AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 29 2011, Vol.332


どお、私を感知できる?(Can You Feel Me Now?)

種内でのコミュニケーションは、それが排他的であるとき最も効率的であり、そこではあなたと同じ種からのシグナルを認識し、そして他の種によって作られたシグナルを排除することで有利となるからである。濁った川に棲んでいる幾つかの魚の種は、視界の悪い環境の中で生きるという課題を電気的シグナル伝達によって克服している。アフリカの電気魚による特有の放電パターンの研究から、Carlsonたち(p. 583)は、脳におけるキーとなる感覚処理領域の進化がある一つのグループで急激な多様化を可能にし、一方感覚機能の進化の前に分岐した近縁グループでは最小の多様化であることを見出した。多様化したクレイド内の種は、多様化の少ないグループに比べて複雑な電気シグナルを送り、かつ識別する際により効率的な受容体の形態を持っており、このことは、脳の発生における重要な進歩が、改良された知覚と種の認識により種の分化に導いていることを示唆している。(KU)
Brain Evolution Triggers Increased Diversification of Electric Fishes
p. 583-586.

フリーデル-クラフッ反応にフッ素を加える(Putting the F in Friedel-Crafts)

有機化学における最も古く、そして最も広く応用された反応の一つである、フリーデル-クラフッ反応は芳香環とアルキル基等の多様な非芳香族置換基との間で炭素-炭素結合を形成する。一般には、金属錯体がこれらの置換基の塩素化、或いは臭素化前駆体を活性化するのに用いられる。しかし、フッ素化前駆体を活性化するためにケイ素-ベースの反応試薬を用いて、Allemannたち(p. 574)は、この反応を二つの異なる芳香環の部位のカップリング反応に拡張し、精緻な多環式構造体の効率的な合成に導いた。この方法はドライビングフォースとしてのケイ素-フッ素結合の異常な強さに依存している。(KU,nk)
Proton-Catalyzed, Silane-Fueled Friedel-Crafts Coupling of Fluoroarenes
p. 574-577.

絶縁体を注文する(Insulator to Order)

ありふれたバンドギャップ絶縁体と異なり、バルクなトポロジカル絶縁体では内部は絶縁体として機能しているが、界面では電荷の移動が可能である。いずれの絶縁性を示すかは多くの場合素材に依存する。Xuらは(p.560,3月31日の電子版;Fieteの展望記事参照)は、ビスマスを含む固体中の硫黄とセレンの相対比率を変えることによって、バンドギャップ絶縁体とトポロジカル絶縁体との間の転移を制御できることを示している。同比率をかえることによって、スピン軌道相互作用が変化し、トポロジカル相変化を生じるという。その際、TlBi(S1-δSeδ)2は、フェルミエネルギーがゼロ電子密度点を経由して調整される際に、そのフェルミ面スピンパターンが180度反転するという。このスピン構造反転は新規量子特性を持つデバイスに活用できるであろう。(NK,KU)
Topological Phase Transition and Texture Inversion in a Tunable Topological Insulator
p. 560-564.

出来るだけ小さく変える(Changing as Little as Possible)

相変化材料は、アモルファスと結晶状態で抵抗や光反射率等の物性が変化するためにメモリーデバイスに用いられる。これらの相変化は熱的に行なわれるが、抵抗変化に基づくメモリの場合、課題の一つはこれらの材料を融解するのに必要なパワーの量を減らすことであった。Xiongたち(p. 568,3月10日号電子版;Salinga and Wuttigによる展望記事参照)は、単層と小さな直径の多層のカーボンナノチューブにギャップを作り、次にこれらの電極を相変化材料Ge2Sb2Te5の薄膜でコーティングした。相変化はギャップに埋め込まれた材料のみに生じ、今日のデバイス構造に比べて必要なパワーが二桁も減少した。(KU)
Low-Power Switching of Phase-Change Materials with Carbon Nanotube Electrodes
p. 568-570.

有機LEDの改良(Improving Organic LEDs)

有機発光ダイオード(OLEDs)は、光源が必要で、本質的に視野角の制約がある液晶ディスプレイと比べて、より高速で低消費電力のディスプレイの基本方式となりうる。しかしながら、OLEDs は高い駆動電圧を必要とし、このことが、アクティブマトリクス駆動用のバックプレーンに用いることのできる材料数に制約を生じさせている。McCarthy たちは(p. 570)、単層カーボンナノチューブが、OLEDs と集積して垂直型電界効果トランジスタの作成に使用可能であり、カラースペクトル全域にわたり十分な発光を生じることを示した。(Sk)
Low-Voltage, Low-Power, Organic Light-Emitting Transistors for Active Matrix Displays
p. 570-573.

