AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 12 2011, Vol.333


皮膚の深さすらない(Not Even Skin Deep)

皮膚に電子回路を固定するには、通常接着テープや、機械式のクランプやストラップを用いたり、或いは針を刺すことでバルクな電極を皮膚に貼り付けたりする。Kimたち(p. 838;Maによる展望記事参照)は、可撓性のポリマーで包まれた非常に薄い機能性部品を包含するフィラメント状の曲がりくねった電子回路を考案した。この回路は非侵襲性のファンデルワールス接触により皮膚に付着する。この技術を用いることで、生理的状態のモニタリング、傷の測定や治療、人とマシーンのインターフェース、及び秘密の情報交換に対する部品やデバイスが作られた。(KU)
Epidermal Electronics
p. 838-843.

冷却するエーロゾル(Cooling Aerosols)

我々の気候は過去半世紀にわたり、主に大気中に温暖化ガスが増加することによって温暖化の一途をたどっている。しかしながら、温暖化の速度は一定ではない。近年の10年間は1980年代・90年代の期間よりも、平均的な地球の気温の上昇度は低くなっている。Solomonたちは(p.866,6月21日号電子版)、エーロゾル(訳注:半径0.001~10マイクロメートル程度の大気中に浮遊する微粒子 : エアロゾル)が、過去50年間に渡ってもたらしてきた放射強制力を再評価するために、成層圏のエーロゾルの量の地上と衛星からの計測データを用いた。成層圏のエーロゾルが増加しなかった場合と比べると、1988年以降の地球の気温上昇は約 25% 抑えられている。成層圏のエーロゾルはまた、1960年から1990年の間には少しばかりの冷却効果をもたらしていた。(UC,KU,Ej,nk)
The Persistently Variable “Background” Stratospheric Aerosol Layer and Global Climate Change
p. 866-870.

素敵なことが重なって(Twice as Nice)

公衆衛生における重要なゴールの一つは、普遍的なインフルエンザワクチンの開発である。グループ1のA型インフルエンザウイルス対して広範囲に効く中和抗体に関しては、従来から紹介されてきたが、しかしながらグループ2のウイルスに対する広範囲に効く中和抗体に関してはそうではない(Wang and Paleseによる展望記事参照)。Ekiertたち(p. 843,7月7日号電子版)は、グループ2のウイルスに対して広範囲の中和活性を持つヒト単クーロン抗体である、CR8020のその単離と特性を紹介しているが、この抗体はグループ1抗体によって認識される領域とは異なる領域を認識している。別の研究で、Cortたち(p. 850,7月28日号電子版)は、インフルエンザ感染者からグループ1とグループ2のA型インフルエンザウイルスに対して中和活性を示す抗体の単離に関して報告している。この抗体は、インフルエンザ赤血球凝集素内の変異の生じない領域に結合する。この抗体の投与により、マウスとケナガイタチの両者ともグループ1とグループ2のA型インフルエンザウイルスによる感染から免れた。(KU,nk)
A Highly Conserved Neutralizing Epitope on Group 2 Influenza A Viruses
p. 843-850.
A Neutralizing Antibody Selected from Plasma Cells That Binds to Group 1 and Group 2 Influenza A Hemagglutinins
p. 850-856.

取り囲まれた超新星(Supernova Surrounded)

Type Ia 超新星は、白色矮星の爆発によって生ずると考えられており、この白色矮星には近接連星を構成する対の一方の星(随伴星)からの物質が降着してくる。現在のモデルによると、この随伴星は別の白色矮星、あるいは、通常の星か巨星のどちらかと考えられる。これらのモデルを見分ける特徴の一つは、随伴星が白色矮星ではないときには恒星周囲に物質が存在するということである。Sternberg たち (p.856) は、35個の type Ia 超新星の恒星周囲の物質の兆候を捜索し、近隣の渦状銀河では、type Ia 超新星は白色矮星を一つだけ含む連星系に由来する傾向があると結論している。(Wt,nk)
Circumstellar Material in Type Ia Supernovae via Sodium Absorption Features
p. 856-859.

