AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 2 2011, Vol.333


毛皮動物の氷河期準備完了(Woollies Ready for the Ice Age)

更新世時代の毛皮に覆われたマンモスや毛サイなど、寒冷期に対応した大型動物種は寒さへの耐性がより低い本来の状態から、同じ場所で徐々に進化してきたと考えられていた。Dengたちによって報告された(p.1285)、氷河期以前のチベット高原から新しく発見された毛サイの先祖種によって、寒冷で多雪の気候への適応が記述されている。この描写と、寒冷気候に適応した他の大型動物種(例えばヒョウ、羊、ウシ科の動物)に関する付随する説明によって、この地域は寒冷気候に適応した動物種の揺籃の地であったことが示されている。このことによれば、気候が寒冷化するに従い、これらの種が生息地を何倍もの拡大を促進させたのかもしれない。(Uc,KU,tk,nk)
Out of Tibet: Pliocene Woolly Rhino Suggests High-Plateau Origin of Ice Age Megaherbivores
p. 1285-1288.

大きめの爆発(Biggish Bang)

超新星1987A は、たまたまわれわれ近傍の銀河の一つであったため、最も詳細に研究された恒星爆発であり、その種のすべての超新星に対する雛型となった。超新星は、われわれの宇宙の化学工場であり、銀河の物理的、化学的な進化を促進する。Matsuura たち (p.1258; McKee による展望記事を参照のこと) は、Herschel Space Telescope で得られた、遠赤外線およびサブミリ波領域における超新星1987A の観測結果を報告している。そのデータは、太陽質量の 0.4 から 0.7 倍ほどになる大量のダストがこの超新星からの噴出物中に凝縮されていたに違いないことを示している。そして、若い銀河中に観測される大量のダストは、類似の爆発に起源を持っていることが示唆される。(Wt,KU,nk)
Herschel Detects a Massive Dust Reservoir in Supernova 1987A
p. 1258-1261.

魅力的な強誘電性弾性格子(Fantastic Ferroelectric Elastic Lattice)

磁性と電気的秩序が共存するマルチフェロイック(multiferroic)化合物(訳注:強磁性・強誘電性・強弾性・強トロイダルの4つの性質のうち2つ以上を有する特性)は、技術的可能性が大きいため、材料科学の立場からは極めて興味深い。これらの化合物の強誘電性秩序に関する知識は不完全であり、その原因として格子、または電子の歪みが提唱されていた。Walker たち(p. 1273)は、磁場に起因する格子のイオンの位置ずれをx線散乱法を利用して調べた。位置ずれの大きさはフェムトメートルの大きさであることが分かり、測定した強誘電性分極の約1/4を説明する。これは、強誘電性秩序を格子歪みに起因するというその種の理論を支持している。(Ej,KU)
Femtoscale Magnetically Induced Lattice Distortions in Multiferroic TbMnO3
p. 1273-1276.

完璧にせん断する球(Sheer Shear Sphere)

例えばトマトのペーストやマヨネーズのように、粒子やポリマーを含んだ流体はせん断流の中では複雑な流体挙動を示す。粒子同士のジャム状態が支配的な、粒子が高濃度な状態ではこの挙動はよく理解されている一方、低濃度状態での挙動はあまりよく分かっていない。Chengたちは(p.1276,8月12日号電子版;BrownとJaegerによる展望記事参照)、変形と流動状態を共焦点顕微鏡で観察して(confocal rheology)、中程度の濃度の剛体球粒子の懸濁液における、ずり粘減少・ずり粘増加の原因について研究し、そしてこれらの現象における粒子の相互作用の役割について観察している。(Uc,KU,ok)
【訳注】ずり粘減少・ずり粘増加:せん断速度を増加した際、見かけ粘度が徐々に減少する現象をずり粘度減少、増加する現象をずり粘度増加と言う。
Imaging the Microscopic Structure of Shear Thinning and Thickening Colloidal Suspensions
p. 1276-1279.

