AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 28 2011, Vol.331


草を消化する(Digesting Grass)

セルロースを効率的に分解する付加的な酵素の同定は、工業的規模でのバイオ燃料の開発に役立つであろう。雌ウシの第一胃の中に棲んでいる天然の微生物は、極めて効率的に植物の細胞壁を分解する。Hessたち(p. 463)は、第一胃内で反芻されたキビ(switchgrass)に付着した微生物のドラフトゲノムを構築するために、メタゲノミクスと高処理の単一-ゲノム配列決定法を用いて、既知のバイオマス-分解ファミリーに関係したほぼ28,000の遺伝子を同定した。90個の炭水化物分解酵素の候補が合成され、そしてそれらの活性がバイオ燃料作物であるススキ・カリアス(miscanthus)やキビ類等の10種類の異なる基質に対して分析された。そのデータセットは生物工学的工業化の使用に有益な完全な長さの遺伝子のレパートリを大きく拡大する。(KU,nk)
Metagenomic Discovery of Biomass-Degrading Genes and Genomes from Cow Rumen
p. 463-467.

高/低スピンのニッケル(Nickels High and Low)

ある種の遷移金属の錯体ではスピンクロスオーバーと呼ばれる現象が生じ、そこでは温度上昇によって同じスピン配向を持つ価電子の比率が変化し、磁気的な応答が引き起こされる。しかしながら、溶液中の分子全体に渡る集団的な変化は徐々に生じる傾向にあり、核磁気共鳴画像法におけるコントラスト変化のようなスイッチング用途に用いることは困難であった。Venkataramani たちは(p. 445)、代わりの磁気スイッチングの仕組みを提示した。そこではニッケル錯体の電子構造を変化させるのに、光応答性のリガンド(結合基)が用いられる。異なる波長の光によって引き起こされる異性化が、リガンドを選択的にニッケルイオンに押し付けたり、追いやったりし、それによって高または低スピン状態が誘起される。これにより、全体の75%近くを、室温で磁気的活性状態と不活性状態の間で急速に切り替えることができた。(Sk)
Magnetic Bistability of Molecules in Homogeneous Solution at Room Temperature
p. 445-448.

生態系と進化の関係(Ecology and Evolution)

生態系と進化は基本的には結びついており、生態学的プロセスが自然選択のパターンを操作し、それゆえ進化の軌跡を形作る。進化的な変化が、また生態学的プロセスに影響を与える可能性は明らかではない:進化的な変化は非常に長い時間を要し、生態系に影響を及ぼさないと推定されていた。Schoene(p. 426)は、進化的な変化が実際に極めて速く、生態学的な時間スケールで生じ得る例をまとめた。急速な進化的変化が生態系とフィードバックループを形成し、そして集団の成長、コミュニティー構造、及び生産性といった生態学的プロセスに影響を与える。(KU,nk)
The Newest Synthesis: Understanding the Interplay of Evolutionary and Ecological Dynamics
p. 426-429.

肺炎連鎖球菌のゲーム(The Pneumococcus Game)

肺炎連鎖球菌によって引き起こされ肺炎と髄膜炎により、毎年数百万人が亡くなっている。スペイン系統は、全世界的に生じている多剤耐性の系統であり、特に大きな問題を起こしていた。1984年以来、この系列の単離株が多様な地理的発生地から集められた。Croucherたち(p. 430,表紙参照;Enright and Sprattによる展望記事参照)は高処理の配列決定法を用いて、血清型23Fの詳細な進化を解析した。この細菌は、ゲノムの3/4を入れ替えるような多様な組み換えと塩基置換を用いて、ワクチンや抗生物質から逃れるという、異常なほどの遺伝的融通性により公衆衛生上の処置に対応している。(KU,kj,Ej)
Rapid Pneumococcal Evolution in Response to Clinical Interventions
p. 430-434.

幼児期のガンを解読する(Decoding a Childhood Cancer)

ヒト腫瘍の反復性の遺伝的変化を同定することによって、どのように腫瘍が発生するかの重要な機構に関する洞察が得られ、理想的には、すぐに効果的な治療法の新しいアイデアが得られる。今まで、このような「ガンのゲノミクス」戦略は大人のガンだけに応用されていた。Parsons たち(p. 435,および、12月16日号に発表の電子版参照)は、主として子供に影響を及ぼす脳腫瘍である髄芽腫(medulloblastoma)中に存在する遺伝的変化をカタログ化した。面白いことに、典型的な大人の固形腫瘍と比較して、これらの腫瘍には5〜10倍も少ない遺伝的変化しか存在していなかった。最も頻繁に変異していた遺伝子は、脳の正常な発生に不可避なシグナル経路と、ヒストンをメチル化する酵素をコードしている2つの遺伝子である。(Ej,hE,KU)
The Genetic Landscape of the Childhood Cancer Medulloblastoma
p. 435-439.

