AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 4 2011, Vol.331


ミクロRNAのメカニズムを調整する(Reconciling MicroRNA Mechanisms)

ミクロRNA(miRNA)は、ほとんどの真核生物のゲノムに存在する、短い非翻訳RNAの大きなクラスであり、遺伝子発現を抑制する機能を有する。初期の研究において、miRNAが仲介する制御は転写後であり、多分、翻訳開始の抑制を通してのものであろうと考えられていた。他のデータの示唆するところによれば、メッセンジャーRNA (mRNA)の脱アデニル化と分解が、miRNA仲介の遺伝子サイレンシングにおいて決定的な要因となっている。Djuranovic たち(p. 550) はmiRNA-仲介のサイレンシングをレビューし、これは典型的にはmRNA翻訳と分解の両方のレベルで現れることが示唆された。ほとんどのデータと適合する miRNA-仲介のサイレンシングのモデルではまず潜在的には脱アデニルによって誘因(または増強)される、翻訳の開始を標的とする抑制によって開始され、続いて一般的な mRNA の分解が起きて、より一過性の翻訳抑制を強固なものにするのである。(Ej,hE,nk)
A Parsimonious Model for Gene Regulation by miRNAs
p. 550-553.

金属ジカルコゲナイドの剥離に向かって(Toward Metal Dichalcogenide Exfoliation)

剥離技術は、層状の材料を分離して二次元のシートを形成し、複合体に組み入れてその性質を強化するために用いられる。例えば、粘土の剥離体は難燃材の生産に用いられる。キーになる難題は、複合体を作るために用いられるその後の工程と親和性の高い、効率的な剥離方法を見つけることである。Coleman たちは(p. 568)、広範囲の遷移金属ジカルコゲナイドを剥離する技術を説明している。それらは、その導電率や機械特性の面で興味深い。(Sk,KU,nk)
Two-Dimensional Nanosheets Produced by Liquid Exfoliation of Layered Materials
p. 568-571.

Kepler からのことづて(Kepler Delivers)

系外惑星探査望遠鏡 Kepler は恒星を横切る惑星の通過を検出するために設計されているが、それはまた、相互に掩蔽しあう恒星系(食連星)の発見も可能である。この食連星系では、それぞれの星の質量と半径の精密な計測が可能となる。Kepler からのデータを用いて、Carter たち (p.562, 1月11日の電子版) は、KOI-126 という三重の掩蔽が起こる系について記載している。ここでは、近接した低質量連星が、より質量の大きな星の周りを回っている。この連星は、これまでのなかで最も低質量の食連星であり、十分に正確に計測されたその特性を用いることで、低質量の恒星のモデルをテストする上で重要な役割を果たすことが期待される。(Wt)
KOI-126: A Triply Eclipsing Hierarchical Triple with Two Low-Mass Stars
p. 562-565.

荷電キャリア(Charge Carriers)

発光ダイオードでは、荷電キャリア(励起子)が再結合して発光するが、一部は熱振動として失括する。Bolingerらは(p.565;Bardeenの展望記事参照)、絶縁性高分子に埋め込まれた単一の導電高分子鎖にホール注入(正荷電キャリアの供給)することで、これらの過程がどのように発生するのか可視化できる手法を開発した。ホール注入によって、蛍光量が減少すると共に発光位置が変化した。これらは高分子鎖が選択的に消光されたことを示唆している。消光の相互作用は60nmを隔てて生じており、これまでの導電性高分子バルク膜を用いて観測された相互作用よりもはるかに長い距離であった。マルチステップエネルギーファネリングにより、ホールポーラロンが捕捉され、局在化し励起子を熱失括させていると考察している。(NK)
Ultralong-Range Polaron-Induced Quenching of Excitons in Isolated Conjugated Polymers
p. 565-567.

糖鎖付加が生じやすいターン(Turns that Favor Glycosylation)

グリカンのタグをタンパク質の塩基性残基に付加することで、血清の半減期を増加させ、凝集の性向を減少させ、あるいは、タンパク質の免疫原性エピトープを遮蔽するため、治療上の用途が増える。しかし、このようなタグを通常グリコシル化していないタンパク質(天然タンパク質)に付加するとタンパク質の安定性が減少する。Culyba たち(p. 571) は、近くのフェニルアラニン基を持つ逆向きターン中のアスパラギン残基の位置でいくつかの天然タンパク質にグリカンタグを加えた。芳香族の側鎖とグリカンの相互作用によってタンパク質のエネルギー的安定性が達成される。(Ej,hE)
Protein Native-State Stabilization by Placing Aromatic Side Chains in N-Glycosylated Reverse Turns
p. 571-575.