暗闇での代謝(Dark Metabolisms)

光が届かない800m以下の深海にいる海洋微生物は、海洋の二酸化炭素の固定化に大きな割合で関係していると推定されている。この二酸化炭素による自己栄養化(autotrophy)は古細菌(archaea)によって行われ、アンモニア酸化(硝酸化作用)によって促進されていると考えられている。しかし、深海における炭素固定化は、場所によって変動し、そして他の生物も行っている可能性もある。Swanたち(p.1296)は、無機炭素固定化の機構を持つ細菌の系統(lineages)を探求するために、南大西洋や北太平洋における単細胞のゲノム解析に取り組み、そして、身元確定できたバクテリア細胞の3分の1が、炭素固定化器官の構成要素や還元型有機硫黄化合物の酸化に対する遺伝子を持っていたことを発見した。しかしながら、イオウ化合物は他の生物体、例えば偏在性のオスモライト(dimethylsulfoniopropionates:ジメチルスルホニオプロピオナート)に由来している可能性もあり、イオウ化合物がどこでエネルギー生成反応を開始しているかは直ちに明らかになったわけではない。(TO,KU)
Potential for Chemolithoautotrophy Among Ubiquitous Bacteria Lineages in the Dark Ocean
p. 1296-1300.

味覚のマップ(Taste Maps)

過去50年の間に、脳がどのようにして五感を処理しているかという解剖学的、かつ機能的な機構がほぼ解明された。視覚、聴覚、及び触覚は皮質において組織分布的にマップ化され、一方臭覚は分布したコードを用いていることが示されていた。しかしながら、味覚はミステリーのままであった。in vivo での2光子カルシウムイメージングにより、Chenたち(p. 1262)は、島(insula)と呼ばれる脳領域内の一次味覚皮質におけるニューロンの味覚-誘起による活性化を同時に解析した。単一細胞レベルの分解能での実験から、味覚に関する基本的な描写を与える明瞭な画像が得られ、その画像において個々の基本的味覚(甘さ、苦味、うまさ、塩味、酸味)が、精緻に調整された細胞によって示され、これらの細胞は味の種類毎に正確な空間配列で組織化され、夫々の味の性質をコード化している(KU,nk)
A Gustotopic Map of Taste Qualities in the Mammalian Brain
p. 1262-1266.

細胞内での治療方法(Intracellular Therapy Tool)

合成生物学のゴールの一つは、病の状態を検知し、次いで治療上の適切な応答をトリガーするような遺伝子回路を哺乳類の細胞内に組み込むことである。Xieたち(p.307)はある調節回路を遺伝子工学的に開発したが、この回路はHela癌細胞に特徴的なマイクロRNAの特性を検知すると、アポトーシスを特異的にトリガーする。複雑な細胞内の条件に応じてプログラム化された生物学的作動は、薬物のスクリーニング等の応用に有益となるであろうが、しかしながらその十分な治療可能性を実現するには、この技術はin vivoでのDNA送達等の大きな困難を克服する必要がある。(KU)
Multi-Input RNAi-Based Logic Circuit for Identification of Specific Cancer Cells
p. 1307-1311.

同時に(All at Once)

量子情報処理プロトコルの効率的な実装および特性評価を行うためには、複数の量子ビットを同時に、かつ独立に測定できることが必要である。Nowackらは(p.1269)、分離されているが相互作用している2つの量子ドットに電子スピンを格納し、一方のスピン状態を破壊することなく他方を独立にスピン状態を読み取ることができる電子系を報告している。相互作用スピン系は大型化可能な量子情報処理システムアーキテクチャーの根幹部分の有力な候補者となり得る。スピン同士が一度相互作用した後に分離してから、スピン状態を読み出したり、スピン間相互作用を観測できる手法は、より複雑な量子回路の実装に向けた一歩になるであろう。(NK,KU,nk)
Single-Shot Correlations and Two-Qubit Gate of Solid-State Spins
p. 1269-1272.