急速な皮質記憶固定化作業(Rapid Cortical Memory Consolidation)

新規な記憶が形成される場合、過去の確立した知識上に同化された情報が取り込まれるため、過去の知識が拡張される。このような海馬に依存した系全体の記憶固定は大脳皮質領域によって引き継がれるが、従来はゆっくりしたプロセスであると考えられていた。ラットを1対の関連事象によって記憶訓練し、同類の記憶情報を新たに学習させると、新しい記憶には海馬が必要となる。しかし、これを思い出すのに海馬は急速に不要となることから、関連記憶概念が完成した段階では、系の記憶固定は急速に生じることが推察される。Tse たち(p. 891,および,7月7日電子版参照)は、同じ行動概念を利用し、新規の1対の関連記憶を海馬依存性学習によって行う場合、既存の皮質概念を追跡する平行記憶コード化が行なわれていることを示した。(Ej)
Schema-Dependent Gene Activation and Memory Encoding in Neocortex
p. 891-895.

グラフェン二重膜中の電子相関(Electron Correlations in Bilayer Graphene)

電子-電子相互作用は、欠陥での散乱や熱的揺らぎによって不鮮明になるため、多くの場合、材料の電子特性は“単電子”モデルで記述される。Mayorovらは(p.860;表紙参照)、欠陥やドーパントの無い準粒子移動度を向上させたグラフェン二重膜において電子相関の証拠を発見したことを報告している。(NK)
Interaction-Driven Spectrum Reconstruction in Bilayer Graphene
p. 860-863.

注意するには適切な受容体が必要(The Right Receptor for Attention)

前脳基底核のコリン作動性システムから遊離される神経伝達物質のアセチルコリンは感覚処理と認知には不可欠である。Guillem たち(p. 888)は、注視において、β2サブユニットを含むニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)が重要な役割を果たしていることを報告した。このβ2サブユニットを欠くマウスは、注視に対して障害が生じる。しかし、この欠陥は内側前頭前皮質でβ2-nAChRが再発現することによって回復可能である。更に、脳をスライスして見ると、 内側前頭前皮質細胞の応答は、β2-nAChR拮抗物質で破壊され、拮抗物質を洗い流した後に復元されている。このように、注視は内側前頭前皮質のニューロン内のβ2-nAChRの発現に作用するアセチルコリンによって制御されている。(E,hE)
Nicotinic Acetylcholine Receptor β2 Subunits in the Medial Prefrontal Cortex Control Attention
p. 888-891.

たった一人のわが子(My One and Only)

海棲爬虫類である首長竜(Plesiosaurs)は、200年前から良く知られており、化石状態も大変良い。しかし、彼らの生態についてはよくわかっていない。O'KeefeとChiappe (p. 870)は、約30才の首長竜(Polycotylus latippinus)の化石を詳しく調べて、このグループは胎生であったことを示している。中生代で胎生を行う他の海棲爬虫類に比べて、Polycotylus latippinusはたった一匹の大きな仔を生む。これは、プレシオサウルスが丁寧に子供の世話をしていたことを示唆する。一回の出産で産れる子供の数が少ないことは、また、首長竜新生児の化石記録が希少であることの理由になるだろう。(TO,nk)
Viviparity and K-Selected Life History in a Mesozoic Marine Plesiosaur (Reptilia, Sauropterygia)
p. 870-873.

緊急の水素合成(Hydrogen in a Hurry)

エネルギー貯蔵用としての水素分子は白金触媒により作られるが、存在量も少なく、高価である。一般的な鉄やニッケル錯体等の触媒反応で水素分子が作られることが期待されている。二つのプロトン(H+)と二つの電子を寄せ集めて最も単純な分子である水素分子を合成するのは見かけによらず困難である。Helmたち(p. 863)は、一つのニッケルイオンと二つの七員環アミノ-ジホスフィン配位子だけからなる触媒(stripped-down catalyst)を合成した。この触媒は、酸性アセトニトリル溶液中で1秒間に10万サイクルを超える代謝回転数でプロトンに還元的に結合する。この錯体とその変異体の構造及び動態研究から、還元されたニッケル中心へプロトンを移動するためにアミンを正にふさわしい配向状態にもたらすような構造が示唆される。(hk,KU,nk)
A Synthetic Nickel Electrocatalyst with a Turnover Frequency Above 100,000 s-1 for H2 Production
p. 863-866.

