AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 7 2011, Vol.331


アンモナイト、復元(Ammonite, Reconstructed)

アンモナイトは約6500万年前に恐竜とほぼ同時期に絶滅した、かつては大量に棲息していた海洋生物であった。殻の部分は化石として残りやすいが、他の構造部分は殆ど見つかっていない。Krutaたちは(p.70;田辺による展望記事参照)、3つの標本の口部を可視化し復元するために放射光によるX線マイクロトモグラフィ を用いた。顎と歯舌の形態から、アンモナイトは小型海洋性無脊椎動物を餌としていたことが分かった。実際、小さい甲殻類やカタツムリのような腹足類動物が、一つの標本の顎の中で発見された。(Uc)
The Role of Ammonites in the Mesozoic Marine Food Web Revealed by Jaw Preservation
p. 70-72.

太陽大気の加熱(Heating the Solar Atmosphere)

太陽の外部大気であるコロナが、太陽表面よりも遥かに高温である理由は、太陽物理学における主要な未解決問題のひとつである。De Pontieu たち (p.55) は、NASA の Solar Dynamics Observatory と日本の「ひので」衛星からの測定結果を組み合わせて、太陽表面直上の領域から上向きに駆動されたプラズマジェットが太陽コロナ加熱に関係していることを示している。この結果は、現在のコロナ加熱のモデルに挑むものであり、太陽表面とそのコロナとの間の境界領域が、太陽大気を高エネルギー状態にするうえで決定的な役割を果たしていることを示している。(Wt)
The Origins of Hot Plasma in the Solar Corona
p. 55-58.

紡げないものを紡ぐ(Spinning the Unspinnable)

紡織は藁や糸といった弱い素材を強靭なロープに変えることができる。Limaらは(p. 51)カーボンナノチューブを補強材として用いながら、超伝導体からバイオメディカル物質を含んだ縫合糸といった単独では紡織加工しにくいと考えられていた素材を紡織加工することに成功した。対象素材を静電粉体塗装銃を用いて網目状の多層カーボンナノチューブに堆積し、糸状に紡ぐことで結びや縫いに適応できるという。また溶媒や機械洗浄に対して付着粒子を保持する能力が高いことが示された。(NK,nk)
Biscrolling Nanotube Sheets and Functional Guests into Yarns
p. 51-55.

ビッグバン直後は完全流体の量子で満たされていた?(Toward Perfection?)

ビッグバンから数ミリ秒経過した宇宙は、驚いたことにクオークやグルーオンの「スープ」はガス状にではなく、粘性の無い完全流体として振る舞うことがわかった。Cao たち(p. 58, 12月9日号の電子版を参照)は、適当な大きさを持つ完全流体の候補として、フェルミ粒子であるLi-6原子の希薄ガスを取り上げ、その粘性を広範囲の温度にわたって測定した。その結果は予想どおりであり、共鳴フェルミガスの性質は密度と温度だけに依存した。粘度対エントロピー比の測定値は完全流体の極限値に近づいているが、測定値は極限値をまだ5倍も超過している。それでも、いまやこれらの測定を進歩した理論モデルと比較することが可能である。(Ej,nk)
Universal Quantum Viscosity in a Unitary Fermi Gas
p. 58-61.

無駄に回る(Spinning for Naught)

地球内部の大規模な構造や不連続面は、概して地下深く圧力が増加すると起こる鉱物の物理的、あるいは化学的な特性の変質が原因で生じる。例えば、高温高圧下で安定している鉱物中の鉄原子の電子スピン遷移は、幾つかの鉱物の圧縮率に、そしてそれ故に下部マントルを伝わる音波速度に影響を与えると推定されてきた。Antonangeliたち(p. 64)は高圧下における非弾性X線散乱法を用いて、スピン遷移が、実際に下部マントルの主要鉱物であるフェロペリクレース(ferropericlase)の圧縮率に対し影響を与えないこと、しかし方向に依存した性質、異方性(anisotropy)に対しては影響を与えていることを示す。たとえ、スピン遷移自体(ある特定の深さで起こるはずだが)が、下部マントルにおける或る特定の構造、あるいは不規則さと対応していないとしても、この異方性は、下部マントル内の地震波で観測されている方向依存性の原因かもしれない。(TO,KU)
Spin Crossover in Ferropericlase at High Pressure: A Seismologically Transparent Transition?
p. 64-67.

