AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 24 2010, Vol.330


出生地を出て(Exiting the Birthplace)

発生中の哺乳類の脳において、新しいニューロンは、それらが必要とされる場所で常に生まれると言うわけではない。マウスの小脳の未成熟なニューロンは、胚のゾーンにおける出生地を離れて、脳中の彼らの機能する場所を見つけるために、遊走して定着する必要がある。FAMULSKYたち(p. 1834,11月25日号電子版;Metin and Luccardiniによる展望記事参照)は、ユビキチン介在のタンパク分解が特定の細胞接着を制御しており、ニューロンが最終的機能箇所への移動のため、その出生地から離れるのに必要であることを示している。(KU,nk)
Siah Regulation of Pard3A Controls Neuronal Cell Adhesion During Germinal Zone Exit
p. 1834-1838.

根気の必要な解析(A Gutsy Analysis)

ヒトミクロバイオーム(ヒト体内に棲む総ての微生物のゲノム)の配列決定を行った努力により、微生物の膨大な多様性が実証された。微生物叢、特に腸に生息する微生物叢を調べた解析により、我々の微生物叢はヒト免疫系の発生と機能に深遠な影響を及ぼしていることが明らかになった。Lee and Mazmanian (p. 1768)は、微生物叢が順応性の免疫系の発生にどのような影響をもたらしているかをレビューしている。微生物叢の特異的な種とファミリーが特殊なT細胞集団の分化を支えており、そして腸の微生物叢の変化が炎症や自己免疫の発生に影響している。(KU)
Has the Microbiota Played a Critical Role in the Evolution of the Adaptive Immune System?
p. 1768-1773.

半導体ドーパントの調整(Tuning Semiconductor Dopants)

半導体中のドーパントは導電率を変化させたり、磁気特性を変化させるスピン中心をもたらす。一般に、ドーパントの帯電状態やそれが作る電場は一定である。Lee と Gupta は(p.1807, 12月9日号電子版) 低温走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、GaAs中のMnドーパントを調べた。STMを用いて、Mnドーパントから異なった距離にあるAs空孔の位置を確認することにより、As空孔がドーパントの局所的静電場を調整していることを明らかにした。(Sk)
Tunable Field Control Over the Binding Energy of Single Dopants by a Charged Vacancy in GaAs
p. 1807-1810.

ゲノムから調節ネットワークへ(From Genome to Regulatory Networks)

生物学者にとって、手元にゲノムを持っていることは単なる初期のステップであり、機能する生物体が産み出されるのにゲノムがどう役立っているかを特徴付けするためにはより一層の研究が必要である(Blaxterによる展望記事参照)。このための道筋をつけるため、Gerstein たち(p. 1775) は、線虫ゲノムについてまとめ、modENCODEコンソーシアム(p. 1787)ではキイロショウジョウバエ(Drosophilamelanogaster)すべての発生段階におけるゲノムの全トランスクリプトームの解析、ゲノム全体にわたる転写制御因子結合部位の同定、および染色質(クロマチン)組織の高分解能マップについてまとめた。両者の研究から、線虫とショウジョウバエのゲノムで、そのDNAが15以上の転写因子に結合され、そのDNAに関連する遺伝子の発現が特徴づけられた、そのようなDNAに高度に占有された領域、つまり標的DNA高占有領域(HOT)が同定された。全体としてみると、これらの研究成果は2つのゲノムの組織と構造と機能についての洞察が得られ、個々のゲノムに焦点を当て、あるいは、ゲノム全体をガイドしたり関連研究をする基礎的な情報を提供することになる。(Ej,hE,nk,kj)
Integrative Analysis of the Caenorhabditis elegans Genome by the modENCODE Project
p. 1775-1787.
Identification of Functional Elements and Regulatory Circuits by Drosophila modENCODE
p. 1787-1797.

熱から燃料を(Fuel from Heat)

植物は太陽からのエネルギーを用いて、二酸化炭素を糖をベースとする重合体や芳香族化合物に変換することで成長する。これらの化合物は、化石燃料を生成する地下での数千年間の分解によってか、あるいは生物燃料を生成する分解(dissolution)や発酵、あるいは水素添加(hydrogenation)によるより迅速なプロセスによって、酸素が取り除かれる。我々は、植物の成長と分解の介在するステップを頼らずに、太陽光を使用して二酸化炭素から炭化水素燃料に変えることができないのだろうか?Chuehたち(p. 1797)はその1つの可能性を示す。それは、太陽光熱を集めて酸化セリウムを充分な高温(1500°C)に熱して、その格子構造から酸素を解放する方法である。そうすることにより、この物質は水あるいは二酸化炭素から容易に酸素原子を取り除くことができ、その結果、水素や一酸化炭素を作り、これらが結びついて、燃料を作ることが出来る。(TO,KU)
High-Flux Solar-Driven Thermochemical Dissociation of CO2 and H2O Using Nonstoichiometric Ceria
p. 1797-1801.

