AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 18 2011, Vol.331


熊を起こすな(Don't Wake the Bears)

冬眠を行う哺乳類は、飢餓と寒冷の冬の期間を通じて生き延びるために、体温と基礎代謝率を下げる。ハムスターのように体の大きさが小さい冬眠動物は基礎代謝率と体温が相関をもって減少する。基礎代謝率の生理的減少に追随して体温が下がるのだ。熊の体温は冬眠の間比較的高く保たれるが、これは体が大きいためと推測されていた。Toienたちは(p.906;Heldmaierによる展望記事参照)、人工的に熊を冬眠状態におく困難な実験を行い、驚くべきことに基礎代謝率と体温が全く関連していないことを発見した。その代わり、熊は冬眠の間、心拍数を1/4に、基礎代謝率を通常の25%にする一方、数日周期で体温を 30°から 36°Cの間へと上昇させるのだ。冬眠の後、体温は活動時のそれに戻ったにも関わらず、基礎代謝率は何週間も下がったままになっていた。(Uc,nk)
Hibernation in Black Bears: Independence of Metabolic Suppression from Body Temperature
p. 906-909.

砂と水の混合(Mixing Sand and Water)

水に砂を懸濁させた液の流動特性は砂の添加量によって制御され、砂が沈降していくにつれ、時間変化する。Koos と Willenbacher は(p. 897 ; Butt による展望記事参照)、少量の第2の非混和性液体が影響した場合の、液中に懸濁した粒子の凝集を調べた。第2の液体が優先的に固体粒子を濡らす場合には当然、流動特性の変化が予想されるが、少量の濡れない液体を混合物に添加した場合にも著しい変化が観察された。(Sk,nk,ok)
Capillary Forces in Suspension Rheology
p. 897-900.

膜にドッキングした複合体(Membrane-Docking Complex)

膜と分泌タンパク質の正確なターゲティングには、シグナル識別粒子(SRP)であるリボ核タンパク質複合体のリボソーム新生鎖(RNC)複合体への結合が含まれる。この継手複合体(joint complex)は、次に標的膜中の受容体(SR)に結合し、そしてこの積み荷タンパク質(protein cargo)をグアノシン三リン酸(GTP)依存性プロセスにおけるタンパク質移行機構であるトランスロコンに配送する。Ataide たち(p. 881)は、加水分解抵抗性GTP類似体に結合している真正細菌のSRP:SR複合体の構造について記述している。この構造は、タンパク質積み荷の遊離状態を示すような或るコンフォメーションにおけるRNAに対するSRPタンパク質の配置を示し、そしてGTP加水分解がどのようにコンフォメーションの変化と関連しながら、トランスロコンへのシグナル配列の伝達を手助けするかの洞察が得られる。(Ej,KU)
The Crystal Structure of the Signal Recognition Particle in Complex with Its Receptor
p. 881-886.

逆レーザー(Lasing in Reverse)

最近の理論的研究では、電磁気現象の時間反転対称性によりレーザー発光プロセスを逆に進めることが可能であることを示しており、そのため正確な振幅と位相でキャビティー媒質に入射する光子は干渉によって吸収することができる。Wan たちは(p. 889)、シリコンウエハーの両側から入射するそのように注意深く調整されたビームが、透過および反射ビーム全体が破壊的に干渉するようにウエハー内で多重散乱し、シリコンキャビティー内で予測される吸収の増大をもたらすことを実験的に証明した。この効果は可干渉性の照射光の吸光を制御するための道筋を提供し、光回路における多くの潜在的な応用へと導くものである。(Sk,nk)
Time-Reversed Lasing and Interferometric Control of Absorption
p. 889-892.

離れた所で背を向ける(Turned Away at a Distance)

ガス状分子が固体表面で散乱される場合、距離が遠いと、分子と固体のダイポールの向きを揃えようとする相互作用は両者間の引力として働く。一定距離よりも近くなると、電子斥力が支配的となり分子ははじき返される。多くの点において、分子の固体表面散乱はポテンシャル面からの古典的物理学的な散乱として解釈されてきた。Zhaoらは、(p.892)、非常に不安定な分子であるヘリウム二量体が格子状表面で無傷のまま跳ね返されることを見出した。これまで古典的解釈では引力領域と考えられていた数ナノメートル上空で反発が発生している。反発は量子力学的な性格を帯びており、二量体と表面反発ポテンシャルの波動関数がつかの間広がって、遠距離作用を及ぼし合うのである。(NK,nk)
Quantum Reflection of He2 Several Nanometers Above a Grating Surface
p. 892-894.