一人だけで行わない(Not Going It Alone)

昆虫の繁殖がグループの中で数匹の個体だけに限られている場合、この社会性昆虫の進化は血縁淘汰によって説明がつくことが多い。とすれば、昆虫のコロニーで繁殖に無縁な個体はどう説明されるのか?Leadbeaterたち(p. 874;Gadagkarによる展望記事参照)は、スズメバチ(wasp)の一種Polistes dominulusが行うコロニーの創設について、詳しく調べた。コロニーの創設は、繁殖を行う優位な女王蜂と繁殖を行わない下位の女王蜂との両方によって創設されることが多い。繁殖を行わない下位女王蜂が存在する場合には、女王蜂が一匹だけの場合よりもコロニーの創設と維持が上手くいくことが多い。従属的な女王バチにとって、巣を受け継ぐこともあるため、彼女自身の巣を創設するよりも、繁殖に成功する確率が高い。(TO,KU,nk)
Nest Inheritance Is the Missing Source of Direct Fitness in a Primitively Eusocial Insect
p. 874-876.

ある真菌の位置づけが解決された(Fungal Placement Resolved)

菌類は、自然界で重要な役割を果たしているが、多くの分類群は培養されたことはなく、環境性DNA配列から知られているだけであって、不確かな系統発生上の位置にある。Roslingたちはこのたび、土壌クローングループⅠと命名されたクレイドの代表的な2つの種を培養、配列決定して、それが、子嚢菌類(Ascomycota--Archaeorhizomycetes)内の新しい綱であると同定した(p. 876)。Archaeorhizomycetes は、ツンドラから熱帯地方にかけての森林や草地の土壌に存在している可能性がある。(KF)
Archaeorhizomycetes: Unearthing an Ancient Class of Ubiquitous Soil Fungi
p. 876-879.

背中を掻いてくれるから、そのお礼に...(You Scratch My Back …)

植物とアーバスキュラー菌根菌とはしばしば、植物には無機質栄養を、菌には炭水化物を提供する相利共生型の共生系を形成する。複数の植物と菌類が結び付く際に、非相互的な栄養交換は、いかにして妨げられるのだろう? Kiersたちは、植物と、それに対して協力的あるいは非協力的な菌類との結び付きを操作して、植物の根と菌類の間での資源の移動を追跡した(p. 880; またSelosseとRoussetによる展望記事参照のこと)。栄養交換は、植物と菌類の双方がそのパートナーから受取る栄養アウトプットに依存して自分の作り出す栄養の量を加減している、つまりベストなパートナーがいちばん多くの栄養をもらっているということで、説明できそうであった。(KF)
Reciprocal Rewards Stabilize Cooperation in the Mycorrhizal Symbiosis
p. 880-882.

モーターの閉じ込め(Motor Lockdown)

キネシン-1は、二量体の分子モーターであり、微小管経路上に積荷を輸送している。その運動はアデノシン三リン酸加水分解に依存していて、積荷の輸送をしているとき以外は、自己抑制されている。自己抑制は、その尾部領域のモーター領域への結合が関与しているが、正確な仕組みは不明である。尾部領域との複合体におけるモーター領域の二量体の結晶構造に基づいて、Kaanたちは、尾部領域が両方のモーター領域と結合し、アデノシン二リン酸遊離に必要な運動を防いでいることを示している(p. 883)。(KF)
The Structure of the Kinesin-1 Motor-Tail Complex Reveals the Mechanism of Autoinhibition
p. 883-885.

配偶子よ、(Gametes Ahoy)

配偶子の発生は、生殖腺を形成する生殖細胞を囲んでいる体細胞性組織からのシグナルと、生殖細胞自身のゲノムとによって制御されている。ショウジョウバエでは、始原生殖細胞が最初に胚の後側極に形成される。原腸陥入によってその細胞は移動することになり、始原生殖細胞は生殖腺へと遊走しなければならない。Hashiyamaたちはこのたび、性致死的(Sxl)遺伝子が遊走時に雌性細胞中に発現することを示している(p. 885、7月7日号電子版; またVan Dorenによる展望記事参照のこと)。Sxlの発現は、遺伝子型で雄性の生殖細胞中でのSxlの異常な発現をもたらすことによって、雌としての運命を決定することになる。つまり、雌性のショウジョウバエでは、生殖細胞が生殖腺を発見するその前にすでに、卵形成が始まるのである。(KF)
Drosophila Sex lethal Gene Initiates Female Development in Germline Progenitors
p. 885-888.

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