AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 20 2011, Vol.332


ヒカゲノカズラ類のゲノムを解剖する(Dissecting the Spikemoss Genome)

現在のlycophyte(ヒカゲノカズラ網)(ヒカゲノカズラ類、ミズニラやスパイクゴケ類)の系統は顕花植物からずっと以前に分岐した。Banksたち(p. 960, および、5月5日号電子版参照)は、lycophyte の Selaginella moellendorffii のゲノムを配列決定した。そのゲノムは、他の植物と比較して、特にコンパクトな110メガ塩基対であった。この遺伝子密度はシロイヌナズナ(Arabidopsis)と類似しているが、ゲノムには倍数体化の跡は残していない。この遺伝子解析結果から、小さなRNAとRNA編集機能の独特の展開についての洞察が得られ、非維管束植物から維管束植物への移行に必要な進化変遷のヒントが得られる。(Ej,hE)
The Selaginella Genome Identifies Genetic Changes Associated with the Evolution of Vascular Plants
p. 960-963.

酵母を理解する(Understanding Yeast)

分裂酵母の Schizosaccharomyces pombe は、この真核生物と、遠い関連にある他の生物体との研究の中心生物として利用されてきた。Rhind たち(p. 930, および、4月21日号電子版と表紙を参照) は、S.pombeを含む4つの分裂酵母種のゲノム配列を比較した。トランスポゾン構造と数は、種間で大きく異なり、遺伝子量と遺伝子構造と遺伝子順序は保存されているが、アミノ酸置換の割合は高い。アンチセンス転写は減数分裂遺伝子で豊富であり、この事実から、この転写物が発現に協調していると思われる。さらに、遺伝子含有量と制御の調節性モチーフの進化と革新性は、分裂および出芽酵母のエタノール代謝の平行進化の基礎となっているのかも知れない。(Ej,hE)
Comparative Functional Genomics of the Fission Yeasts
p. 930-936.

秩序を規定する(Prescribing Order)

遷移金属酸化物の間の界面は広範囲の挙動を示す;絶縁性、金属性、磁性及び超伝導性の振舞いは全て、ゲート電位によって導かれる。バルク系への移行において、Borisたち(p. 937; Hammerl とSpaldinによる展望記事参照)は、薄い LaNiO3とLaAlO3層のヘテロ構造の層の厚みと数を変えることで超格子の次元数をコントールできることを発見した。このアプローチは、金属酸化物超格子系内の電荷とスピン秩序の集団挙動を操作する道筋を提供している。(hk,KU)
Dimensionality Control of Electronic Phase Transitions in Nickel-Oxide Superlattices
p. 937-940.

有機デバイスがお似合いの相手を見つけた(Organic Devices Find a Closer Match)

インジウムスズ酸化物(ITO) 電極は透明かつ丈夫であり、発光ダイオード(LEDs) のような多くの有機デバイスの電極としてよく用いられる。Helander たちは(p. 944, 4月14日号電子版)、その電子エネルギーを典型的な有機活性層のそれにより一致させるために、その仕事関数(電子放出に必要なエネルギー)を増大させるITO の塩素処理の方法を報告している。段階的な電荷注入プロセスを構築するために異なる材料からなる多層膜を用いる必要が無くなり、緑色発光有機 LED のデバイス効率が向上する。(Sk)
Chlorinated Indium Tin Oxide Electrodes with High Work Function for Organic Device Compatibility
p. 944-947.

煮え切らない磁気相互作用

超伝導体の表面に吸着された磁性原子は2種類の相互作用を示す。一方は近藤効果に由来する金属状態の中にとどまっている自由電子に覆われる場合であり、他方は超伝導状態の電子対と相互作用する場合である。Frankeらは(p.940)走査型トンネル顕微分光法を用いて、鉛表面に吸着されたマンガンフタロシアニン分子を調べた。上記の相互作用に由来する2種類の磁性基底状態が観測された。両状態はナノメータースケールで交互に入れ替わる状態で並ならんでおり、モアレパターンを持つ超構造を形成していることが明らかとなった。(NK)
Competition of Superconducting Phenomena and Kondo Screening at the Nanoscale
p. 940-944.

潮汐の指紋(The Fingerprints of Tides)

海洋の潮汐によって、海床とその周りの大陸部に海洋から加えられる応力には、かなりの変動がもたらされる。この応力は地殻の動きに影響を及ぼし--地球内部の特性を決定するために用いることができる応答である。潮汐に対する地球の地殻の応答を高密度なGPSアレイによりモニタすることで、ItoとSimons (p. 947,4月14日号電子版) は、米国西部の地下のマントルの地域的な構造を決定した。地殻の運動に関するデータは独立した地震波データと一致しており、これを用いることで、密度のようなこれまで取得できなかった特性を直接推定することができる。(TO,KU,nk)
Probing Asthenospheric Density, Temperature, and Elastic Moduli Below the Western United States
p. 947-951.