DNA単層によってスピンをフィルタリングする(Spin Filtering with DNA Monolayers)

スピンフィルタは、スピンに基づく電子工学応用によって、スピンの個数が1つだけ過剰な状態を作り出せる。典型的なこのような装置では磁性物質を利用する。Gohler たち(p. 894;およびRikkenによる展望記事参照)は、金表面に吸着された二本鎖DNA(長さが最大80塩基対まで)の層から放出された光電子のスピン分布を測定した。これを非偏光紫外線で室温中で励起すると、スピンの分極率が60%増加した。(Ej)
Spin Selectivity in Electron Transmission Through Self-Assembled Monolayers of Double-Stranded DNA
p. 894-897.

地震の序曲か?(Prelude to an Earthquake?)

地震の警報システムを改良し被害を最小にするためには巨大地震に至る瞬間を理解することが重要である。Bouchon たち(p. 877) は、1999年トルコのIzmitで起きたマグニチュード7.6の地震の1時間前に生じた持続性があって反復性のある低周波の地震波を観測したが、これは地震の断層に沿った主要な滑り運動の初期段階かもし知れないと考えている。震源に近い脆弱な地殻の基部に起因するこの信号は、滑り運動が集積して地震を起こしている可能性を示している。この時間枠内の地震波ノイズの増加は、主震の前の断層に沿った動きを示しているのかも知れない。他の大きな亀裂の前にも同様なパターンが生じていたらしかったのか、あるいは、後に亀裂が続かなくともこんなパターンが生じることがあるのかは明らかではない。(Ej,nk)
Extended Nucleation of the 1999 Mw 7.6 Izmit Earthquake
p. 877-880.

死ぬまで凍えて(Frozen to Death)

地質学的時代を通して地球全体の生物多様性は、大量絶滅という事件によって中断されてきた。そして、この理由はしばしば論争の種となっている。気候の主要な変動は、温度や海面レベル、氷河被覆率の変化を伴っている。Finnegan たち (p.903, 1月27日付電子版 ) は、同位体に基づく古代温度の測定技術を用いて、過去、海洋生物の最も破壊的な喪失期の一つである、およそ4億4千万年から4億5千万年の間の海洋温度を求めた。大量絶滅が最大の状態であったその同じ時代に、熱帯地方で 5℃に至る海洋の寒冷化が起こっていた。そして、これはまた、海洋の炭素循環の破壊と符合している。(Wt,KU,kj)
The Magnitude and Duration of Late Ordovician-Early Silurian Glaciation
p. 903-906.

植物共生の2つの道(Two Ways to Plant Symbiosis)

多くの植物は菌根の菌類との共生関係を形成する。植物の中でも主にマメ科植物から成るずっと少数のグループは根粒菌バクテリアと共生関係を形成する。Op den Campたち(p. 909:12月23日号電子版、KeresztとKondorosiによる展望記事参照)は、菌根菌と根粒菌の共生の初期段階の根底にある分子経路(molecular pathways)を分析した。非マメ科の低木Parasponiaは根粒菌と共生関係を形成する。根粒形成の経路(nodulation pathways)についてのマメ科植物とParasponiaとの比較により、根粒菌経路(rhizobial pathway)は菌根菌経路(mycorrhizal pathway)から発達していることを示す。(TO,nk)
LysM-Type Mycorrhizal Receptor Recruited for Rhizobium Symbiosis in Nonlegume Parasponia
p. 909-912.

プロゲステロンとエストロゲンの拮抗作用(Progesterone-Estrogen Antagonism)

生殖生物学においては、ステロイドホルモンであるプロゲステロンが、エストロゲンによって誘発される子宮の成長に対抗している。子宮におけるプロゲステロンの抗増殖作用は、エストロゲンによって駆動される過形成や子宮内膜癌と同様、女性の不妊症に関連している。マウスにおけるターゲット遺伝的変異を用いて、Liたちは、転写制御因子Hand2が子宮の間質におけるプロゲステロン制御の標的であること、またHand2が線維芽細胞増殖因子を含むパラクリン機構(器官サイズの増大)を介してエストロゲンによって誘発される上皮性増殖を制御していること、を実証した(p. 912; またHewittとKorachによる展望記事参照のこと)。(KF)
The Antiproliferative Action of Progesterone in Uterine Epithelium Is Mediated by Hand2
p. 912-916.

自分のX染色体、Y染色体を気にかけて(Minding Your Xs and Ys)

減数分裂の二回の(すなわち「減数」)分裂により、二倍体細胞から一倍体の配偶子が産生される。減数分裂の組換えは、相同染色体の対形成にとって必要で、それが染色体の正確な分離を保証している。哺乳類のX染色体とY染色体ではほんの小さな相同セグメント、すなわち偽常染色体領域(pseudoautosomal region:PAR)しかなく、そこで染色体を一緒に保持して組換えが生じなければならない。性染色体は常染色体よりも頻繁に誤分離しているが、X-Yの不分離は稀で、このことはX-Y組換えを保証するための仕組みが存在していることを示唆している。Kauppiたちは、マウスでは、別の染色体構造が、組換えが引き金となる二重鎖切断の形成にPARをより助けるようにし向けていることを示した(p. 916; またHawleyによる展望記事参照のこと)。二重鎖切断は、ゲノム平均より10から20倍より高い頻度で生じている。(KF,KU,kj)
Distinct Properties of the XY Pseudoautosomal Region Crucial for Male Meiosis
p. 916-920.