社会変化をもたらす気候(The Climate of Social Change)

気候変動に関係した、工業化以前の文明の興亡にはたくさんの事例がある。なぜなら、温度や降雨量の変動は農業生産性や疫病の蔓延に影響を及ぼしうるからである。Buntgenたちは(p.578,1月13日号電子版)、社会の成長と衰退の背景にある気候をよりよく解釈するために2500年間のヨーロッパの気温や降雨量の変化の記録を明らかにしている。近年の温暖化はユニークではあるが、しかし過去の水文気候変動が現在のそれよりも大きく、長期間続いていた。西ローマ帝国の終焉は西暦250年から600年までの増大した気候変動の期間と一致している。(Uc,KU)
2500 Years of European Climate Variability and Human Susceptibility
p. 578-582.

春の火星砂丘(Mars Dunes in Springtime)

砂丘が火星全土に渡り発見されている。しかしながら、砂丘が現在も活動的なのか太古から存在する残存物なのかは明確ではない。火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターに搭載された HiRISE (High-Resolution Imaging Science Experiment)と呼ばれる高解像度カメラのデータを用いて、Hansenたちは(p.575)、火星の一年間での北極地域の砂丘の広範囲にわたる変化を報告している。この変化は季節的であり、砂丘をなだれ落ちる砂と氷によって起こっており、そして堆積物の移動は、春季の二酸化炭素の昇華によって影響を受けていることを示している。(Uc,tk,Takashi Mikouchi)
Seasonal Erosion and Restoration of Mars’ Northern Polar Dunes
p. 575-578.

力強いミジンコのゲノム(Mighty Daphnia Genome)

水蚤、つまり、ミジンコ(Daphnia)は、分類学的には水生節足動物の主要な系統であり、その多様性を表している。Colbourneたち(p. 555; および、Ebertによる展望記事参照)は、ミジンコの小さなゲノムに関して報告しており、小さいにもかかわらず多くの複製された遺伝子と拡張された遺伝子ファミリー(これらは他の配列決定されたゲノム中の遺伝子と相同性を欠いている)を持った大きな遺伝子資産を保持している。ミジンコ系列の遺伝子は昆虫系列に比べて3倍も速く複製されており、かつ3倍も保存されやすいようで、これが大きな遺伝子数持っていることの理由かも知れない。この分析によって、ゲノム構造や遺伝子機能の関連性や環境条件への応答が明確になった。(Ej,hE,KU)
The Ecoresponsive Genome of Daphnia pulex
p. 555-561.

2種の気孔の物語(A Tale of Two Stomata)

葉の表面にある気孔は植物のガス交換と蒸発による水分の損失を制御している。気孔開口部の制御は植物の水和状態や光合成による代謝の制御につながる。BrodribbとMcAdam(p. 582,12月16日号電子版)は、種子植物の気孔が胞子植物の気孔と異なる作用をすることを示している。被子植物のヒマワリと針葉樹のCallitris rhomboideaの気孔はホルモンのアブシジン酸(ABA)に応答して開閉するが、一方ヒカゲノカズラ類のLycopodium deuterodemsumtとシダ類のPteridium esculentumは、その代わりに受動的な水圧反応によって制御されている。かくして、気孔の機能に関する見事な代謝制御の獲得は、今日のシダ類と被子植物の系列が何億年か前に(3億6千万年前ほど)分岐した後に生じたものである。(KU,nk,kj)
Passive Origins of Stomatal Control in Vascular Plants
p. 582-585.

生物による構築(Building on Biology)

ウイルスのキャプシドといった天然のタンパク質容器は、薬物送達や束縛された合成というような応用に関するナノテクノロジー面で用いられる。超好熱菌Aquifex aeolicus内部では、リボフラビン合成で最後から2番目のステップをシンターゼ触媒するルマジン(lumazine)酵素が20面体のキャプシドを形成する。ホストとゲストの間の静電気的相互作用を利用することで、Worsdorferたち(p. 589)は、HIVプロテアーゼ(細胞質内で有毒となる酵素)を隔離するルマジン合成酵素キャプシドの変異体を作った。プロテアーゼの隔離によって得られた増殖の利点を用いて、細菌細胞の培養内で定向進化を促進させ、結果として5〜10倍高いプロテアーゼ負荷能力を持つキャプシドを得た。(KU,nk)
Directed Evolution of a Protein Container
p. 589-592.