オゾンと降雨(Ozone and Rainfall)

20世紀後半の広範なクロロフルオロカーボンの商業的、および、工業的利用は、南極における成層圏オゾンホールをもたらした。その結果として、大気の熱的構造の変化は、南極の大気の渦の内部と低緯度領域の両方において、大気循環を変化させることとなった。Kang たち (p.951, 4月21日付け電子版; Feldstein による展望記事を参照のこと) は、この過程の一つの帰結、すなわち、南亜熱帯における夏の期間の降雨の増加について報告している。この変化は、南半球における温帯地方の西方ジェットの極方向への移動に由来するものである。これは、亜熱帯の水理に対する極領域の重要性を示すものである。(Wt)
Impact of Polar Ozone Depletion on Subtropical Precipitation
p. 951-954.

貴方と嗅げればもっと良い(The Better to Smell You With)

哺乳類は進んだ嗅覚と触覚を有している。哺乳類の脳内の感覚領 (sensory regions) の増大がこのような特殊分化を反映している。Roweたちは (p.955; Northcuttの展望記事参照) x-線トモグラフィーを用いて、二種のジュラ紀初期の哺乳類祖先の体内構造体(endocast)をつくり、これらを哺乳類の系列に連なる絶滅種と現存種における脳の形状やサイズに関する現在するデータと比較した。哺乳類における脳の増大や特殊分化は3つの段階を経て進行した。一つ目は、感覚器官からの信号を知覚し処理する能力が増大したことである。例えば、体毛を通しての触覚に関する刺激や、環境からの嗅覚の手がかりである。これに続いて、神経筋の整合が向上した。そして、最後に、最初の本当の意味での哺乳類において、鼻の構造が発達することによって、嗅覚受容体や水のバランスをとれるように、表面積が拡大したのだ。(Uc,KU,nk)
Fossil Evidence on Origin of the Mammalian Brain
p. 955-957.

黒色、或いは明色(Black or Light)

イギリスにおける鱗翅類ペッパード蛾(peppered moth Biston Betularia)における工業暗化(industrial melanism)の進化と拡がりは、最もよく知られた自然選択による進化の例の一つである。しかしながら、この多形性についての遺伝的基礎は、このメラニン型が一回で進化したのか、或いは複数回の進化で生じたのかどうかと同様に、不明である。Van't Hofたち(p. 958,4月14号電子版)は、この蛾のカルボナリア(carbonaria:煤煙的)座位をマッピングすることでこの疑問に答えているが、そのマッピングからメラニン型の総ての個体が同じハプロタイプを有していることを示している。この発見は、単一の変異事象によるメラニン型の急速な拡がりを示唆している。更に、多形性の元であるゲノム領域は、また他の鱗翅類の種における羽のパターンや色変化をも説明するものである。(KU)
【訳注】工業暗化:19世紀後半のイギリスの工業地帯で、煤煙により周囲が黒ずんできた影響で黒色の方が小鳥に発見しにくいということで明色から進化したと考えられている。
Industrial Melanism in British Peppered Moths Has a Singular and Recent Mutational Origin
p. 958-960.

作るために壊す(Break Down to Build Up)

発生中や加齢中のある時点で、細胞は新たなタンパク質合成に必要なアミノ酸を供給するために自分自身の成分を異化作用する。Naritaたち (p. 966,4月21日号電子版;Zoncu and Sabatiniによる展望記事参照) は、或るタンパク質リサイクル工場を同定したが、この工場はタンパク質合成を増強し、一まとめにして分泌を促進するために作られている。このmTOR-自己貪食の空間的に結合している区画により、mTORと自己貪食の双方が同時に活性化可能となり、これによりタンパク質合成と分解を同時に引き起こし、そしてタンパク質の代謝回転を有意に高めることになる。(KU)
Spatial Coupling of mTOR and Autophagy Augments Secretory Phenotypes
p. 966-970.

TOLL様受容体による免疫寛容(Tolerance by TLR)

我々の身体には十億を越える細菌が棲みついており、その大部分は病原性は無く、共生細菌である。免疫系が病原性の細菌のみを攻撃するのは何故だろうか?Roundたち (p.974,4月21日号電子版) は、ヒト共生細菌であるバクテロイデス・フラジリス(Bacteroidesu fragilis)の結腸の粘膜組織でのコロニー形成を可能にしているその根底にある免疫機構を調べた。無菌のマウスとバクテロイデス・フラジリスのみコロニー形成したマウスにおいて、バクテロイデス・フラジリス-分泌分子である多糖類AがTOLL様受容体2(TLR2)を通してシグナルを伝達し、免疫寛容を促進する。この発見はむしろ意外なことで、というのもTLR2シグナル伝達は通常、免疫の活性化や細菌のクリアランスと関係しているからである。このように、共生細菌は古典的な自然免疫反応経路を通してのシグナル伝達により免疫寛容を促進する因子を作っているのだろう。(KU)
The Toll-Like Receptor 2 Pathway Establishes Colonization by a Commensal of the Human Microbiota
p. 974-977.