記憶の維持をマスターする(Mastering Memory Maintenance)

永続的記憶の形成に関与している機構は、いまだに大部分は未知のままである。Lesburgueresたちは、記憶固定の際の、海馬と皮質のやりとりを研究した(p. 924; またSweattによる展望記事参照のこと)。ラットの眼窩前頭皮質中のニューロンは、初期学習がたとえ海馬性のものであったとしても、初期のコード化の時点で「タグ付け」されているらしい。コード化の時点で眼窩前頭皮質を失活させると、後の記憶には影響があったが、一方まだ海馬によって支持されている期間での記憶には影響がないのである。(KF)
Early Tagging of Cortical Networks Is Required for the Formation of Enduring Associative Memory
p. 924-928.

タキソール(Taxol)と脊髄の修復(Taxol and Spinal Cord Repair)

ニューロン内因性因子と病変部位それ自体が軸索形成への障害を課すので、脊椎損傷後の軸索の再生を促進するには、治療方法の組み合わせが必要である。Hellalたちはこのたび、認可された抗癌剤タキソールが微小管のダイナミクスを変えることで軸索形成を誘発しているとする、ラットの脊髄損傷実験から得られた証拠を提供している(p. 928、1月27日号電子版)。穏やかな微小管安定化は、瘢痕を減少させ、脊髄損傷後の軸索再生を妨げる因子の析出を減少させる、軸索はタキソール処置された病変部により再生可能になるのである。(KF)
Microtubule Stabilization Reduces Scarring and Causes Axon Regeneration After Spinal Cord Injury
p. 928-931.

境界での変化(Changes at the Boundary)

チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)やアルミン酸ランタン(LaAlO3)等の絶縁性の複合酸化物の界面で生成される2次元電子ガスは超伝導や、整数及び分数量子ホール効果のような、バルクな物質のいずれにも存在しない性質を示す。境界層の輸送の振舞いは取り囲んでいる構造の化学に依存している。Jangたち(p. 886)はパルスレーザー堆積法を用いて、SrTiO3 マトリクス内へ挿入された希土類酸化物の単原子層からなるヘテロ構造を作った。希土類イオンのタイプを系統的に変えた時、その界面はランタン(La)、プラセオジム(Pr) 及びネオジム(Nd)イオンにおける金属性からサマリウム(Sm)とイットリウム(Y)イオンに対する絶縁性へと性質を変化させた。(hk,KU,ok,tf)
Metallic and Insulating Oxide Interfaces Controlled by Electronic Correlations
p. 886-889.

整列した状態で(Staying Aligned)

化学反応を行なう際に、水素引き抜き反応はかなり単純と思われる。例えば、メタン(CH4)と酸素、フッ素や塩素の原子の反応を考えてみよう。Hの1原子が剥ぎ取られ、OH, HF, あるいは HClが形成され、そしてCH3の断片が残る。しかし、最近の研究からはこのような単純な単一原子の交換に関して驚くほどの複雑性を明らかにしている。CHD3 (D は重水素)を用いた研究から、C-H結合を振動励起させるとOとClへの反応は促進するが、Fとの反応は阻害される。これらの発見を説明しようとすると、舵取り効果(steering effect)について注目することになり、2つの反応物の相対的な並び具合の重要性が殆どなくなった。Wang たち(p. 900)は、CHD3の並び具合が、C-Hの伸縮励起の後であっても、Clとの反応結果において重要性を持ち、部分的に前の説明と矛盾していることを見つけた。(Ej,KU,kj)
Steric Control of the Reaction of CH Stretch-Excited CHD3 with Chlorine Atom
p. 900-903.

しからば、進化はどのように?(So, How Did Evolution Happen?)

進化のプロセスの研究は、現代のヒトに帰着することになる特異的な遺伝的変化を指摘することに焦点を絞りがちだが、ヒト特異的な遺伝子あるいは要素は、比較的少数しか同定されていない。Hernandezたちは、われわれが使ってきた道具は、選択的広がり(selective sweep:有益な変異が生じると、集団の中に急速に固定される)、即ち新しく生じた対立遺伝子上での強い選択を受けた遺伝子を同定していると異議をとなえている(p. 920)。the1000 Genomes Projectから得られたパイロットデータは、古典的な選択的広がりがヒトゲノムの進化の主要なモードではなかったことを示唆している。そうではなくて、ヒトの遺伝的多様性の大部分は、有害な変異に対する、浄化選択(purifying selection)というもので一番よく説明されるのである。(KF,KU,kj)
Classic Selective Sweeps Were Rare in Recent Human Evolution
p. 920-924.

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