交通レポート(Traffic Report)

発酵型のバイオ燃料を作る第1ステップはバイオマスを可溶性の糖に分解することである。酵素がセルロースをどのようにして分解するかをより正確に理解することは、このプロセス(食用穀物原料の他により困難な牧草類を利用する際の重要なステップである)の効率改善に役立つであろう。この目的に向かって、Igarashiたち(p. 1279)は高速原子間力顕微鏡を用いて、セルロース表面上での個々の酵素の動きを追跡した。彼らは、交通渋滞に似た集合性の動きを観察し、そしてセルロース分解の増強において二つの異なる酵素ファミリーの相乗作用に注目している。(KU)
Traffic Jams Reduce Hydrolytic Efficiency of Cellulase on Cellulose Surface
p. 1279-1282.

キメラのチャネルを作る(Chimeric Channels)

リガンド開口型イオンチャネル(LGICs)は細胞内部へのイオン電流のコンダクタンスを制御し、これによって細胞の行動を制御している。コンダクタンスを制御するいくつかの道具が開発され、機能が調べられたが、それらのほとんどはイオンチャネルを間接標的にしたものであった。Magnus たち(p. 1292) は、遺伝工学・化学工学を利用してキメラLGICを設計したが、これには薬理学的に選択的なリガンド結合領域と多様なイオン-ポア(ion-pore)領域をモジュラー的に組み合わせた。この方法によって、天然の系とは直交するLGIC-リガンド対を作成し、これを選択的に利用してin vivoでマウスの脳でニューロン活性を操作した。(Ej,hE,nk)
Chemical and Genetic Engineering of Selective Ion Channel-Ligand Interactions
p. 1292-1296.

可変性の同調(Variable Entrainment)

細胞中の生体時計として機能する生化学的回路は、定常的な周期的変動を生み出すことができ、また、より速くあるいはよりゆっくりにしたり、24時間の明暗サイクルと同期したりするよう、外部要因によって同調させることができる。Mondragon-Palominoたちは、細菌中に合成した細胞発振器を用いてこのような同調化がどのように作用しているかを研究しているが、この細胞発振器により外部要因が変化するときに、マイクロフルイディックデバイスに保持された細菌集団中での時計遺伝子の転写活性をモニターすることが可能になった。(p. 1315)。その結果は、発振器中のポジティブフィードバック・ループが同調化にとって決定的に重要であること、また個々の細胞内の発振器の周期に変動が存在することは、環境要因が変化する際に、少なくとも幾つかの細胞が同調することを保証するという点で有利であることを示すものである。(KF,KU,ok)
Entrainment of a Population of Synthetic Genetic Oscillators
p. 1315-1319.

笑い事ではない(No Laughing Matter)

世界的規模でみれば、海洋の微生物は、たとえば大量の温室効果ガスを産生することなどによって、大気の組成に強い影響を与えている。亜酸化窒素(N2O)はアンモニアの酸化によって形成されるが、そのプロセスは主に硝化菌によって支配されていると考えられてきた。しかしながら、大気中のN2Oの同位体シグネチャは、硝化菌がそのガスの唯一の源ではないことを示唆している。太平洋の集積培養を研究することで、Santoroたちは、海洋古細菌もまた大量のN2Oを産生することを示した(p. 1282、7月28日号電子版)。その実験で測定された窒素と酸素の同位体シグネチャは、海洋からのこのガス放出の主要な源が、実際はアンモニア-酸化古細菌であることを示すものである。(KF,nk)
Isotopic Signature of N2O Produced by Marine Ammonia-Oxidizing Archaea
p. 1282-1285.

土地は予備として保全すべきか、共有すべきか?(Land to Spare or Share?)