季節によってオスメスが入れ変る(Seasonal Behavioral Plasticity)

アフリカのチョウのBicyclus anynanaは、求愛行動において性の役割の逆転を示す。この行動は幼生の発生時にセットされ幼生の育成温度によって制御される。雨期の形態ではオスが求愛しメスが選択するが、乾期の形態においてはメスが求愛しオスが選択する。Prudic たち(p. 73) は、これらの求愛行動の変化は両性の性的装飾の謎めいた変化と相関している。雨期にはオスは紫外領域で明るい色の性特徴を持っているが、乾期には紫外領域でメスが明るい色の性特徴を示す。両性におけるこの色と役割の変化は異なる季節形態の交尾行動のコストと利点が相関している。メスが乾期のオスと交尾すれば寿命も生殖期間も長いが、乾期のオスが交尾した後の寿命は短く、雨期のオスはそうでもない。このように季節による性選択の反転パターンは、結果として相互の性的装飾となっている。(Ej,hE,nk,kj)
Developmental Plasticity in Sexual Roles of Butterfly Species Drives Mutual Sexual Ornamentation
p. 73-75.

思ったとおり安定である(Steady As She Goes)

大気中のガスや粒子の化学的な酸化反応の殆どは、ヒドロキシルラジカル(OH)によって行われている。しかしながら、大気中のOHラジカルの濃度を測定することは極めて困難であり、それ故にメチルクロロホルムといった他の化合物の存在量の測定から推定せざるを得なかった。大気中のメチルクロロホルムに関する過去の研究では、OHラジカルが濃度において大きな年間変動をしていることを示唆しており、一方大気モデルではより変動の少ない履歴を予想している。1998年以来のデータとメチルクロロホルムの排出を制限したモンテリオールプロトコルを利用して、Montzkaたち (p. 67;Isaksen and Dalsorenによる展望記事参照) は、OHラジカルの変動に関するより正確な推定を行い、そして以前推定されたよりもより少ない濃度変動を見出した。この結果は、以前の結果や代用化合物を用いた結果、及び地球規模の光化学反応モデル計算値との間の差異を解明する手がかりとなる。(KU)
Small Interannual Variability of Global Atmospheric Hydroxyl
p. 67-69.

冷たい風(Chill Wind)

多くの植物にとって、冬の冷たい温度は、後に続く春季におけるより好ましい成長環境で花を咲かせるように調整している。この春化のプロセスは分子応答のカスケードプロセスにより環境温度を発生応答に翻訳しており、これは花のリプレッサー(抑制因子)の後成的制御に依存している。Heo and Sung (p. 76,12月2日の電子版;Turk and Couplandによる展望記事参照) は、リプレッサー遺伝子のイントロンから転写された或るRNAを同定したが、このRNA自身はタンパク質をコードしていない。その代わりに、COLDAIRと呼ばれるこの非翻訳RNAはリプレッサーの座位にヒストン-メチル化複合体を付加する。リプレッサー遺伝子自身が抑制されることで、このステージが次に開花を可能な状態にする。(KU,kj)
Vernalization-Mediated Epigenetic Silencing by a Long Intronic Noncoding RNA
p. 76-79.

ニトロゲナーゼ構築経路(Nitrogenase Assembly Pathway)

地球規模の窒素サイクルにおけるキーとなるステップは、複雑な金属酵素であるニトロゲナーゼによる大気中窒素のアンモニアへの還元である。この酵素の触媒作用の成分、モリブデン-鉄タンパク質NifDKは二つの異常な金属クラスター、即ち[8Fe-7S]Pクラスターと[Mo-7Fe-9SX-ホモシトレート]Mクラスターから成る。同様に、タンパク質NifENはNifDKと配列類似性を示すが、このタンパク質はニトロゲナーゼの組み立てに或る役割を果たしている:鉄のみの前駆体を成長したモリブデンクラスターへと変換し、そしてこれをNifDKに輸送する。Keiserたち(p. 91)は、NifENの結晶構造に関して記述している。アポNifDKとホロNifDKとの構造比較により、クラスター挿入経路が推定され、このことはNifENタンパク質とNifDKタンパク質における類似性を示唆している。(KU)
Structure of Precursor-Bound NifEN: A Nitrogenase FeMo Cofactor Maturase/Insertase
p. 91-94.