すし詰め中での動き(Movement in a Tight Squeeze)

密な溶融体や濃厚な溶液中における可とう性高分子鎖の挙動は、レプテーション理論で説明される。その理論では、個々の鎖は周り全ての鎖によって作られた仮想的なその管を取り囲む管の内部を前後にくねり動くと看做される。いくつかの理論がより剛い分子のモデリングについて検討されてきた。しかし、剛い糸の熱運動を計測する実験データを得ることは困難であった。Fakhriたちは(p.1804)、ゲル中を拡散している剛い高分子の挙動を説明するモデル系として、カーボンナノチューブの挙動を直接可視化した。僅かに可とう性が増加しただけで、動きの制約された条件下にある剛い糸の拡散速度が大幅に上昇することを発見した。回転拡散係数は可とう性に対して線形に増加し、直感に反して密集度には依存していなかった。(Uc,KU,nk)
Brownian Motion of Stiff Filaments in a Crowded Environment
p. 1804-1807.

移動する壁(Moving Walls)

磁気ナノワイヤーにおいて、電流による磁壁の移動は論理演算やメモリーの新しいアーキテクチャの候補である。この磁壁が秒速100メートル以上でワイアーに沿って移動する際の磁壁の移動と位置を制御するには、関与するプロセスを理解することが必要である。Thomasたち(p. 1810)は、磁壁移動のダイナミクスを調査し、加速と等速移動、及び減速プロセスを詳しく観測した。全体のプロセスは磁壁の慣性によって記述される。移動距離は磁壁を移動させるために使われる電流パルスの長さに単純に比例した。このことは、回路、或いはネットワークのアーキテクチャへの搭載を容易にするはずである。(hk,KU)
Dynamics of Magnetic Domain Walls Under Their Own Inertia
p. 1810-1813.

地球外大気(Extraterrestrial Atmosphere)

氷で覆われた木星の月である、エウロパやガニメデの大気中に酸素が検出されたことと、土星の輪を取り囲む大気の主要な成分としてこの酸素ガスが存在することから、土星の磁気圏内に軌道がある氷で覆われた月の、その周りにも酸素大気が存在することが示唆される。Cassini 宇宙船に搭載された Ion Neutral Mass Spectrometer を用いて、Teolis たち (p.1813、11月25日電子版; Cruikshank による展望記事を参照のこと)は、土星の氷で覆われた月である Rhea の周りに非常に希薄な酸素と二酸化炭素の大気を検出したことを報告している。他の氷で覆われた衛星と同様に、この大気は、土星の磁気圏の放射による表面分子の解離と大気への噴出によって維持されている。(Wt)
Cassini Finds an Oxygen-Carbon Dioxide Atmosphere at Saturn’s Icy Moon Rhea
p. 1813-1815.

免疫応答の安全装置(A Safety Catch on Immune Response)

補体系(complement system)は、生得的免疫系の不可欠な要素である。補体系が起動すると、異物を排除するためにマーキングし、免疫反応を刺激するカスケード反応を開始する。そのキーとなる増幅ステップは、ファクターD(FD)による補体のフラグメントC3bとファクターB(C3bB)によって構成される複合体の切断である。Fornerisたちは(p,1816)今回、C3bB単体とC3bBのFDとの複合体の結晶構造について報告している。これらの構造は、膜結合型C3bがファクターB(FB)の開環形態を安定化し、結合を切断しやすくしているというメカニズムを支持している。FDは、触媒作用の中心から遠い部位を通してFBの開環形態に結合し、それがFDを活性化させる。この二つの構造上の平衡が二重の安全機構を示し、このような免疫応答経路の綿密な制御を可能にしている。(Uc,KU)
Structures of C3b in Complex with Factors B and D Give Insight into Complement Convertase Formation
p. 1816-1820.