謎の規則性を解明する(Understanding Mysterious Order)

重フェルミオン化合物であるURu2Si2化合物は、17.5ケルビン以下になると秩序相に変化することが知られているが、25年に渡る研究にもかかわらず、この秩序相の起源は明らかにされていない。Okazakiらは(p.439)高純度な微小サンプルを用いて、秩序相の磁化率の異方性がURu2Si2結晶の4回回転対称性を破壊していることを明らかにした。この発見は、これまで謎とされていた秩序相が電子ネマチック相であることを示唆するものである。(NK)
Rotational Symmetry Breaking in the Hidden-Order Phase of URu2Si2
p. 439-442.

レーザによるバックファイア技術(Laser Backfire)

遠隔検出法は、直接サンプリングが出来ない場合には重要な手法となる。Dogariu たち(p. 442) は、紫外線レーザ光の焦点領域から空気中でレーザ発光する高利得の赤外光に関する観測を報告している。後方に戻ってくる赤外レーザ光は、次に遠隔分光分析手段として使われ、送信地点へのリターン経路中のその空気の標本データをもたらす。この手法は、温室効果ガスや汚染ガスの放出から潜在的には危険なガスや爆発性物質の検出に至る用途を見つけられるであろう。(Ej,hE,KU,nk)
High-Gain Backward Lasing in Air
p. 442-445.

水素同位元素の大きくて小さい反応(Reaction of Hydrogen Isotopes, Great and Small)

反応論的同位体効果は化学反応のメカニズム的洞察を明らかにする。より大きな同位体比は、しばしば反応速度において大きな変化をもたらし、そして通常、最大の比は水素の重水素置換に関する2である。Flemingたち(p. 448; Alexanderによる展望記事参照)は、正と負のミューオン(muon:μ粒子)によって生成される二つの水素同位元素(この二つの水素同位元素は先例のない36という大きな質量比を持っている)に対するH2との最も単純な化学反応の結果を比較した。測定された相対的反応速度は、500 ケルビンにおいて変分型遷移状態理論(variational transition state theory)を用いて計算された値と一致した。(hk,KU,TS)
Kinetic Isotope Effects for the Reactions of Muonic Helium and Muonium with H2
p. 448-450.

2000年間で最も暖かい(Warmest in 2000 Years)

前世紀の気候温暖化はほとんどいたるところで起きてはいるが、北極地方は最も大きな温度上昇を示している。北極地方へ輸送される熱の多くは大西洋から来るものであり、過去150年間に非常に暖かくなった。大西洋から北極への流れの温度は、人類起源の温暖化が起こる前には、どのように変化したのだろうか? Spielhagen たち (p.450) は、過去2000年間の海洋の温度変化の記録を与えている。その記録は、フラム海峡(Fram Strait)を通過して北極地方に流入してくる大西洋の海水は、2000年間において最も暖かいことを示している。この前例のない温暖化は、氷のない北極海に向けての明確な遷移における鍵となる要因を表しているようである。(Wt)
Enhanced Modern Heat Transfer to the Arctic by Warm Atlantic Water
p. 450-453.

地中海大移転の前(Before the Mediterranean Exodus)

現生人類はアフリカに起源を持ち、ユーラシアやそれを超えて広がった。移動の時期と場所はこれまで良く分かっていない。遺伝学や考古学的データによって、地中海沿岸における6万年前の時期の移動については明らかになっているが、例えば約7万五千年前に起こった大規模なトバ火山の噴火などにより、それより以前に移動が行われていたかもしれない。Armitageたちは(p.453;Lawlerによるニュース参照)、今回東アラビアで発見された約10万年前の石器について説明を加えている。すなわち、現代人は既にその頃までにその地点に到達していたことを示している。海面が下がることにより、この地点から肥沃な三日月地帯やインドへの到達が可能になったであろう。この発見により、現生人類がアフリカから実際には更に早期に移動していた可能性が示されている。(Uc)
The Southern Route “Out of Africa”: Evidence for an Early Expansion of Modern Humans into Arabia
p. 453-456.

捕食の相乗作用(Predatory Synergism)

複数の種により組み合わさった効果の方が個々の効果を足し合わせた合計よりも大きいという、生物の種の間の相乗作用(シナジー)は、生物多様性と生態系機能(ecosystem function)とを関係付ける。しかし、こうした相乗作用は外部からの影響を受けやすい。Piovia-Scottたち(p. 461)は、バハマ諸島において2つの大きく異なった肉食動物種間の相乗作用が周りの海洋からのリソースの流入によってどのような影響を受けるかを詳しく調査した。小さな諸島全域に海草が入り込むことにより(暴風雨の間で起こる海洋から陸地への自然なエネルギーの移動をシミュレートしている)、節足動物の草食種(arthropod herbivores)と彼らの食用植物に対する2つの肉食動物、トカゲとアリによるシナジー効果が排除された結果、草食種の全体的な比率が増加している。(TO,KU)
Effects of Experimental Seaweed Deposition on Lizard and Ant Predation in an Island Food Web
p. 461-463.