人口が増え続ける中で地球規模の生物多様性を保持し、食料を供給することは人類にとって重要な課題であり、この2つの課題を同時に満たすにはどうすべきかの議論がある。Phalan たち(p. 1289;および、Godfrayによる展望記事参照)は、集中的な農業とは別に保護された土地保全を設けることと、生物多様性と農業を共存させる土地共有のどちらが生物多様性を保持するうえでより効率的であるかについて調査した。ガーナとインドのトリと樹木に関する知見によれば、土地の保存の方が、食物生産を生物多様性の保存と調整させるには、土地共有より優れた戦略であることが示された。(Ej,hE)
Reconciling Food Production and Biodiversity Conservation: Land Sharing and Land Sparing Compared
p. 1289-1291.

Tet転換(Tet Conversions)

DNAメチル化は、遺伝子刷り込みやX染色体不活性化、トランスポゾン・サイレンシングにおいて、決定的な調節性イベントである。植物では、DNAメチル標識を除去するために、DNA修復に基づく仕組みが用いられている。動物においていかにしてDNAが脱メチル化されているかは、さほどよく理解されていない。Tetファミリーの酵素によって5-メチルシトシン塩基(5mC)が5-ヒドロキシメチルC (5hmC)に転換されることは知られているけれども。Itoたち(p. 1300)とHeたち(p. 1303. 双方とも8月12日号電子版; またNabelとKohliによる展望記事参照のこと)は、Tet酵素が5mCをhmCに転換するだけでなく、同様に5hmCを5-formylcytosine(5fC)と5-carboxylcytosine(5caC)にも転換できることを示している。双方のグループとも、生体内で低レベルのTet依存修飾が存在している証拠を発見しており、またHeたちは、5caCがチミン-DNAグリコシラーゼによるDNAからの除去の標的となりうることを示している。(KF)
Tet Proteins Can Convert 5-Methylcytosine to 5-Formylcytosine and 5-Carboxylcytosine
p. 1300-1303.
Tet-Mediated Formation of 5-Carboxylcytosine and Its Excision by TDG in Mammalian DNA
p. 1303-1307.

Femのサイレンシングを妨げる(Prevent Fem Silencing)

ますます、非翻訳RNAが生物学的過程において重要な調節的役割を果たしていることが見出されつつある。線形動物、線虫(Caenorhabditis elegans)においては、fem-1遺伝子が雄性の発生にとって必要とされている。しかしながら、遺伝的交雑は、母系性の寄与が雄性にとって必要ないことを示唆してきた。このたび、JohnsonとSpenceは、母系のfem-1が雄性の子孫にとっても必要とされることを示している(p. 1311)。彼らは、そのRNAをコードする能力を欠く変異体が、その変異RNAが子孫で雄性を促進するのを妨げないこと、またその活動的要素がfem-1RNAであるらしいこと、を発見した。接合子のfem-1発現の欠損は遺伝性であり、このことは、そのRNAが、抑圧性の後成的標識の析出に干渉することによって、接合子のfem-1遺伝子のサイレンシングを妨げるよう機能していることを示唆するものである。(KF)
Epigenetic Licensing of Germline Gene Expression by Maternal RNA in C. elegans
p. 1311-1314.

透明状態では何事も起きない(For Transparency-Nothing Works)

光回路に基づく量子情報技術には、単一光子を操作し、スイッチする能力が必要である。原子のエネルギーレベル間の遷移を制御ビームによって選択的に調節して、さもなければ吸収されるはずの探索ビームに対してその原子の集団を透明に出来る。しかし、電磁気的に誘発された透明状態を保ち、この効果を達成するためには多くの光子が必要となる。Tanji-Suzuki たち(p. 1266;および、Fleischhauerによる展望記事参照) は、干渉性が鋭くて干渉幅が狭い光空洞共振器内に原子の雲を入れて、光と物質の相互作用が増強され、空洞の真空場が単一光子レベルで透明性を誘発していることを示した。更に、真空によって誘発された透明性は強く非線形であり、これによって、光制御における有力な候補が得られる。(Ej,KU,nk)
Vacuum-Induced Transparency
p. 1266-1269.

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