チップ上の周波数コム(Frequency Combs on a Chip)

周波数コムを作るための、広い波長領域にまたがる正確な間隔のスペクトル線は、高精度の計測、分光法、分子指紋、天文観測などを含む様々な用途で用いられている。これらのコムは一般に、高価な設備を必要とするパルスレーザーシステムを用いて作られてきた。Kippenberg たちは (p.555)、微小共振器を用いて周波数コムを発生させる方法についての最近の開発状況を報告している。この代替技術は、コムの発生手段をチップサイズにまで小さく出来るだけでなく、共振器の大きさや形状により、周波数帯域を制御したり調整する事を可能とし、これにより応用可能な領域が拡大する。(Sk)
Microresonator-Based Optical Frequency Combs
p. 555-559.

変化する渦(Changing Vortex)

地球大気と同様に、金星の大気は、その極において、特徴的なサイクロン性の大規模循環パターン、或いは渦を示す。European Space Agency Venus Express mission からの長期間の高分解能データに基づいて、Luz たち (p.577, 4月7日付け電子版) は、南極の大気循環が、以前考えられていたものよりも複雑であることを示している。南極の渦の中心は、固体としての惑星の回転の極からわずかにずれている。そして、その中心は、5〜10 日(地球の一日単位で)の周期で固体の極の周りを移動している。これらの発見は、金星の大気大循環モデルの改良に貢献するであろう。(Wt,KU)
Venus’s Southern Polar Vortex Reveals Precessing Circulation
p. 577-580.

表面から海底への作用(Top-to-Bottom Action)

熱水噴出孔(Hydrothermal vent)は大量の熱と化学物質を深海にもたらし、独特の生物群集を維持している。風は海洋に大規模のエネルギーを運び、海表面より遥か下方にまで達するような渦を作り出している。Adamsたちは(p.580)、このような渦が2キロメートル下の深海流に影響を与えうること、そして幼生段階の生物の分散と同様に、深海の噴出孔から出た熱と化学物質の輸送を促進することを示している。東太平洋海膨近辺での時系列的な幼生生物・海流・化学物質や質量の流れを観察することによって、輸送はメソスケールの渦の移動に関連が深いことが示された。海表の風と深海流の相互作用はこのように、長距離拡散によって、孤立し持続性の不安定な生物の生息地や群集落に幼生生物を供給することを可能にし、かつ深海のプロセスに季節的な要素をもたらしている。(Uc,KU,nk)
Surface-Generated Mesoscale Eddies Transport Deep-Sea Products from Hydrothermal Vents
p. 580-583.

融合できなくても問題ない(No Fusion Confusion)

胎盤のタンパク質であるsyncytinと、線虫(Caenorhabditis elegans)の融合ファミリータンパク質(FF)であるAFF-1と EFF-1は、細胞同士の融合には不可欠のタンパク質であり、真核細胞の融合を仲介する。EFF-1は融合する両方の細胞で発現され、ホモタイプの相互作用を経由して作用する必要がある。この融合プロセスは、ウイルス性と細胞内膜の融合プロセスに似た半融合中間体を有している。このたび Avinoam たち(p. 589, および、3月24日号電子出版を参照)は、ヒト寄生虫の線形動物旋毛虫(Trichinella spiralis)と脊索動物のマメクジウオ(Branchiostoma floridae)由来のFFホモログが、哺乳動物細胞内で融合を誘発させることを示し、FFが細胞融合の保存されたファミリーであることが示唆された。更に、AFF-1は融合欠陥性の外被ウイルスの補体と成り得て、融合欠陥を救い、その感染機構を変化させる。(Ej,hE)
Conserved Eukaryotic Fusogens Can Fuse Viral Envelopes to Cells
p. 589-592.

格子を混乱させる(Disrupting the Grid)

格子細胞(grid cell)とは、内側嗅内皮質内にあるニューロンであって、複数の発火ピークをもっていて、それらピークは二次元空間中で高度に規則的な六方晶系パターンへと組織化されている。Koenigたち(p. 592)とBrandonたち(p. 595)は、それぞれ別の薬剤を用いて、内側中隔(「歓楽領域」)におけるニューロンの発火を抑制したが、それによって周期的変動のθリズムが減少し、格子細胞の発火が妨げられた。しかしながら、頭の向きを感知する細胞と、格子特性および頭の向き特性が混合した細胞は適切に発火をし続けたし、位置を感知する海馬内の細胞、場所細胞も、混乱をきたすことはなかった。つまり、内側中隔からの入力は、空間処理のすべての局面で必要なわけではないのだ。(KF)
The Spatial Periodicity of Grid Cells Is Not Sustained During Reduced Theta Oscillations
p. 592-595.
Reduction of Theta Rhythm Dissociates Grid Cell Spatial Periodicity from Directional Tuning
p. 595-599.