寄生虫複製の引き金(Parasite Replication Trigger)

トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)や熱帯性マラリア原虫(Plasmodium falciparum)などのアピコンプレクサ(Apicomplexan)寄生虫は、宿主細胞に積極的に侵入する。それら寄生虫がひとたび細胞内に入った後の複製の開始を支配しているシグナルについては、ほとんどわかっていない。頂端膜(Apical membrane)抗原1(AMA1)は、侵襲の際に寄生虫表面に遊離されるが、菱形状のセリンプロテアーゼであるROM4に仲介されて、膜内タンパク質分解によって切断される。Santosたちは、トキソプラズマROM4の条件的発現を利用して、ROM4の活動が侵襲にとって必須ではないこと、しかしその代わり侵襲に続く細胞内寄生虫の複製には必要であることを示している(p. 473,12月23日号電子版; また、CowmanとTonkinによる展望記事参照のこと)。さらに、トキソプラズマAMA1からのものか、熱帯性マラリア原虫の相同分子種からのものかはともかく、切断されたAMA1の細胞質側末端の遺伝子導入的発現だけで、細胞内寄生虫の複製能力は回復されたのである。つまり、AMA1の膜内切断こそが、宿主細胞内での寄生虫複製の引き金を引くために必要なのである。(KF)
Intramembrane Cleavage of AMA1 Triggers Toxoplasma to Switch from an Invasive to a Replicative Mode
p. 473-477.

大は小を制する(Bigger Beats Smaller)

人間や他の動物における社会的な協力関係は重要な実証的研究の対象であった。そして、近年の研究によって、人間の子供や幼児のこれらの表現に関する発生的起源の詳細が示されきている。Thomsenたちは(p.477)今回、一歳未満の幼児の社会的優位性認識の兆候について記述している。幼児は、二人のマンガのキャラクターが争った後の結果を表現できることが観察された。そして、どちらのキャラクターが勝つかをキャラクターの大きさをヒントにしているらしい。(Uc)
Big and Mighty: Preverbal Infants Mentally Represent Social Dominance
p. 477-480.

腹が減ったので自分を食べよう(So Hungry I Could Eat Myself)

自己貪食とは、真核細胞が代謝のための新たな基質を提供するために、細胞の成分を貪食し、崩壊させるプロセスである。Eganたちは、細胞内の低エネルギー貯蔵が自己貪食に結び付いている生化学的な仕組みを報告している(p. 456、12月23日号電子版; また、Hardieによる展望記事参照のこと)。著者たちは、アデノシン三リン酸の細胞濃度が枯渇したときにアデノシン一リン酸によって活性化されるタンパク質キナーゼ(AMPK)の標的を探索した。AMPKは、自己貪食の制御において機能している別のタンパク質キナーゼ、ULK1を制御していることがわかった。ULK1がAMPKによってリン酸化されることがないよう遺伝子操作を施された細胞は、飢餓に際して適切に応答することができず、自己貪食を減少させ、飢餓によって誘発される細胞死に陥りやすかった。(KF)
Phosphorylation of ULK1 (hATG1) by AMP-Activated Protein Kinase Connects Energy Sensing to Mitophagy
p. 456-461.

リンパ腫形成再考(MALT Lymphomagenesis Revisited)

B細胞リンパ腫のひとつの型である粘膜内リンパ組織(MALT)リンパ腫は、慢性炎症に付随するものである。多くの患者は、抗生物質によりうまい具合に処置される。しかしながらそのリンパ腫が、染色体転座の結果としてAPI2-MALT1融合腫瘍性タンパク質を発現している患者では、そうした治療がうまくいかない。API2-MALT1によるリンパ腫形成は、制御が解除された標準的(canonical)核内因子κB(NF-κB)シグナル伝達に関連している。しかしながら、Rosebeckたちはこのたび、非標準的(noncanonical)NF-κBシグナル伝達もまた役割を担っている可能性があることを実証している(p. 468)。野生型のMALT1ではないAPI2-MALT1は、恒常的な非標準NF-κBシグナル伝達を駆動している非標準のNF-κBシグナル伝達中間物、NF-κB誘発キナーゼ(NIK)を切断した。API2-MALT1発現細胞は、アポトーシスに強い抵抗を示し、インテグリンによって仲介される接着を増強したが、それらはどちらもNIK依存的だった。API2-MALT1発現腫瘍の患者からの腫瘍サンプルは、API2-MALT1ネガティブの腫瘍に比較して、高レベルの非標準NF-κB遺伝子を発現した。つまり、標準および非標準のNF-κBシグナル伝達のどちらも、MALTリンパ腫形成に寄与しているらしい。(KF,kj,TS)
Cleavage of NIK by the API2-MALT1 Fusion Oncoprotein Leads to Noncanonical NF-κB Activation
p. 468-472.

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