運動の仕組み(The Mechanics of Movement)

細胞内ではforminタンパク質が、細胞骨格のアクチン線維の伸長を、線維の先端と結び付くことによって促進している。この活性は、細胞のアーキテクチャを変えるためにアクチンによって生み出された推力を利用する可能性がある。Mizunoたちは、forminファミリーのメンバーであるmDia1の単一分子の、成長するアクチン線維に沿った運動を分析する単純な方法を発明した(p. 80、12月9日号電子版; またPollardによる展望記事参照のこと)。彼らはformin分子がアクチン線維の末端で、線維の成長の際にも脱重合の際にも、機械的に回転していること、さらに、細胞周期の重要な段階で細胞形態に影響を与えているということを発見した。(KF,KU)
Rotational Movement of the Formin mDia1 Along the Double Helical Strand of an Actin Filament
p. 80-83.

ギャップ結合に気をつけろ(Mind the Gap (Junction))

成体哺乳類の脳内での学習と記憶における化学シナプスの役割は、よくわかっている。対照的に、電気的シナプスによって仲介される、より急速な神経細胞伝達は完全には理解されていない。自由に動き回るラットに対して、恐怖条件付けや薬剤、電気生理学的記録などの異なった種々の操作を用いて、Bissiereたちは、コネキシン36を含む神経細胞のギャップ結合をブロックすることで、背側海馬内での恐怖記憶の獲得と強化が制御できることを発見した(p. 87)。ギャップ結合によって仲介される神経細胞伝達を妨害することは、恐怖条件付けなどの有害な経験の際に、記憶の形成を選択的に防ぐことになるらしい。(KF)
Electrical Synapses Control Hippocampal Contributions to Fear Learning and Memory
p. 87-91.

電子ホログラフィーの静止画列(Snapshot Electron Holography)

レーザー光線を使ったホログラフィー画像は対象物を3次元で表現できる有力な方法である。短いパルス光で照射することで、動的なプロセスを連続静止画として、結果的には4次元動画像が得られる。強烈なレーザービームを使った電子の光イオン化を使った高速でコヒーレントな電子ホログラフィーのプロセスをHuismans たち(p. 61, 12月16日号の電子版参照)が開発した。この光イオン化プロセスは高い時間分解能を持ち、超高速の時間スケールで生じる他のプロセス探索にも利用できる。(Ej)
Time-Resolved Holography with Photoelectrons
p. 61-64.

脳は世界をいかに認識しているか(Modeling the World in the Brain)

脳は外部刺激を翻訳し将来の事象について予測を行うために、内的モデルを用いていることは神経科学の分野において広く意見の一致をみている。この意見の一致と、脳内の最適な内的モデルに関する十分な行動学的な証拠をもたらす豊富な研究があるにも関わらず、このような内的モデルの神経特性を明確にすることは困難であった。フェレット(ケナガイタチ)の視覚野から得られた記録を解析するために統計的手法を用いて、Berkesたちは(p.83)、自発活性の間におこる神経発火のパターンが誘発活性の際のそれに似ていることを発見した。発生期の間、視覚野において内的モデルは徐々に自然の視覚シーンの特性に馴化していくらしい。(Uc,KU)
Spontaneous Cortical Activity Reveals Hallmarks of an Optimal Internal Model of the Environment
p. 83-87.

吟味されつつあるNK細胞(NK Cells in the Middle)

30年以上前のその発見以来、ナチュラルキラー(NK)細胞は、主として、即時的な細胞溶解性機能をもった免疫細胞であると考えられてきた。NK細胞上の種々の細胞表面受容体を動員して、感染ウイルスや腫瘍細胞の直接的殺傷に向けて引き金が引かれることになる。その急速な応答時間、即時的な標的細胞の殺傷、そして抗原受容体の再編成がなされないことによって、それら(NK細胞)は、生得的免疫系の細胞に分類されているのである。しかしながら最近の研究は、NK細胞がまた、Tリンパ球やBリンパ球に付随している免疫記憶などの順応性免疫のいくつかの特徴を示していることを明らかにしている。Vivierたちは、NK細胞生物学の最近の進展をレビューし、それが、従来の免疫応答パラダイムにフィットしているかどうかを論じている(p. 44)。(KF,kj)
Innate or Adaptive Immunity? The Example of Natural Killer Cells
p. 44-49.

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