シグナルを盗むもの(Signal Stealer)

細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)は、活性化された調節性T細胞によって発現し、T細胞性免疫応答が制御できない状態に陥らないよう助けている。リガンドの同時刺激対はCTLA-4に結合し、抗原提示細胞上に発現する。CD80とCD86もまた、T細胞上に発現したCD28に結合し、そのことがT細胞活性化にとって決定的である。Qureshiたちは、ヒトとマウスの双方のT細胞によって発現させられたCTLA-4が、抗原提示細胞表面からCD80とCD86とを引き離し、それらをトランス-エンドサイトーシスを介して内部移行させていることを発見した(p. 600、4月7日号電子版; またSakaguchiとWingによる展望記事参照のこと)。こうした知見は、CTLA-4によるT細胞性免疫の負の調節のための外因性細胞機構の存在を示唆するものである。(KF)
Trans-Endocytosis of CD80 and CD86: A Molecular Basis for the Cell-Extrinsic Function of CTLA-4
p. 600-603.

鉄プニクチドの超電導における軌道の整列(Orbital Ordering in Iron Pnictide Superconductors)

鉄プニクチド(iron pnictide)の超電導性は、通常、スピン密度波の原因である構造遷移に付随する反磁性に起因する。しかし、軌道整列の効果が影響しているのではないか、との示唆があった。Shimojimaたち(p. 564, および、4月7日号電子出版参照) はレーザー励起を用いて、2種類の鉄プニクチド化合物、BaFe2(As0.65P0.35)2とBa0.6K0.4Fe2As2の表面下領域からの角分解度光電子放出スペクトルを得た。各材料におけるホール電荷のキャリアのフェルミ表面は同じ超電導ギャップの大きさを持っており、、軌道間の磁性誘発性ペアリング、軌道変動、あるいは、その両者が、超電導状態を作っているのかも知れない。(Ej,KU,nk)
Orbital-Independent Superconducting Gaps in Iron Pnictides
p. 564-567.

協調しながらの再生(Coordinating Regeneration)

幹細胞の活性化は生命や動物の生存にとってきわめて重要であるが、皮膚などの大きな器官の再生においては、幹細胞の増殖は協調的になされる必要がある。Plikusたちは、マウスの毛の幹細胞を活性化すると、多様な再生波のパターンが皮膚全体を覆うように形成され、毛の再生が連鎖反応のように伝播していくと報告している(p. 586)。この波は、活性化因子と阻害因子のシグナル伝達からなる単純なパターンによって支配されているのだ。(KF)
Self-Organizing and Stochastic Behaviors During the Regeneration of Hair Stem Cells
p. 586-589.

補体受容体複合体の構造(Complement Receptor Complex Structure)

B細胞と濾胞樹状細胞とに見られる補体受容体2(CR2)は、リガンドC3dに結合し、これが抗原に結合する。この抗原は同時にB細胞抗原認識複合体にも結合して、この共連結が抗体応答を増強している。従来発表されていたCR2:C3d複合体の結晶構造は、おそらくは非生理的な相互作用を表していたもののようである。それゆえ、van den ElsenとIsenmanは、界面の分子の詳細が生化学的データと矛盾しない構造を報告していて、それは生理的な役割を支えるものであり、しかも自己反応性B細胞に対する薬物療法の合理的デザインの基礎を提供してくれるものになっている(p. 608)。(KF)
A Crystal Structure of the Complex Between Human Complement Receptor 2 and Its Ligand C3d
p. 608-611.

メチル化反応を解明する(Dissecting Methylation Reactions)

S-アデノシル-l-メチオニン(SAM)からのメチル基の酵素伝達による、タンパク質と核酸のメチル化は、多くの生物学的プロセスにおいて重要である。仮説上は、非-求核性基質への伝達は、SAMの切断によってラジカルを与えることで達成されている。Groveたちは、細菌性リボソームRNAの2つの部位---そのうち一方は抗生物質耐性にとって重要な部位である---のメチル化の仕組みを報告している(p. 604、3月17日号電子版; またStubbeによる展望記事参照のこと)。双方のケースで、1つのSAM分子のメチル基が、第2のSAM分子が切断される前に、まず関連の酵素のシステインに付加される。その結果生じるラジカルが、酵素からRNAへのメチル基の伝達を引き起こすのである。(KF)
A Radically Different Mechanism for S-Adenosylmethionine-Dependent Methyltransferases
p. 604-607.

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