ヌクレオソーム位置決めの再構成(Reconstituting Nucleosome Positioning)

ヌクレオソームは、多くの遺伝子の転写開始点のまわりの、特異的に定められた位置を占めるが、すべての特異的ヌクレオソームの位置のおよそ半分は、根底にあるDNA配列によって定められている。適切なヌクレオソームの位置を決定するのに、ヒストンとDNAがあれば十分なのかを決定するため、Zhangたちは、試験管内で染色質を再構成した(p. 977)。ほとんどのヌクレオソーム位置は、主に配列-内因性で決まるわけではなく、また、固定した障壁がガイドとして作用するような統計的位置決めによって決定されるのでもなく、転写によって決められるのでもなかった。むしろ、ヌクレオソーム位置と、多くの酵母遺伝子の5′末端周囲の占有レベルの再構成には、細胞全体の抽出物とアデノシン三リン酸(ATP)との存在が必要とされ、このことはATPによって駆動される染色質の再編成が関与していることを意味している。(KF)
A Packing Mechanism for Nucleosome Organization Reconstituted Across a Eukaryotic Genome
p. 977-980.

リボソーム2つで(Ribosome Times Two)

リボソームとは、タンパク質合成をつかさどる分子性機構である。合成の際に、小さなリボソームによるサブユニットが大きなサブユニットに対してラチェット様の回転をすることで、メッセンジャーRNA(mRNA)と転移RNA(tRNA)の転位置が促進される。鍵となる中間状態は、tRNAが小さなサブユニット上のペプチジル-tRNA部位(P部位)と、その小さなサブユニット上の出口部位(E部位)とに同時に結合するハイブリッド状態である。Dunkleたちは、大腸菌リボソームの、2つの高分解能構造を記述している(p. 981)。最初の構造は、小さなサブユニットと大きなサブユニットの双方のP部位中にtRNAを位置づけている。二番目のものは、P/E中にtRNAを結合させ、リボソーム再利用因子によって安定化されている。これらの構造は一緒になって、リボソームのラチェット機構への洞察を提供してくれるのだ。(KF)
Structures of the Bacterial Ribosome in Classical and Hybrid States of tRNA Binding
p. 981-984.

系列決定における染色質の役割(Chromatin in Lineage Determination)

マウス発生の初期には、腹側前腸内胚葉の細胞は、肝臓になるか膵臓になるかという別々の運命を採用することになる。数々の遺伝子が腹側前腸内胚葉中で機能することが知られているが、特異的ヒストン修飾因子がこの決定プロセスを補助しているかどうかは、不明である。Xu たちは、肝臓或いは膵臓になるかの細胞の運命決定によって活性化される遺伝子における胚性内胚葉中の多様な染色質標識に対するスクリーニングを行なった(p. 963)。肝臓になる遺伝子か、膵臓になる遺伝子かによって、調節エレメントは異なった染色質パターンをもっていた。そうしたパターンの産生に関与している酵素は、修飾的役割は演じていたが、肝臓系列か膵臓系列かに特定される細胞の数を絶対的に支配しているのではなかった。つまり、染色質状態の機能的「事前パターン」が、多分化能前駆体からの別々の組織の産生に関与しているのである。(KF,KU)
Chromatin “Prepattern” and Histone Modifiers in a Fate Choice for Liver and Pancreas
p. 963-966.

宿主か食事か(Host Versus Diet)

哺乳類の腸の管腔内に生きている細胞の数は、体細胞の数を一桁以上超えている。こうした共生生物は宿主とともにいかに共進化したのだろうか、また食事によるインプットと機能的アウトプットへの進化のスケールと同じく、共生生物はその短かい期間でどのように応答しているのだろうか? ヒトを含む哺乳類の調査で、Mueggeたちは、機能における種の組成とニュアンスが食事の違いによって異なっている可能性があるが、微生物遺伝子の全体としてコアとなるレパートリーは、識別できることを発見した(p. 970)。しかしながら、単一の自由生活種の中でも、腸の微生物叢の構造と機能は宿主の食事摂取に有意に影響されたのである。(KF,KU)
Diet Drives Convergence in Gut Microbiome Functions Across Mammalian Phylogeny and Within Humans
p. 970-974.

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