCRHR1は、前頭前野におけるドーパミン放出の制御によって不安に関して反対の効果を持っていた。(Ej,KU)
Glutamatergic and Dopaminergic Neurons Mediate Anxiogenic and Anxiolytic Effects of CRHR1
p. 1903

分裂時の損傷 (Damaged During Division)

癌細胞のゲノムは、染色体内のダメージ(欠失、挿入、再編成)と、染色体全体の損失ないし獲得のどちらをもこうむることがある。遺伝的不安定性のこうした型は、互いに独立に生じると考えられている。Janssenたちは、染色体を強制的に、ヒトの組織培養細胞中で分離ミスを起こさせ、そしてDNA損傷箇所が比例して増加したことを確認したが、このことは細胞が互いに分裂するその位置でしばしば生じていた(p. 1895)。細胞がほぼ分離したその地点で捕獲された分離ミスの染色体は、2つの娘細胞に分裂させるその力によって破壊され、そして娘細胞に渡されたその断片は、非相同的な末端結合によって不適切に「修復され」、結果として染色体転座と融合をもたらした。(KF,KU)
Chromosome Segregation Errors as a Cause of DNA Damage and Structural Chromosome Aberrations
p. 1895

流れに抗して(Go Against the Flow)

我々の免疫系の細胞は、血液とリンパ組織の中を絶えず循環し、感染症に対する定常的な監視を維持している。血液と組織の間の出口と入り口、および組織内の細胞遊走は、高度に制御されたプロセスで、ケモカイン勾配によって制御されている。しかしながら、ときどきリンパ球はケモカイン勾配にさからって移動することがある。Arnonたちは遺伝的アプローチを用いて、Gタンパク質結合受容体キナーゼ-2(GRK2)が、脂質メディエーターであるスフィンゴシン一リン酸(S1P)の受容体-1(S1PR1)のリンパ球発現を下方制御するのに決定的であることを明らかにした(p. 1898)。GRK2によって仲介されるS1PR1発現の下方制御は、T細胞に血中のS1Pの高濃度を無視させ、リンパ節中へと移動させ、それはまた一方で、B細胞が脾臓中の異なった細胞ニッチ間を移動して抗原に最適なアクセスをするのを許している。(KF,nk)
GRK2-Dependent S1PR1 Desensitization Is Required for Lymphocytes to Overcome Their Attraction to Blood
p. 1898

直接的な品質管理 (Directing Quality Control)

小胞体ストレス応答(UPR)は、ミスフォールドされた分泌性かつ膜のタンパク質が、小胞体(ER)内に蓄積することによって引き起こされる。 この、ER中でのミスフォールドされたタンパク質の状態がいかにして膜貫通性のシグナル伝達キナーゼ、Ire1によって感知されるかははっきりしていない。GardnerとWalterはこのたび、Ire1は直接ミスフォールドされたタンパク質と相互作用していて、それによってIre1の二量体形成と活性化がもたらされているという考えを支持する証拠を提示している(p. 1891,8月18日号電子版; またKawaguchiとNgによる展望記事参照のこと)。試験管内での実験で、酵母は、Ire1の管腔領域が、ミスフォールドされたタンパク質で典型的な、疎水性と塩基性残基とに富んだペプチドと結合することができることを示した。さらに、ミソフォールドされたモデルタンパク質は、無傷の酵母細胞において、直接Ire1と相互作用したのである。(KF)
Unfolded Proteins Are Ire1-Activating Ligands That Directly Induce the Unfolded Protein Response
p. 1891

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