変異を利用する(Exploiting Variation)

分子シャペロンは、新たに合成されたタンパク質の折り畳みを助け、その細胞の巨大分子機構をさまざまのストレスから保護している。たとえば、高度に保存された熱ショックタンパク質(hsp)が、温度上昇に対して保護するなど。hsp90はまた、集団内に存在している遺伝的変異に対する緩衝としても、それを増強するものとしても働いていると示唆されてきた。こうした主張の普遍性を調べるため、JaroszとLindquistは、土壌や果実、酒、ビール、さらには感染したヒトなどのさまざまな生態ニッチから得られた96種の出芽酵母系統を、異なった増殖条件における適応値を評価しつつ、スクリーニングした(p. 1820)。hsp90は、パン酵母の遺伝的変異の20%までの適応値を決定し、hsp90によってその形質の半分は緩衝されていて、残り半分は増強されていたのである。(KF)
Hsp90 and Environmental Stress Transform the Adaptive Value of Natural Genetic Variation
p. 1820-1824.

赤色対緑色(Reds Versus Greens)

自家不和合性(SI)は、植物が近親交配するのを防ぐように働いている。遠い親戚との交配(異系交配)もまた問題を生じる場合があるので、一方向の種間不和合性(UI)によって妨げられている。イヌホオズキのファミリーでは、SIが緑色果実種内で機能している一方、緑色果実種と赤色果実種(トマトなど)との交配はUIに帰結している。LiとChetelatは、このファミリー中の既知のSI遺伝子に関連する1つの遺伝子を発見した(p. 1827)。それは、赤色果実種の個体と緑色果実種の個体の間で、その転写物の長さと機能とに差異を生じさせているものである。複数の種の調査によると、緑色果実種はこの遺伝子の機能的対立遺伝子を有しているが、自己適合性のある赤色果実種におけるこの遺伝子の転写物は、推定する限りで非機能的なタンパク質を産生していた。こうした知見は、栽培されているトマトは、このタンパク質を失っているために、同じファミリー内の他の種を受粉する能力をうしなっている可能性があることを示唆するものである。(KF)
A Pollen Factor Linking Inter- and Intraspecific Pollen Rejection in Tomato
p. 1827-1830.

読心術(Mind Reading)

社会的認知の核となる要素の1つ、特に人間によって実践されている類のものに、たとえ現実には根拠がなかったとしても、他人が真であると信じているものの表現を形成する能力がある。心の中に、一方は偽で一方は真の二つの信念を保持することは、そう単純なことではなく、数年前までは、子どもが3歳から4歳になるまではそんな能力は生じないと、一般に受け止められていた。それ以来、勃発したいくつもの研究が、種々の質問測定法を用いて、もっと幼い子どもも実際にはそうした能力をもっていることを示唆するようになった。それは一般に心の理論と呼ばれている。Kovacsたちは、工夫に満ちた、行動に関する概念図式を発明し、それを成人と乳児の双方に適用したが、それは、他者の信念の表現は、成人でも乳児でも同じ方法で形成されていることを示唆するものであった(p. 1830)。(KF)
The Social Sense: Susceptibility to Others’ Beliefs in Human Infants and Adults
p. 1830-1834.

スピンホールの中で(In a Spin Hall)

スピンホール効果は電流に対して垂直方向に上向き電子スピンと下向き電子スピンが各々反対方向に流れ分離蓄積される現象であり、電子デバイスにおいてスピン自由度を活用できる可能性があり、盛んに研究が行われている。しかし、スピンホール効果をデバイス中で実現することは大変難しい。Wunderichらは(p.1810)スピンホール効果の概念をスピントランジスターの概念と融合し、非磁性デバイスを創った。同デバイス中では、光学的手段で注入されたスピン流は電荷成分が取り除かれ、スピン変調層を通過し、そして逆スピンホール効果を利用して観測されるという。このようなスピン流の操作は将来のスピントロニクス実用化に大いに役立つであろう。(NK,KU)
Spin Hall Effect Transistor
p. 1801-1804.

昆虫の脳腫瘍を治療する(Curing Insect Brain Tumors)

哺乳類の腫瘍においては、正常な状態では生殖系列のみで機能する遺伝子が異所性発現することがしばしば見られる。ガンの生殖系列(CG)遺伝子が悪性化に及ぼす潜在的貢献度は知られてない。Janic たち(p. 1824; および、WuとRuvkunによる展望記事参照) は、遺伝子、lethal (3) malignant brain tumor遺伝子の変異よって引き起こされるショウジョウバエの脳腫瘍でもCG遺伝子が発現していることを見つけた。さらに、これらの遺伝子の一部を不活性化することでハエの腫瘍増殖を抑えた。ある種のショウジョウバエのCG遺伝子はヒトCG遺伝子と相同分子種であり、生殖系列遺伝子の不活性化はヒトの腫瘍の抑圧活性を示す可能性がある。(Ej,hE,nk,kj)
Ectopic Expression of Germline Genes Drives Malignant Brain Tumor Growth in Drosophila
p. 1824-1827.

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