最初から反復の運命は決まっていたのか?(Doomed to Repeat?)

サテライトDNAの反復配列は、以前から不活性と考えられていた染色質の領域に存在しているが、しかしながらこれらの反復配列が非翻訳RNAに転写されていると示唆するような事実が増えている。Tingたち(p. 593,1月13日号電子版)は、これらサテライト転写物の幾つかのクラスが、非悪性の組織内においてよりも、膵管癌において40倍ほど高いレベルで発現していることを見出した。サテライト転写物の過剰発現(これは癌における異質染色質のサイレンシングに関する大きな変化を反映している)は、マウスやヒトの腫瘍の双方で生じており、そして幾つかの異なるタイプの上皮癌の特色でもある。サテライト転写物がどのようにして生じるのか、そしてこれらが腫瘍形成に活発に寄与しているのかどうかは不明であるが、癌におけるこれらの過剰発現の大きさは、病を検知するバイオマーカーとして有用であることを示唆している。(KU,nk)
Aberrant Overexpression of Satellite Repeats in Pancreatic and Other Epithelial Cancers
p. 593-596.

危険なお尋ね者(Dangerous and Wanted)

西アフリカでは、主なマラリア媒介動物であるハマダラカの集団ごとに、殺虫剤抵抗性や気候耐性、摂食行動、マラリア原虫への抵抗性などの点で違いがある。遺伝的研究は一般に人間の住む場所でサンプルされたカについて実施されてきた。というのも、屋内こそがマラリア感染の主に生じる場所であり、また戸外でカを捕えるのはひどく難しいからである。Riehleたちは、この長く続いてきた仮定に対して、村の周囲の池でカの幼生を集めることで挑戦した(p. 596)。収集されたカの幼生の半分以上は、成体がこれまで収集されたことのない、まったく違った遺伝子型であった。さらに、実験室で成長させると、その結果生じた成体のカは、室内で収集されたものより、マラリアに有意に感受性の高いものだったのである。(KF,Ej)
A Cryptic Subgroup of Anopheles gambiae Is Highly Susceptible to Human Malaria Parasites
p. 596-598.

遷移のいろいろ(Variation in Transit)

シナプス伝達を補強する活動電位の波形の変調(modulation)は、シナプス前ニューロンの反復性刺激あるいは脱分極の後に、中心のニューロンにおいて、報告されている。Sasakiたちは、光学的に標的にした軸索を用いて、皮質ニューロンにおけるシナプス伝達の変調が遊離プロセスだけに依存しているのではなく、シナプス前活動電位幅の制御によっても行われていることを観察した(p. 599)。軸索周囲のアストロサイトを活性化すると、活動電位は広幅化し、シナプス伝達が増強された。(KF)
Action-Potential Modulation During Axonal Conduction
p. 599-601.

休止の時間(Time for a Pause)

後生動物の細胞では、間違って折り畳まれたタンパク質の小胞体(ER)中での蓄積が、折り畳まれていないタンパク質応答(UPR)の引き金となる。そこでは、XBP1 の前駆体(XBP1u)のmRNAの非通常性スプライシングによって、成熟したXBP1sメッセンジャーRNA(mRNA)の形成をもたらしている。このXBP1s mRNAはある機能的転写制御因子をコードしていて、ER常在性分子シャペロンの発現を誘発し、間違って折り畳まれたタンパク質が貯まった小胞体のストレス性の状況を軽減するものである。新生XBP1uペプチドは、mRNA-リボソーム-新生鎖(R-RNC)複合体を小胞体膜に補充している。Yanagitaniたちはこのたび、XBP1u mRNAの翻訳がオープンリーディングフレームの3’-末端近くで一時的に休止してそのR-RNC複合体を安定化することを報告している(p. 586、1月13日号電子版; またRonとItoによる展望記事参照のこと)。XBP1uの変異の解析によって、C末端領域に、翻訳の休止を担う進化的に保存されたペプチドモジュールがあること、またそれが効率的なERターゲティングとXBP1u mRNAのスプライシングに必要であることが、明らかにされた。つまり、タンパク質に埋め込んだモジュールを使う翻訳速度の調節が mRNAのターゲッティングとその効率的なスプライシングを進めているのである。(KF,kj)
Translational Pausing Ensures Membrane Targeting and Cytoplasmic Splicing of XBP1u mRNA
p. 586-589.

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